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第1章 1

 異世界転生と言うものをご存知だろうか?


 死んで、気がついたら異世界に転生していましたー!


 とかそう言う流行りのやつ。


 何故、それを話したかと言うと俺もそうだからである。犬と散歩してたら、脇見運転の自動車が突っ込んでくると言うまさに王道パターン。


 もう物珍しくもなんともない展開である。


 あ、多分、ここで言っておかなければならないのは、俺の安否ではなく俺の元愛犬ことちくわ(♂:柴犬っぽい雑種)の安否だろう。


 大丈夫、無事です。


 俺の最期の意識は心配そうに俺の手を舐めているちくわの光景だったから。きっと、今頃ちくわは妹の世話になっているだろう。


 元世界についてはそんな感じでー。


 問題は今俺がいる異世界についてではなかろうか。


 異世界と聞けば、チート魔法で、とか、チートスキルで、とか、はたまた、地味技術がやべぇ技術だった、とかそう言うのを思い浮かべる。


 ここでこれを言うと言う事はそうなのである。



 ――ただし、例外がある。



 異世界転生がありふれたよくある事象になるのなら、チート無双が出来ない例外も存在する。


 俺——ルクスの人生と言うのは、平凡だったのである。




「いつもありがとうございますー」


 受付嬢は社交辞令スマイルを浮かべた。本日のダンジョンでの収穫は5000メリ。元の世界で大体一万円くらいに相当する。


「上等上等。マチェ、今日はいいものが食べれるぞ。今日は豪華食事だ!」


 俺は隣にいる相棒であるマチェの頭を撫でる。


「わん!」


 マチェはイヌだ。正しくはイッヌゥスェード族。通称イヌ。一応、魔族。だが、既に家畜化され、魔族としての攻撃性は薄れている。ダンジョンの探索の護衛として活躍している。ようは元狼、今犬みたいな種族である。ただし、魔力を持っているので、普通の犬に比べるとかなりデカイ。


 マチェも俺の胸くらいまであり、後ろ足で立ち上がった場合は俺の背丈を越える。これでもイヌ族リトリー種としては小柄な方らしい。長い黄金の毛並みと翠色の瞳を持つマチェは一見威圧感がある。だが、利口で、主人思いで愛情深い性格をしている。


 今も俺に話しかけられたのが嬉しいのか、千切れんばかりに尻尾を振っている。ちなみにその尻尾も二本ある。今この尻尾に当たると間違いなく青アザ、下手したら骨にヒビが入る程の威力があったりする。


 異世界ワンコ、強い。


「では、景気付けにステータスの更新など如何でしょうか? ダンジョンでの成長が丸わかりです」


 ギルドを出たばかりの俺をそんな胡散臭い勧誘が出迎えた。


 赤に近い茶髪。この世界では珍しい黒い瞳。称するなら好青年。和かな笑みを浮かべた修道服の青年だった。


「なんだ、ブラムか……」


 こいつはブラム・ストライト。街外れの小さな教会の司祭である。歳は俺よりも少し上くらい。


「なんだ、とはご挨拶ですね。傷つきました」


「嘘つけ」


「本当ですよ」


 心外だとばかりに、ブラムはふぅと短い息を吐いた。


「なので、ステータス更新しませんか?」


「やだよ」


 面倒な事にこの世界でのステータスカードは自動更新ではなく、教会での更新式だ。ステータスは神の力の具現なので、それをカードに反映する場合は教会の手を借りる必要がある、らしい。しかも、更新には教会への寄付と言う名の手数料が必要となる。面倒臭さに輪がかかっている。


 と言っても、レベルアップは自動で行われるし、ステータスは更新せずともちゃんと上がる。俺は面倒なのでもう五年くらいは行っていない。ぶっちゃけステータスは目安なので、更新はしなくても問題ない。


「私に今日の酒代を奢ると思って!」


 ステータス情報は個人情報になる。ステータスカードを見せなければ一般人には隠せる。だが、聖職者はそうではない。手数料に様々な色を付けなければステータスが簡単に漏洩する。


 つまり、ブラムはその金目当てで、ステータスが上がったであろうダンジョン帰りの冒険者に声をかけている事になる。ご丁寧な事に『出張! ステータス更新』ののぼり旗を掲げている。


「誰がするか……」


「本日の我が教会では通常のミサのみ。ミサの寄付金に手をつけると流石にバレるので……」


「神父が寄付金に手をつけようとすんな」


「ワインは神の血と言われております。ならば、それを我が身に取り入れる行為は信仰を高める行為と言っていいので!?」


「すみません、俺、地を這ううどん怪物教なんで、宗教に関してはわかりかねますな」


 某うどん県に密かに信仰される宗教(嘘)。


「血を……!? どこのマイナー宗教ですか!?

 この国だけでなく、世界全土で宗教と言えば、ほぼレティナ教は一つだと言うのに……。私だからいいですが、下手したら異端審問ですよ」


 ブラムは呆れたようにそう溜め息を吐いた。


「そのレティナ教も中でだいぶ枝分かれしてんじゃん。女神信仰派と神獣信仰派とか」


 宗教と言えば派閥。派閥と言えば宗教。みたいな感じに宗教関連はゴタゴタしている。一般人である俺からしたら、把握し切れないくらい派閥が分かれてる。


「まぁ、人は3人いれば、派閥ができますし。それに神話の解釈は人それぞれです」


 この神父、マジで大丈夫だろうか? 熱心な宗教家に刺されたりしない?


「あ、神父いた! ステータス更新をお願いしまーす!」


 と、そんな折に声がかかった。


 肩口に揃えた桃色の髪。不思議なグラデーションのかかった蒼い瞳の少女がいた。とても素朴だが、可愛らしい子だ。


「あれ? ルクスだ。今ルクスのステータスを更新中?」


「おや、メベルディアさん。お疲れ様です。まさか、ケチなルクスはまたステータス更新をサボっているんですよ」


「ちゃんと更新しないとダメだよ。ねぇ、マチェちゃん」


「わんわん」


 彼女はメベルディア。通称メベル。貴族ではないので、彼女に名字はない。


 メベルはマチェの頭を撫でた。マチェは嬉しそうに尻尾を振った。メベルとマチェは仲が良い。と言うか、メベルがイヌ好き。


「ほっとけ」


 メベルとは時折、一時的なパーティを組む仲だ。性別も違う。歳も三つ違う。そんなメベルと俺が仲がいいのかと言うと、メベルは俺と同じ転生者だ。たまたま入った食堂で、俺が醤油の味の恋しさを呟いていたら、メベルに気付かれたのがきっかけ。


「だって、更新しないとルクスのステータスどころか、ルクスとステータスリンクしてるマチェちゃんのステータスチェックできないし」


「普通にダンジョンに潜る分には問題ない」


「またまたー。ほら、マチェちゃんが”祝福”(ギフト)を受けたらどうすんの? “祝福”(ギフト)持ちになると登録し直ししなきゃじゃん。その時、ステータスカードが最新じゃないと登録できないっぽい。日頃から更新しとかないと、いざって時に全体更新は時間がかかるよ」


「ないない。マチェはもう二歳だぞ。“祝福”(ギフト)はないだろう」


「えー! 転生者の相棒なら、軽く常識なんて超えてくるでしょー。ねぇ、マチェちゃんも”祝福”(ギフト)を受けて、ルクスと結婚したいよねー」


「わふ? わんわん!!」


 マチェはメベルの言葉に強く反応して尻尾をこれ以上なくブンブンと振った。


「いや、結婚って、おい……」


「きゅーんきゅーん」


 マチェはテンションが上がったのか、ぐりぐりと俺に頭を押し付けてくる。甘えた声が可愛らしい。見た目がでかいのに、この愛くるしいギャップ。この世界でもイヌは可愛い。大分力が強いが……。


 マチェ、あんまり勢いつけて頭を擦り付けられると、頭突きと同じだ。大分威力あるぞ。


「……そうか。そうか。マチェも”祝福”(ギフト)欲しいか」


「わん!」


 とりあえず、俺はマチェの頭を撫でた。


「じゃあ、あげような」


「わん!」


 マチェにはきっと”祝福”(ギフト)は訪れない。それは承知だ。でも、俺はマチェが嬉しそうなので、いいかと思う。とりあえず、後で“祝福”(ギフト)と称しておやつでもあげようと思う。


「相変わらずお二人は謎の仲の良さですね。学園の魔力特待生と平凡な冒険者。繋がりは未だ不明です」


「ちょっとした縁だ」


 転生者繋がり。普通からすれば絶対わからない。


「ほほう……。ところで、メベルディアさん、更新はよろしいのですか?


「と、そうだ。神父、更新お願い!」


「承知ですよ。本当にメベルディアさんは常連さんですね。頭が上がりません」


 ブラムはニコニコと上機嫌にメベルから、ステータスカードを受け取った。


「お預かりします。相変わらず、凄くステータスですね……」


「でしょ! 私はみんなを救って決めてるから!」


 メベルは決意のこもった瞳でそう宣言した。


「素晴らしい! メベルディアさんはまさに伝説の救世主のようです!」


「ううん。それはまだ(・・)なの! いずれなるけど、まだ足らないの!」


 そう決意に燃え盛るメベルはまさに救世主だ。実力ともにそこはケチの付けようがない。


 だが、転生者の友である俺は知っている。


 メベルはただの転生者ではない。所謂、憑依転生と言われる転生者。『胸キュンメモリアル』の主人公である。


 タイトルだけで一歩引きそうななんとも頭の悪いタイトルである。『胸キュンメモリアル』はダンジョン探索系学園乙女ゲームである。


 主人公のステータスを上げながら、難攻不落の男共を落とすゲームである。このゲーム、一見ただの乙女ゲームであるが、ステータス上げの為にダンジョン攻略が必要になってくると言う。しかも、ステータスを一定に満たさないと即バッドエンドと言うえげつのない仕様である。


 何故、男の俺が覚えてるかと言うと、妹がやっていたゲームであり、レベル上げは俺も手伝っていた。なのでよく覚えてる。


 ちなみにそのゲームは学園が舞台なので、学園に通ってない俺は完全に無関係である。


 メベルはそれのハーレムエンドを狙っていると言う。ステータスをほぼMAXにしないと辿りつけない隠しルート。各ルートだと選ばれなかった攻略キャラに何かしらの悲劇が見舞われる、らしい。


 レベル上げはしていたが、俺はシナリオにはノータッチなので知らない。とにかく、みんなを救うと決めたメベルはせっせとレベル上げをしているのである。


 まさに転生者の鑑である。


 ちなみに俺が時折メベルとパーティを組むのは、俺が妹のレベル上げを手伝った関係上、ダンジョンの敵の弱点を覚えているからだ。ステータスがどんなに強くても、的確に弱点を突かないと勝てない敵がダンジョンには存在している。


 ブラムはメベルから受け取ったカードを両手で包み、瞳を閉じた。


「女神レティナと神獣の名の下、我が祈りを聞き届け給え——」


 そう唱えた瞬間、カードが眩い光を放った。光の中に幾多の魔法陣が浮かび上がり、一瞬で消えた。


「はい。無事に終わりました。すごいですね。またステータスが上がってますよ」


 あっという間の作業。誰にでも出来そうだが、聖職者しか出来ないのだ。厳密には聖職者固有のスキルが必要になる。


「やった!」


 ブラムからステータスカードを受け取るとメベルは花のように笑った。


「……上がってるけど、やっぱSTRとVITの上がりが弱いわ。女の子だから仕方ないけど、もうちょっとほしいわ。でも、後もう少しで、ロベルト様の攻略に手が届くわね」


 言ってる事はえげつないけどな。レベルをあげて、攻略キャラを物理で殴れ、みたいな。全力で聞かない事に——、


「ルクス、見て! ステータスオールC超えした!」


 ——しようかと、思ったのに!


 メベルが見せてきたステータスカードはAGIとINTがSになっていた。他も軒並みステータスがいい。


 一応言っておくが、ステータスの平均は項目ごとに違うとは言え、だいたいの平均値はDである。高くてもB。


 結論、メベルやばい。


「あんまりステータスカードは人に見せない方がいいぞ。悪用されたり、妙な組織の勧誘を受けるぞ」


 と、歳上の俺は大人ぶるが、内心動揺しまくりだった。5年前の俺のステータス平均はEである。ステータスの最低値はF。


 同じ転生者なのに、この格差! 泣きてぇ……!




 その後、落ち込んだ俺はマチェとちょっと遠回りの散歩をして帰った。すぐに帰る気にはなれなかった。そして、豪華な食事と言う当初の予定などすっかり忘れていたのである。


 そして、次の日に俺は、



「ご主人、ケッコンしてほしいです!」



 などと言う全裸少女に起こされた。



 SSR二枚抜き的な展開は唐突に訪れ——たところで、どうしたらいいのやら?

まだ機能に慣れてないのです

お見苦しいところがあったら、すみません

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