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第1章 11

 マチェが“祝福”(ギフト)を得てから、なんだかんだで一週間経ったのである。


 マチェはだいぶ身体には慣れたようだ。物を掴むのも、走るのも問題ない。


 服や、靴もマチェ用に拵えた。スカートではなく、ホットパンツになった。太ももが眩しいホットパンツである。更にはオーバーニーソ。絶対領域を協調する魅惑の組み合わせ。インナーはピッチリした黒のタンクトップ。そして、可愛らしいが作りのしっかりとした上着。


 可愛い。


 ……可愛いのはいい。だが、ホットパンツではなく長ズボンがいいと思う。……俺の好みではなく、冒険者的に。だが、


「マチェには、ホットパンツ。譲れないし、譲れない」


 と、ベルベロアさんが譲れなかった。


 ベルベロアさんはホットパンツ教の回し者かなにかと思うくらい強いホットパンツへのこだわりだった。そう言えば、ベルベロアさんもホットパンツだ。


「ホットパンツは、いい。とても、いい」


「さいですか……」


 ……マチェにホットパンツが似合っているし、俺としては別にいい。マチェも尻尾穴さえあれば、特に問題はないようだ。


 閑話休題。


 問題は魔法だ。マチェは魔法についてはまだ苦手のままだった。


 初期魔法の『ウィンド』はなんとかなる。と言うか、レベルが10になった。最大値である。最大値になれば突風クラスの風が出せる。だが、その次である『ウィンドスラッシュ』の習得には至らない。後一歩魔法への理解が足らないらしい。


「こう風をまとまるイメージで、だな……」


「うるきゅぐきゅきゅる〜……。風がまとまる? よくわかりません……。風は広がるものです。まとまるって言うのはよくわかりません。ごめんなさい……」


「いや、謝るな、マチェ。確かに風は広がるものだな。俺の教え方にも問題があるんだ……。俺、魔法を良く考えて使った事がないんだ……」


 残念ながら、俺の知り合いに魔法を教えられるような奴はいない。魔法使いなら何人か知り合いがいるのだが、いかんせん魔法をニュアンスで使っている奴が多いので師事には期待できない。教師を雇うには金がいる。学校にいかせるにしても金がない。


 俺の姉さんあたりならなんとか出来るかもしれない。俺の姉さんは優秀なのだ。現に俺は姉さんに習った。だが、俺が家出中の身。居場所がバレたら、実家に緊急収監される。それは避けたいので、姉さんに頼るのは最終手段にしたい。


 もう“祝福”(ギフト)を持ったマチェは『可愛い』にステータス割り振ったと思えばいいんじゃないかな!


 俺は金の工面に目を背けながら、そう思っていた。




「ご主人、今日はどんなクエストに行きますか?」


 ギルドの掲示板を眺めていると、マチェは俺を見上げてきた。マチェには文字は教えているのだが、まだ名前くらいしか覚えてない。なので、難しい依頼書は読めないようで、一瞥して顔をしかめていた。


「うーん、護衛クエストとかにするか?」


「護衛ですか? マチェはいつでもご主人の護衛ですよ! わん」


「違う。盗賊とか魔物とかから人を守るクエスト」


「わふ……。よくわからないけど、マチェは頑張ります!」


 マチェはキョトンと首を傾げて、微笑んでいた。


「おう……。それでいいや」


 俺は比較的簡単な依頼が書かれた紙を手にとった。普段、俺は護衛クエストを受ける事はない。報酬はいいのだが、半日から一週間ほど拘束にされるのであんまり好きではないのだ。けど、今はそう言ってられない。


 クエストの内容は隣町に向かう街道までの護衛。期間は半日。祭りが近いので人手が足らないようで、いつもより報酬が上がっている。


 依頼書を見る限り、最近街道は魔物が多く出るようだ。


 ちなみに魔族と魔物の明確な違いはあんまりない。ざっくりと、人を襲うものが魔物と呼ばれている。なんか、専門家曰く、“祝福”(ギフト)を受けられるか否かで違うらしい。魔物が“祝福”(ギフト)をどうして受けられないかは不明。


「多分、いける、……か?」


 魔物が多いとは言え、この辺の魔物は弱い。盗賊が出るとも聞かないので、今のマチェと俺でもなんとかなるだろう。


「と言うか、なんとかしないと、やばい……。金が」


 俺は依頼書を見て、溜め息をついた。つい、指で紙を弄んでしまう。


 ちなみにだが、この世界は中世ぐらいであるが、既に植物紙の文化が根付いていた。前の世界の文化で一儲けしようとしていたメベル曰く、先に来ている転生者が根付かせていたようだ。今ではその冒険者の名前——ユズリラ商会、ユズリラ紙として文化の一端になっている。


 とまぁ、このようにこの世界には転生者が多いようで、持ち込まれた文化は多い。石鹸とか料理とか。メベルは先を越されたと悔しがっていたが、俺は楽ができるので大いに結構。


「大丈夫です! マチェとご主人ならなんでもできます!」


 マチェの尻尾がブンブンと振られていた。疑う事なんて知らない瞳。俺は釣られて笑った。


 そんなマチェを尻目に俺は依頼書を受付に持っていった。




 そして、クエスト開始当日。


「今日はお願いします」


「おう。頼むぜ」


 と、にこやかに商人が俺らを迎えた。軽く挨拶を交わして、馬車に乗り込んだ。


 その馬車は屋根に帆が張ってあるちょっと豪華な馬車だ。普段平民が使う馬車に屋根はないので、屋根があるだけでかなりいい部類なのである。流石、商人。……貴族が使う馬車はもっといい造りだが、それはそれ。


 ゴトゴトと揺れながら、馬車が街道を往く。今のところ開けた街道なので、待ち伏せを心配しなくても大丈夫だ。隣町まで約半日。難所と言える場所は3ヶ所くらい。人が隠れやすい草場や、魔物が多い地帯があるのだ。


 だが、商人は一人、ウマが一頭。馬車が一つ。これなら俺らだけでもカバーできる。


 ちなみに馬車をひく馬は正しくは魔族ウマルノラである。イヌと同じく、大なり小なり魔力を持ち、体格のでかい生き物。馬力がすごいらしい。


 荷物は——、


「わふ!? くきゅ〜」


 スパイスのようだ。袋にギッチリと目に痛い程紅いスパイスが詰まっていた。近くいるだけで鼻がおかしくなりそうなくらい辛い。と言うか、痛い。


 そんなスパイスのせいで鼻がいいマチェが泣きそうになっていた。そして、すっかりヘソを曲げ、馬車の隅で丸くなっている。俺はそんなマチェの頭を撫でて、ご機嫌をとっている。


 馬車の後ろから見上げた天気は上々。雨の気配はなし。日差しは熱いが風は冷たい。街道の脇では、マーガレットに似たヒイラの花が咲き乱れている。土地の魔力に左右されるヒイラは様々な色に咲き誇っており、とても綺麗だ。


 今日は日和がとてもいい。


 ヒイラの花が咲くのは神獣祭が近付いた証。祭りになると街に人が増えるし、いい思い出ない。だから、祭りはあまり好きではない。


「おぉー、“祝福”(ギフト)持ちのお嬢さんとは珍しいな」


 商人——ツィチャさんはマチェを見て、そう言った。


「商人でも、“祝福”(ギフト)持ちを見る機会はあんまりないんですか?」


 依頼者の手前、敬語を使う俺。


「そりゃ、そうさ。人間だろうと“祝福”(ギフト)持ちは貴族が保護するのが殆どだ。それに数が少ない。宝くじが当たるようなもんだろ。よかったな、兄ちゃん。そんだけ懐いてりゃ、嫁にも困らねぇ」


「あははは。そうですねー」


 THE 棒読み。


 “祝福”(ギフト)持ちの魔族と結婚した例は多い。と言うか、御伽噺では大抵結婚している。なので、魔族と相棒とする場合は、異性を選べとすら言われている。そうすれば、“祝福”(ギフト)持ちになったら、旅が華やぐ。夜のお供としても〜……。いや、これ以上何も言うまい。


 例にも漏れず、俺も異性を選んだ口になる。その時はなると思わなかった。と言うか、なる可能性すら考えなかった。


 何故なら、俺がマチェを迎えたのはマチェが1歳になった頃。イヌ族リトリー種の“祝福”(ギフト)持ちは好事家に高い人気がある。“祝福”(ギフト)持ちの魔族の取引は禁止だが、色んな法の抜け穴はあるのだ。“祝福”(ギフト)持ちの魔族の家族の斡旋と言う形で謝礼をもらうのであれば、合法だったりする。なので、“祝福”(ギフト)を目当てに1歳まで育てる業者がいるのだ。


 闇が深い……。


 まぁ、そこから1歳を超えたイヌを買うと安いし、躾も行き届いているので冒険者としては楽なのだ。なので、買った時マチェの性別を気にしなかった。


 だから、2歳になったマチェが“祝福”(ギフト)持ちになるとは一切思わなかった。そして、なにも知らない異性の世話がこんなにも大変だなんて思いもしなかった。これなら、同性の方が楽だったのではないだろうか? 夜のお供にすればいいと言われるが、無垢に慕われると子供に手を出すようで罪悪感が半端ない。チキンの俺が手が出せるはずもないのだ。


 ……可愛いマチェの世話が嫌ではないのだけど!


「そういや、兄ちゃん。“祝福”(ギフト)持ちの怖い話は知ってるか?」


「ん? どんな話ですか?」


 “祝福”(ギフト)持ちの怖い話と聞いてもピンとこない。と言うか、“祝福”(ギフト)持ちの話自体、あまり聞かない。


「よし! 暇つぶしがてら話してやろう。そいつはオレらみたいな商人だったんだ。その商人は護衛も連れず、馬車を走らせていた。


 町を離れてからもう何日も経っており、次の町までもまだ何日もかかる状態だった。馬車には沢山の荷物。商人はただ欠伸を噛み殺しながら、ウマを走らせていた。


 商人は独り身だ。帰る家もない。町から町を行く渡り鳥。雌馬だけが商人の家族と言えた。


 それを見た女神さまはたいそう男を哀れんだ。女神さまは商人のウマに“祝福”(ギフト)を授けた。すると、どうだろう。“祝福”(ギフト)を持ったウマは美しい女性に姿を変えた。ウマは今まで世話してくれた商人を好いており、商人も満更じゃなかった。だが、問題があった——」


「———」


 そこで一旦、ツィチャさんは話を切った。その真剣な表情に俺は無意識のうちに息を飲んでいた。


「そこは旅の途中! ウマが消えた事は商人にとって大打撃だった。行くも帰るも何日もかかる。荷物は多いが、馬車をひくウマはもういない。ウマだった女性に馬車を引かせる訳にもいかない。男は頭を抱えたっつー話だな」


「……んー」


 いまいち怖さがわからないような……。怖いって言うから、もっとこう命に関わるようなことかと思っていた。


「怖いだろ? 今、オレのウマが“祝福”(ギフト)持ちになったら、兄ちゃんに馬車を引いてもらうからな」


 前言撤回。めっちゃ怖い。


 ツィチャさんはガハハと豪快に笑った。見た目は粗暴だが、意外と話上手で引き込まれてしまった。


「怖いっすね。……別の意味で」


 マジで別の意味で……。俺らもダンジョンに潜っている時とか、タイミング次第では似たような事態に陥ってたかと思うとぞっとする。


 俺の中のレティナへの評価がまた一つ下がった。


「ご主人、マチェも馬車を引きますよ!」


 ただ、マチェはよくわかってないようで、ニコニコしながら拳を握りしめていた。


「マチェは怪我しそうだから、やめてくれ」


「わふ……?」


 即座に言うと、マチェはしょんぼりした顔で尻尾を下げた。




 “祝福”(ギフト)が本当にSSRなのか、疑問だ……。

曜日を間違えてました

更新が遅くなってすみません

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