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第2章 3

久しぶりに主人公登場

「う、うぃ、『ウィンドスラッシュ』……!」


 魔力が集まり、風が——散った。


「わふ!?」


 術式構築の甘い魔法は簡単に魔力が散り、『ウィンドスラッシュ』になり損ねた魔力は緩やかな風になった。草木を揺らした風にマチェは声を上げる。


「マチェはまた出来ませんでした……」


 ふんわりと広がる長い金髪に綺麗な翠玉の瞳。スタイルよし! 顔よし! の超絶美少女である。そんな美少女の頭には金髪と同じ黄金の色をしたイヌ耳。お尻には長い毛に覆われた尻尾。


 どこに出しても恥ずかしくないケモ耳美少女。それがマチェだ。


 そんなマチェはがっくりと肩を落とし、パタンと耳を伏せていた。


「大丈夫だって」


 俺こと、平凡かつ下っ端冒険者ルクスはマチェの頭を撫でる。


 ここで注釈を加えたいのは、マチェが元イヌだと言う事だ。俺の相棒——つまりは飼いイヌだった。マチェは“祝福”(ギフト)と呼ばれる女神バフを得たのでイヌの姿から、こんなイヌ耳美少女になったのだ。


 なので、頭を撫でると言うのは元イヌと飼い主とのコミュニケーションであり、断じてセクハラではない!


「うきゅるぎゅるるる〜……」


「そんな声で鳴くなって。大丈夫だって。出来なくても、問題はないから」


 いや、問題はある。一応、俺らの職業は冒険者。戦闘してなんぼだ。戦闘的な面で現状のマチェは近接技しか持ってない。だから、遠距離攻撃を持って欲しい。


 なのだが、あまり気にし過ぎたら可哀想だ。


「わふ……」


「……ほ、ほら、マチェ! 『ウィンド』! 『ウィンド』やろうか!」


「わん!! やります! 『ウィンド』! 『ウィンド』!!」


 マチェはにぱっと笑った。それと同時に心地よい風が頬をかすめるように吹き抜けていく。俺の青い髪がサラサラと揺れた。


 うん。『ウィンド』の制御は完璧だな。


「よし! よくできた! いい子だ、マチェ!」


「わん!」


 褒めながら、マチェの頭を撫でる。すると、マチェの強張っていた顔がへにゃりと緩んだ。マチェはにこーっと無防備な笑顔になる。


「………」


 なんて、可愛い生き物だろう……!


「マチェは可愛いなぁ!」


「わんわん!」


 最近になって、マチェの美少女度にも慣れた俺はすっかり親バカになっていた。姿は変われど マチェ(イヌ)マチェ(イヌ)。可愛がる以外の道はなかった。


「あの、教会の裏でイチャつかないでほしいのですが……。他の信者さんの目もありますし」


「……イチャついてない」


 いつの間にか、俺らの背後には赤褐色の髪に黒い瞳の神父——ブラムが立っていた。


「そうですか。と言うか、もう出来る事をして褒めるなんてあまり意味がないような気がします」


「いや、ずっと出来ないって思い続けると辛いだろ? 褒めてやらないとマチェにストレスがたまる」


「はぁ……。相変わらず、マチェさんだけには甘いんですから。

 それはともかく仕事をしっかりとしてもらわないと、こちらとしても給金が出せないのです。なのでしっかりしてくださいねー」


「へいへい」


 ここは街外れの教会——ロゼリア教会である。そして、ここはそこの裏庭。現在、休憩時間である。


 現在、俺は教会にてバイト中。この街——シュズメリアが祭りシーズンなのである。


 街の結界——ダンジョンから魔物が溢れないようにする結界は3年毎に張り替えられる。新結界を祝ってのお祭りなのだ。


祭り自体は毎年あるが、結界を張り替える3年事にしか神獣は来ない。今年の祭りは神獣が来ると言う事でより一層の賑わいを見せている。なので、祭り関連クエストがわんさか出ている。


 俺としては絶好の稼ぎ時。……なのだが、本当はこの時期は長期探索と言う名目でダンジョンかなんかに潜っていたい。


 知り合い(・・・・)に鉢合わせするのは避けたいのだ。


 結界を張り替える神獣は毎回変わる。四柱が3年ごとにローテンションしている。今回来ると言う神獣はヒイラの花が好きだと言う。なので、街は神獣を歓迎する為に、総出で花を育てている。そして。俺はその花を育てるクエスト中である。


「神獣に捧げる花を作るは立派な仕事ですからね。手を抜かないようにお願いします」


「へーい。……ったく、あいつが花好きだなんて、聞いた事ないんだが……」


 ヒイラの花はそこらに生える雑草に近い花だ。薬草としての効能はなく、観賞用である。魔力によって色を変えやすいので、土壌調査などに使われてたりする。


 ここでネックなのが、色が変わると言う事。風水火土の四属性に合わせて4種類——黄色、青、赤、橙。そして、なにも影響されなかった白い花。


 神獣が好きな色は白だと言う。この白いヒイラの花を育てるのは事なのだ。神獣は人前に立つ時、決まって白い花を抱いている。


どんな土を使っても花は多少なり魔力の影響を受ける。それを魔力が抜けるように育てるのは、難しい。というか、正直面倒。


 一度属性がついてしまったら、相克する属性で打ち消さなくてはならないのだが、これが上手く抜けない。魔力を上手く調整しなくては相克する筈の魔力が花を染めてしまう。あんまりにも色が染まりすぎると、魔力を相克できなくなる。


 まったく、なんであいつはこんな手間のかかる花好きになったんだが……。


「ご主人、あいつって誰ですか?」


 今まで嬉しそうにしていたマチェがふと真顔になった。すぐさまほっぺたを膨らませて、俺を睨む。


「マチェ?」


「答えてほしいです……」


 なんぞ?


 ……は? これはもしや、嫉妬!?


 え? こんなハムスターみたいな嫉妬方法ある? 今のマチェは可愛いの権化みたいになってるんだけど!


「あ、いや……。気にすんな。姉だ、姉」


「あ、ね……? ご主人のお姉さんですか?」


「そうだ。ヒイラの花見てたら、こうやってヒイラの花でよく遊んだってのを思い出しただけ。花の冠を作ったり……」


 いや、正しくは俺が花の冠を作らされた。姉は不器用だった。


「ピクニックしたり、勝手な花言葉をつけたりして、遊んでたんだよ。それを思い出したんだ」


「……おねえさ、ん。お姉さんなら大丈夫です。わふっ! ご主人、マチェにも遊び方を教えてほしいです! わん!」


 誤解が解けたのか、マチェはまたにっこりと笑った。姉ならなにが大丈夫なのか、俺にはよくわからなかった。が、深く追求するのはやめた。


 最近、マチェには人らしい感情が芽生えてきていた。ただのイヌ時代と比べると細やかな感情が増え、感情豊かになったと言うか……。


 きっと、人の身体に慣れてきたのだろう。前“祝福”(ギフト)持ちを世話した時もこんなだったし。こう言うものなのだろう。


「へぇ。ルクスさんの姉ですか? 一体、どんな姉なんですか?」


 ブラムが愛想笑いを浮かべながら、そう聞いてくる。


「……訊いてどうする?」


 こいつ、俺のステータスカードを見てるから油断なんねぇんだよな。正直、答えたくない。


「ルクスさんみたいな拗ねくれた方を持つご姉弟が一体どんな方なのか気になりまして。ひょっとしたら、ルクスさんみたいに捻くれているのかと」


「普通の姉ですが、なにか!?」


「……おや。普通、ですか?」


「そうだよ。ちょっと猪突猛進的なところがあるけど、普通の姉。あ、普通なのは性格で、ステータスとかは優秀だな」


 姉……。なんだけど、俺は前世がある分、俺の方が精神年齢が姉よりも上だった。だから、正直言って姉と思えない。


 しかも、その姉とは四ヶ月(・・・)しか歳が違わないから、正直妹みたいなもんだった。


「へぇ、そうなんですか? ちなみに仲はいいのですか?」


「普通。よくもないし、悪くもない。昔はよかったけど、歳が重なると、会話も減る。性別違うし、こればっかは仕方ないだろう。そこらの家と同じだろ」


 前世の妹もそうだった。必要ない時は話しかけてくんな、と俺を足蹴してきた。その癖、ゲームで詰まったりすると俺を頼ってきた。


 そして、今世の姉も、色々暴れた結果尻ぬぐいを俺に任せてきた。俺は尻ぬぐいが面倒で事前に止めようとしたが、悉く俺の言い分は却下され、うるさいと怒鳴られた。そういえば、家出した時も喧嘩したっけか。てか、わりと高頻度で喧嘩してたな。


 まじ、妹とか、姉とか、凶悪すぎるだろ。


「わふ……。歳が重なると会話が減るんですか!? マチェは歳とりたくないです。ご主人ともっといっぱいお喋りしたいです……!」


「大丈夫だ。姉弟の話だから。マチェと俺には当てはまんねぇよ。マチェが話したいって思ってくれれば、会話は減らない……、筈!」


「わん!」


 マチェは安心したようににこーっと笑うと、俺に頭を擦り付けてきた。


 ブラムはと言うと、少し考えこむように顎に手を当てている。怪しさが滲み出ているようで、怪しい。怪しすぎて言葉がおかしくなるくらい怪しい。


 なんかこうブラムは聖職者の癖にどこか胡散臭い。掴み所がなくて、飄々としている。ラスボスっぽい。終盤裏切る系の。


「マチェー、そろそろ仕事戻るか」


「はい!」


 モブの俺にラスボスは関係ないのでほっとこう。タイムイズマネー。今は仕事が大切。


「ちょっと待ってぇ!!」


 と、そんな時に駆け込んでくる声が一つ。走ってきたのか、その人物はとても息が弾んでいた。


「アンタの午後、私が買うわ!!」


 ——メベルである。


「は?」


 モブな俺とは違い、メベルは『胸キュンメモリアル』と言う独自のネームセンスを持つゲームの主人公に転生した人物である。ちなみに乙女ゲーム。現在、ハーレムルートを目指して万進中。


「どした?」


「ちょっと街外れに用があるのよ。それに付き合って欲しいの」


 メベルは息を整えると、そう言ってきた。


「マチェに?」


「いや、アンタだけど」


 メベルは俺を指さしながら、言った。


「なんで、俺? と言うか、指さすな」


「メベル! ご、ご主人を取っちゃだめですよ!」


「大丈夫。ちょっと借りるだけ。こんな用がなければ、いらないから」


「さらっとひどいことを言うな。目の前に俺がいるんだぞ」


「あ、ごめん。いるって答えてほしかったの? え? 個別ルート希望?」


 メベルの目が攻略相手以外は興味なし、と言わんばかりの顔をしていた。


「違います……。で、なんだよ?」


「ジャッカロープがほしいの!」


 メベルはニコリと笑う。


角兎(ジャッカロープ)? なんで、そんなもんがほしいんだよ? ペットにでもするのか?」


 角兎(ジャッカロープ)。名の通り、角の生えた兎。魔族の中でも雑魚に位置する。攻撃手段は頭に生えた角のみで、弱い。


 この弱さを生かして、角を落としてペットにとして契約する人がいたりする。


 ちなみに、ウサギ——ウシャセル・ギアーナと呼ばれる魔族もいる。見た目、兎そっくりだ。だが、それはでかい。もふもふの毛玉で、角はない。だが、でかい(2回目)。運動会の大玉なみにでかい。突進されたら、人間が軽く吹っ飛ぶ。それに比べると、角兎(ジャッカロープ)は元の世界にいた兎とほぼ同じ大きさくらいで小さい。


「うーん。ちょっとねぇ……。後で話すわ。ここではなんだし」


 メベルはちらりとブラムを見やった。ブラムはただ不思議そうにしながらも、空気を読んだとばかりになにも言わなかった。


「とにかく、角兎(ジャッカロープ)を生け捕りにしたいの! 急な依頼だし、このフラグを外す訳にはいかないから、報酬は弾むわ」


「まぁ、いいけど。てか、角兎(ジャッカロープ)くらいなら、メベルだけでもいけるだろ? お前の方が強いし」


 メベルのステータスはオールCを上回る高性能。しかも、AGIとINTがS。モブ転生者の俺と違って、チート転生者だ。格が違う。


「バカ! 私がやったら、余裕で殺すじゃない。手加減して素手でやっても、角兎(ジャッカロープ)の首が飛ぶわね」


「なんだ、その逆、首狩りバニー!? こえぇよ」


「その点、ルクスなら全力で攻撃しても、角兎(ジャッカロープ)、生きてるだろうし」


「………」


 いや、そのね……。


「というわけで、ルクスに頼みたいのよ!」


「まぁ、いいけど……。凹む」


 俺が選ばれた理由が 弱さ でした。


 自尊心がめそめそだよ!


「待ってください! メベルディアさん、それは困ります」


 いきなり、声を上げたのは今まで黙っていたブラムだ。


「ルクスさんの弱さはヒイラの花を白くするのにうってつけなんです! 魔力も少ないんで、魔力が花に移る可能性が低いので!」


「確かにそうだけど、今日の午後だけだから! 他に使い勝手のいい弱い奴にあてがないのよ」


「ですが、本日のノルマが……。弱いルクスさんがいると簡単に終わるんです」


「やめろ!! お前ら、弱い弱い連呼すんな!! 傷つく!」


「事実ですし」


「腹立つ!」


 くそう。好き勝手に言いやがって……。


 事実なのは確かだし、言い返せねぇ、俺が憎い。


「ご主人は人気者ですね!」


 マチェが悪気もなく、にっこり笑ってそういった。


「違うぞ、マチェ……」




 今日も俺は、いつも通りです……。

 あぁ、もう冒険者やめようかなぁ?

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