メルロア姫の宣言
「ほな、みんな反対したけど、『ゼット』っていう副ギルマスが殺されてミヨさんが人質の取られて仕方なくリオネルに従ったって言うんやな。」
ミヨさんの説明を聞き終えた僕たち。ねむさんが確認する。
「はい、その通りです。」
「リオネルちゅうんはだいぶ狂っとったな。姫さん。」
「わたくしの前では優しい方でしたが…瞳の奥に闇を抱えているのは気付きました。」
「普通にギルマスしてる間は隠し通せてたけど、こっち来て、力を手入れて姫さんちゅう手に入れたいもん出来て、本性出てきたちゅうわけか。わしらも他人事やないな。」
「ええ、そうですね。」
ねむさんの言葉に僕が答える。僕たちも一歩間違えばリオネルみたいになっていたかもしれない。特に、トーリでの僕…
「まあ、リオネルとエルさんではわけが違うわ。エルさんは仲間殺さんやろ。」
「うん。でも、僕たちも気を引き締めよう。」
「ああ、せやな。」
『緋花』のメンバーはうんと頷き合うのであった。
「で、カルロス派の兵隊はスラムの住人で、この街の元兵士と…」
ねむさんがメルロア姫を見る。
「誠に恥ずかしい話です。お父様、だから、わたくしはあのとき言ったのです。退役する兵士には十分な保障をと。」
メルロア姫が王に言う。5年前にメルロア姫が王に進言していたようだ。小さいころから優秀だったんだな。
「し、しかし、1万5千以上の兵士の首を切ったのじゃぞ。全員に保障していたのでは国が傾いてしますわ。」
「保障しなくても国が傾いているではありませんか。」
「ぐう…」
ぐうの音は出たらしい。娘に論破される王、哀れ…
「5千の内、2千は門のところでエルさんが蹴散らしたから残りは3千か。それが今、正門入った辺りでクスタ王子率いる正規兵2千と戦ってるわけやな。」
「見たわけでも伝令が来たわけでもありませんが、たぶんそうであると思います。」
「どうする?エルさん?」
「みんなを助けてくれるんですか?」
ねむさんの言葉に不安そうだったミヨが言った。
「まあ、ここまで首突っ込んだんやからな。仕方ないやろ。」
「おお、それは助かる。」
今度は王が言う。
「クーデターを止めるだけやで。あとのことは知らんからな。まあ、エルさんとマリアちゃん次第や。あの二人が無理や言うたらわしらどうしようもないわ。」
「彼とあの少女にそのような力が…」
王がこちらを向く。
「その二人ならマルコ派、カルロス派、『のほほん』、『北斗』纏めて潰せるで。」
「な、なんと…」
「マリア、いけそう?」
僕がマリアに問う。
「主殿ひとりでも余裕じゃろ?」
「マリアひとりでもな。」
マリアはにやっと笑う。戦いたいんだろうな。
「まあ、じゃあ、やるよ。でも、僕とマリアだと死人が増えるだけだ。メルロア姫の力も必要だ。」
「もちろんです。とりあえず戦いを止めてさえくだされば、わたくしがなんとかいたします。」
「はな、決定やな。」
これからの行動が決まったのであった。
「戦いに赴く前に、お父様、お話があります。」
メルロア姫がそう言い出した。
「な、なんじゃ。」
「わたくし、このクーデターが終わりましたら、母を連れてこの街を出ますので。」
「な、なんじゃと。」
王の言葉を聞かずメルロア姫はバンと立ち上がる。
「そして、ラズベルトにて『南スティファニア共和国』を建国いたします!」
「「!?」」
メルロア姫の言葉に全員が驚いた。もちろん僕も。マリアだけが腹を抱えて笑っている。
「な、何を何を馬鹿なことを…」
「お父様の意見を求めているのではありません。これは宣言です。わたくしはこの街を出て、建国いたします。ねむ様、手伝ってくださいますよね?」
「ちょ、おま、まじか?」
さすがのねむさんも驚きを隠せない。
「まじです、大まじです。わたくしは怒っているのです。この事態に逃げ出す王にも、この大事に手を取り合わない兄と弟にも。自分の出世のために周りが見えなくなっている騎士団長と財務大臣にも。そして、娯楽が少ないからといって、この内戦を楽しみ、賭けの対象にしているリルアの街の民たちにもです。」
メルロア姫すげぇよ。俄然面白くなってきた。
「僕は手を貸そう。」
「我もじゃ。」
僕とマリアは立ち上がる。
「わたしも。なんか楽しそう。」
ずんも立ち上がる。
「オレも。」
「わいも。」
「すげえ、おもしろ。」
てっちゃん、ハムさん、ベビさんも立ち上がる。
「ちょ、まじか…わしも覚悟決めるか…」
ねむさんも遂に立ち上がった。
「あの…クーデターが終わったら、『のほほん』は解散になると思います。私も…私たちもお手伝いしたいです。」
ミヨも立ち上がる。
「おお、ええやん。希望者全員連れて『緋花』に来たらええわ。」
「ありがとう…ございます…」
ねむさんの言葉にミヨは泣き出した。
「な、な、な、な…」
王は言葉が出ない。
「皆さん、ありがとうございます。お父様、そういうことですので。」
「な、な、な、ならん、ならんぞ。そんなことは許さん!」
遂に王が激昂した。
「許さないとどうなさりますか?」
王は周りを見回し、味方がいないことを悟る。いや、ひとり発見した。
「アリア!メルロアを、メルロアを止めろ。」
今まで一言も発せず黙って聞いていたアリアさんはさっと立ち上がって王に向かって頭を下げる。
「王様、申し訳ありません。私もメルロアに付いていきます。私とも離縁ということでお願いいたします。」
「な、な、な、なーー!」
遂に王は白目を剥いてひっくり返った。メイドさんたちが慌てて駆け寄ろうとするのを、僕が手で制する。
「てっちゃん、回復薬飲ませてから背負ってきて。クーデター収めるのに、王の存在も必要だ。」
「また、オレ?」
嫌そうな顔をしながらてっちゃんは王に回復薬を飲ませて背負ってくれた。
「しかし、ルイスさんに相談せんくても良かったんか?」
ねむさんがメルロア姫に問う。
「おじい様ですよ?わたくしに言い勝てるわけないではないですか。」
メルロア姫はそう言って片目を瞑った。確かに…ルイスさんがメルロア姫に言い勝つなんて想像出来ない。ていうか、メルロア姫に言い勝てる人間なんて存在するのかな?
僕たちはアリアさんの部屋を出発する。
メンバーは僕、ずん、マリア、ねむさん、メルロア姫、ミヨさん、ハムさん、ベビさん、てっちゃんと王だ。ミサキさんと龍やんくんは置いてきた。まあ、よろしくやってくれ。
「で、どうするんや?エルさん。」
走りながらねむさんが聞いてくる。
「外の方は考えてあります。メルロア姫、正門が見下ろせるバルコニーとかないですか?」
「ございます。右です。」
メルロア姫の誘導で廊下を駆ける。すると長い階段が出てきた。その階段を駆け上がると、正門がよく見えるバルコニーに出た。高さはビルの5階くらいだろうか。
バルコニーの先端に行くと戦いが良く見えた。今はクスタ側が橋を占領し、正門の中の広い庭で戦いが繰り広げられている。
「マリア、ドラゴンの姿に戻ってあの戦いの真ん中に降り立ってくれない?」
「ほう、なるほどのう。」
「それで、たぶん止まるだろ。もし攻撃してくるようなら殺しちゃってもいいよ。ねぇ、メルロア姫?」
「そうですね。止まったのが見えましたら、わたくしがここから声を掛けますので、それでも攻撃してくるようなら、マリア様、ヤっちゃってくださいませ。」
「ほう。そのような気概があるやつがいれば面白いがの。」
マリアはそう言いながら、おもむろに服を脱ぎ出した。
「こらー。男性陣は後ろ向く!エルも!」
ずんの声に男性陣は後ろを向く。ハムさん、ベビさん、よだれ出てるよ?
「なんで、脱ぎ出すんだよ。」
「だって、服がもったいないじゃろうが。このまま戻ったら破れてしまうぞえ?」
「あ、そうか。てか、脱ぐ前にひとこと言えよ。」
「それは、肌を主殿に見られたいという女心じゃ。察しろ。」
確信犯かよ。
「ではいくぞえ。」
僕には見えなかったが、マリアがバルコニーから飛び降りたようだ。
「もう見ていいよ。」
ずんの言葉に振り返ると、青み掛かった巨大なドラゴンが庭の上空を飛んでいた。
「クウォーーーーーーーン!」
マリアが雄叫びを上げる。兵士たちは戦いの手を止め、上空を見上げる。マリアはゆっくりと庭に降りていく。マリアが降りようしている場所から兵士たちが一目散に逃げ出しスペース出来ていた。
マリアは庭に降り立つと、長い首で辺りを一周見回し睨みを聞かせる。
メルロア姫がバルコニーの先端に立ち、よく通る声で兵士たちに話し掛ける。
「わたくしは、スティファニア王国第1王女、メルロア=スティファニア。我が名に置いて命じます。双方武器を捨て、戦いを辞めなさい。」
僕たちは思った。国を割る気満々なのによく言うよと。
「わたくしの声が聞こえないのですか?武器を捨てなさい。」
突然現れたドラゴンとメルロア姫に兵士たちは混乱しているようだ。
「メルロアー!」
下から聞き覚えのある声が聞こえた。クスタ王子とヨハンが橋の方から走ってくるのが見えた。
「これはどういうことだ。我々の邪魔をしないと言ったではないか!」
ああ、そういえばねむさんがそんなこと言ってたな。ねむさんが苦笑いしてる。
「お兄様、事情が変わりました。あとで、話し合いの席を設けますので、ここは一旦お引きください。さもなくば…」
「さもなくば?」
「マリア様に暴れていただきます。」
「ほう、それは面白い。」
ドラゴン状態のマリアがそう言い、ぎろりとクスタ王子を睨む。
「ひ、ひーー。」
クスタ王子はそれだけで腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。
「さあ、カルロス派の人たちも武器を捨てなさい。決して悪いようにはいたしませんから。」
メルロア姫のその言葉で、庭で戦っていた全員が武器を捨てたのであった。




