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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
革新の日
3/50

目覚め

鼻先を擽る風と太陽の光を感じ、静かに目を開ける。そして目を疑った。青空が見える…なんでやねん。僕ベッドで寝たよね?寝た状態のまま顔を横に向ける。後頭部に土の地面と草の感触。そして目に入ったのは草だった…どういうこと?僕夢遊病だっけ?僕はゆっくりと上半身を起こす。そして目に飛び込んできた光景…

「うわーーーーーーーーーーーー!!!」

僕は思わず叫んでしまった。僕が今寝転んでいたところは草むら。そして視界の先に数本の木が生えており、その手前を白い体毛の虎のようなものが3頭闊歩していたのだ。3頭は僕の叫び声を聞いて一斉にこちらに顔を向ける。口には長い牙が見えた。

なんだこれなんだこれ。僕はお尻を地面に着けたまま手の力で後退る。食われる?今すぐ逃げ出したいけど目を離すのも怖い。僕はじっと3頭を睨む。3頭もこちらを見たままピクリとも動かない。

どれくらい睨み合っただろうか。僕には小一時間は経ったように感じられたがきっと数分だろう。このままでは埒が明かないと考えた僕は勢い良く立ち上がることにした。

「いくぞー。せいのっ。」

小声でそう呟きながら僕は飛び上がるように立ち上がった。3頭の牙の長い虎たちはビクリと体を震わせるとゆっくりと後退る。なんで後退る?僕食われるんじゃないの?

飛び起きたときに自分の腰の左右に何かがあるのに気付いた。顔を3頭に向けたまま自分の腰をまさぐる。革の感触、そして細長い。何これ。僕はちらりと腰に視線を向けて見る。そして驚愕する。黒いズボンに皮の膝の下まであるブーツ、腰にベルトが巻かれそこに革の鞘が吊るされていた。しかし1番驚いたのはそこじゃない。

「僕ってこんなに足長かったっけ?」

である。

はっとして3頭に視線を戻すが、動きはない。再度視線を下に向ける。草むらの中に2本の剣が落ちているのが見えた。剣?双剣?これであれと戦えるのか?いやいや、無理でしょ。でも拾うしかない。

僕はさっと屈み、2本の剣の柄を掴みまたさっと立ち上がる。すると3頭は先ほどより1段を大きくビクリと体を震わせ、背を向けて一目散に木々の向こうへ逃げていったのであった。



「なんで逃げた?僕を恐がった?まさか…」

混乱中の頭で考えても分かることはない。物語の定番として僕の後ろに強い魔物が?それだったら大変だ。振り返りキョロキョロする。見渡す限り草むらで、膝の高さくらいの岩がところどころ顔を出している。そして見付けたのだ、僕から10メートルくらい離れた草の中に1人の女性が寝そべっているのを。

黒い髪に白いローブ、足には茶色のブーツを履いた状態で横向きに寝そべる女性、そして気付いてしまった、耳が尖っていることに。

「え、エルフ?」

ゆっくり近付く。すると頭に「ピンっ」という機械音が鳴り、寝そべる女性の上に文字が表示された。そこには『柚子』と書かれていた。

「ゆ、柚子ちゃん?」

僕は女性に走り寄り上向きにする。

「美しい…」

僕は思わず呟いてしまった。黒髪のショートカットに髪と同じ色の形の良い眉、高過ぎず低すぎない鼻、可愛いピンク色の唇、目は閉じられているがかなり大きそうだ。それらのパーツが完璧な状態で配置された小さな顔。僕は今まで見たことのある女性で1番美しいと感じた。

「柚子ちゃん!柚子ちゃん!」

僕は柚子ちゃんと思われるエルフの肩を両手で揺する。

「ん、んんんん…」

柚子ちゃんはゆっくりと瞼を開ける。瞳の色は藍色だった。なんか吸い込まれそうだ。

「わ、わわわ、どちらのイケメンエルフさんですか?」

柚子ちゃんは飛び起き、僕から距離を取る。

「イケメンエルフ?僕だよ、エルだよ。」

「え、エルさん?」

「そうそう。柚子ちゃんだよね?」

「はい、柚子です。どういうことですか?どういう状況ですか?ていうか、ここどこなんですか?」

それは混乱するよね。僕だっていまだに混乱してる。

「僕もさっき起きたばかりだからよくわからないんだ。」

「そうなんですか…」

「ていうか、さっきイケメンエルフって言わなかった?」

「言いましたよ。だってエルさんエルフですよ?」

まじか…僕は自分の耳を触ってみる。げ、長い…

「まじか…エルフか…ちなみに柚子ちゃんもエルフだよ?」

「え、まじですか?」

「うん、まじまじ。」

柚子ちゃんも自分の耳を触っている。

「わぁ、耳が長い。私、エルフなんですね。なんか得した気分。」

「得?なんで?」

「だってエルフって美人なんですよね?」

「ああ、正直めっちゃかわいい。」

「えへへ、照れますね、えへへ。」

柚子ちゃんはにへらと笑う。その顔がなんとも言えず可愛いかった。



二人で岩に腰掛け、今の状況を整理することにした。

「で、これってどういう状況だと思う?」

「ライトノベル的にはゲームの中に閉じ込められたとかですかね?」

「柚子ちゃん、ライトノベル読むんだ?」

「はい、少しですけど。SA◯とかこんな感じじゃなかったでしたっけ。」

「こんな感じだった気がするね。さっき3頭の虎がいたんだけどさ。」

「!?虎ですか!いきなり大ピンチじゃないですか。」

「ああ、うん、まあ、そうなんだけど、今思えば昨日柚子ちゃんと『エネレボ』の中で戦ったクーガーに似ていた気がする…」

「寝起きにリアルクーガーと遭遇ですか?どんな無理ゲーですか。それでどうしたんですか?さくっと倒しちゃったんですか?」

「いや、それが、なんか逃げていった…」

「ぷふっ。エルさん第1世代だから恐かったんでしょうね。」

「わ、笑うな。まあ、そういうことなのかなぁ。」

まあ、いきなり戦闘になってもどうすることも出来なかっただろうから逃げてくれて助かった。



「私の顔ってどんなんです?」

「え、かわいいよ?」

僕がそういうと柚子ちゃんは顔を赤くして手をパタパタさせた。

「もう、エルさん…照れちゃいますよー。そういうことじゃなくてリアルの私の顔との違いを知りたくて。『エネレボ』だとみんな一緒の顔だったじゃないですか。」

そうなのだ。『エネーボ・レボリューション』は所詮はスマホ用のゲームアプリだったので、エルフの女性ならエルフの女性全員が一緒の顔をしていたのだ。髪の色だけは変えられたか。

「ああ、そういうことね。僕、リアルの柚子ちゃん知らないからなぁ。鏡もないし…」

「そうですよね…」

「あ、ちょっと待って。」

僕はさっき拾って革の鞘に収めてあった剣を1本引き抜く。

「わ!何するんですか。」

「ごめんごめん。剣の腹に映るかと思ってさ。」

「なるほど。」

僕は剣を自分の顔に近付ける。

「私も。」

柚子ちゃんも顔を近付けてきて反対側に自分の顔を映している様だ。剣の中の自分の顔をマジマジと見つめる。そこには銀髪のエルフが映っていた。

「お、映った。んー。リアルの自分に似てるって言われれば似てる気がするけど、凄い美化されている感じかな…」

「私も悲しいけど、そんな感じです…エルフ補正なんですかね。」



「そういえば、エルさん。私を柚子ちゃん柚子ちゃんって呼んで起こしてくれましたよね?」

「ああ、そうだね。」

「どうして私が柚子だと分かったんです?」

「ああ、それはね。柚子ちゃんをじっと見てたら名前が柚子ちゃんの上に表示されたんだ。」

僕はまた柚子ちゃんをじっと見つめる。するとまた頭の中でピンと機械音が鳴り、『柚子』と表示された。

「ほら、ここ。見えない?」

僕は表示された『柚子』という文字を指差す。

「見えませんねぇ。」

柚子ちゃんは僕が指差した方をキョロキョロ見てから答えた。

「見えないのか…」

「はい…エルさんでやってみます。」

柚子ちゃんはじっと僕を見つめる。その可愛すぎる顔で見つめられたら照れちゃう。

「あ、見えました…エルさん!名前、エル=グランドになってますよ!」

「まじか。この世界では隠蔽の書は効果ないってことかな。」

「そうかもしれませんね。」



柚子ちゃんと話していると視界の右下に『MENU』と書かれた半透明の文字を見付けた。どこを向いても視界の右下にある。

「エルさん?何をキョロキョロしてるんですか?」

「ああ、視界の右下にメニューボタンを見付けてさ。」

「あ、本当だ!」

どうやって操作するんだろう?僕は右手の人差し指を『MENU』に伸ばしてみる。すると『MENU』は押されたようなエフェクトになりまりまた頭にピンという機械音が鳴り、僕の目の前に『エネーボ・レボリューション』のときのステータス画面のようなものが浮かび上がった。

「わ、ステータス画面だ!柚子ちゃん見える?」

「見えませんね。人のは見えない仕様みたいですね。私もやってみます!」

柚子ちゃんが右手の人差し指を前に突き出すのをちらりと見ながら、自分のステータス画面に視線を戻す。『エネレボ』のときとはずいぶん違う。

まず左の1番上に名前『エル=グランド』。そして本来その横に表示されているはずの職業、所属ギルド、レベルなんかはない。所持金額だけが表示されている。その下、本来はキャラの姿が表示され、装備やステータスなんかが表示されているはずだが、それもない。あるのは所持アイテムだろうか、見覚えのあるアイテム名が並ぶ。指でスクロールするとアイテム名がさらさらと流れる。

右側は上側が地図で下側がフレンドリストだ。地図は周りの地形が表示されていて指で拡大したり縮小したり出来る。真ん中の赤い点が僕だろう。柚子ちゃんの位置には何も表示がないので自分しか表示されないのだろう。

フレンドリストは元々のフレンドリストのままだが、スクロールしていくと明るく表示されている名前と暗く表示されている名前がある。柚子ちゃん、ずんちゃん、りんさん、ねむさん、るきにかずゆにまりりん、72サーバーにいたメンバーが明るく表示されていて、72サーバーに来る前に出会った他のサーバーにいるはずの奴らは暗い。

フレンドリストをスクロールしていくと気になる名前が明るく表示されていることに気付いた。

(うげ、こいついつ72サーバーに来たんだよ。こいつが来てるとなるとちょっと厄介だな…)

嫌な予感がプンプンする。そして気付いた。

(オレの装備!換装のストックがない!)

僕は慌ててアイテム欄をスクロールする。この世界がどんな世界かは分からないが、いや、分からないからこそ双剣士の姿では心許ない。ソーサラーに着替えたい。

変な汗が脇をつたう。やばいやばい。

アイテム欄の1番下に『世界樹の杖』と『常闇のローブ』を見付けて、ふーと長いため息が漏れた。これどうやって出すんだろ?

「エルさん!見てください、回復薬(弱)!不味そうです!」

柚子ちゃんがガラスのビンに入った緑色の液体を見せてくれる。確かに不味そうだ。

「それどうやって出したの?」

「アイテム名タップすると手の中に出て来ました!」

僕は自分のアイテム欄から『常闇のローブ』を選んでタップする。すると僕の腕の中にぽすっと漆黒のローブが畳んだ状態で現れた。換装機能はないようだ。

「あ、昨日のローブ!」

「ああ、うん…」

「あれ?」

「えっと…」

「はい?」

「ちょっと着替えてくるね。」

僕は木があるほうに向かって走ったのであった。



木陰でソーサラーの装備に着替え終わった。脱いだ双剣士の装備はどうやって収納するのか?始め、「収納」と言いながら触れてみたが何も起きなかった。『MENU』を開いたまま、装備に触れるとすっと消えてアイテム欄の1番上に文字で表れた。

「わぁ、ローブ姿カッコいいです。」

柚子ちゃんの元に戻ると誉めてもらえた。照れる。

「あ、ありがとう…」

「あ、杖は腰に掛けられますよっ。」

柚子ちゃんははらりと自分の白いローブの裾を捲り、腰に付けた杖を見せてくれる。そのとき、ショートパンツから伸びる綺麗な足が目に入り思わずごくりと唾を飲み込んだ。

「エルさん?どこ見てるんですか?」

「え?ええ、ああ、つ、杖、杖ね。」

僕はあたふたしながら『世界樹の杖』を腰に装着した。

「もう、エルさんのエッチ。ふふふ。」

ばれてる!僕は急いで目を反らし明後日の方向を見るのであった。



「これからどうします?」

そう、この草むらにずっといるわけにもいかない。

「ちょっと確認したいことあるんだけど、着いてきてもらっていい?」

「もちろんです。ていうか置いていかれるなんて嫌です。どこに行くんですか?」

「うん。リーセの村にね。」

「あ、分かりました!復活スポットですね。」

「そうそう。」

復活スポット。『エネーボ・レボリューション』では死んだときは1番近くの復活スポットから復活出来た。ペナルティも特になかった。PKなんかも気分が悪いだけでペナルティはなかった。

「この世界での『死』がどんな意味を持つか。死んだら終わりなのか、死んでもゲームみたいに復活出来るのか。まさか死んで確かめるわけにも行かないしね。」

「なるほど。復活スポットがあれば、復活出来るし、なければ出来ないってことですね。」

「そゆこと。」

「どうやって移動します?」

「ゲームだと走って5分くらいだったけど…」

辺りを見渡す。草と木と小さな岩しかない。

「5分じゃ着きそうにないですね。」

「ああ。そこで柚子ちゃん。馬の召喚笛持ってたよね?」

「はい。」

「使ってみようか。」

「おお、お馬さん、楽しみです!」

僕たちはアイテム欄から『馬の召喚笛』を取り出し吹いてみた。すると地平線の彼方から黒い馬が2頭走ってきた。

「なんか、でかくない?」

「わぁ、かわいいー。」

聞いてないし。なんか、日本にいた馬より2回りくらい大きい気がする。どうやって乗るんだ、これ。

柚子ちゃんは馬の鼻の頭を撫でて舐められている。うらやま…いやいや、違う違う。

僕は馬の背中に着いた鞍に両手を付き力を入れる。すると体は簡単に背中の上までいき、股がることが出来た。すげえ体軽い。この体の運動能力の高さを知った瞬間だった。

柚子ちゃん大丈夫かと見ると柚子ちゃんの馬は4本の足を折って座り、柚子ちゃんが楽々と股がると鞍上を気遣うようにゆっくりと立ち上がった。めっちゃなつかれてるやん。

「よし、行こうか。」

手綱を動かすと馬は行きたい方向に向かって走ってくれた。乗馬なんかしたことないから不安だったが大丈夫そうだ。柚子ちゃんも後を付いてくる。馬大きいから1頭だけ呼べばよかったなぁ。そうすれば…と邪なことを考えながらリーセの村を目指すのであった。

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