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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
幕間3
32/50

続クリマパレスの7人

三人称です。

ジルバニア帝国の帝都クリマパレス、その白亜の帝宮の中の廊下を外に向かって歩く5人がいた。先頭を肩で風を切って歩くのは『るき』、エルフの美女。そのあとを暗い顔をしたヒューマンの『かずゆ』の背中をダークエルフの『まりりん』が押している。その後ろからエルフの美少年『菊』とダークエルフの美少女『ナタリー』がこそこそ話しながら続く。

彼女らとすれ違う帝宮のメイドや執事、職員たちは道を開け、頭を下げる。彼女らはクリマパレスの英雄なのだ。半月ほど前、騎士団長が連れてきた彼女らは、あっという間にクリマパレスの周りに生息していた魔物を掃討してしまったのだ。今はこの帝宮に住みながら、街のパトロールや街の外での偶発的に現れる魔物の討伐を担ってくれている。実はあと二人いるのだが…



「ちょっとかずこ、落ち込みすぎ。」

「だって…だって…かずこって言うな…」

帝宮を出て街の門までの道のりで、どんより落ち込み続けるかずゆに業を煮やしてまりりんが言うが、かずゆの突っ込みにいつもの切れはない。

「まりとるきは悲しくないんですか?エル様が、1日定時連絡に出なかったと思ったら昨日、ずんさんと柚子さんと付き合ったって…」

自分のどんよりした気持ちを口にしてさらに落ち込む、かずゆ。そんなかずゆに先頭を歩くるきが言い放つ。

「ぜんっぜん悲しくないよ?ね、まり。」

「うん。」

「どうして…」

かずゆには二人の気持ちが分からない。4年間もの間、エルという1人の男性を追い掛け続けた同士なのに。

「だってさ、元々エルくんってさ、うちらと付き合いそうになかったじゃない?」

「そそ。てか、女に興味があるのかも怪しかった。」

「そんなエルくんがさ、一辺に二人も彼女を作ったんだよ?」

「そ、これは逆にチャンス。」

「どっちかひとりだったら、うちらに入り込む隙はなかったかも。」

「うん、だけど、二人の女…」

「これで、エルくん、罪悪感に負けてうちらの愛も受け入れてくれると見た。」

「うん、見た。」

るきとまりりんは胸の前で力強く拳を握る。

「な、なるほど…そうか…そうですよね。これで私たちのことも受け入れてくれるんですね。」

「そうそう。」

「そゆこと。」

二人の力強い言葉にかずゆの顔色はみるみる良くなっていく。そして人に見られてはいけない表情を浮かべながら呟いたのであった。

「そうすると、エル様とあんなことや、こんなことを…ぐへへへへ。」

そんなかずゆを見て、るきとまりりんは少し引いたのであった。



そんな3人の会話を後ろで聞いていた菊とナタリー。

「そんなに上手くいくと思う?」

「いかないっしょ?」

「だよね…」

「柚子さんってのは知らないけどさ、エルさんとずんさんって異常に仲良かったじゃん。」

「そうだね。」

「収まるところに収まったって感じ?」

「りんさんいいのかなぁ、こんなところで『夢』にうつつを抜かしてて。」

「いいんじゃない?二人とも楽しそうじゃん。知らぬが仏だよ。」

元々の年齢も近く、クリマパレスに来てからはペア的によく二人っきりで過ごすことの多い二人は、実はお互いに惹かれ合い始めているのだが、関係が進展するのはもう少し先の話である。



門から外に出て近くの森まで馬で移動して魔物の討伐を始めた5人。もう掃討を終えたあとなので、魔物の数は少ない。るきが盾で攻撃をいなし、菊の弓矢とナタリーの魔法スキルで狩っていく。かずゆとまりりんは周囲の警戒…という名のサボりである。

「で、『りんた』と『夢』は?」

「市内パトロールという名のデートですか?」

暇な二人は、るきが食い止めている魔物に必死に攻撃を加える菊とナタリーに話し掛けた。

「はい、たぶん…」

「あたしらが起きたときには、もう二人居なかったよね?」

「うん。」

「最近、いっつもこう。」

怒ってるふうに見せ掛けているナタリーだが、菊と二人っきりになれて実は喜んでいたりする。

「りんたはいいのかな?ずんのこと?」

「分かってないだけでしょ。ずんちゃんから報告受けたって昨日言ってたけど、夢ちゃんの前もあって落ち込む態度見せるわけにもいかないし。まだ、どうにかなるって思ってるんじゃない?」

まりりんの言葉に、るきが答える。るきは今、自分たちの2倍の大きさのある狼のような魔物2頭の牙での攻撃を盾で防ぎ続けているのだが…結構余裕がある。

「まだ、ミサキさんやじゅんさんがいる…とか思ってるんじゃないですかね?」

「ああ、なるほど…」

ナタリーの言葉にまりりんは納得する。『緋花』で『ミサキ』や『JUN』がりんたに気があるのは皆気がついていた。

「でも、ミサキさんもじゅんさんもエルフなエル様に会っちゃった訳ですよね…」

「うん、二人もどうなってるか怪しい。」

かずゆとまりりんの言葉。実際、JUNはエルに惹かれ始めている。ミサキもエルではないが、新たな恋に目覚めようとしているのであるが、クリマパレスにいる7人には知るよしもない話であった。

菊とナタリーが魔物にトドメを差しているのを少し見守ったあと、るきはかずゆとまりりんに向かって歩く。

「夢ちゃん、かわいいから幸せになってもらいたいよね。」

「うん、夢捨てたらりんた許さない。」

「りんたさんのあそこ引きちぎってやりますよ。」

3人は無邪気にりんたへの愛情を表現する夢を思い浮かべ決意を語るのであった。



「へっくしょん。」

「大丈夫ですか?りんたさん?」

その頃、りんたと夢は皆の言う通り、クリマパレスの街中を市内パトロールという名のデートに勤しんでいた。りんたの腕にべったり絡み付く夢…完全にデートである。そんなとき、りんたが盛大にくしゃみをした。るきたちの噂のせいだろうか。

「ああ、うん、大丈夫。ごめんね。」

「いえいえ。風邪じゃないですよね?」

「うん。違うと思うよ。この体、風邪とかひきそうにないしね。」

油断すれば普通に病気になるのだが、元の体より丈夫なのは間違いない。

「昨日から少し元気がない気がしますよ?大事な体なんですから気を付けてくださいね。」

「ああ、そうする。」

元気がない原因は病気ではなく、昨晩のずんからの連絡にあるのだが…夢に言えるわけもない。しかし、りんたは楽観視していた。りんたとずんの関係は長い。『エネーボ・レボリューション』を始める前からの関係だ。他のソシャゲで知り合い、りんたがずんを『エネーボ・レボリューション』に誘ったのだ。ずんに会えば、ずんはきっと自分を見てくれるはず。それにミサキやじゅんだって、ゲームの中では自分に気がある素振りだった。ラズベルトに着けばハーレムだ。などと考えていた。りんたは決して悪い人間ではない。むしろ善人である。しかし生粋の女好きなのだ。それに今は何よりも夢のことが大切であった。どんな芸能人よりも可愛い夢。夢を見ているとずんのことも忘れることが出来た。

「さあ、パトロールを続けよう。あ、そのカフェ良さげじゃない?」

「わぁ、ほんとだ。お洒落です。これはパトロールしなければなりません。」

りんたと夢は仲良くカフェでお茶するのであった。



クリマパレスの帝宮の謁見の間。その部屋の奥の豪華な椅子に座る女帝エリザベート=M=ジルバニアとその傍らの立つ、騎士団長アレス=パッカード。エリザベートの顔には数週間前までの厳しい表情はない。アレスが連れてきた異世界人7人によって、クリマパレス周辺の魔物は一掃され、隣街二つとの交流を再開することが出来た。これにより苦しかったクリマパレスの食糧事情は回復の兆しを見せている。

クリマパレスは元々は人口100万人を超えるエネーボ大陸1の都市であった。しかし魔物の氾濫により、その多すぎる人口が仇となったのだ。帝宮から蓄えを放出したが全く足りず、この10年で、人口は10分の1の10万人にまで落ちてしまった。エリザベートが皇帝の位を継いだ2年前からはバラバラに住んでいた民衆を一ヶ所にまとめ、空いた家を潰して畑を作ったが、まだ十分な作物が出来るような土になっていなかった。

クリマパレスはあの7人によって救われたのだ。しかし…エリザベートには悩みが残っていた。

「あのりんたという戦士ではダメなのですか?」

アレスはエリザベートに聞く。ダメというのは、エリザベートの純潔を捧げる相手としてダメか?ということである。

「うむ。ダメじゃな。」

「どうして…」

「どうしても何も、明らかにるき殿たちの方が格上じゃろうが。」

「た、確かに…」

クリマパレスを救った7人の英雄のうち、男性は2人。しかし、その2人よりも、女性のるきたちの方が誰から見ても格上であった。

「わらわが抱かれる男性は最強の戦士でないといけないのじゃ。」

「はぁ、そうですか…」

実は別にりんたや菊でも良かったのである。アレスや他の側近たちもりんたでいいじゃんと思っていた。しかし、27歳まで処女のエリザベートは拗らせていた。りんたや菊を見て、惹かれるものを感じなかったのだ。

「かずゆ殿の話ではスティファニア王国にいるエルという魔法使いが最強だとか…」

「そう言っておられましたね…」

エリザベートは肩肘をつき、宙に視線をやりぼそりと呟く。

「会うてみたいな、エル殿とやらに…」

エリザベートはまだ見ぬエルに思いを馳せる。アレスはその呟きを聞かなかったことにしたのであった。

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