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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
革新の日
9/50

トーリの街

僕と柚子ちゃんはトーリの街の門が見えるところまでやって来た。まだ、この世界に転移してきた日の夕方前だ。日は傾いているが空がまだ赤くない。

途中1回食事の休憩をしただけで変わったことはなかった。無さすぎだ。魔物たちは僕を見ると逃げ出すのだ。柚子ちゃんに「人間虫除けみたいですね。」と言われてしまった。多少戦闘慣れしたかったのに。

食事だが、始めは肉を出してみた。そしたら何の肉か分からない肉が一抱えも出てきたので、すぐに片付けた。野菜も嫌な予感しかしないので止めた。だからまたパンと水だった。



「それにしてもすごいな…」

「はい、ファンタジーといいますか、中世ヨーロッパといいますか…」

マップで確認したときに街の広さにびっくりしたが、今驚いているのは門と壁だ。門は木で出来ていて、横幅は5メートルくらいかな。高さはそれより高い、長方形だ。門は開いたままになっており板が落ちて門を塞ぐスタイルの様で門の大きさと同じ大きさの木の板がその上部に見える。門の横には門兵の待機所だろうか、駅の改札の駅員さんがいるところのような物が設置されている。そしてその横からはずっと土の壁。ここからでは終わりが見えない。門の横には頭の部分のない銀色の全身甲冑を来て槍を持った大きな男の人が立っている。門兵だろう。顔立ちは彫りが深く、肌は白というより南米人みたいな感じだ。

「門兵さんに話し掛けてみようか。」

「そうですね。」

二人で門に向かって歩く。

「エルフ二人とは珍しいな。」

近くまで来ると門兵さんの方から話し掛けてきた。ねむさんがエルフはレアだと言っていたもんな。

「ここ、通ってもいいですか?」

「身分証明書か許可証はあるか?」

「いえ、ないです。」

「では、1人2000ジェニーだ。」

ジェニーはお金の単位だ。『エネレボ』での単位と同じだ。

「ちょっと待ってください。」

僕は『MENU』を開く。金額は表示されているけどどうやって出すんだろう。事前に試しておけばよかったな。僕は金額の部分をタップしてみた。すると空白の横長の長方形が出てきた。ん?なにこれ?僕はそれに触れてみる。するとすっと黒字で線が書けた。出したい金額を書けってことか?僕は5000と書いてみる。すると銀貨が5枚手の中に落ちてきた。

「き、きさま、銀貨をどこから出した!」

門兵さんに警戒された。

「いや、魔法ですよ、魔法。」

「ま、魔法か。そうか。」

納得してくれたみたい。これでいいんだ?まあいいか。僕は門兵さんに銀貨5枚を渡した。

「ぬ?1枚多いぞ?」

「チップですよチップ。いつもご苦労様です。」

「そうか。悪いな。」

門兵さんは銀貨をごそごそと腰に下げた袋に入れた。

「お聞きしたいんですけど?」

「ん?なんだ?」

「身分証明書はどこに行ったら作れますか?」

「領主館で税金を払えば発行してもらえるぞ。」

「そうですか。冒険者ギルドや冒険者支援所のようなものはありますか?」

「ん?冒険者?なんだそれは。」

冒険者はこの世界にはいないのか。ちょっと残念。

「いえ、いいです。ありがとうございました。」

僕は門を潜る。柚子ちゃんは門兵さんと僕を見たあと、ちょこちょこと僕のあとに付いてきた。



「エルさん、お金。私も払いますよ。」

「いいよ。僕といるときはお金の心配しなくていいよ。」

だって僕お金持ちになったっぽい。大きな屋敷とか建てれるんじゃなかろうか。冒険者ギルドでも作るか?

「そんなぁ、悪いですよ。」

「いいのいいの。」

「エルさんなんか手慣れてましたね。かっこ良かったです。海外旅行とかよく行っていたり?」

「海外旅行か、1回行ったことあるな。飛行機じゃなく船でだったけど。」

「高所恐怖症ですものね…」

飛行機乗れなくったって死なないやい。

「そんなことよりさ、気付いた?」

「ん?何がです?」

「門兵さんの口の動きと耳に届く言葉が一致しない。」

「!そんなこと見てたんですか?」

「うん。『MENU』に自動翻訳機の機能もあると予測してみた。」

「なるほど。エルさんってやっぱりすごいですね。」

「すごいか?普通じゃない?」

「いや、普通じゃないですよ…」



門の中に入るとそこは街だった。いや、当たり前だけど、『エネレボ』から考えたら普通じゃない。門の目の前から大きな土の道が真っ直ぐにのびその両側に木の家やレンガの家が建ち並ぶ。メインストリートに面したところは2階建ての家が多い。看板らしきものが玄関先に掛かっているので商店とか宿屋だろう。裏の方は1階の家が多そうだ。

「この中からギルド会館探すの大変そうですね。」

「だね。」

「私、宿屋取りたいんですけど。」

「ギルド会館に泊まらないの?」

「うちのギルド、私以外みんな男なんですよ。その中で泊まるのはさすがにちょっと…」

ああ、確かに。柚子ちゃんの危機管理もしっかりしているようで安心した。

「じゃあ、宿屋探そう。」

「はい!」

二人でメインストリートを歩き出した。



メインストリートを歩きながら宿屋を探している。街行く人々はヒューマンばかりだ。獣人見たかった…おのぼりさんが如くキョロキョロしながら歩いた。ねむさんが言っていた通り、看板の文字が全く読めない。

「あ、あれ、宿屋っぽくないですか?」

柚子ちゃんが1件の家を指差す。周りの家より横幅が広い。

「宿屋…ぽいかな…」

「絶対そうですよ。行ってみましょ。」

「ああ。」

こういうのは女の子の方が得意かもね。

僕たちは玄関の木の扉を開ける。カランカランと鐘の音が鳴る。目の前はカウンターになっていて、その横に上へ登る階段。その奥はテーブルと椅子が並べられている。何人か食事をしている。

「いらっしゃい。まあ、エルフのお客さんとは珍しいね。」

カウンターに恰幅の良い人の良さそうなおばちゃんが現れた。

「ここって泊まれる?」

「宿屋だから泊まれるよ。」

柚子ちゃんの勘当たったようだ。僕はちょっとレストランじゃないかと思ってしまった。

「部屋は空いているかな?」

「空いてるよ。どんな部屋にする?」

「そうだな。シングルを2」

2つと言いかけたところで柚子ちゃんが僕のローブをぐっと引っ張った。

「ん?どうした?」

「私、1人で寝るの怖いです。」

その言葉を聞いてごくりと唾を飲み込んでしまった。

「そ、そうか。では、ダブルの部屋1つで。」

「あいよ。」

おばちゃんは僕と柚子ちゃんの顔を交互に見て微笑ましそうにしている。勝手に想像してくれ。

「期間は?」

「そうだな。とりあえず1週間で。」

「食事は?」

「今から食べられるか?」

「出せるよ。」

「では、今日と明日の朝は二人分、それ以降は1人分朝晩頼む。風呂はないか。水浴びは出来ないか?」

「風呂はないね。裏庭に井戸があるし、部屋にお湯の桶を持っていくことも出来るよ。」

「では、桶を頼む。今日は2つ、明日以降はこの子が帰ったら1つ持っていってやってくれ。」

「はいよ。」

「タオルとかあるか?」

「あるよ。」

「それも人数分。いくらだ?」

「ちょっと待ってね。」

おばちゃんは紙に何か書いている。計算していのだろう。紙はパルプ紙のようだ。ペンはインクを付ける羽ペンだ。

「えっと、35000ジェニーね。」

僕は『MENU』から銀貨35枚を取り出して渡す。多少物価の違いはあるが、1ジェニーが1円の計算で良さそうだ。僕は『MENU』の11桁の自分の所持金を見てごくりと唾を飲んだ。



「はい、鍵ね。部屋は階段登って1番奥だから。桶はすぐ持っていくね。」

おばちゃんから鍵を受け取り、階段で2階に上がる。

「エルさん…お金…」

柚子ちゃんが言う。んー。僕の所持金のこと話しとくかな。

鍵を外して部屋に入る。部屋は10畳くらいの部屋に木の窓が1つ。ベッドが少し離れて2つ並べられていて、スペースに小さな木のテーブルと椅子が2つ。

「意外に普通な。」

「普通ですね。」

少ししたらヒューマンの少年二人が桶とタオルを持ってきてくれた。チップに銅貨1枚ずつ渡す。たぶん10円くらい。それでも嬉しそうな顔をしていた。

相手が身体を拭いているあいだはお互い部屋の外に出た。そのあとは1階に降りて食事。二人向かい合ってこの世界で初めてまともな食事を取った。パンにスープに肉料理にサラダ。この世界の野菜は地球とほぼ同じっぽい。全体的に薄味で食べれないこともないが特別美味しいわけでもない味であった。それよりも木のスプーンでそれらを全部食べるのが大変だった。



部屋に戻り二人で椅子に腰掛けた。外は暗い、今日の活動はここまでだな。部屋の明かりはランプがひとつに窓からの月明かりのみ。

「柚子ちゃん、今日はここまでにして明日ギルド会館探そう。」

「はい、大和さんに連絡しておきます。」

柚子ちゃんはベッドへ行き通話を始めた。

「はい、明日には付けると思います。…はい、はい、門まで迎えにきてくれるんですか?時間は…3の鐘?街では鐘が鳴るんですね?鐘と鐘との間はだいたい2時間くらい…はい、わかりました。お願いします。…はい、はい、はい、わかりました。それでは失礼します。」

柚子ちゃんは連絡を終えて椅子に戻ってくる。

「明日、3回目の鐘が鳴るころに門に迎えにきてくれるそうです。」

「うん、聞こえてた。明日、買い物しないといけないね。」

「そうですね。服これだけですもんね。下着の替えもほしいかな。」

「だね。」

「それで、エルさん、お金なんですけど…」

「うん、それね。柚子ちゃんだけには僕の所持金教えておくね。」

「え?は、はい?」

「僕の所持金ね、200億ジェニーくらいある。」

「!?に、200億ですか!?」

「だからさ、柚子ちゃんは気にしなくていいの。」

「そ、それでも私、お金出してもらって平気な顔するような女になりたくないんです。」

「んー。そうか。柚子ちゃん、今所持金いくらくらい?」

「よ、40万くらいです…」

40万か…それじゃあ、不安だなぁ。僕は『MENU』を操作してテーブルの上にお金を出す。チャリチャリチャリと音を立てて金貨が落ちてくる。この世界の最大貨幣は金貨かめんどうくさいな。柚子ちゃんは積み上がる金貨の山を見て「え?え?え?」と驚いた顔をしている。やがて金貨は止まる。

「これ1億ジェニー。これ上げる…って言ったら嫌がりそうだから貸すよ。」

「え?そんなに?」

「そんなになことないよ。ここは右も左も分からない世界だ。どんな場面でどんなタイミングで金が物をいうか分からない。だからお願いだから持っていてほしい。」

「そ、そんなこと言われたら受け取るしかないじゃないですか。」

「そう思って言った。」

「エルさん、性格悪いですよ?」

「うん、自覚ある。」

「嘘です。素敵すぎます。」

柚子ちゃんは両手を胸の前で組み、目を潤ませた。そして意を決したのか、金貨を『MENU』に片付けた。

「わ、わ、わ、私の所持金が見たことない額に…」

「うんうん、善きかな善きかな。」

柚子ちゃんのあたふたする姿もかわいすぎだ。



「あ、見てください、月が3つもありますよ。」

「本当だ。この惑星の衛星が3つってことかな?」

「やっぱりここは地球じゃないんですね。」

「そうみたいだな。」

「今日1日でいろいろなことがありましたね。」

「あったな。ありすぎだ。」

「この世界に転移したとき、近くにいたのがエルさんで本当に良かったです。」

「それは僕もだよ。」

「えへへ、照れますね。ありがとうございます。」

「こちらこそだ。」

「ここまで連れて来てくれたこともありがとうございます。」

「うん。無事にたどり着けてよかった。」

「はい。」

「そろそろ寝ようか。」

「そうですね。今日は疲れました。」

二人でそれぞれのベッドに潜る。

「おやすみなさい。」

「うん、おやすみ。」

夜は更けてゆく。



まどろんでいるとベッドの横に誰かが立つ気配がした。瞼を開ける。柚子ちゃんだ。

「眠れません。エルさんと一緒のベッドに入ってもいいですか?」

「え?」

柚子ちゃんがちゃんと服を着ていることを確かめる。ふぅ、良かった。

「だめ?ですか?」

「う、うん。いいよ。」

「ありがとうございます。」

柚子ちゃんはごそごそ潜り込んできたので身体を動かしてスペースを空ける。

「腕枕してもらってもいいですか?」

「う、うん、いいよ。」

僕は右腕を横に伸ばすと柚子ちゃんの頭がちょこんとその上に乗った。そのまま静かな時間が流れる。僕は腕枕した方の手で柚子ちゃんの黒髪をゆっくりと優しく何度も撫でる。すると柚子ちゃんの寝息が聞こえてきたので僕も瞼を閉じ眠ることにしたのであった。



窓からの日の光を感じて目を開ける。この世界で2回目の朝だ。僕の腕の中で「ううう…」という可愛らしい声が聞こえる。柚子ちゃんも日の光を感じ目覚めようとしているようだ。

「おはよ、柚子ちゃん。」

「ふぁー、んんん、おはようございます…」

かわいい欠伸をしながら柚子ちゃんがゆっくりと覚醒していく。

「エルさん?」

「ん?何?」

柚子ちゃんを見るとじとっとした目で僕を見ていた。

「私に何もしなかったんですか?」

「しないよ。当たり前じゃないか。」

「私、魅力ないですか?」

「え?そんなことないよ。凄く魅力的だよ?」

柚子ちゃんのジト目は更に強まり、あの一言が僕に向かって投げ掛けられる。

「意気地無し。」

僕はどうやら間違えてしまったようだ。

これでこの章は終了です。

ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。

ブックマークやコメントなんかも頂けると更に頑張れると思いますので、出来ましたらよろしくお願いします。

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