クーデターのあとで
クーデター終焉から1週間後、僕はずん、柚子と3人でドラゴン状態のマリアの背中に乗り、リルアの門の外から空へと舞い上がった。隣を飛ぶグリフォンの背には、ねむさんとその背中に抱き付くメルロア姫、メルロア姫の背中に捕まるアリアさんが乗っている。眼下では飛竜が次々と飛び立つのが見える。
クーデターを終わらせたらすぐに帰ると言っておきながら、もう1週間も経ってしまった。
振り返ってリルアの王城を見、この1週間のことを思い出すのであった。
クーデター終焉の翌日、メルロア姫が「ボノ=スティファニアは王位から逃げ出したので、すでに王ではない。現在の王は玉座を射止めたマルコ=スティファニアである。」という声明を発表した。
これにより、マルコとカルロスのクーデターは成功したことになり、マルコとカルロス、グレンや『のほほん』のメンバーは罪に問われることはなくなった。賢いよな、メルロア姫。
そして、マルコ王、クスタ王兄、ボノ前王、カルロス財務大臣、ヨハン騎士団長、その他の大臣たちを一室に閉じ込めて話し合いをさせている。身体検査をしっかりしたので、殺し合いにはならないはずだ。もしなっても我々の責任ではないだろう。
どのような話し合いが行われているかは、メルロア姫始め、僕たちは完全ノータッチなので分からない。ただ、1週間経った現在も決着は着いていないらしい。まあ、そう簡単に着くものではないだろう。
次に、生き残ったスラムの男たち。彼らには『南スティファニア共和国』の兵士としての登用と家族との移住の許可を出した。ただし…
「5日後、全員面接をします。それまでに身なりを整え最低限の敬語を覚えなさい。わたくしは教養のない者が嫌いなのではありません。教養のないことに胡座をかく者が嫌いです。向上心のない者は要りません。5日間しっかり精進なさい。」
メルロア姫がスラムの男たちに送った言葉だ。
これを受けて一昨日、大々的に面接を行った。僕も面接官として参加させられた。いや、本当に大変だった、約1万人の面接…なんか、数増えてるし。
晴れて合格した、約5000人の南スティファニア共和国の兵士とその家族は昨日、一足先にキャベルの街に向けて出発した。徒歩で。護衛には元『のほほん』の27人が担当してくれている。
飛竜では2時間くらいの距離だが、一般人を含めた約15000人の大所帯だ。10日くらい掛かるというのがメルロア姫の見立てだ。
なぜ、彼らは徒歩なのか、それは転移神殿の開通をメルロア姫が拒否したからだ。
「南スティファニア共和国を建国いたしますと、ここリルアは外国の首都です。しかも情勢が定まらない危険な国、おいそれと国交を開くわけには参りません。ここには『北斗』の方々が残るのです。使いたくば、その方たちになんとかして頂けばよろしいのです。」
メルロア姫の厳しいお言葉。
確かチェカ、サーラ、イーストポートも外国のはずだ。その3つの街とは転移魔方陣が開通している。いいのだろうか?
「その3つの街は要はエル様の息の掛かった街ということでございますよね?では、全く問題ありません。理由は、エル様が分からずとも他の『緋花』の方々は理解しておられますので。あとでわたくしも挨拶に赴かせてくださいませ。」
ふむ。よく分からんが、良いなら良いか。
そう言えば、建国の話をルイスさんやあの場にいなかった『緋花』のメンバーにしたとき、全員が固まった。あまりにも現実味がなかったのだろう。説明を求める視線がねむさんに集中したのだ。
「いや、信じられんやろうけどもな。姫さん本気らしいんやわ。わしもいまだに信じられへん。なんか、エルさんとマリアちゃんものりのりやねん。もう、後戻り出来へん言うかなんと言うか。」
ねむさんは必死にみんなに説明する。
「まあ、なんや。わしも見てみたいんや。メルロア姫の作る国ちゅうやつを。で、わしもそれに携わりたいと思うてしもとる。みんなにも苦労掛けると思うけどな。まあ、いっちょやってみよや。」
そんなねむさんの言葉を聞いた皆の反応は…
「「はいっ!」」
声を揃えて了承したのであった。
「ねむ様!」
嬉しさを爆発させてねむさんに抱き付くメルロア姫。
「ヒューヒュー。」
指笛が鳴り、やんややんやと宴会に突入したのであった。
そんな様子を愕然と見ていたルイスさんの肩を僕がポンと叩く。
「もう、やるしかないみたいですよ。」
「ああ、そうみたいですな。信じられません。」
こうして、建国に向けて走り出したのであった。
次は恋愛の話だろうか。
建国の話のあとの宴会の中で、ミサキさんと龍やんくんが手を繋ぎながら二人で立ち上がった。
「あたしと龍は付き合うことになったから、みんな応援してね。」
「なんか、付き合っちゃいました。感激っす。」
二人の言葉に宴会はさらに盛り上がる。
メルロア姫がさっと立ち上がる。
「ミサキ様、龍やん様、おめでとうございます。末長くお幸せに。」
「ありがと、姫様。」
「ありがとっす。」
「わたくしも言いたいことがあります。」
皆、なんだなんだと注目する。
「ねむ様。好きです。わたくしと付き合ってくださいませ。」
一瞬シーンと静まり返ったあと、どっと盛り上がる。
「ちょ、おま、まじか…」
「まじです。大まじです。ねむ様はわたくしのことお嫌いですか?」
「嫌いやない…嫌いやないけど…」
なんか、煮え切らないねむさん。
「ねむ!あんた、はっきりしなさいよね。」
ミサキさんからのお叱りのお言葉。
ねむさんははぁーとひとつため息を吐き出し、立ち上がる。
「メルロア姫、わしはまだ、姫さんのこと好きかどうかはまだ分からん。」
「そう…ですか…」
落ち込むメルロア姫。
「でもな、姫さんと一緒にいるのは楽しいし、ずっと一緒にいたいと思い始めてるねん。」
「ねむ様…」
「えっと、なんや、そやからな。こんなわしで良かったら、付き合ってほしい。こっちからお願いします。」
「ねむ様…」
メルロア姫に向かって頭を下げるねむさん。メルロア姫の瞳からは大粒の涙が。ねむさんにそっと近付くメルロア姫。
「はい、それで構いません。これからわたくししか見えなくして差し上げます。ですので、どうぞよろしくお願いいたします。」
「もう、姫さんしか見えてへんよ、わし。」
そして皆が見守る中、二人は抱き合ったのであった。
とまあ、そんなこんなで城に泊めてもらいながら、忙しい日々を過ごしたのだ。新たに誕生した二組のカップルには幸せになってほしいものである。
ずんの人を殺めたことに対するアフターケアだが、城の一室を借りて、柚子と一晩掛けて行った。どんなことをしたかは言えないが、今では腕の震えも収まり元気にやっている。
何故かマリアとじゅんちゃんが乱入してこようとしていたのは、事前に察知して阻止したとだけ言っておこう。
結局マリアは帰らなかった。ラズベルトでも僕たちの家に押し掛けるつもりのようだ。
「我は主殿のペットじゃぞ。」
そう言って、言うことを聞かない。庭に犬小屋でも建ててそこに住ませようかな?ペットなんだし。まあ、そんな可愛そうなことはしないが。
マリアは強い。空いてる時間に模擬戦をしてみたが、僕以外は相手にならなかった。人間形態でだ。たぶん、僕とベルゼブブの次くらいに強いのではなかろうか。るき、まりさん、かずゆが3人集まればいい勝負しそうだが。上手く使えば、いい戦力アップになるだろう。
竜族にはマリアに匹敵する強さのドラゴンがあと2体いるらしい。そして2体ともメスなのだそうだ。その2体より先に婿を見付けることが目標なんだそうだ。いい相手が見付かればいいなと思う。
「主殿は鈍感すぎんか?」
そう言われたが、なんのことだか分からない。うん、分からないものは分からないんだ。
「見えてきたぞえ。」
マリアの言葉に、マリアの視線の先を追うがまだ僕たちには見えない。マリアの視力はすごい。
少し飛ぶと大勢の人が見えてきた。
「あ、見えた!おーーーい。」
ずんにも見えたようで手を振っている。そう、先に出発した元スラムの人たちと元『のほほん』のメンバーたちだ。まだ、1日なのであまり進めていないな。
向こうも僕たちに気付いたようで、こちらに向かって手を振ってくれる。みんな、もうドラゴンなマリアやグリフォンには慣れたもんだ。
彼らの上空を通過する際、ミヨさんを見付け目が合った。ミヨさんはこちらに深々とお辞儀をしてくれたので、サムズアップを返しておいた。
「さあ、帰ろうか、我が家へ。」
「そうだね。3人でたっぷりいちゃつきたいね。」
「城でも散々イチャイチャしたような気がしますが?」
「そうだったか?」
「そうだった?」
「んー、なんだか、いちゃつき足りない気がしてきました。」
「そろそろ我も入れてほしいもんじゃが?」
「ダメだ。」
「ダーメ。」
「ダメです。」
「しゅん。」
さあ、帰ろうラズベルトへ。これから建国という大仕事が待っているぞ。マリアは一段と力強く羽ばたいた。まるで、未来に向かって飛んでいるかのようであった。
王都のクーデター編終了です。
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