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第1章 5

 ギルドにようやく辿り着けていた。何故なら、ここに来るまで二回ほど職質を受けたのだ。余計な時間を食ってしまった。


 俺が人型に戸惑うマチェの世話をしていると、どうしても目立つのだ。マチェが泣きそうになったり、情けない声を出したりするもんだから、俺は誘拐犯に見えるのだ。


 泣きたい……。


 現在。俺に刺さる視線はだいぶ冷たい。


 ぶっちゃけ言うと、“祝福”(ギフト)持ちの魔族を連れている冒険者は印象が悪い。“祝福”(ギフト)持ちの魔族は希少なだけあって、闇で売買されてたりする。もちろん、国では売買は禁止されている。だが、国の管理が田舎までは行き届いてないのが現状。


 容姿端麗、高ステータス、そして、その従順さ。どれをとっても“祝福”(ギフト)持ちのイヌは冒険者、または貴族に人気が高い。闇ではお金を惜しまず縁があれば買えとまで言われる。


 そんな訳で冒険者が“祝福”(ギフト)持ちの魔族を連れていたら、半数は闇取引を疑った方がいいと言われている。


 まさか、俺がそんな視線を受ける事になるとは……。


「ご主人、今日はもうクエストを受けちゃうんですか? マチェとお散歩に行かないんですか……?」


 マチェは俺の気持ちなど知らずに、少ししょんぼりしたように眉をひそめた。


「ごめんな。登録が済んだら行こう。マチェは“祝福”(ギフト)持ちになったから、手続きをしないとなんだ」


「はい。じゃあ、マチェは待ってます。いい子で待っているので、ご主人は後でマチェを褒めてくださいね。さっきみたいにいっぱいいっぱい撫でてください」


「……わ、わかった」


 言い淀んだのは、マチェのおねだり顔が心臓を悪かったからだ。



 ……可愛い!



 こいつ、可愛いぞ……。困った事にすげぇ可愛い。飼い主の贔屓目なしに可愛いぞ。え? この美少女の頭を撫でるのか? 俺が、か!? いいのか? いいのか!? 訴えられたり、金取られたりしない?


 マチェとは言え、ものスゴイ抵抗感がある。本当に俺の相棒なのか、少し不安になる。本当に夢じゃないのか?


 うん。本当に美少女。マチェから美少女オーラが出てる。


 同業者からの数多の譲渡しないかと言う言葉をやんわり断り、受付にGO!


「うわ……」


 そして、受付で初っぱな引かれた。


「べ、ベロア、通報しな、きゃ」


 受付嬢のエルフ——ベルベロアさんは金色瞳を潤ませ、そう言った。


「待って」


「知り合いが誘拐、犯罪。ダメ、絶対! ベロアが止めるのは、恐らく義務」


 ベルベロアさんはエルフにしては珍しい小柄、金色の髪に金色の瞳。マチェと同じ金髪であるが、オレンジ系の金髪のマチェと比べると、ベルベロアさんの金髪は黄色に近い。


 森の奥から出てきたようで、ベルベロアさんの言葉には少し訛りがあり、たどたどしい。エルフと言う種族は元々発音方法まで異なる別言語で話すのだ。それはエルフが魔法に最適な言語を追求していったからである。その為、共用語を発音すると少し訛りが出る。


 ともかく、ベルベロアさんは基本いい人だ。少しサボり癖があるのが偶に傷だが……。現に昨日も夕方サボっていた。


「まず、話を聞くところから始めてくれ……。誘拐じゃない。こいつはイヌのマチェ。俺の相棒。“祝福”(ギフト)を持ったの!」


 本日何度目かもしれない俺の誘拐じゃないアピール。もう慣れたので相手に質問されるより、俺は前に立てしまくるように言い切る。


「はへ? マチェ?」


「はい!」


 ベルベロアさんの問いかけにマチェは大きな声で返事をした。


「……ん。わかった。マチェは成長期」


「え? “祝福”(ギフト)って成長期扱いなの!?」


 サマーカットと言うマチェといい、成長期と言うベルベロアさんといい、“祝福”(ギフト)の扱いが雑。一応、神の奇跡カテゴリーなんだが。


「さぁ?」


「適当!?」


「とりあえず、了解。“祝福”(ギフト)か。ん? ……マチェ、二歳?」


「……あ、あぁ」


「珍しい。“祝福”(ギフト)、大体一歳前後」


「そうなんだよなぁー。二歳で“祝福”(ギフト)って俺は聞いたことない」


「ベロアもない。恐らく、ギルドにもない。マチェ、初情報。おめ」


 ベルベロアさんはおぉと若干棒読み気味に手を叩いた。


「これ、おめでとうなのか?」


「さぁ?」


 ベルベロアさんはコテンと小首を傾げた。ベルベロアさん、なんも考えてなかったのか。相変わらず適当だな。


「あ、忘れてた。“祝福”(ギフト)……、と言う事は、今回ルクスの用事はー」


「再登録。ステータスリンクしてあるマチェのステータスを外して、マチェ自身を登録して」


 これで登録すれば、マチェも戸籍が持てる。一応審査があるが、大抵は通ると聞く。


「うい」


 俺はステータスカードと共にギルドカードをベルベロアさんに差し出す。ギルドに差し出す際、ステータスカードには詳細を隠す簡単な魔法がかけるのが常識。


 今日日、個人情報って大切なのよ。


「ぬ」


 途端、ベルベロアさんの顔が曇る。


「無理」


「え?」


「ルクスのステータスカード。更新されてない」


「あ」


 忘れてた。そうだ。俺は全然ステータスを更新してない。そして、ギルドではステータス更新はできない。ステータス更新は教会の領域。


「……じゃあ、マチェのリンクだけでも外してくれ」


「無理。更新して」


「なんとかならない?」


「規則」


 うぐ、お役所仕事……。


 日頃のステータス更新をサボってた俺が悪いが、少しくらい融通を効かせてほしい。


「先に教会か……。あー、行きたくねぇ」


 いつもギルドに勝手に出張してくるブラムは今はいない。アイツが来るのは大体夕方。ダンジョン帰りのステータスが上がった冒険者狙いだ。


「今行くなら、中央より街はずれがオススメ」


 街の中央には観光の目玉にもなっている大聖堂がある。そして、街はずれには中央まで行けない人向けの小さな教会がある。ブラムがいるのがこっちだ。


 大聖堂には人が多い。そんな中、マチェを連れてけば目立つ。なので、俺は迷わず街はずれに行くべき。


 そうなれば、ブラムが更新担当になるだろう。ブラムはなんだかんだで一教会を任されているキャリア組だからな。


 そんなブラムにステータス見られるのはキツい。知り合いに低ステータス見られるとか、一種の羞恥プレイだ。そう思うと気が重い。


 ただでさえ、俺の平凡なステータスと向き合うとか嫌すぎる。転生ものでステータスと言えば、そのチートステータスを確認できるうはうはタイムだが、俺からしたらただの通知表。親に見せないとしても気が重いわ!


「ご主人……」


 そっとマチェが身を寄せてくる。どうやら俺を慰めているようだ。だが、



 —— 2 3 5 7 11 13 17 19……



 素数を数えてないと、俺がマチェの柔らかさに暗黒面に堕ちそうだ。


「マチェ、身体を押し付けるのやめような」


 特に胸! 胸! おっぱい! わかっていたけど、マチェって胸大っきいね!


 そういや、マチェの服の下、下はなんとか布巻いたが上なんにも付けてない。コポカさんは趣味は服を作ってたけど、下着まで作る事はしていなかった。


 やばい。死ぬ。このままだと俺の社会的地位が危うい。


「わふ? でも、こうするといつもご主人は笑顔になりましたよ」


 あ、出たー。イヌ特有の空気の読めなさ。ある意味最大の気遣いなのだが、いまいち人間と噛み合ってない慰め方法。それ即ち、


『あの時のお前、輝いていたぜ!』


 と言う方法。イヌは人間が落ち込んでいるのを察知できる。だが、その時に限ってボールとか持ってきて、遊ぼうとばかりに尻尾を振るのだ。人間からすればこんな時に遊べるかって話だが、イヌからすれば遊んでいた時の人間は笑っていた。だから、今も遊ぼう! と言う事になるのだ。


 だから、マチェもいつも俺が落ち込むと擦り寄ってきていた。


「は、はわわ……。やっぱ、犯罪」


「ベルベロアさん、マチェが言ういつもはイヌの時の話ですから!」


 イヌの時ではよかったが、“祝福”(ギフト)持ちになった今、些か問題がある。倫理的に。


「とりあえず、教会に行くか……。あ、そうだ。ベルベロアさん、あの……」


「なに? お金関連以外なら、相談に乗る」


「女ものの下着を買ってきてほし——」


 そこまで言って、ベルベロアさんの眉が顰められた。


 あぁ、軽蔑の目が痛い。


「俺のじゃない! マチェの!」


 言い訳させてほしい。男の一人暮らしの家に女子服がある訳もなく、従って下着もないのです。また下着のノウハウもないのです。


 結局、マチェの下着はベルベロアさんに依頼という形でお願いし、マチェの服共々揃えてもらう事にした。マチェが服に対する好みがないので、ベルベロアさんのセンスに任せる事にした。ちなみに俺のセンスは0だ。期待など出来やしない。


 未知の体験に嫌がるマチェの採寸をし、数日分服を買ってきてもらう。残りは後日改めて受け取る事になった。



 現状、俺の扱いがSSRを二枚抜きした子を連れた不審者で辛い……。

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