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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
王都のクーデター
42/50

メルロア無双

「ごめんなさい。私、怖くって。」

城に向けて出発する直前、柚子が謝ってきた。

「いいんだよ。人と戦うのは怖くて当然だ。それに柚子の魔法は威力が高過ぎて屋内では不利だ。決断してくれて助かった。」

僕は柚子の頭を撫でる。

「エルさん…」

僕は近くにいるはれさんとじゅんちゃんを見る。

「はれさん、じゅんちゃん、柚子を頼む。」

「うん、任せて。」

「任せて。」

二人から快い返事が貰えた。

「ほな、出発すんで。」

ねむさんの号令で突入組は出発したのであった。



僕とマリアが先頭を、その後ろをメルロア姫をお姫様抱っこしたねむさんが続き、ずんとミサキさんがその後ろ、しんがりはてっちゃん、ハムさん、ベビさんの3人だ。

「ねむ様。」

出発してすぐ、メルロア姫がねむさんを呼んだ。

「なんや?姫さん。」

「あの化け物…エル様はねむ様の部下なのですか?」

「化け物て…まあ、合っとるけども。」

おい、ねむさん…

「まあ、部下ちゅうか、仲間やな。なんでや?」

「いえ、城内に入りますとわたくしが指示することが多くなると思うのです。命令系統を明確にしておきませんと。」

「なるほど、確かに。」

要は、ねむさんを通さずに僕を動かしたいんだろう。僕は走りながら振り返り、ねむさんにうんと頷いた。

「エルさんがいいらしいわ。存分に使ったり。」

「それは助かります。エル様、次を右です。」

「了解です、姫様。」

僕たちはメルロア姫の言うままに右に曲がったのであった。



「左です。」「右です。」

メルロア姫の言うままに街を駆ける僕たち。やがて、小綺麗な1軒の石造りの家が出てきた。窓がひとつもない家だ。大きさ的には1ルームの1階建てといった感じか。

「止まってください。」

メルロアの合図で止まる僕たち。

「ねむ様、降ろしてくださいませ。」

ねむさんがメルロア姫を地面に立たせる。メルロア姫は僕たちの前に出て、石造りの家の扉の前に立って手を翳す。

「△○□開け。」

かちゃりと音がした。魔法で扉のロックが解除する仕組みらしい。

メルロア姫はねむに両手を差し出す。抱っこの合図のようだ。ねむさんはまたため息をひとつ吐いて、メルロア姫をお姫様抱っこした。

扉を開くと中は何もない部屋。部屋の床の真ん中に穴が開いていて下へ下る階段がある。僕たちは階段を降りるのであった。



階段を下り始めるとすぐに真っ暗になった。ずんに練習中の『ライト』の魔法を頼もうとしたときだった。

「△△○光よ。」

メルロア姫が呪文を唱えるとメルロア姫の前に光源が浮かび、辺りを照らした。

「おお、光の魔法?」

僕はメルロア姫に聞く。

「はい、わたくし、一応光の魔法使いですので。」

この言葉を聞いた瞬間、全く興味がなかったメルロア姫がとてもいい人に思えてきた。

「光の魔法!いいですね。今、ずんと柚子が欠損部位の回復魔法を練習してるんですけど、なかなか上手くいかなくて…教えてあげてくれません?」

「えっと、エル様?欠損部位回復の魔法なんて高等な魔法使えるわけないではありませんか…」

「なぁんだ。」

急にまたメルロア姫への興味がなくなった。

「ねむ様ねむ様。」

「なんや、姫さん。」

「エル様は少し頭がおかしいのですか?」

「少しやないで。かなりや。本人あれで普通や思てるからたちが悪いねん。」

「あら、かわいそ。」

聞こえてるからね?ねむさんと姫様、なんかいいコンビだな。こら、マリア、腹抱えて笑わない。ずん…我慢しなくていいから笑いな、ぐすん。



「右です。」「左です。」「右です。」「直進です。」

地下の通路をまたメルロア姫の指示通りに進む。地下通路には分かれ道が何回も出てきてまるで迷路のようだ。知らないと目的地にはたどり着けないだろう。

「そういや、姫さん。」

「なんでしょう、ねむ様。」

「今、この街で起きていることを詳しく知りたいんやが。」

「わたくしの憶測でよろしければ。」

「それでええよ。」

メルロア姫がリルアの現状を語り出す。

要するに、クスタ王子とマルコ王子の跡目争いと、騎士団長ヨハンと財務大臣カルロスとの派閥争い。そこに『のほほん』のリオネルと『北斗』のメルロア姫を廻る争いが加わり、事が大きくなったということだ。

「姫様はどうなったらええと思うんや?」

「そうですね。同腹の兄であるクスタに肩入れしていると思われがちですが、そんなことはないのです。兄クスタの考えは軍事寄り、対して弟のマルコは内政寄り。二人が協力されればよろしいのですが、それが叶わぬなら、内政寄りのマルコの方が今のリルアには必要かと。ヨハンとカルロスですが、二人は軍事や財務管理だけしていてくだされば優秀なのですが、二人とも政治がお好きですので…少しお灸を据える必要があるかもしれません。」

「なるほどなぁ。」

僕は驚いた。まだ、高校生くらいの年齢に見えるメルロア姫がここまで客観的にこの街のことを見ていることに。教育の賜物と言ってしまえばそれまでだが、僕にはそれ以上のものを感じた。この子もある意味化け物だと僕は思う。

「アース様とリオネル様のこともお聞きになりたいですか?」

「いや、それはええ。だいたい分かるわ。」

門のところで目の当たりにしたしね。



「ねむ様ねむ様。」

「今度はなんや?」

「エル様の隣を走る少女は他の方とは少々雰囲気が違うようですが、どなたなのですか?」

「なんや、今頃かいな。」

「いえ、ずっと気にはなっていたのですが、なかなか聞くタイミングがなく…」

「あれな、ドラゴンさんらしいで?」

「は?」

「ドラゴンや、ドラゴン。竜って言った方がええんか?」

「いやいや、そういう問題ではなくですね…え?は?」

「混乱する姫さんもレアやな。」

「ドラゴンが街の中に?」

「まあ、そうなるな。」

「リルアは今日滅びるのでしょうか?」

「なんか、ドラゴン関係なく滅びそうやけども?」

「それは言わないでくださいまし。」

そんなねむさんとメルロア姫の会話が聞こえてきた。

「おい、マリア。お前のこと知らない人いるから自己紹介しとけよ。」

「ふむ。そうじゃの。我はマリア。マリアンティーヌ=ドラゴニックロード。竜族王家の末裔じゃな。」

「え?お前、そんな凄いドラゴンだったの?」

「うむ。今は主殿のペットじゃがな。」

「ペットて…」

僕も知らなかった事実が発覚した。

「ねむ様ねむ様。」

「姫さんの言いたいこと分かるで。エルさんがやっぱりおかしいってことやろ?激しく同意やわ。」

「はい。味方で良かったですね。」

「ほんまやな。敵やったら、この国、いや、この大陸滅亡しとるで。」

「神に感謝して生きようと思えました。」

いやいや、僕そんな危険人物じゃないからね?



僕の目測で、もうそろそろ城の下かなというときであった。

「主殿、人の臭いがする。」

マリアのその言葉に急停止する。

「ずん、ライトの魔法ちょうだい。」

「うん、ライト!」

ずんにも光源を作ってもらった。すると、少し先に座り込む人の影が見えた。警戒しながら進む。豪華な衣装に身を包んだ老人だ。

「お父様!」

メルロア姫の言葉。メルロア姫の父ということは、この国の王様か。

「ねむ様、降ろしてください。」

ねむさんはメルロア姫を地面に立たせる。メルロア姫は王に小走りで向かう。

「お父様。」

「メルロアか?何故、ここに?」

「城に向かう最中でした。」

「いや、おぬしにこの通路を教えていないはずだが…」

「わたくしに城内のことで知らないことは御座いません。」

「…」

黙り込んじゃったよ、王様。

「お父様こそなぜここに?」

「いや、クーデターのことはもう知っておろう?だから逃げてきたのじゃ。」

「お父様。」

メルロア姫の声に怒りの色が見える。

「なんじゃ。」

「王というのは死してなお、城を、街を、国を守り切るものではないのですか?」

「…」

また黙っちゃったよ、王様。すごいな、メルロア姫は。メルロア姫が王になればいいんじゃないかと僕は思うよ。

「お父様、城に一緒に戻りますよ。いいですね?」

「いや、その…だから…」

「いいですね?」

「あ、はい。」

メルロア姫、怖いよ。

「ねむ様、申し訳ありませんが、父を誰かに運ばせていただけないでしょうか?」

「ああ、ええよ。そやな…てっちゃん、頼むわ。」

「えー、オレ?」

嫌そうなてっちゃん。渋々王様をおんぶしてくれた。

「ねむさんがあんな美少女で、オレはジジィかよ…」

てっちゃん、それ、王様だからね?



通路の突き当たりにあった階段を登り、天井を外す。

僕とマリアが顔だけ出して警戒する。王の話では、ここは執務室らしい。

「誰もいないな。」

「部屋の外からは剣戟が聞こえるがな。」

とりあえず部屋に上がり、他のメンバーにハンドサインで上がってくるように指示を出す。

「お父様。部屋の外から戦う音が聞こえますがどういうことですか?」

メルロア姫が王に聞く。

「兵士5人にこの部屋を守らせておるのじゃ。」

王のその言葉を聞いた瞬間、メルロア姫から殺気が。

「お父様は、自分のために戦ってくれている兵士を見捨ててお逃げになったのですか?」

「そ、そうじゃが…」

「最低ですね。」

王をばっさり切り捨てるメルロア姫。僕としても王なので逃げてもいいんじゃないかと思うが、メルロア姫の王の理想像は違うようだ。

「メルロア!余は王であるぞ。さっきから聞いていれば、少々失礼ではないか?」

王は遂にメルロア姫に反撃するようだ。

「だったらなんなのですか?そもそも今回のクーデターは、後継者をなかなかお決めにならなかった、お父様の責任なのですよ?」

「ぐぬぬ…」

言葉も出ない王を他所に、メルロア姫はねむさんの腕から降り、つかつか扉の方へ歩いていく。

「ちょ、姫様!」

外は戦闘中で危険だ。僕はメルロア姫を止めようとするが、メルロア姫は僕を左手で制し、カチャリと鍵を外し、バンと勢い良く扉を開けたのであった。僕はマリアに目配せをして戸口に近付き警戒する。

突然の出来事に兵士たちは全員動きを止めている。

「この国の一大事に味方同士で争うとはどういった了見ですか!皆のもの、剣を収めなさい!」

「め、メルロア姫…しかし…」

「しかしではありません!わたくしの言うことが聞けないのですか?剣を収めなさい!」

兵士たちは顔を見合わせたあと、全員が武器を床に落としたのであった。

「エル様、マリア様、周囲の警戒を。ずん様、ミサキ様、兵士の治療をお願いいたします。」

メルロア姫の指示で僕たちは動き出す。僕とマリアがふたてに別れて周囲を警戒。その間にずんとミサキさんが兵士たちの傷を癒す。

みんな自然とメルロア姫の指示に従っている。僕は確信する。メルロア姫には王の素質があると。

執務室の中からメルロア姫の声が聞こえてきた。

「お父様。わたくし、決めました。」

「な、何をじゃ?」

「今は言えません。今回の件、一段落したら時間をください。お話があります。」

「う、うむ。」

メルロア姫が何を決断するのか、今から楽しみだ。

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