クーデターの始まり
三人称です。
「じゃあ、気をつけなさいよね。」
「うん、ミサキさんも。」
龍やんはミサキとの通話を終えた。
龍やんは思う、今のミサキさん優しかったなぁと。ミサキの性格はキツい。目が少しつり目なのも、その性格を表している。しかし、その内面は純粋で優しく仲間思いなことを龍やんは知っている。龍やんはミサキに惹かれていた。しかし、高嶺の花だと諦めている。ゲーム時代、ミサキは龍やんよりレベルが200近く上で、龍やんが『緋花』に入ったときにはミサキはすでに『緋花』の幹部であった。しかも、副ギルドマスターのりんたに気があることは誰の目に明らかだった。この異世界に来てからはよく行動を共にするようになったが、彼女はラズベルトやブレナンで『戦いの女神』と崇め奉られている女性なのだ。龍やんは諦めるしかなかったのだ。
「お、知らん顔がいるなぁ。」
「彼は『緋花』というギルドの一員らしいよ。」
「へえ、あの『緋花』の…」
龍やんが街壁の上でミサキのことを考えていたら、後ろから声を掛けられた。龍やんが振り返るとそこにはクスタ王子と灰色の髪のダークエルフが立っていた。
「『緋花』の龍やんっす。」
「俺は『北斗』のギルドマスター、アースだ。」
龍やんが挨拶すると灰色の髪のダークエルフ、アースが返してきた。
「キミも手伝ってくれるのかな?」
「もちろんっす。」
アースの質問に龍やんは即答する。
「遠距離攻撃用の武器は何か持っているかい?」
アースの問いに龍やんは少し考える。龍やんはエルから手解きをうけ、多少風の魔法を使えるようになっていた。しかし、アースにそれを見せるのは何故かいけない気がした。投擲用のナイフだけ教えるか。
「投擲用のナイフを少々…」
「うむ、それでは足りないだろう。兵士に弓矢を借りるとよい。」
クスタ王子が言ってくれた。
「ありがとうございます。借りてくるっす。」
龍やんはそういって二人の前から去るのであった。
「王子!クスタ王子!」
龍やんが去ったあとのクスタとアースに壁の下から声が掛けられた。その声の主は、階段を駆け上がり二人の前に現れた。騎士団長のヨハンである。
「王子、こんなところにいては危のうございます。」
「何、構わぬ。見たところ、飛行型の魔物はおらぬ。それよりもここで手柄を立て、次期王の地位を不動にすることが先決だ。」
「なるほど。お見逸れいたしました。」
クスタはどうしても王になりたかった。王という地位への憧れもあるが、クスタはマルコが嫌いだったのだ。マルコの下で働くなど、死んでもごめんであった。それにクスタにはすでに妻がいる。その妻からも発破を掛けられていたのだ。
クスタは壁の上にいる兵士たちに向かって叫ぶ。
「兵士たちよ、弓を持て。弓がないなら石を持て。」
兵士たちはクスタ王子の存在に気付く。
「クスタ王子だ。クスタ王子がおられるぞ。」
クスタの姿を見た兵士たちの士気は上がる。クスタは騎士団長のヨハンに付いてよく兵士たちの訓練を見学し、ときには参加もしていた。兵士たちには人気があるのだ。
「兵士たちよ、矢を放て。1匹足りとも魔物どもをこのリルアに近付けさせるなっ!」
「「おーーーー!」」
クスタの言葉に兵士たちは沸き立つ。
クスタはお手本とばかりに弓を引く。クスタは魔物を舐めていた。魔物の強さは認めているが、魔物が街に侵入したことは今まで1度もなかった。魔物は何故だか街に近付かない。今もおぞましい数の魔物がリルアを取り囲んでいるが、ある一定のところ、壁から100メートルほどのところから近付こうとしない。だから、今回も…
クスタは矢を放つ。矢は山なりに飛び、熊の魔物の背中に突き刺さった。そのときだった。
グウォーーーーーーーーーーーー
その熊の魔物が雄叫びを上げた。そして、魔物たちは一斉に「ある一定のところ」を超え、壁や門に向かって壁に門に突進を開始したのだ。
ドーン ドーン ドーン
魔物が突進する音が響き渡る。
クスタとヨハンはその光景を見て青ざめる。しかし、魔物の突進は始まってしまった。もう時間は戻らない。
「打てー!打つのだー!」
クスタは声を限りに叫ぶ。壁の上から放たれる矢。しかし、魔物たちの突進は止まらない。
ドーン ドーン ドーン
リルアの街に魔物突進音が響き渡るのであった。
街壁の上で魔物との戦闘始まったころ、リオネルとマルコとカルロス、カルロスの子飼いの兵士20人は『のほほん』のギルド会館にこっそりと移動していた。
ギルド会館に着くと兵士たちを置いて3人で食堂へ。
「まずい、まずいですぞ、マルコ王子。」
「うむ、やはりそうか。」
「はい、この件が無事解決すればクスタ王子の後継が決定的になってしまいます。」
「うむ、しかし私では兵士たちが言うことを聞かぬ。」
「ぐぬぬぬぬ…」
カルロスはどうしても諦められなかった。クスタが王になれば、自分は失跡させられてしまうだろう。カルロスは王にマルコを祭り上げ、宰相としてリルアの、いや、スティファニア王国の実権を握りたかったのだ。
長く悩むカルロス、彼は最悪の案を閃いてしまった。
「今から城へ行き、王を打ちましょう。そしてマルコ王子が玉座に座るのです。」
「な、カルロス、何を。」
「カルロスさん、それはさすがにまずいんじゃ…」
カルロスの案にマルコと今まで黙って聞いていたリオネルが反論する。しかし…
「いえ、もうこの策しかございません。今、城は兵も『北斗』の連中もございません。今がチャンスなのです。」
「しかし…」
「しかしではございません。いいのですかな?王の座は。いいのですかな?メルロア姫は。」
カルロスの言葉に、マルコは、リオネルは黙りこむ。二人ももう後には引けなくなっていた。
「しかし、今のままでは数が足りませぬ。リオネル殿、あなたはこの『のほほん』を纏めてください。私は私で当てを当たりましょう。」
カルロスはそう言い残すと、5人の兵士を連れリルアの街に消えたのであった。
「クーデターだと?ふざけんじゃねぇぞ!」
『のほほん』のギルド会館4階会議室。今、ここには29人のギルドメンバー全員が揃っている。元々は30人いたのだが、『北斗』との小競り合いの際、残念ながらひとり死んでしまった。
リオネルに話を聞いた『のほほん』の副ギルドマスター『ゼット』はリオネルに向かって吠えた。
「クーデターだぞ?失敗したら全員死刑だぞ?」
「失敗しなければいいのだ。」
「お前、そんなに上手くいくと思ってんのか!」
「行くさ、お前たちが協力してくれればな。」
「…」
しばらくの間沈黙が支配する。沈黙を破ったのはリオネルであった。
「このまま、クスタ王子が王位に着いたらオレたちはこの街にいられなくなるぞ。それでもいいのか?」
「そんなもん、他の街に行って他のギルドに入れて貰えばいいだろうがよっ。もうこりごりなんだよ。こんな生活っ。」
ゼットはかっとなりリオネルの胸ぐらを掴んだ。
「それ、本気で言ってんのか?」
「ああ。」
「みんなもそうなのか?」
リオネルは胸ぐらを捕まれたまま、メンバーの顔を見回す。全員が頷いている。しかし、リオネルにはメルロア姫を諦めるという選択肢はなかった。
「はぁ、仕方がないか。ゼット、お前の力も必要だったんだがな。」
リオネルはそういうとおもむろに腰の剣を抜き、ゼットの胸に突き刺したのであった。
騒然とする会議室。
「お…お前…」
リオネルが剣を引き抜くと、ゼットはその場に倒れた。
「お前ら、ゼットのようになりたくなかったらオレに従え。」
リオネルは鋭い目付きでメンバーを見回す。
「分かったか?」
リオネルの言葉に全員頷くしかなかったのであった。それをリオネルは満足そうにひとつ頷く。
「カルロスさんが戻ってき次第、城に攻め込む。それまでに準備をしておけよ。」
そう言い残すと振り返り、会議室を出て行ったのであった。
リオネルが去ったあと、ゼットに駆け寄るエルダー。しかし、ゼットの脈はすでに止まっていたのであった。
カルロスは5人の兵士を引き連れてリルアの街の西側を目指していた。ここにあるのは…スラム街である。5年前まで、この街には2万人の兵士がいた。しかし、人がこの街に引きこもるようになってから、たくさんの兵士は必要なくなったのである。他国と戦争することも、魔物を討伐することもなくなったのだから。
リルアでは2000人の兵士を残して軍は解散させられた。いきなり無職になった元兵士は18000人。その内の10000人がこのスラムに住んでいると言われていた。
スラムに入るとすぐにカルロスたちは20人の男たちに囲まれた。カルロスはこの集団のリーダーに話し掛ける。
「グレンはいるか?」
「あんたは?」
「財務大臣のカルロスだ。」
リーダーはカルロスを観察する。
「付いてこい。」
リーダーはそういうと振り返り歩き出す。カルロスはそれを追い掛けたのであった。
カルロスが連れて来られたのは小さな広場だった。木の廃材が乱雑に捨てられていて、100人ほどの屈強な男たちがそこに腰掛けたむろしている。その1番高いところに座る一段と大きな体をした男がカルロスを見た。
「カルロス様…」
彼が元スティファニア王国兵士団長のグレンである。
「グレン…」
「カルロス様、オレに何か用か?」
「グレンよ、貴様は王ボノ=スティファニアに怨みはないか?」
「怨みか…もちろん怨んでいるとも。王は…やつは、あれだけ尽くした俺たちを5年前あっさり捨てたんだからな…」
そのときの情景を思い出したのか、グレンは悔しそうに自分の膝を叩く。
「そうか、ならば私がその怨みを晴らす機会を与えてやろう。」
「何?」
「これより我らはマルコ王子を旗頭にクーデターを起こす。」
「何、クーデターだと…」
グレンは立ち上がる。
「マルコ様が王になられた暁には、お主がヨハンに代わり騎士団長だ。」
「お、オレが…騎士団長…」
グレンは拳を握る。苦しかったこの5年間を思い出していた。
「やれるな?」
「ああ。」
グレンは迷いなく返事をした。
「2時間だ。何人集められる?」
「3000…いや、5000。」
「十分だ。2時間後、貴様たちはここから真っ直ぐ王城を目指せ。」
「ああ。承知した。」
「武運を。」
「ああ、お互いに。」
カルロスは振り返り、兵士たちを連れて『のほほん』のギルド会館に向かう。
グレンは叫ぶ。
「お前ら!聞いてたな!今すぐ人を集めろ!すぐにだ!俺たちがこのリルアを取るぞ!」
「「おう!」」
グレンたちも行動を開始したのであった。
そのころ、ルイスはメルロア姫の部屋にいた。今ここにいるのはルイスとメルロア、アリア、あとはメルロアとアリアのお付きのメイドが5人ずつである。
「おじい様。」
メルロアがルイスを呼ぶ。
「なんですかな?メルロア姫。」
「おじい様、『緋花』というギルドのマスターとはお会いになられたことは?」
「ええ、ございますよ。むしろ、昨日まで、ほぼ毎日一緒でした。」
「おじい様、その方はどのような方なのですか?」
「はい、それはそれは素晴らしい方です。」
「素晴らしい方…」
メルロアは考える。今の自分の状況を。メルロアは今、リオネルとアースという二人の異世界人から求愛されていた。父である王ボノもどちらかは決めあぐねていたが、のりのりで話を進めていた。メルロアも分かっていた、英雄の妻になる身であることを。しかし、メルロアは二人の妻になるのは嫌だった。メルロアから見て二人は英雄というにはカリスマが足りないというかなんというか…
だから、謁見の間で『緋花』というギルドの話を聞いたとき、これだと思ってしまった。しかも、その『緋花』には約100人のメンバーがいるという。100人の異世界人の頂点なら、きっと二人よりも…と考えてしまったのだ。
「おじい様、お願いがあります。」
「な、なんですかな?」
メルロアは決意の篭った眼差しでルイスに話し掛ける。嫌な予感を感じながらルイスは聞き返す。
「おじい様、わたくしを戦いが見える場所に連れていってくださいませ。」
「な、なんと…」
「決して戦いの邪魔致しません。危なかったら、すぐに逃げます。」
「なぜ…ですか?」
「どうしても、どうしても『緋花』のギルドマスター様が戦っている姿をこの目で拝見したいのです。」
メルロアの迫力に圧倒されるルイス。ルイスは救いを求めてアリアを見る。しかし、目が合ったアリアは首を横に振った。メルロアが言い出したら聞かない子だと分かっているのだ。
ルイスとメルロアは、裏口から城をこっそり抜け出し、街壁に向かうのであった。
この行動がメルロアはともかくルイスの命を救うことになるとは二人にはまだ分かってはいなかったのであった。




