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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
革新の日
4/50

リーセの村

僕と柚子ちゃんはリーセの村に向かって馬を走らせる。今は途中で見付けた道のようなところを走らせていた。こういったところは『エネーボ・レボリューション』の中とそっくりだ。見える景色も何処と無く見覚えがある。ただ距離感だけはぜんぜん違う。ゲーム内では走っても5分くらいであったが、馬で30分以上走ったがまだ着かない。途中、遠目にちらほら魔物が見えた。魔物の種類の配置なんかもゲームにそっくりな気がする。魔物たちはこちらに寄ってくる気配はなかったので、まるっと無視している。まずは復活スポットだ。

魔物は見掛けたが、人の姿は今のところ見ていない。僕たちが狩りをしていた場所がレベルの割には魔物が強い不人気スポットだったのもあるが、運営から「ログアウトは出来るだけ街でしましょう。」と通達が再三来ていたのだ。僕は無視していたが、意外に守っているユーザーは多かった。運営はこういう状況になることを予想していたのだろうか?フレンドリストで明るく表示されていた72サーバーのメンバーはこの世界のどこかにいる気がする。『緋花』のメンバーやるきたちとはなんとか合流したいものである。

「まあでも、柚子ちゃんと一緒だったのは幸せなのかもな。」

「なんですかー?何か言いましたー?」

僕がぼそりと呟くと斜め後ろで馬に股がる柚子ちゃんが反応した。あの声聞こえたの?エルフの聴力恐るべし。



リーセの村に繋がる木の階段の前に到着した。二人で馬を降りる。すると馬たちは役目を終えたように地平線の向こうに走り去っていった。

「あの馬、どこから来たんだろうね?」

「まさしくファンタジーですね。」

木の階段を見上げる。

「ゲームでは村の中も魔物が闊歩してたじゃん?」

「そういえばそうでしたね。」

「NPCのすぐ横を魔物が歩いてたりしてさ。」

「そうでしたそうでした。今思うと有り得ないですね。」

「うん。だからさ、この先凄惨なものを見ちゃうかもだから覚悟してね。」

「げ。」

スプラッタな光景は僕も出来れば見たくない。祈るような気持ちで僕たちは木の階段を登る。



階段を登りきり木の門を潜る。そこにあったのは見るからに廃村という風景だった。家だったであろう物はバラバラに崩れ、畑は荒れ放題…村人が魔物に襲われているっていう状況ではなかった。ずいぶん昔に襲われ終えたという感じだ。魔物の見える範囲にはいない。

「ホッとしたって言っていいか分からないけど、ホッとした。」

「私もです。」

村の中を進む。

「きゃっ。」

「どうした?」

後ろを付いてきていた柚子ちゃんが悲鳴をあげた。

「あれ、見てください。」

柚子ちゃんが指差す方向を見ると骸骨に烏のような大きな黒い鳥が止まっていた。

「ちっ。」

僕は咄嗟に腰の杖を外し右手に持ち、黒い鳥に向かって走った。鳥は僕に気が付くと飛び立っいった。

「埋めてあげよう。」

「そうですね。」

偽善かもしれないが埋めてあげたいと思った。この村全ての骸骨を集めるのは無理があるが見付けた骸骨だけでも弔ってあげたい。僕は杖を腰に装着すると骸骨に近付いて両手に抱えた。全部持ちきれない。

「私も持ちます。」

柚子ちゃんが残った骨を拾ってくれた。

二人で無言で村の端にある大きな木の下に移動し、小さな穴を掘って骸骨を納め、土を被せて二人で揃って手を合わせた。そんなことをしていると気が付かなかったのだ、僕たちに近付く人がいることに。



二人で手を合わせ黙祷していると背後から足音が聞こえた。僕はさっと振り返り背中に柚子ちゃんを隠し足音の方を見る。柚子ちゃんは「え?え?え?」と混乱している。

近付いてきたのは1組の男女であった。ヒューマンの男とダークエルフの女性。

「あらあら、こんなところで墓参りですか。」

男の方が声をかけてきた。言ってることは普通だが、言葉に刺がある。僕は無言で二人を見る。ピンと頭の中で鳴り、二人の名前が表示される。そこには1番会いたくなかった奴の名前があった。

「ベルゼブブ…ベルゼブブなのか。」

「いやですね。わたくしと貴方の仲じゃないですか。親しみを込めてベルゼとお呼びください、エルさん。今はエル=グランドさんとお呼びした方がよろしいか?」

「ちっ。エルでいいよ。」

「え!?エル=グランド?あのエル=グランド?」

連れの女性が声を上げる。この女性もこの女性で厄介だ。

「お久しぶりです、サーバー3位のギルド『祭り』のギルドマスター『甲斐姫』さん。『緋花』のエルです。」

「『緋花』のエル!?あの人があのエル=グランドだったなんて…」

「隠していてすみません。」

「いえいえ。」

甲斐姫さんは魔法攻撃力でサーバー5位に入る強者だ。

「ベルゼブブ…ベルゼブブ…あ!全サーバーの物理攻撃力ランキング1位の人の名前だ!」

柚子ちゃんもベルゼブブの名前に聞き覚えがあったようだ。ベルゼブブ…彼は4年前に僕が所属していたギルド『AAA』のギルドメンバーで第2世代最強と目されていた。

「お嬢さんにも知っていただいていたようで光栄ですねぇ。以後お見知り置きを。柚子さん。」

「あ、あの、はい。こちらこそ。」

柚子ちゃんはベルゼブブに向かって頭を下げたのであった。



「なんでお前がここにいるんだよ。72サーバーにはいなかっただろう?」

僕はベルゼブブに話し掛ける。

「ええ、昨日やって来たのですよ。甲斐姫に呼ばれましてね。わたくしたち従兄弟なんですよ。なんでも『CRAY』というギルドがウザいのでなんとかしてほしいと。第3世代のギルドを潰すなんてわけないですが、いざ来てみればこのような素敵なイベントに参加することが出来ました。甲斐姫には感謝してもしたりませんね。」

「素敵なイベントだと?」

「ええ、素敵です。金と時間を惜しみ無く使ったこの身体を十全に使えるのです。こんな素敵なイベントはありません。」

「お前、人も殺す気か?」

「ここの世界の人たちには興味ありませんよ。そうですね…『CRAY』は全員殺しましょうか。」

「てめぇ!」

「あれあれ?エルさんは『CRAY』が好きなのですか?ウザかったでしょう?いや、エルさんにとっては路肩の石みたいなものですか。」

「確かにウザかったけど、殺すことはないだろう。」

「ああいう奴らは性根が腐っています。そんな奴らがこんな世界で力を持ったら、どんなことを仕出かすか…想像付きませんか?」

「っ…」

確かに。僕たちとこの世界の人たちとどれくらいの力の差があるか分からないがろくなことしない気がする。

「柚子さんはエルさんの彼女さんですか?彼女らが平穏に暮らすためには害虫は駆除するのが1番なのですよ。」

ベルゼブブの物言いに柚子ちゃんは僕のローブの裾をぎゅっと握ったのであった。



「ところでエルさん。」

「なんだよ。」

「わたくし、もうウズウズが止まらないのですが、少々お手合わせ願えないでしょうか?」

「っ。」

ベルゼブブの雰囲気が変わった。僕はさっと左手を広げ、柚子ちゃんを庇う。戦う?出来るのか、僕に。

「ちょ、止めなよ、こんなところで。」

甲斐姫さんが止めてくれるが…

「こんなところだからいいんじゃないですか。先程見回りましたが、ここにはもう誰も居ませんよ。」

「そうだけど…」

止まる気はないようだ。昔からこういう奴だった。

「お願いしますよ。殺さないようにしますから。まあ、エルさんは死なないでしょうが。」

仕方ないか。何かあって柚子ちゃんに矛先がいくのだけは避けたい。

「分かった。」

「それはそれはありがとうございます。」

「柚子ちゃん。」

「は、はい。」

「あの木の向こう側に隠れていて。」

「あの…大丈夫ですか?あの人やばそうですよ?」

「うん、分かってる。大丈夫だから。お願い。」

「分かりました。死なないでくださいね。」

「うん、大丈夫。」

この大丈夫は柚子ちゃんにではなく自分に言い聞かせた。柚子ちゃんは大きな木の向こう側にちょこちょこと走っていく。何回も何回もこちらを振り返りながら。

「ここから少し離れたい。」

「ええ、構いませんよ。」

僕とベルゼブブは荒れた畑だったところの真ん中へと歩を進めたのであった。



荒れた畑の真ん中で僕とベルゼブブは距離を取って向かい合う。

「エルさん。戦闘の経験は?」

「ねぇよ。」

「まだだったんですか。わたくしたちレベル2000オーバーを見たらここいらの魔物は寄ってきませんものね。」

「お前、やっぱり2000超えたのか…」

「ええ、もちろんです。」

そういってベルゼブブはけらけらと笑う。第2世代でも2000超えたのはこいつだけだろうな。

「大丈夫ですか?スキルの使い方わかりますか?お教えしましょうか?」

「いらねぇよ。」

こいつの施しは受けたくない。

「そうですか。」

ベルゼブブはそう言って腰の鞘から剣を抜き放ち正眼に構える。この剣はそんじょそこらの剣とは訳が違う。『魔剣エラ』。レア度SSの剣だ。ちなみに僕の『世界樹の杖』と『常闇のローブ』もレア度SSだ。

「わたくし、リアルで抜刀術を習っていましてね。剣が日本刀でないのは残念ですが、1度本当に人を切ってみたかったんですよ。」

「僕で試し切りかよ。勘弁してくれよ。」

「はははは。行きますよっ。」

ベルゼブブがそう言った瞬間、姿が掻き消えた。僕は後ろに跳びながら杖を身体の正面に出す。ガキン、そんな音がして僕は吹き飛ぶ。奴の剣が杖に当たったようだ。ぜんぜん見えなかった。吹き飛んだ先でなんとか転ばず足から着地する。

「あれを防ぎますか、流石です。」

「たまたまだよ。」

「またまた。ご謙遜を。」

本当だよ!ヤバい。スキルを使わなきゃ下手したら殺される。ステータス画面にスキルが全く乗ってなかった。これはゲームじゃないんだ、何かをタップしたら使えるものではないらしい。

「まだまだ行きますよ。」

またベルゼブブの姿が掻き消える。僕はスキル名を叫んでみることにした。杖をベルゼブブがいた方向に向けて叫ぶ。

「トルネードスタン!」

すると杖の先から直径10メートルほどの竜巻が発生し前方に飛ぶ。よし、スキルを使えた。次のスキルは…

「残念。」

僕の右の方から声が聞こえる。真っ直ぐではなく回り混んでいたようだ。でも予想出来ていた。身体は反応出来てないがたぶん間に合う。

「エリアスタン!」

「3連斬!」

向こうのスキルより僕のスキルの方が速かった。エリアスタン…術者を中心に前後左右全方向にスタンをばら蒔くスキルだ。スタン時間は2秒。

「ぐはっ。」

僕の右側約2メートルのところに剣を振り抜こうとした状態でベルゼブブが固まった。これ完全に殺しにきてるよね?

「ファイアーバースト!」

僕はベルゼブブと僕の間にスキルを打ち込んだ。爆発するスキルだ。爆風を利用して後ろに飛ぶ。ベルゼブブも逆方向に飛んでいるのが見えた。

「フローズンスピア!ファイアーボール!ウインドカッター!」

僕はベルゼブブ目掛けてスキルを連打する。

「スワンプ!」

そしてベルゼブブの予測落下地点に泥沼を発生させる。そして落ちたと思うタイミングで大き目のスキルを叩き込むことにした。

「バーストボム!」

ズドーーーンと爆発が起こりきのこ雲が出来た。予想していたより威力が高い。あいつ死んでないか?

そんなことを考え油断していた。魔法のようなものを使えたことで舞い上がっていたのかもしれない。

爆発の煙の中、弾丸のようにこちらに向かってくる影を見付けた。やばっ!

「エリアスタン!」

スキル名を叫ぶがスキルが発動しない。

「リキャストタイムですよっ。」

ベルゼブブが叫ぶ。あ、そうか、忘れてた!それがあったから最初いろいろなスキルを使ったんだった。

「つっ。これなら!ウインドスタン!」

「はっ、そんなスキルでっ。」

ウインドスタンの風を横っ飛びで避けたベルゼブブは勢いを殺すことなく直角に曲がり僕に突っ込んできた。僕は杖を前に出す。

「ファイアーアロー!」

最後にスキルを発動するが肩で防がれた。ベルゼブブはそのまま突っ込んできた。奴の肩が僕の胸に直撃した。僕は吹き飛び勢いのまま地面を転がる。

「いって。」

僕は急いで顔を上げる。そこには僕の鼻先に剣先を突き付けたベルゼブブが立っていた。

「わたくしの勝ちでいいですか?」

「ああ、負けた。降参だ。」

僕は両手を上げ、降参のポーズを取った。

こうして、僕とベルゼブブの決闘はベルゼブブの勝利で幕を閉じたのであった。

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