2章 12
前回休んでしまい申し訳ありませんでした
また頑張っていきます
「すまん……」
「ん。僕的はいいんだけどさ……。お兄さんが決めた事なら従うだけだよ」
そう言いながらもルコッタは呆れたように短く息を吐いた。
「問題はお兄さんだと思うよ。お兄さんはいい人すぎる。甘すぎてベタベタするよ」
「すまん……」
俺は謝るしかできない。
ここで突然だが、本日収入!
+ マタンゴ討伐クエスト報酬 10000メリ(+ 夕飯のおかず)
+ ケルベロス討伐報酬(クエストではないので素材買取価格のみ) 1000000メリ
- ルコッタの生活品など -約10000
- どっかの馬鹿女どもが暴れた街の修繕費 900000メリ
- 借金返済 100000メリ
(だいたい1メリ2円くらいっぽい)
綺麗に儲けた分が消えた。むしろ、雑務を含めると赤字になると言う。
「これでよかったの、お兄さん? どっかに請求した方がいいと思うんだけど。お兄さんが背負う事じゃないと思うし」
「なんていうか。くせになっているというか……」
俺は改めて溜息をついた。
嫌なくせだな。内から溢れる圧倒的雑魚感に涙。
「くせ?」
「そうだ。アイツは俺の——」
「わん!」
俺の声を掻き消すように、聴き慣れたマチェの声がした。
「マチェ、どこ行ってたんだ? あの馬鹿女どもの喧嘩に巻き込まれなかったか?」
いや、違う。確かにマチェの声だけど、なにか違う。少女の声ではなく、獣の声で——。
「わんわん!」
マチェの声がする。いや、正しくは鳴き声。
そう、そこにはイヌのマチェがそこにいた。
でかいイヌ。尻尾は二本。身長は俺の胸くらい。黄金の毛並みの大きなイヌ。一年間ずっと一緒にいた俺の相棒。イッヌゥスェードのマチェの姿。
それは、“祝福”を持った少女ではない。
「はへ?」
「わふ」
固まる俺にマチェはかつてそうであったようにゴシゴシと全身を擦りつけてくる。その身体には少女のマチェの面影だと言わんばかりにビリビリに破かれた服が巻きついていた。
イヌに戻ったマチェの力強さに若干俺は後退してしまう。
「な、なななな、な、なな、なんで!?」
「わふ?」
「なにがあった? なにをされた? どうしてこうなった? なんで? なにがあった? 誰のせい? え? あのヴィクティカとかそういう女神レティナ反対を掲げる過激なカルト宗教のせい? レティナの“祝福”に待ったをかけたとか!? え? えっ? なんで?」
まじで“祝福”が消えたのか? “祝福”が消えるなんてありえるのか?
「わふ?」
俺の慌てようとは裏腹にマチェはのほほんと目元を緩ませる。
「お兄さん、動揺しすぎ……」
「てか、マチェは身体大丈夫か? “祝福”とは言え、身体が作り変えられるのは負担がでかいんだ」
「わん!」
「大丈夫だと思うよ。マチェは“祝福”慣れしてるから。仕込みじゃなかったんだね……」
「“祝福”慣れ? マチェが“祝福”持ちになったのはここ最近だぞ。ルコッタはなんかわかるのか?」
「うーん、どう言おうか……? まぁ、とりあえず、マチェがこうなったのはお兄さんのせいだよ」
「はへ? WHY? 何故? 何故? 俺なんかしちゃいましたか!?」
またこの言葉を言う事になるとは! 俺は相変わらず弱いのに、最近変な事が多すぎて、言動だけは無自覚俺つえぇ系……!
言動だけって言うところにどうしようもない小物感がある。
泣きたい。
「……まさかと思っていたけど、お兄さんってまじで無自覚か。ちょっと引く」
「なんの話!? 確かに、俺つえぇ系の発言したけど、俺は無自覚系主人公とかそんなんじゃないから! 察しのいい筈だぞ。…………多分!」
「本当に残念だよ、お兄さん……。僕が思うにお兄さんは察しがいいんじゃなくて、お兄さんがお兄さんの都合のいい方に考えてて、周りがそれに合わせてくれるタイプだよ。周りの優しさに感謝しないとね。
よくここまで、拗れたもんだね」
「なに、その新手のダメ判定。やめて! 甘やかされたダメ長男だと言う事がバレる。家業から逃げて家出してる小物としては、耳に痛すぎて心臓ギシギシ言う」
「……本当にいい人たちに囲まれて育ったんだね、お兄さん」
ルコッタはすごく優しそうな瞳でそう言った。明らかに10歳児が出せる大人の余裕オーラじゃない!
「僕はその人たちを尊重しよう。その人たちあってのお兄さん。お兄さんあっての僕だからね」
「ルコッタ一人で納得してないで俺にも説明してくれ! なんで、マチェはこうなったんだ? どうして俺のせいなんだ?」
「それはねー、お兄さんが元に戻りたいって思ったマチェを肯定したからだよ」
ルコッタはなんでもなさそうにそう言った。
「はへ?」
そう言われて俺は思わず、マチェを見た。
マチェは俺と視線が合うと、わんと嬉しそうに吠えた。
「マチェは“祝福”を捨てた。そう言う事」
「そそそ、そ、そんな事ありゅの!?」
驚きのあまり声が裏返った。
「目の前で起きているんだから、あるんだよ。ねぇ、マチェ」
「わん!」
マチェはパタパタと尻尾を振った。
「た、確かにそうだけど……」
“祝福”って捨てれるの?
「それともお兄さんはこのマチェは偽物で、別に“祝福”持ちのマチェがいると思っているの?」
「わきゅ!? きゅーん……?」
「………」
イヌのマチェをじっと見る。
「マチェ」
「わん」
金色の毛皮を持つ大きな獣。いつの間にか見慣れていた少女の姿ではない。イヌのマチェがそこにいる。
「ぐ、ぬぬ……」
思わず、唸りながらもマチェの頭を撫でてしまった。
「わふ」
マチェは不思議そうにしながらも嬉しそうに尻尾を振っている。
実のところ、“祝福”持ちのマチェよりも、こっちの方が馴染みがある。だって、一年間くらいイヌのマチェとはずっといたんだ。
「……マチェはマチェだ。イヌに戻ってもマチェはマチェだ」
「わん!」
俺がそう言うとマチェは耳をピンと立てて嬉しそうに増えた。尻尾が砂埃を巻き上げるくらい激しく揺られている。
「マチェは変わらず、ここにいる……」
それは理解している。でも、
「マチェがいなくなった訳じゃないんだけどなぁ……」
なんだが、心にぽっかり穴が空いたみたいだ。
「わふ?」
「大丈夫だ。なんでもない。そっか。これがマチェの選択なんだな。……うん。俺はそれでいいと思う」
「わん」
「……マチェのこれからの人生に祝福がありますように」
マチェに額に口付けをする。
少女のマチェにはこんなできないが、今のマチェにはできる。我ながら現金なものである。
「わふ!? きゅーんきゅーん!」
おまじない。家に伝わる祝福のおまじない。幸せを願い、親愛を示すものだ。
マチェは千切れんばかりに尻尾を振っている。尻尾が風を切る音がビュンビュンしている。
「うわ……。お兄さん、それをそんなぽんぽこあげるのやめよう」
ルコッタは、顔を思いっきりしかめると深くふかーく溜め息をついた。
「なんの話だ? 俺にもちゃんとわかるように言ってくれ。俺を置きっぱなしで納得すんの、やめーや」
「さぁね。お兄さん、僕はお兄さんにたいして嘘はつかない。でも、隠し事はするの。僕に言わせたいなら、ちゃんとした問いを持ってきて。僕がはぐらかせないくらいの問いを」
「……お前、ほんっとめんどくさいな」
「そりゃどうも」
そう言ってルコッタは笑った。確かに怪しいが、表情は子供そのものだ。
「わふ?」
マチェはキョトンとしながらも、揺らした尻尾を止めやしなかった。




