動き始めるリルア
三人称です。
スティファニア王国の王、ボノ=スティファニアは長い間子宝に恵まれなかった。しかし、ボノが40歳を超えてから2人の側室から3人の子が生まれたのだ。長男クスタ、長女メルロア、そして腹違いの次男マルコ。長男クスタは今年で20歳。メルロアは17歳、マルコは16歳になる。王ボノは今年で60歳。この世界のヒューマンの平均寿命は約60歳。ボノはもういつ死んでもおかしくない歳になってしまった。ここで、スティファニア王国に後継者問題が浮上する。
年齢的にも実績的にも次の王はクスタがなると思われている。しかし、ボノは末っ子のマルコがかわいくて仕方がなかった。クスタとメルロアを産んだ女性より、マルコを産んだ女性の方を愛していたということもあり、ボノはクスタを後継者に指名しないままで60歳を迎えてしまったのだ。
側近たちも二派に分かれた。クスタを後継者に押す筆頭は騎士団長のヨハン。マルコを押すのは財務大臣のカルロス。こんなご時世なので表立っては争わないが、裏ではかなり激しくやり合っていたのだ。
そんなとき現れた異世界人たち。そして運悪くリルアに拠点を持っていたギルドは2つ。力関係の良く似た二つのギルド、サーバーギルドランキング9位『のほほん』と10位『北斗』。ギルドマスターも両ギルドともダークエルフの美男子。
彼らは王からの要請を受け、あっという間にリルア周辺の魔物を一掃してしまった。そんな強者の彼らをヨハンとカルロスが放っておくはずがなかった。ヨハン陣営は『北斗』をカルロス陣営は『のほほん』を取り込んだ。
彼らは『北斗』のギルマス『アース』と『のほほん』のギルマス『リオネル』に囁いたのだ。勝った陣営の英雄がメルロア姫を娶れるであろうと。
それを聞いたアースとリオネルは舞い上がった。メルロア姫、彼女はヒューマンでありながら、その美貌は異世界人のエルフたちを凌駕する。しかも本物の姫としての立ち居振舞い。謁見の際に目にしたアースとリオネルは目を奪われた…いや、心を奪われてしまったのだ。
ゲーム時代は仲の良かった二つのギルドなのであるが、このときからメルロア姫を賭けてアースとリオネルの手柄合戦が開始された。いや、手柄だけではない。街の外では二つのギルドの小競り合いが頻繁に起こるようになり死者まで出る事態に発展していた。
こんな状態のリルアの街に『UDON』、『雪中花』、ブレナンの街の『イチゴ大福』、キャベルの街の『綾鷹』を傘下に収めた巨大ギルド『緋花』が接触することで事態は混沌としていき、やがて最悪のクーデターに発展するのである。
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柚子誘拐事件から約2週間。ねむ率いる『緋花』はスティファニア王国の首都リルアまであとひとつの街キャベルまでの道を解放していた。キャベルの街に拠点を置くギルド『綾鷹』も協力的なギルドですぐに『緋花』の傘下に入ることが了承された。
これで『緋花』は『UDON』5人、『雪中花』9人、『イチゴ大福』20人、『綾鷹』10人、『緋花』のまだ合流していない4人を含めた50人を合わせると総勢94人の巨大ギルドに発展していた。
この日、キャベルの領主館には『緋花』の主力メンバーとキャベルの領主、ラズベルトの領主ルイス=レーコードが集まり今後の方針の話し合いをしていた。
ルイスの発言から事態は動き出す。
「ここからなら、一足先に王城に行くことは出来ませんか?」
「ああ、まあ、行けるやろな。」
ルイスの発言にねむが率直な意見を述べる。キャベルからなら飛竜を使えば魔物を無視して半日ほどで着けるはずだ。
「王子クスタ様と王女メルロア様は私の娘の子。孫なのです。一刻も早くお会いしたくて。」
ルイスはクスタとメルロアにもう10年も会っていなかった。1番成長する時期に会えなかった。どのように美しく成長したのか、一刻も早く会いたいという気持ちを抑えきれなかった。
「ほな、先に会ってくるか?」
悩んだ末にねむは言った。ルイスの心痛な面持ちに情に流されてしまったのだ。しかも今まで順調だった。順調すぎた。王都が裏で内戦状態にあるなど想像も出来なかった。ねむはリルアに拠点を置くギルドが『のほほん』と『北斗』であることは把握していた。しかし、二つのギルドは仲が良いと記憶していた。アースとリオネルのことも知っていた。二人ともいいやつであったのだ。まさか、メルロア姫を賭けて争っているとは夢にも思わなかった。
「良いのですか?」
「ええんちゃうか?うちから護衛付けるさかい。」
「それは助かります。」
ねむはいつものようにミサキに意見を求める。
「ミサキ?護衛誰にする?」
「龍でいいんじゃない?」
ミサキはいつものように龍やんを指名する。最近めきめき実力を上げ、主力メンバーの会議にも参加するようになった龍やん。ミサキには龍やんがもっと手柄を立て、主力に定着してほしいという目論見もあった。
「オレ、飛竜持ってないっすよ?」
「じゃあ、僕の1個上げるよ。」
龍やんの言葉にエルは龍やんに向かって召喚笛をひとつ投げた。チェカで『CRAY』から奪った飛竜は7つ。はれ、ソルト、安枝に上げたが、まだ4つも残っていた。折を見て『緋花』の誰かに上げようと考えていたのだ。今回はエルにとっていい機会だったのだ。エルはとても龍やんを信頼していた。最近、模擬戦で1番挑んでくるのが龍やんだったのだ。エルにも見えていなかった。リルアの荒れた未来が。
「ほな、龍やんくん。よろしゅう頼むわ。他に誰か付けるか?」
「んー。大丈夫っす。」
「ほな、決まりやな。明日の朝一で出発でええか?ルイスさん。」
「ええ、ありがとうございます。」
「ほな、今日の会議はこれで終わりやな。お疲れさん。解散。」
「「お疲れ様ー。」」
ねむの宣言で会議は終了し、各々会議室をあとにする。ミサキは龍やんを追い掛ける。
「龍!」
「ミサキさん。お疲れっす。」
「うん、あんた、今回頑張んなさいよ。」
「オレはいつも頑張ってますよ?」
「分かってるけど、今回は特に。」
「へいへい。」
「何よ!その返事!」
ここ最近、恒例になったこのやり取りを『緋花』のメンバーは暖か目で見守るのであった。
翌日、キャベルの街の1の鐘が鳴ると同時に龍やんはルイスと共にリルアに向かって出発した。キャベルの街の街壁の上、そこには飛竜に乗る龍やんを見えなくなるまで見送るミサキの姿があったのである。
龍やんはリルアの街の門を潜り、王城に向かう道で思った。この街なんかギスギスしているなと。特に転移者たち。たまに見掛けるのだが、こちらに警戒の目を向けてくる。武器に手を掛け身構える者までいる始末。今までとは違う…龍やんはそう感じ取った。
「ルイスさん、王城に着くまで絶対に離れないでくださいよ。」
「ああ、了解した。」
龍やん自身もリルアにいる転移者たちへの警戒を一段階上げるのであった。
何事もなく王城の堀に架かる橋を渡り、城門に到着した二人。門の兵士にルイスが何事か話し掛けると、城の中に伝令が走り、少し待たされたあと、謁見の間に通されたのであった。
謁見の間の大きな両開きの扉が開かれ、ルイスは赤い絨毯の真ん中を、龍やんはその左斜め後ろを歩く。
龍やんは謁見の間を観察する。
赤い絨毯の先には数段の階段があり、階段の上には豪華なひとつの椅子が置かれ、そこに座るは白髪の顔のしわが深い老人。老人ではあるが体が大きく威厳がある。赤いマントを羽織り、頭には王冠が。王ジノ=スティファニアである。
階段の下、王の左側には3人立っている。3人とも金髪である。ひとりは精悍な顔付きを青年。彼が王子クスタ。ひとりは薄いピンク色のドレス着た線の細い絶世の美少女。彼女がメルロア姫。もうひとりはその二人の後ろに立つ、薄い紫色のドレスに身を包んだ妙齢の女性。この女性はルイスを見た瞬間、大粒の涙を流し出した。彼女がルイスの娘なのだろう。
階段の右側には、神経質そうな銀髪の男性とその後ろに控える茶髪のダークエルフ。王子マルコと『のほほん』のギルドマスター、リオネルである。
ルイスが片膝を付き頭を下げる。龍やんもそれに倣う。
「ルイス、ルイス=レーコードであるか、久しぶりであるな。」
王からルイスに声が掛かる。
「はい、お久しぶりであります。王ジノ様もご健勝のようで何よりであります。」
「うむ、ルイスもな。して、そちらは?」
ジノはルイスに龍やんは何者かと尋ねる。
「オレ…じゃなかった。私はギルド『緋花』の龍やんと言います。」
龍やんは自己紹介をした。
「ギルド『緋花』とな?そのギルドは大きいのか?」
「はい、傘下も含めると現在約100人が在籍しております。」
「なんと。100人もか…」
ジノの顔に喜色が浮かぶ。
その様子を見ていたリオネルの表情が曇る。メルロア姫争奪戦、アースだけでも厄介なのに、嫌なやつらが出てきたなと…
ジノとルイスの話は進み、ジノは言った。
「アリアや、クスタ、メルロアとも10年ぶりであろう。仲良くするのじゃぞ。」
アリアとはルイスの娘である。そのジノの言葉に薄い紫色のドレスを着た妙齢の女性アリアがルイス向かって小走りで駆けてくる。
「お父様!」
「アリア!」
立ち上がったルイスの胸にアリアが飛び込む。クスタとメルロアはゆっくりとアリアを追い掛けて歩いて来ていた。
そのときである。
カンカンカンカン
城内にけたたましい鐘の音が響き渡る。親子の再会を微笑ましい表情で見ていたジノが叫ぶ。
「何事じゃ!」
ひとりの兵士が謁見の間に飛び込んできた。
「き、緊急事態です!魔物の群が!魔物の群が、リルアの街を包囲しつつあります。その数凡そ10万!」
「な、何!10万じゃと…」
ジノは椅子にへたり込む。さすがの異世界人でも10万の魔物はキツイと思ったのだ。
龍やんも動く。一刻も早く情報を確認し、ねむに、ミサキに、エルに報告しなければならないと思ったのだ。
「ルイスさん!アリアさんたちを連れて安全な場所に。オレは街壁に様子を見に行ってくるっす。」
「ああ、気をつけてな。」
「はい。」
龍やんはルイスを置いて城の外に向かって走る。城の中でルイスたちがまさか危険な目に合うとは考えもしていなかった。
龍やんはリルアの街を疾走する。街の門はもう固く閉ざされていた。街壁の上に続く階段を駆け上がる。そこで目にしたのは夥しい数の魔物たち。龍やんは逸る気持ちを抑え、続々と集まりくる魔物の群を確認する。そして見付けた。地平線の向こうから見え始めた巨大な魔物。他の魔物の10倍から20倍はあるであろう、その巨体。それが2体。下半身が蛇で髪の毛も蛇の女性のような姿をした魔物と日本の侍のようなぼろぼろの鎧を着た土色の肌の巨人。
「ギルドボスかよ…」
龍やんはぼそりと呟く。ギルドボス…それはギルド単位で戦うクエストのボスのこと。
「あれは『クインステビア』と『キングカルロン』だな。」
状況を確認した龍やんはねむに連絡を入れたのであった。




