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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
革新の日
7/50

ギルマスとの通話

パンを食べ水も飲んだのでフレンドたちと連絡を取ることにした。まずはずんちゃんかなと思いながら『MENU』を押そうとしたとき、トゥルルルル、トゥルルルルと頭の中で音が鳴り『MENU』が勝手に開きその上に受話器のマークが左右に踊る。受話器のマークの下には『ねむ』と出ていた。『緋花』のギルマス『ねむ』さんから通信のようだ。こんなふうになるんだな。ちなみにねむさんは男である。『エネレボ』ではエルフのアーチャーであった。

「あ、ねむさんから通信だ。」

柚子ちゃんに伝える。

「じゃあ私も『雪中花』のギルマスに連絡取ってみます。」

僕が頷くと柚子ちゃんは離れる。『雪中花』は柚子ちゃんが所属するギルドである。

僕は踊る受話器のマークを押してみたのであった。



「エルさん?聞こえる?ねむやで。」

頭の中に男性の声が響く。ねむさんだろう。ねむさん関西弁を使っているが、別に関西人ではない。確か東北だと聞いた気がする。

「はい。聞こえますよ、ねむさん。」

「ああ、良かった。エル=グランドになっとるさかいな、みんなざわざわしとるで。」

「あー、そうですよね。」

「わしから説明しとくで?」

「はい、お願いします。みんなというのはみんないるんですか?どこにいるんですか?」

「ラズベルトの街のギルド会館…みたいなところや。今43人おるわ。」

43人…『緋花』の人数は50人だった。制限人数が50人だった。ちなみに『CRAY』はギルドのレベルが『緋花』より高いので100人いた。

「誰がいないんです?」

「ああ、落ち着いて聞きや。エルさんはもちろんやけど、あとはりんりんがレベルの低い子ら連れて遠征に出てたのと、はれさんと、あとはずんちゃんや。」

最後の名前を聞いて目の前が暗くなるのを感じた。毒きのこの遺体が頭に浮かび動悸が早くなる。

「ずんちゃん…」

「やっぱ、そういう反応になるわな。君ら仲良しやもんな。でも大丈夫や。連絡取れたわ。」

「ほ、本当ですか。」

「ああ、ほんまほんま。『チェカ』の街にいるみたいや。『エデン』の松風くんやったかな。彼といるみたいやで。」

「ああ、松ちゃんか。良かった…」

松ちゃんがギルマスを勤める『エデン』のギルド会館が『チェカ』にあった。『エデン』は松ちゃんとソルトさんの2人だけのギルドだ。松ちゃんという人は僕に柚子ちゃんを紹介してくれた人でもある。僕もよく『チェカ』に遊びに行っていた。

「なんや、ヤキモチ焼かんのかい。りんりんは焼いとったで。それのことを聞いてミサキが怒っとる。ほんま、ネトゲに恋愛持ち込まんといてほしいわ。」

「まあ、僕も今、柚子ちゃんと二人ですからね。ヤキモチ焼く資格なんてないですよ。松ちゃんもいいヤツですし。」

「ああ、柚子ちゃんか。やっぱかわいいん?」

「はい、めっちゃかわいいです。」

「はぁ、せやろな。なんかかわいいっぽかったもん、あの子。」

ちらりと柚子ちゃんの方を見ると少し離れたところで向こうを向いて誰かと話しているようだ。少し見える頬が微かに赤くなった気がする。聞こえちゃったか?

「この感じだと、街の転移魔方陣も使えない感じですか?」

「そやねん。達磨さんに見てきてもらったんやけどな。あるにはあったけど、光ってなくて上に乗っても反応なしってことや。」

『エネレボ』はマップが広大だったので、街街に転移魔方陣があり、街同士を行き来することが出来た。それが使えないとなると移動が大変だ。

「『チェカ』ですか。遠いですね。」

「ああ、ゲームでも下道で行ったら1時間くらい掛かったんや。何日かかるか分からへんで。」

「ん?あれ?ねむさん街から出たんですか?」

「いや、出てへんで。」

「では、どうして距離感の違い分かるんですか?」

「そら分かるやろ、この街見たら。」

「街ですか?」

「ああ、街や。『エネレボ』のときの街って真ん中に横向きで大きい道がどんってあって縦に小さい道が3本どんどんどんってあって、その周りに建物がどんどんどんってある感じやったやろ?」

どんって言葉が多いな…

「ええ、そうですね。」

「でも、ここはほんまに街やで。見渡す限り家ばっかりや。遠くにでっかい壁が見えるわ。あれが外と街の境目やろ。」

「まじですか…」

これは予想していなかった。リーセの村がゲームのままだったからだ。

「ギルド会館はどんなです?」

「あー、ただの5階建てのガラス窓のない廃ビルやな。高さ的にはここらへんで1番高いわ。」

「では、人は?この世界の人間っているんですか?」

「ああ、おるで。まだ会ったことないんかいな。」

「ないですね。どんなです?」

「あー、ヒューマンがほとんどや。獣人?半獣っていうのかな。そんなんもちらほらいるで。エルフとかダークエルフとかドワーフはレアっぽいわ。」

「じゅ、獣人ですか…」

「ああ、獣人や。気になるか?」

「気になりますね。どんなです?」

「どんなって、そりゃボンキュボンやろ。常識やん。」

「ボンキュボンですか…」

ごくりと唾を飲み込んでしまった。痛い視線を感じたので柚子ちゃんを見ると柚子ちゃんは通信を終えた様でじとっとした目で僕を睨んでいた。さっと目を反らせた。

「そ、それで、ギルメンはどんなです?男で女のキャラ使っていた人とかはどうなってます?」

「ああ、それな。『あか』が中身女やのに男のヒューマンやったやろ?」

あかさんっていうのはねむさんと仲の良いギルメンだ。リアルでも友達だと言っていた。

「あれは女のヒューマンになっとるわ。美人かどうかって言われたら微妙やな。いてっ。」

あかさんに殴られたんだろうな。

「他のも全部中身の性別に引っ張られとるな。」

「なるほど。ドワーフは?ドワーフの男ってどんなです?」

ドワーフは男はがっちりした背の低い髭もじゃだったのに対し、女はかわいらしい中学生くらいの女の子という風貌だった。なので女のドワーフはその道の人たちから絶大な人気を誇っていた。対して男のドワーフは人気がなかった。僕でもあまり見たことがない。そのかわいらしい女の子がごついおっさんに変わってるかと思うと…

「ああ、それな。まあ、本人らには言わん約束や。わしはカッコいいと思うけどな。」

「はれさんなんか、しゃべりまでかわいかったですもんね。どんななってるんですかね。」

「はれさんもこっちに向かってるところや。会うのが楽しみやわ。」

「『ドワ子』とかいうドワーフの女キャラ限定のギルドありましたよね。あれどうなってるんですかね?」

「ごっついおっさんばっかりになってるんとちがう?うわ、想像してもた。気持ち悪っ。」

僕も想像して嫌な汗をかいてしまった。

「それでかなり脱線しましたけど、なんの話でしたっけ?」

「なんの話やっけ?ああ、ずんちゃんや、ずんちゃん。」

「ああ、そうでした。」

「ずんちゃんな『チェカ』をちょっと観光したら松風くんとソルトちゃんと3人でこっち向かうって言ってたわ。」

「なるほど。それなら安心ですね。」

ソルトさんは低レベルの女の子だったけど、松ちゃんは高レベルだった。ずんちゃんも高レベルだし、なんとかなるだろう。『CRAY』と『祭り』とベルゼブブには気をつけるようにあとで連絡しよう。

「ねむさん。『CRAY』と『祭り』とあとベルゼブブってやつが来てるんで気をつけてください。特にベルゼブブは絶対に戦ってはいけません。」

「ベルゼブブってあのベルゼブブか?あんなん来てんのか。了解や。『CRAY』は分かるけど、『祭り』もか?」

「ええ、ベルゼブブと行動を共にするみたいです。」

「なるほどな。それで、エルさん復活のことなんやけど…」

「出来ませんよ。」

「出来んのか。なんで知ったかは聞かんとくわ。復活スポット無くなってるって報告受けたからそうかと思っとったけど…ここはゲームの中やないってことやな。」

「はい。現実です。」

「そうか…」

「これから精神的に不安定になる人が出てくると思いますのでサポートお願いします。」

「ああ、任せとき。それがギルマスの仕事や。」

やっぱり頼もしいな。

「それで?これからどうしたらええと思う?りんりんはラズベルトの領主押さえた方がええんちゃうか、ゆうとったけども。」

「領主…それもありですけど、この世界の人たちとの戦力差が分かりません。まずは情報収集でしょうか?言葉は通じるんですか?」

「うん、通じる通じる。文字はぜんぜん読めへんけどな。」

「あとは、戦闘訓練やった方がいいと思います。出来そうなところありますか?」

「街中では無理やな。希望者連れて外出てみるか。」

「そうですね。それがいいと思います。」

「で、エルさん今どこ?どれくらいで帰ってこれる?」

「今、リーセの村を出たところですね。途中『トーリ』の街に寄りたいので、明日か明後日でしょうか。」

こことラズベルトの街の間にトーリの街がある。ラズベルトとトーリは隣なので数時間で着くだろう。

「了解や。気をつけてな。頭脳担当のりんりんとエルさんがいないとうちはあかんわ。」

「マサさんとかいるじゃないですか。」

「いやいや、りんりんとエルさんに比べたら鼻くそみたいなもんやで。いてっ。」

今度はマサさんに殴られたんだろう。楽しそうだな。りんさんは賢いからなぁ。航空自衛隊にいたことがあるらしいし、こういう状況では頼りになりそうだ。僕は経験が豊富だっただけ。

「るきたちもラズベルトの街に向かうように言っていいですか?」

「お、あの第1世代の子らやな。ええよええよ。頼もしいわ。」

「あと、交渉次第ですけど、『雪中花』も。」

「うん、大丈夫や。こんなときやからな。助け合わんとな。」

「ありがとうございます。ラズベルトにはうちの他にもうひとつギルドありましたよね?」

「ああ、『UDON』な。」

「あそことも合流するか、連絡取り合った方がいいですね。」

「了解。マサさんに交渉に行ってもらうわ。」

僕はねむさんとの長い通話を終えたのであった。



通話を終えると柚子ちゃんがジト目のまま待っていた。

「エルさん?そんなに獣人の女性に興味があるんですか?」

「いや、違うよ。女性に限ってじゃないよ。獣人って見たことないじゃん。だからどんな感じかと思ってさ。」

「エルさん?視線が合いませんよ?やましいことがないなら私の目を見てください。」

「やましいこと?そんなことないないない。見る、そっち見るから、そんな睨まないで。」

怒った感じの柚子ちゃんは少し怖いけど、やっぱりすごくかわいかった。

「それで?『雪中花』のギルマス、『大和』さんだっけ。大和さんはなんて?」

「はい。トーリの街で待ってるって言ってました。」

「そうかそうか。みんな無事だって?」

「はい。私以外はみんな揃ってるみたいです。それで、エルさんがさっき言ってたうちと『緋花』さんとの合流なんですけど…」

「うん。ねむさんから許可貰ったよ。良かったよね?」

「私は大賛成なんですけど、大和さんに話したら渋られました。」

「渋る?なんで?」

「うちは大和さん以外低レベルだったじゃないですか。だから、『緋花』さんみたいな大きなギルドと合流したら、みんな萎縮しちゃうんじゃないかって。」

「萎縮かぁ。でも、そんなこと言ってる場合じゃないよね?」

「そうなんですよね。だから、会って説得してみます。」

「そうだね。僕も手伝うよ。」

今は出来るだけ集まって助け合う必要があるように僕には思える。柚子ちゃんもそう思っているのだろう。でも、ネトゲやってる人はコミュ障の人が多いのかもしれない。特に小さなギルドの人たちは。会ったら説得出来るさ。僕はそう楽観していた。

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