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第1章 14(第1章 完)

「ダンピーって、元Sランク冒険者よ」


 クエストから数日経った。金稼ぎに翻弄する日々の最中、俺はメベルと話していた。


 場所は街の喫茶店。庶民向けの酒場を昼間喫茶店としてオープンさせているありふれた喫茶店だ。少し酒の匂いがするけれど、純喫茶みたいでいい感じだ。恰幅の良いおばちゃんがテキパキと料理を作っている。


 普段の俺ならば、お茶を飲む余裕なんてないから絶対に入らない。だが、今日はメベルの奢りだ。マチェの“祝福”(ギフト)記念なのだ。


 なので、諸手(もろて)をあげて、ゴチになっている。


 喫茶店の隅の4人掛け席。メベルはマチェを隣に座らせると、楽しそうにマチェを撫でている。


 マチェはというと、尻尾をパタパタと振っていた。元々マチェはメベルが大好きだ。撫でられて嬉しいと言うのが全面に出ている。その上、このパンケーキだ。辛いものはダメだが、マチェは甘いものは好きらしい。幸せそうにパンケーキを頬張っていた。


「ほう。Sランクかー。って、元なのか?」


「そうよ。何年か前にダンジョンのSSSランクのドラゴンを倒したんだけど、怪我したらしくてランクが下がったのよ。今はランクBだとか聞いたわ」


 流石、メベル。ランクB冒険者は伊達じゃない。下っ端冒険者の俺より情報通だ。


 実のところ、メベルはランクAの実力を持つというが、学業がある為ギルドへの貢献度が低くランクB止まりなのだと言う。


「げぇ、ドラゴン倒したのか!? ……ドラゴンスレイヤーとか、俺の天敵じゃん」


「ん? なんで、天敵なの?」


「いや、こっちの話。それより、マチェの“祝福”(ギフト)ってお前の仕業じゃないか?」


「わふ?」


 いきなり名前を呼ばれてびっくりしたのか、マチェがフォークを止めた。その顔はクリームに塗れている。俺は慌てて手を伸ばしてテーブル越しにハンカチでその顔を拭った。紙ナプキンがあればいいが、庶民向けの喫茶店にそんなものない。


「なんでよ? 私は主人公だけど、そんな能力ないわよ」


「いや、お前と“祝福”(ギフト)の話をした翌日にマチェが“祝福”(ギフト)持ちになったんだぞ。絶対にお前のチート補正だろ」


「ただの偶然でしょ。*『キュンメモ』にそんな能力ないし。アイテムならあるけど。それは敵側が持ってるやつだし。

 ってか、ルクスも転生者でしょ。今になってチート能力出てきたのかもよ」


 *メベルが転生した主人公が出てくるゲーム『胸キュンメモリアル』の略


「それはねぇな。

 それに“祝福”(ギフト)自体、なんか微妙感ハンパないし、チートって感じがしない」


 今のところ、“祝福”(ギフト)の恩恵がマチェが可愛いと言うくらいだ。いや、元々ただのイヌだとしても、マチェは可愛かったんだが。


「そうなの?」


「そんなんだよ。まぁ、確かにステータス上は強いんだが、慣れるまでが大変だ。それに金はかかる。その上、俺はマチェを買った業者からイチャモンつけられてる……」


 2歳になったマチェが“祝福”(ギフト)持ちになるとは思わなかった業者——“祝福”(ギフト)狙いでイヌを1歳になるまで育ててる人たちは、マチェが“祝福”(ギフト)持ちになったと聞き、追加料金を請求しに来た。“祝福”(ギフト)持ちのイヌとただのイヌでは料金が天と地ほど違う。


 しらねぇよ。今更言うなよ。そんな金はない。


 上記の3コンボで俺は業者から逃げた。途中、ブラムが仲介してくれなかったら、俺は山奥に埋められていたかもしれない。


「うわー……。あんな業者使うからよ。あぁ言うのがいるから、“祝福”(ギフト)持ちが貴族の元しかいないのよ。本来は“祝福”(ギフト)持ちだっていっぱいいる筈なのに、貴族が囲ってるから表に出てこない」


「うっせ。しらねぇよ。弱い冒険者としては躾けられたイヌが格安って言うのはありがたいんだ」


 イヌがいるだけでダンジョンの生存率が違うんだ。弱肉強食のダンジョンは悲しい事に真っ先に弱い俺から狙われる。イヌが——マチェがいなければ死んでいた場面も多い。


「ばーか」


 俺はメベルの冷たい視線を顔を逸らして回避する。


「メベル、ご主人の悪口はダメです! ご主人はすごいんですよ」


 すると、マチェと目が合った。


「わん!」


 マチェはいつも通り嬉しそうに笑った。


「……ルクス、マチェちゃんに色々と仕込み過ぎじゃない? 悪口を言われてすかさずルクスをよいしょするとか……」


「仕込んでねぇよ! イヌ(マチェ)のすごいのハードルは異様に低いだけだ」


「まぁ、いいわ。それにしても、マチェちゃん、可愛くなったわね」


 メベルはギュッとマチェに抱きついた。


「マジでこのまま連れ帰りたい! 寮暮らしじゃなければ、連れ帰った!」


「やめて」


 メベルに抱きつかれて、パタパタと尻尾を振っている。


「マチェは可愛いって言ってもらえて、嬉しいです! メベル、好きです!」


「私も好き! 可愛い!!」


「声がデカい。……周りから変な目で見られるからやめて」


「だってねー。マチェちゃん、可愛いもんね」


「はい! マチェが可愛いと、ご主人が喜ぶのでマチェは嬉しいです! わんわん!」


「あ……」


 瞬間、メベルが察したとばかりにピタリと止まった。


 マチェはイヌだ。イヌの優先度の最上位は自身ではなく、飼い主だ。つまり、俺。


「アンタ、ちゃんとマチェちゃんの責任取りなさいよ。マジでここまでとは……」


「違う。言っとくがメベルが想像しているような事は起こってないぞ」


「へたれ」


 ひどい言われようだ。


「いい、ルクス! あの日、私はマチェちゃんはルクスと結婚したいか聞いたの! それで応えたマチェちゃんは“祝福”(ギフト)持ちになった! これはルクスが責任取るべきでしょ」


「ぐ、ぬ……」


「え? マチェちゃんになんか不満あるの? 可愛いし、最近冒険者ランクCになったんでしょ?」


 見事、風の爪を使えるようになったマチェはあっという間に俺の稼ぎを超えた。今まで逃げる事しかできなかった魔物をサクサク倒し、冒険者ランクがあっという間に上がっていった。


 それでも金がないのは、先日の護衛クエストで使ったスパイスの料金である。生き残る為とは言え、俺らはノヅチに向かってスパイスを全部ぶち撒けた。当然、ツィチャさん激怒。しかし、ツィチャさんも見捨てた負い目があるのかいくらかスパイスの料金を値下げしてくれた。それでもやばい金額なのである。


 閑話休題。


「マチェに不満はない。ただ、マチェが良妻物件過ぎて、雑魚な俺と釣り合いが取れてない。男として、何もかも負けて、俺のプライドが……」


「アホ。男ってなんでこうプライドを気にするのかしら?」


 ひどい。辛辣である。胸に深々と突き刺さった。


「ケッコン!」


 そして、当のマチェだが耳をピンと立てていた。そして、メベルの腕の拘束から抜け出すと、テーブルをくぐった。


「マチェ?」


 するりと、俺の隣に座る。


「マチェはご主人とケッコンしたいです、わん!」


 そう言って、マチェは俺に抱きついた。頬擦りを繰り返し、きゅんきゅんと鳴き出した。


「ちょ、マチェ! やめろ……」


 マチェのいい匂いと柔らかさに理性がとろけそうだ。だが、周りの視線が痛い。


「マチェはご主人とケッコンするのです!」


「あーあ。これは結婚しかないわね。式には——あ、そんなお金ないか。まぁ、頑張りなさいよ」


 メベルが呆れたように苦笑していた。




 “祝福”(ギフト)持ちになってもマチェ——イヌの忠誠度はイヌのまま。


 SSRを二枚抜きしたけど、イヌはイヌです。

第1章完結です

来週から第2章です

相変わらずほのぼのです

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