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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
革新の日
6/50

柚子の強さ

柚子ちゃんと合流した僕は村の入り口に向かって歩く。

「エルさん?何かありました?」

「ああ、うん。やっぱり復活スポットはなかったよ。」

「そうですか…」

それで会話途切れ無言になる。

「エルさん?何かありましたよね?エルさんの嗚咽も聞こえてきましたし。」

「あ、いや、復活スポットがなくてショックだったのかなぁ、ははは。」

「エルさん?」

「なんでもない。なんでもないよ。」

僕は少し足早になる。

「エルさん!」

柚子ちゃんは走って僕の正面まで行き僕を両手で押し留めた。

「なんでもないなら、どうしてそんなに辛そうなんですか!」

柚子ちゃんは真っ直ぐ僕の目を見て語気を強める。うう、でもこの話は…僕は柚子ちゃんから目を反らす。

「エルさん。私、エルさんが守ってくれようとする感じ、すごく好きです。安心します。でもですね、守るのと甘やかすのは違うと思うんです。この明らかに地球上とは違う世界でこれから生活していかなければならないわけじゃないですか。だから、甘やかすのはダメです。私も現実を見ていかないと。エルさんが辛かったら、私も辛くなりたいんです。だから、何があったのか教えてください。」

そうだよな、柚子ちゃんの言う通りだ。この世界に来て初っぱなのクーガーは怖かったけど、それ以降はラノベの物語の中にいるような気がしてどこか浮わついていた。でも、きっと僕やベルゼブブみたいな人間ばかりではないだろう。いきなり強制的にこんな世界に放り込まれ、家族や友人と離ればなれになり、みんな辛いはずだ。でも柚子ちゃんは今までそんな素振りを見せず前向きに行動していた。この子は僕なんかよりずっと心は強いんだ。

「ごめん。話すよ。柚子ちゃんには敵わないな。」

「えへへ。柚子は強い子なのです。」

柚子ちゃんは胸を張り腰に両手を当ててどや顔をする。そのあと目が合って、二人で笑い合ったのであった。



村の木の門を潜って木の階段の1番上の段に二人で腰かけて柚子ちゃんに教会でのことを説明した。

「うへー、首なし死体ですか。さっきあんなこと言いましたけど、見なくて良かったかもです。」

なんじゃそりゃ。でも冗談だろう。

「それよりお腹空きません?そろそろお昼じゃないですか?」

確かにお腹空いた。僕は太陽の位置を確認しようと額に手をかざして空を見上げる。

「うわっ!」

「どうしたんですか?」

「空見てみ、空。」

柚子ちゃんも空を見上げる。

「ん?何もないですよ?」

「あっちあっち、かなり遠くだよ。」

僕はそれを指差す。

「あー、ありました!わかりました。わぁ、すごい、島が浮かんでる。」

「な。正しくファンタジーだな。」

「あんなの『エネレボ』にありましたっけ?」

「新設サーバーではまだ、実装されてなかったな。ここが『エネレボ』のままだとすると、天空城シャンベルか空中遺跡バールタールだな。」

「ほぇー、行ってみたいですねー。」

「へ、へぇ、い、行ってみたいか…」

「ん?何故かエルさんがキョドり出しましたね。もしかしてエルさん、高所恐怖症ですか?」

「高所恐怖症じゃないやい。高い所がちょっと怖いだけ。」

「それを高所恐怖症って言うんですよ…」

柚子ちゃんにジト目で見られた。

「そ、そんなことよりお腹だなお腹。お、太陽はまだ真上じゃないね。でも、お腹空いたから何か食べたいね。」

「話反らしましたね。まあいいですけど。私たちって何か食糧持ってましたっけ?」

「魔物を狩って食べるっていうのは何か違う気がするね。」

「ですね。『エネレボ』で何か食べるようなことありましたっけ?」

「んー。」

顎に手を置き考える。

「あ、あった。ギルド会館でパンと肉と野菜を納めれば食事が出てた。」

「ああ、ありましたありました。」

僕は『MENU』を開き、アイテム欄をスクールする。

「考えてみたらさ。」

「なんですか?」

「この『MENU』、無限収納と正確な地図と通信機能が付いてるんだよね。」

「そうですね。」

「ゲームから考えるとショボく思ったけど、これ、普通に考えたら、すごい機能だよなぁ。」

「確かに。鞄も携帯もナビもいらないんですもんね。」

普通に地球上の生活でこんなのあったら便利すぎる。

「あ、あったあった。」

僕はアイテム欄のパンをタップしてみる。すると手の中にぽすっとパンが落ちてきた。コッペパン…じゃないな。フランスパンの短いやつだな。僕はパンを半分ちぎる。うん、パンだ。

「はい。」

ちぎった半分を柚子ちゃんに差し出す。

「いいんですか?」

「いや、僕、あんなん見たばかりだからあんまり食欲がないんだ。」

「なるほど。では遠慮なく。」

柚子ちゃんはパンを受け取る。僕はパンをかじって咀嚼する。柚子は1口サイズにちぎって口に放り込んだ。

「パンだな。」

「パンですね。」

特に味付けもない普通のパンだった。

「なんか口の中がパサパサしますね。」

「だね。」

「飲み物ってないですよね。」

「ないねー。」

「あ、回復薬!とか?」

「そういえば柚子ちゃん、最初のとき回復薬出してたよね?」

「はい。」

「あれ、どうしたの?」

「飲みましたよ?」

「の、飲んだの?どうだった?」

「んー、草の味?青汁みたいな?不味かったです。」

ニッコリ微笑む柚子ちゃん。この子はやっぱり、僕より強いな…

「それはあんまり飲みたくないかなぁ。」

「そうですか?私はなんとかいけましたよ。飲んだあとなんか元気になった気がしましたし。」

「まぁ、回復薬だしね。」

柚子ちゃんはパンを食べ終わったあと、『MENU』を開いて回復薬を取り出し、ビンの蓋を開けてグビグビ飲み出した。

「ぷはー。慣れれば美味しく感じそうです。エルさんも飲みます?」

「いや、僕はいいよ。」

青汁とか苦手だったんだよな。

「それでその空いたビンはどうするの?」

「もちろんアイテム欄に回収です。」

空きビンは柚子ちゃんの手の中から消えた。

「ラノベとかだとガラスのない世界でこういうのが高く売れるって話ありますもんね。」

本当にこの子は逞しいなぁ。

僕は水分を取らず、唾液でパンを流し込んだのであった。



木の階段を降り村の外に出た。口の中がパサパサする。何か飲み物飲みたい。スキルいや、魔法で水を生み出せないだろうか?僕は頭の中で水をイメージし杖を掲げる。

「ウォーター!」

何も起きない。もう1度…

「水よ!」

何も起きない…

「エルさんエルさん?急にどうしたんです?変な物でも食べました?」

パンしか食べてないよ!恥ずかしい…

「いやね、この世界のスキルの発動って、頭で事象を思い描いて装填、スキル名を言葉にしてそれを発射って感じじゃない?」

「んー。なんか難しい話です…ええ、なんとなくそんな感じ?ですかね。」

「だからさ、その要領で『エネレボ』のスキルにはなかった魔法も使えるんじゃないかと思って。」

「はぁ、エルさんすごいです。なるほどです。私もやってみたいです。」

まあ、水を飲みたい一心で考えたんだけどね。

「みずみずみず…」

柚子ちゃんは目を瞑り両手で杖を握りしめてぶつぶつ言い出した。あれで想像してるのか?柚子ちゃんは杖を掲げる。

「水さん来て来て!」

するとなんということでしょう。杖の先からジョウロの先から出るがごとく、水が曲線を描いたのだ。呆気に取られる。

「エルさん!出来ました!すごいすごい!」

「ああ、すごいね、すごすぎる…」

「エルさん!ほら、早く。飲んで飲んで!」

柚子ちゃんは水を僕の方に向けてくれたので、ごしごしっと手を洗い両手で掬って口を近付け飲ませてもらった。普通に美味しい水だった。

「柚子ちゃん、すごいよ。」

「そうですか?てへへ。」

「練習していろんなことが出来るようになれば、僕なんかよりすごい人になるんじゃないかな。」

「エルさんよりすごい人ですか?想像出来ません。」

「この世界の魔法使いとか探してみて、教えてもらうのもいいかもしれない。」

「あ、それ楽しそうですね。一緒に探しましょ。」

二人で今後の夢を膨らませたのであった。

そのあと、柚子ちゃんの目を盗んで練習してみたが出来なかったのは内緒である。



ーーーーーーー

とあるヒューマンとダークエルフの会話

「それで?あれはどう?強かった?」

「ふふふ、強かったですよ、当たり前じゃないですか。」

「さすが2500オーバーって感じ?」

「あなたは分かっていませんねぇ。もうこの世界にレベルなんてものは存在しませんよ?」

「でも、強かったんでしょ?」

「あの方の強さは、状況に応じた的確な判断力です。」

「判断力?」

「デバフの使い方も秀逸でしたが、スキルへの理解度も高いですね。直前にこの世界に来たとは思えません。普段からこんなスキルが現実であったらこう使おうなんて妄想なされてたのかもしれません。」

「それはあんたもでしょ?」

「わたくしは直前にいろいろ試す機会がありましたから。」

「ああ、あれね。あたしにあんなグロいの見せたやつね。最悪だわー。」

「ふふふ。あの巻き藁と比べたらあなたでもお分かりになるでしょう。あの落ち着き方の違い。格闘技か喧嘩の経験がおありなのかもしれません。」

「巻き藁ってあんた…なるほどね。やっぱり今後の最重要人物はあれね。」

「ふふふ。そうですね。再戦のときが楽しみです。巻き藁の件、怒っているでしょうか。」

「あの感じだと怒ってるんじゃない?」

「ふふふ。それは楽しみが増えました。」

「あんた、性格悪いよ?」

「自覚していますし、あなたに言われたくはありませんよ。」

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