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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
幕間3
33/50

イーストポートのタコと塩

ラズベルトでもトーリでもチェカでも料理の味が薄い。しかし、サーラの料理は上手い。その原因は何か…それは塩と香辛料である。先の3つの街では香辛料が少なく、内陸部であるため塩も貴重だ。

では、何故サーラには塩があるのか、それは領地内で岩塩が取れる場所があるからだ。だが、残念ながら他の街に輸出出来るほど取れるわけではなかった。



塩がほしいなら海沿いの街に行けばいいじゃない。僕が行った中で海沿いの街がひとつあるじゃない。

ということで、再度やって来ました、イーストポート。

前回はグラビオさんを連れてきたので少しの時間しか滞在しなかった。今回はずんと柚子と3人でチェカの転移神殿からやって来た。1泊2日の予定だ。現在は3本の魔法の箒に分かれてイーストポートの壁に沿って飛んでいる。

壁の外に転移者が誰かいないかなぁと思ったのだ。イーストポートを拠点にするギルドは『ノエル』と『LEMON』という二つの中堅ギルドで両方とも人数は20人。計40人の転移者がいるわけなのだが、残念ながら僕たちの知り合いの中にその40人とフレンド登録をしていた人がひとりもいなかったのである。

今のところ、新たにフレンド登録をするやり方は見付かっていない。



飛びながら街を眺める。土地は海の方から壁に掛けて斜めに上がっていて海に伸びる道はどれも下り坂だ。そして家は石造り。チェカやサーラは屋根が水平だったが、イーストポートでは斜めだ。色は白色で、チェカより綺麗でサーラよりくすんでいる。屋根の色だけ黒いのが特徴的かな。

そして、視界の向こうに広がる広大な海。もう日本ではお目にかかれない綺麗な青色の海が地平線の彼方まで続いている。

「綺麗な海に綺麗な街ですねぇ。私、鎌倉に住んでいたので、坂道の感じがなんだか懐かしいです。家の感じは全く違いますけど。」

柚子が感嘆の声を上げる。

「わたしの家の近くの海はあんなに綺麗じゃないなぁ。」

「愛知の海はあんまり綺麗じゃないからね。」

僕とずんの出身は愛知だ。愛知の海は…綺麗だと思ったことはないな。



海上には木造の小型の船が何隻も浮かんでいる。きっと漁をしているのだろう。海に魔物はいないのかな?『エネーボ・レボリューション』では海の魔物の描写はなかった。普通に漁をしているのだし、きっといないのだろう…と、思いながら船を眺めていたときであった。

「あ。」

柚子が、海の方を指を差す。そちらを見ると海から巨大なタコの足が生えて1隻の船に絡みついたところであった。

「助けに行くよっ!」

「はい!」

「うん!」

僕たちは箒に乗ったまま壁を越え、海に向かう。本来は街の上空は飛ばないようにしているのだが、今は緊急事態だから仕方ない。

そうこうしているうちにも次々に海からタコの足が生え、船たちが逃げ惑う。

「柚子は風の魔法でタコを攻撃して。僕とずんは海に投げ出された人たちの救助!」

「「了解!」」

サーラの魔法使いに柚子を見せると、柚子には水と火以外にも適正があることがわかった。柚子には火、水、風、雷、光の5つの適正があったのだ。しかも魔力は僕やずんをはるかに凌駕するらしい。

あんな適当な発句で魔法が使えるのはそれが原因のようだ。本人に言わせると全然適当ではないらしいが…

「風さん、切れ切れ!」

相変わらずの柚子の発句で、風のカマイタチが2つ飛び、タコの足はちょん切れる。うん、すごい威力。



僕とずんは海面すれすれを飛び、壊れた船の木片の間を人がいないか探す。あ、いた。男性ひとりを発見。海から持ち上げる。ずんもひとり見付けて持ち上げているのが見えた。さあ、この人をどうするか…逃げ惑う船を追い掛けるのもあれだし…港だな。

「ずん!港に運ぶよ。」

「うん。」

男性を抱え港に向かって飛ぶ。港には人がたくさん集まって来ていた。その中に見覚えのある顔。『LEMON』のギルドマスターの『安枝』さんだ。安枝さんはエルフのエルダーだ。ちょうどいい。

「安枝さん!」

僕は安枝さんに向かって飛ぶ。

「エルさん?ずんさんも?」

安枝さんも僕たちに気付いた。僕とずんは安枝さんの近くに男性二人を降ろす。

「この人たちの治療お願いします。」

「うん、もちろん。大丈夫なの?」

「何がです?」

「巨大タコ相手に女の子ひとりで戦ってるけど…」

安枝さんは海上で巨大タコをひとりで相手取る柚子を指差す。

「はい、大丈夫なんですよ、あの子は。」

そう大丈夫なのだ。柚子は高いところが好きなせいか箒での飛行技術は僕たちの中で断トツに上手い。そこに、僕たちを軽く凌駕する魔力…柚子はゲーム時代のステータスがなければ、この世界で恐らく最強だったのだ。

海上に目を向けると柚子はタコの足を華麗な飛行技術で回避し、風の魔法で次々に切り刻んでいく。

「ね、大丈夫そうでしょ?」

「柚子ちゃん、すごーい。」

ずんも柚子の活躍を嬉しそうに見ている。

「うん、なんだかすごいね…」

「はい、僕たちも一応戻ります。まだ、溺れている人いるかもしてませんし。」

「いこ、エル。」

「おう。」

僕とずんは柚子の方に向かって箒を飛ばせるのであった。



海上にはもう10本の巨大タコの足が浮いている。タコの足は8本じゃなかったのかよ…まあ、タコ足に似てるってだけでタコかどうかは定かではないのだが…

「僕はもうちょっと人が落ちていないか探すよ。タコのトドメ手伝ってあげて。」

「うん、了解。」

ずんは僕から離れ柚子の方へ飛んでいく。

僕は海上を捜索しながら、柚子とずんの戦いをちらちら見る。おっと発見。木片に捕まる腕を見付けて男性をひとり引き上げる。

柚子とずんの戦いも佳境を迎える。海上に見える足2本のうち、1本を柚子が斬り飛ばすと、海上に遂に胴体が浮上してきたのだ。やっぱりタコじゃん…

「ずん!柚子!トドメ!」

「「うん!」」

僕の叫びに二人は反応する。

「ライトニングレイ!」

「雷さん!落ちてきて!」

ちょ、柚子、お前それはっ。僕は慌てて高度を取る。

次の瞬間、ずんの右手から光の弾丸が放たれ、タコの頭部に穴が空いた。


ズドドドドドーーーーン


耳をつんざく爆音が響き、大きな雷が空から巨大タコの胴体に直撃した。海上を電気が走るのが目でも見えた。よかった。僕も感電死するところだった。

「柚子ー!やりすぎ!僕まで死んじゃうよっ。」

「ご、ごめんなさい。つい、使ってみたくなっちゃいました。」

「もう、柚子ちゃん。エルが立たなくなったらどうすんのさ。」

「ひぇー、それは困るー。」

何が立たなくなるんだよっ。

こうしてずんと柚子は巨大タコ討伐に成功したのであった。僕たちは海上に散らばるタコ足をアイテム欄に突っ込み、タコの完全にゆで上がった胴体を引き摺って港に向かったのであった。



壊された船に乗っていたのは3人で3人とも助けることが出来ていた。他にいたら柚子の雷で死なすところであった。他の海上で船に乗っていた人たちも無事であった。よかったよかった。僕らの中の殺人第1号が柚子になるところだったよ。



港では僕が引き摺って持ち帰ったタコの胴体でタコ焼きパーティーが始まった。タコ焼きっていっても生地がないので、本当にタコを焼いただけなのだが、これが非常に美味かった。他のタコ足は貰えることになったので、各街にお裾分けしようと思う。

普段からタコの魔物は出るそうなのだが、ここまで大きいのは初めてとのこと。運がいいのか悪いのか…まあ、死者も出ず美味しいタコも食べられたので、良かったのかな?



次の日、僕はイーストポートの領主さんと面会することが出来た。

「この街で塩は作ってますか?」

「ええ、塩田がございますので。」

「その塩、譲ってもらうことは出来ないでしょうか?」

「それはいかほど?」

「人口5万人の街で流通するほどで。」

「!?」

ちょっと多すぎるかな?それでも、ラズベルトの街だけでももっと流通させたい。ラズベルトの領主さんからも頼まれている。…まあ、頼むように仕向けたんだけど…

「この街で足りていない物は何かないですか?」

「そうですね…海からの風の影響で穀物が育ちにくいですね。」

「それだ!」

「え?」

「あ、失礼しました。ラズベルトでは小麦の生産が盛んで余っています。それと交換でどうでしょう?」

「ラズベルト?ラズベルトとはあのスティファニア王国のラズベルトですか?どうやってそんな遠い距離を…」

「それは任せてください。これから、この街の転移神殿に行って転移魔方陣を起動させますから。」

「な、何!転移魔方陣ですと?」

「はい、現在、ラズベルトの他、ブルナン、トーリ、サーラ、チェカで起動出来ています。」

「な、なんと…」

「細かい調整は僕では分からないので、領主同士で話し合って頂くということで。」

「は、はい…」

このあと、僕は半信半疑の領主さんを引き摺って転移神殿に行き、ずんと柚子に手伝って貰って転移魔方陣を起動させた。

こうして、ラズベルトにも塩が流通するようになったのであった。



ちなみに各街にタコ足を持って遊びに行ったとき。だいたいのところは喜んでくれたのだが、ソルトさんには「大きすぎですっ。」と怒られてしまった。そのあと、チェカの街の人たちを集めてタコ焼きパーティーをしたのであった。

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