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第1章 10

「いてて、長くしゃがんでたせいで腰が痛い……。マチェ、帰るぞ」


 気が付けば、持ってきた袋は薬草にいっぱいになっていた。俺は【アイテムボックス】のスキルを持ってない。なので、普通にアイテムは持って歩かないといけない。


 ガチで【アイテムボックス】のスキルほしい。転生者特権で欲しかった!


 手で詰んでいた為に緑に染まった指先を払い、立ち上がって身体を伸ばす。バキバキと言う子気味のいい音が耳に響いた。


「はい!」


 マチェはいつも通り、俺の声に反応して耳を持ち上げた。このへんは“祝福”(ギフト)を持つ前から変わらない。


「ご主人、ご主人! 『ウィンド』! 『ウィンド』!」


 マチェの近くに歩いていくと、マチェはパタパタと尻尾を振って俺を迎えた。両手を広げて、何度も魔法を唱えた。


「はいはい。マチェ、もう魔法はいいって。嬉しいのはわかるけどな」


 スライム戦の後もマチェは一生懸命に魔法の練習をしていた。それでも、まだまだ術式は不安定で穴だらけ。俺がアドバイスしようにも、俺自身が魔法について詳しくない。俺の元ではマチェの魔法はこれ以上見られない。マジでどうしよう。


「涼しいですか、ご主人!?」


 俺の心配を他所にマチェは目を輝かやかせていた。

 確かに言われてみると、マチェが出す風は涼しい。額の汗を乾かしていって、心地よい。俺の青い髪がさわさわと揺れる。


「……あ、あぁ」


「わん! ようやく、マチェはお役に立てました!」


 マチェは安心したように肩を落とした。


「ん?」


 マチェは耳をペタンと伏せた。翠緑色の瞳が寂しそうに揺れている。


「 わ、わふ……。今のマチェ、全然ご主人のお役に立てません。牙も爪もなくて戦闘がまともに出来ないです……。歩く事ももどかしくて……。ごめんなさい」


「それはマチェが悪いんじゃないぞ……! 役に立てるかなんて、俺は気にしてないし」


「マチェはご主人を守りたいです! このままじゃ、マチェは何のお役にも立てません。ご主人を守れないのは嫌です。スライムにも勝てなくて……。きゅーん。爪さえあれば、よかったんですけど……」


「いや、待て……! マチェは十分すごいから! チート転生者級!」


 魔力やステータスはモブな俺と段違いだ。


「マチェはすごくないです。ご主人がいないと何にもできないです」


「そんな事はないって」


 マチェの手は震えている。スライムに勝てなかったのがそんなに気になっていたのか。


「大丈夫だ……!」


 そう言って、俺はマチェの頭を撫でた。


「わふ」


「マチェは大丈夫だ。マチェは俺なんかよりもすっごいんだ。ただ、今はそれに慣れてないだけ」


「うきゅるぐきゅる……」


 マチェは少し不満そうに唸っているが、それでも撫でられている事は満更じゃないのか、尻尾がパタパタと揺れている。


「不満か……? とりあえず、帰ろう」


「わふ」


「ほら、飯食おうぜ、飯! 難しい事は後で考えよう」


「ご飯! あ……」


 一瞬だけ、マチェは顔を輝かせたが、すぐにパタンと耳を下げた。


「辛いのやぁ……。わふ……」


「……マチェが食べれるもの、探そうな。きっと、何かいいもの見つかるって」


「きゅーん……」


 なんか、マチェ、“祝福”(ギフト)をもらってから、運が悪い気が……。“祝福”(ギフト)で運を使い切ったか……? あ、でもスキル構成はよかったと思う。うーん、わからん。


「マチェ」


「わふ?」


 俺はマチェに背中を向ける。マチェは慌てて、俺の横に立とうとする。が、しかし、俺はマチェに待てを促す。


「ご主人……。マチェは捨てられるんですか?」


「乗ってくれ」


 俺はそう言って、マチェの前でしゃがみこむ。おんぶ待機の構えである。


「の……?」


「おぶっていくから」


「ご主人が、マチェを、ですか?」


「うん。マチェ、靴があってないだろ?」


 他意はない。マジで他意はない!


 だが、マチェは不思議そうに小首を傾げる。


「普通に帰ると、また靴擦れ起こすぞ」


「で、ですが、マチェは回復魔法(ヒール)を使えます。怪我しても治せますよ」


「治せても怪我したら痛いだろ? それにまた怪我されたら、俺も気分が悪い」


「……ご主人! わふ!!」


 次の瞬間、タックルを食らった。


「がふっ!?」


 マチェとしては感極まって抱きついただけなのだろう。いや、そうであってくれ。だが、後ろを向いていた俺は隙を突かれた形のなってめっちゃ痛かった。


「きゅんきゅーん!」


 マチェはめちゃくちゃ甘えた声を出している。頬擦りをして、俺に抱きつく腕に力を込めてくる。


「ご主人、優しいです! 大好きです! マチェは優しいご主人が大好きです! ずっとずっと一緒にいたいです!! きゅーん!」


 ぎゅーっとぎゅーっとマチェが抱きついてくる。


 ……うん。柔らかい……。


「って! そうじゃない! 暗黒面に飲まれるな、俺! マチェ、腕は首に回してくれ」


「わふ?」


「ぐぇ……」


 カエルを潰したような声が出た。


「マチェ、苦しい……。もう少し力を抜け!」


「きゅーん! ごめんなさい、ご主人!」


 とまぁ、こんなやりとりをしながらも夕焼け小焼けに見送られ帰宅。薬草の報酬を得て、一日目はこうして終了したのである。


 夜の問題、家のベッドについては、こう言っとく。


 俺は床の硬さを知った……。


 人型になったマチェを床に寝かす訳にも行かない。と言う訳で、ベッドの交換と言う名目でベッドをマチェと交換したのだ。


 マチェのベッド藁に布巻いてるだけだから、硬い。ほぼ床。今までこんなベッドで寝てたのか。すまんな、マチェ……。




 SSR引いたところで育成環境が整わないと持ち腐れになる。

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