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第1章 6

 で、俺らはと言うと、教会の前にいた。


 町外れとは言え、教会はその威厳を示す為に壮大な造りになっている。白い大理石で作られ、その彫刻がとても綺麗なものだ。だが、荘厳すぎて、来るものを拒むような威厳を感じられる。


「相変わらず、パねぇ……」


 てか、教会なんていつ以来だろう?


「どうでもいいか」


 俺は溜め息をつきながら、独りごちる。本当に面倒くさい。そんな風に思いながら、俺は白い教会を見つめた。


 どの教会も基本は白を基調とした造りをしている。それは女神レティナが白い神だからだ。


 この世界には明確に神さまがいる。それが女神レティナ。創造主にして、絶対神。白い髪に白い瞳の幼い少女の姿をした女神だ。


 その幼い神さまは世界を作ったはいいものの、その幼さ故に世界の運営を一人では行えなかった。ここに四柱の神獣が関わってくる。四属性に別れた四柱の神獣。その柱たちが幼い神さまの代わりに現在の世界の運営を行っている。


「神獣、か……」


「ご主人? ご主人から、難しい匂いがします……。わふ、大丈夫ですか?」


「マチェ、大丈夫だ。なんでもない。なんとなく……、なんとなーくだが、神獣にはちょーっと思い入れ? 縁? なんかそう言うのがふわっとあるんだよ」


「わふ?」


 マチェはキョトンと小首を傾げる。


「気にすんな」


 まぁ、それらは色々とどうでもいい。


 ざっくりとしたこの世界の創生神話なんて、ただの雑学じみた常識範囲。なにせ、この神話、神獣が世界創生までどこにいたか不明。なんか運営の時にいきなり出てくる。レティナが運営の為に四つに別れたという説もある。


 つまり、あやふや過ぎるのだ。


 なので、世界を創生した神を崇めるか、世界の運営をする神獣を崇めるかでよく論争になる。まぁ、それはいいな。その辺の考察は宗教家に任せよう。


 正直なところ、神さまについてはどうでもいい。転生者(日本人)なので根は無神教。神さまはなんとなく遠い存在だし。


 後、女神が転生直前で現れるような事もなかった。


 そこんところ、転生者に対するサービスが足らないと思う。世界の運営の丸投げ然り、転生チートサービスなし然り、女神レティナにはやる気がない疑惑があるな。


「そろそろ教会に入るか。現実逃避はやめにしよう」


 そういえば、小さい頃は親に連れられよく教会に来ていた。入る前になんか儀礼があったような気がする。……覚えてない。


「すみませーん。って、重っ……。やばい。マジやばい」


 と言いつつ、重い扉を押す。ここに来る人は主に大聖堂に行けないご老人ばかりなのに、この扉はこんなに重くて大丈夫なのだろうか? 開けながら小さな疑問を抱く。


「蝶番が錆びてんのか? くっ! 教会だろ、ここ! なんでこんなに人を拒むんだよ? あぁ! 今こそ、祝福あれ!」


 無理だろうなと思いつつ、適当に女神に祈る俺。都合のいい時、祈るのはやはり日本人である。


 ちなみに祝福あれは、『南無三』や『せーの』、『よっこいしょ』くらいな感覚でこの世界では使われている。


 この扉、めちゃ重い。


「ご、ご主人、ファイトです、わん!」


「ぐぬぬぬ……」


 けして、俺のSTRが低いせいではない!


 ぎーちょ。


 そして、鈍い音を立ててようやく扉が開いたのであった。ちなみにちょうど扉を開けようとしていた老人に感謝された。


「やっぱ、重いんだな、これ。……ブラム、なにしてるんだ? 仕事だろう」


 ってよく見たら、扉の中側に故障中の張り紙。どうやら、外の張り紙は風で飛んだらしい。


「うへぇ」


「ご主人、マチェはいつも通り外で待ってますね」


 以前——イヌの時、身体の大きさなマチェは教会には入れなかった。マチェの意識はその時のままなのだろう。扉を開けていても入ろうとしない。


「ん? マチェも行くんだぞ」


「マチェもですか……?」


“祝福”(ギフト)持ちになったから、これからはマチェも中に入れるんだぞ」


「いいんですか!?」


 ぴょこんとマチェの耳と尾が立った。マチェの顔がニコニコと笑顔で染まっている。


「あぁ、いいんだぞ」


「えへへー。ご主人と一緒! ご主人と一緒!! わん」


 マチェはまた俺に頭に擦りつけて来る。抱きついて来るのではなく、本当に頭を擦り付けている。まだマチェには腕を使うという意識はないようだ。マチェは二足歩行になって、腕が自由になったって気付いてないな。


 マチェには教えることが多そうだな。


「マチェ、手を繋ごう」


「手?」


「そうだ。今のマチェは二本足で歩けるんだ。そうすれば、手は自由になるだろ? そうするとこうして——」


 言いながら、俺はマチェの手を取った。手を取られたマチェは少しだけ驚いた顔をする。でも、すぐにまた気の抜けたような笑顔を見せた。


「——手と手が繋ぐ事ができる」


「きゅーん。これが手を繋ぐってことなんですね! わん! すごくほわほわします」


 嬉しそうにマチェは俺の手を握りかえす。力加減が上手く行ってないのか、時折痛いくらいに力がこもっている。


「マチェ、もう少し優しくな」


「わ、わふ……!? うぅ? こうですか?」


 スポンと握っていた手が抜けた。


「今度はもう少し力を入れてほしい」


「うぎゅるるるるぅ~。……む、難しいです」


「大丈夫だ。ゆっくり慣れていけば……」


「はい!」


「じゃあ、行こうな」


 俺はマチェの手を引いて歩き出した。


「手を繋ぐのはいいですね。頭を撫でてもらうのと同じくらい繋がっていられるんです。ご主人の手あったかいです。わん!」


 マチェは今までの困り顔をパッとやめて、ニコリと笑った。可愛らしい魅力的な笑顔だ。どことなくその無防備さに元のイヌの名残を感じる。


「まったく、こいつは……」


 つい俺もつられて笑ってしまった。




 SSR二枚抜きしようが、勉強はやっぱり勉強は必要みたいだ……。

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