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第1章 4

 コポカさんと別れ、向かう先はギルド。マチェのステータスを登録をし直さなければならない。


 “祝福”(ギフト)を持った魔族は人として扱われる。昔は奴隷のように扱われていた。だが、長年の論争で今は“祝福”(ギフト)持ち魔族に限り、人権を得た。


 街中をマチェと歩く。


 石畳の街道。小さな木造の家と大きな石造りの建物が入り乱れる街並み。元の世界のヨーロッパの街並みに近い、と思われる。前世の俺は残念ながら、生まれた日本()から出た事はないので確証はない。


 とりあえず、石畳の小さな凹凸に足を取られないように気をつけて進む。


 マチェはいつも通り俺の隣を歩いていた。特にキョロキョロしたりする事はなかった。いつも通り、テテテとばかりに俺の隣を歩いている。


 まぁ、マチェは変わったが街は変わってないからな。目線の高さもそんな変わってないと思われる。身長は160cmにいってないくらい。女子の平均よりやや低めだ。


 あ、ちなみにマチェの靴は隣人の爺さんとこから借りてきた。爺さんのとこにあった孫のものがマチェにちょうどよかったのだ。


 マチェは気にしてないようだが、マチェは美少女なので街中で目立っている。客観的に見て、マチェは美少女としか言いようがない。親バカかと問われれば答えはNOだ。まだ俺の中で今のマチェとイヌのマチェがイコールで結ばれてない。


 長い髪を一つにまとめ、三角耳をピンと立て、ふっさふさな二本の尻尾を揺らすマチェは非常に絵になる。コポカさんの服も相まって、とても魅力的だ。


 普通ならば、俺なんか半径5mによる事もままなるまい。この街には“祝福”(ギフト)持ちの魔族はあまりいないので、マチェはより目立ってしまっている。


 だが、マチェの表情は暗い。


 レンガの敷き詰められた道を歩きながら、若干俯きがちなマチェの様子は俺がマチェに無理強いを敷いているようだ。


 現に何回か街の警備員に声をかけられていた。


 何故、マチェの顔が暗いかと言うと、


「ご主人、手が開きません……」


 マチェは変わってしまった身体に戸惑ったままだからだ。


「マチェ、力入れすぎだ。力を抜け」


 マチェの手は関節が白くなる程、強く握られている。


「わふ……。できないです……。ま、マチェはダメな子です……。全然わかんなくて……。やらなきゃって思うと、いっぱいわからなくなります……。ごめんなさい……。うぎゅるうるきゅうぅ~ん」


 マチェは死にそうな顔で瞳をぐるぐるさせて、また情けない声で鳴いていた。


「大丈夫だって! そんなに意識するな」


「難しいです。意識しないのはできないです……」


「うーん、そうだな……」


 マチェが手を開けない理由はわかっている。ただ単に意識しすぎなのだ。意識しないようにして、より一層意識する。マチェはプチパニックを起こしているのだろう。


「ほら! マチェ、肉球マッサージをしてやろう。おて(・・)


「——わん!!」


 聞くや否や、マチェは先ほどのぐるぐるお目目が嘘のように瞳を輝かせた。サッと俺の手のひらに乗せたマチェの手は開いている。肉球マッサージをしてもらえるのが嬉しくて、意識している事を忘れたと思われる。


 まったくもって、マチェは単純だ。マチェと言うよりは、イヌと言う種族の特徴だな。現にもうマチェは手のひらに肉球がない事も失念している。


 俺はその手をマッサージするように揉む。


 何度も言うが、マチェを女の子扱いするのは保留している。あくまでこれは主人とイヌのコミュニケーション。


 そう俺は自分に言い聞かせる。強めに!


 マチェはとろんと目元を緩ませて、されるがままになっている。俺を信頼しきったイヌの顔である。


 更に俺はもう片方の手も取った。もうその手は硬く握られたりしておらず、俺に預けるように手をだらんとさせている。その手と手を繋ぐように握り締める。


「わふ!」


 親指でマチェの手のひらをぐりぐりと刺激すると、マチェの尻尾はブンブンと振った。その度にスカートがヒラヒラ揺れる。


 スカートに尻尾用の穴を開けてもらってよかった……。開けてなかったら、スカートが翻ってた。


 危ない危ない。


「マチェ、見てみろ。ちゃんと手が開いてるだろ? な、大丈夫だろ?」


「わふ?」


「マチェは少し戸惑ってるだけだ。落ち着けばちゃんとできるようになる」


「本当ですか?」


 マチェの翠色の瞳が恐る恐る俺を見つめてくる。期待半分、不安半分と言ったところか。


「本当だ」


「はい!」


 俺の返答でマチェは不安など消し飛んだように顔を綻ばせる。


 単純で助かる。


 と、ここで油断しきった俺は余計な事を言ってしまった。


「心配しなくても、大丈夫だぞ。だって、今歩くのだって問題ないじゃないか」


 普通なら四足歩行から二足歩行になったら、違和感が凄そう。しかし、マチェはここまで来るのに苦労はしなかった。


「歩く……?」


 マチェは言われて初めて、今まで歩いてきた事に違和感を持ったらしい。瞬間、マチェは足をあげようとしたり、手を地面につけようと泣きそうな顔でつぐはぐな事をし始めた。


「あ、え? ま、マチェは……? あれ? きゅ、きゅーん……」


 そして、俺が止める間も無くぺたんと地面い尻餅をついた。


「マチェ!?」


「ご、ご主人……。マチェは今までどうやって歩いてたんですかぁ? 前足を使わずに歩いて……? うきゅるうるきゅるぐる」


「すまん……。聞いた俺が悪かった」


 歩行は無意識の領域だったな。呼吸と同じく意識させちゃいけない奴だった!



 SSR二枚抜きしようと、イヌなので取り扱いには注意が必要。

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