逃亡の大和
三人称です。
早朝のトーリの街を奥の方へ奥の方へと人目を避けるように気絶した柚子を担いで疾走する大和。
次第に人が目立つようになり、避けるのが難しくなってきた。そんなとき大和の肩の上で変化が。柚子がもぞもぞ動き出した。
「ちょっと?もしかして、大和さんですか?下ろしてください。」
柚子の言葉に誰もいない路地へ飛び込み、柚子を下ろす。
「これはどういうことなんですか?ヒロくんはどうしたんです?ギルド会館へ戻りましょう?ね。」
大和の尋常ではない状態を察知して説得を試みる柚子。しかし…
「柚子ちゃん、いや、柚子。一緒に逃げて二人で暮らそう。な。」
「な、何を言ってるんですか。いやに決まってるじゃないですか。」
「柚子はオレのことが好きなんだろ?分かってる、分かってるさ。今までなかなか二人っきりになれなくてごめんな。」
「なななな、何を言ってるんですか、私が好きなのは」
「うるさいうるさい。言わなくても分かってる。さあ、行こう。」
全然会話にならない。
「大和さん…ヒロくんはどうしたんですか?」
「あいつうるさいからオレが斬ったんだ。良かっただろ?」
「な、なんてことするんですか!」
柚子は大和に掴み掛かる。
「うるさい!」
パチン。柚子の頬は大和に叩かれた。崩れ落ちる柚子。大和はアイテム欄から手拭いのような物を取り出す。
「柚子が静かにしないから悪いんだよ。」
柚子に猿轡を噛ませたのであった。
「さあ、行こう。」
大和は柚子の腕を持って強引に立たせ引き摺って行こうとする。それに抵抗する柚子。
パチン。また柚子の頬は叩かれる。赤く腫れる柚子の右頬。しかし柚子は大和を睨み付ける。パチン。またそこに平手打ちが飛ぶ。
「柚子が悪いんだよ。聞き分けがないから。」
柚子は従うしかなかったのであった。
柚子を引き摺った大和は近くの民家に入った。リビングでは1組の中年の男女が朝食を取っていた。急な来客に男の方が反応する。
「なんなんだ、あんたら!」
詰め寄ろうとする男性の腹に大和は剣を突き刺した。崩れ落ちる男性。
突然の事態に声も出せずへたりこむ食事中だった女性。
「んんん!んんんんんんんんんんー!(何を!何をしてるんですかー)」
柚子は大和の後ろから飛び出しアイテム欄から回復薬(大)を取り出し男性の腹に掛けた。男性の傷は塞がっていく。柚子はついでに杖も取り出し猿轡をされたまま大和に向かって構える。
しかし、大和は動じない。
「柚子。杖を下ろせ。でないとこの二人を殺す。」
先ほど平然と剣を突き刺したのだ。ヤりかねない。柚子は杖を下ろすしかなかった。
その様子を満足そうに眺める大和。アイテム欄から大量の手拭いを取り出す。
「柚子。この二人の手足と口を縛れ。」
柚子はしぶしぶ動き出す。女性に目で謝って、女性と男性を縛り上げた。
「今度は柚子だ。」
大和は柚子の手足を縛ったのであった。
どれくらい時間が経ったであろうか。縛られた柚子と女性は床に座らされていた。男性はうつ伏せに寝転んだままだ。まだなんとか息があるようだ。
その部屋の中を大和は何かを考えながら落ち着きなくうろうろ動き回っている。
「あ、そうか、結婚するんだから契りを交わさないとな。」
うろうろしていた大和は急に立ち止まって言い放った。
柚子はその言葉の意味を察し絶望する。
柚子に近付く大和。なんとか逃げようと体をくねらせる柚子。しかし簡単に捕まってしまった。寝室に引き摺って行こうとする大和になんとか抵抗しようと体を動かす柚子。
パチン。そんな柚子の頬に大和の平手が飛ぶ。今からの行為に興奮しているのか、先ほどまでのビンタよりも強かった。軽く脳震盪を起こす柚子。抵抗虚しく寝室のベッドの上に放り投げられたのであった。
ベッドに柚子を放り投げた大和は自分の上半身の服を脱ぎ捨て、柚子に迫る。服の上から柚子の胸を揉む。柚子は体をくねらせて抵抗を試みる。
「柚子、キスするよ。」
大和の言葉に顔を必死で横に振る柚子。お構い無く柚子の猿轡されたままの顔に顔を近付ける。
柚子は思った。私の唇はエルさんのものだと。柚子は、迫り来る大和の顔面目掛けて額で渾身の頭突きを噛ましたのであった。
柚子の頭突きを受け大和の顔は後ろに跳ねられ、大和の鼻からは鼻血が…
「下手に出ていれば、このあまっ。」
パチンパチンパチンパチン。大和は柚子に往復ビンタを喰らわす。柚子の両頬は見る見る赤く腫れ上がっていく。そして、大和はぐったりした柚子の服を掴むと強引に引きちぎった。あらわになる小振りだが形の良い胸。
ここまで来て柚子はやっと冷静になれた。エルのために貞操だけは守らなければと。自分には魔法がある。エルが伝授してくれた魔法。エルと別れたあともコツコツ練習を重ねたのだ。こういう時のために魔法があるのではないかと。手は後ろで縛られている。でも、きっと出来る。いや、絶対にやるんだ。
まずは大和を自分から離れさせる魔法。自分の顔の前から高圧洗浄機のような水が放出するイメージをする。
大和はあらわになった柚子の胸に手を伸ばそうとしている。今だ!
「んんんん、んん、んん!(水さん、行け行け)」
すると、柚子のイメージ通り顔の前から水が発射され大和の胸に直撃、大和はベッドの向こうに吹き飛んだ。
「ゆーずー、お前はー。」
怒りの形相で立ち上がる大和。
柚子の次のイメージは、大和の真下から噴き出す間欠泉。
「んんんん、んんんんん!(水さん、噴き出して)」
大和の真下から水が噴き出した。水は大和を持ち上げ家の屋根を突き破り空に向かって噴射したのであった。
噴射が終わると大和は屋根に開いた穴から落ちてきて床に激突したのであった。
ちょうどそのころ、エルとずんは大和は奥へ奥へと逃げると踏んで柚子が監禁されている家から少し通りすぎたところを探していた。目撃情報もあったので、近くにいると踏んでいた。
そんなときであった。
ズバババババ
大きな音が響き渡った。音の方を見ると街中で大量の水が噴き出していたのであった。
エルとずんは視線を合わせ頷き合い、噴き出した水の方に全力で走ったのであった。
走っていると水の噴射は収まったが屋根に大きな穴の空いた家を見付けた。
玄関から飛び込む二人。そこには口と手足を縛られた中年の男女。男性は意識がない。
「ずんちゃん!」
「うん。」
エルが叫ぶと同時にずんは二人に駆け寄り縛っている手拭いを取り、男性の治療を始める。
「寝室です。早く!」
猿轡が外れた女性は部屋の奥にある扉を指差した。エルはその扉を開け部屋に飛び込む。エルがそこで見た光景は…ベッドの上で口と手足を縛られ、頬が赤く腫れ上がり、服が破られ胸があらわになった柚子と、ベッドの近くにいる上半身裸でずぶ濡れのダークエルフ。エルの視界はまた色を失っていく。
「んんんん!(エルさん)」
猿轡を噛まされたまま、上半身を起こし柚子は叫ぶ。
「柚子、ごめん。僕のせいだ。僕の…」
エルは柚子に近付き、ローブを脱ぎ柚子に羽織らせる。
「また、またお前かっ。オレの邪魔を、オレと柚子の邪魔をするなっ!」
大和はエルの登場に怒りをあらわにし、腰の双剣を抜き放つ。そしてエル目掛けて振りかぶったのだ。
エルはその光景を全く感情のない表情で見ていた。エルには大和の動きがスローモーションのように見えた。
唐突に放たれるエルの右ストレートは双剣を振り上げた大和には認識出来ないスピードであった。エルの拳は大和の顔面を捕らえ、大和は家の壁を突き破り外まで飛んでいった。
「ずんちゃん!」
エルの叫びにも似た呼び声にずんは男性の治療を切り上げ寝室の中へ。
「エルさん?柚子ちゃん!」
柚子の状態を察し柚子の拘束を外し治療を始める。
その様子を見て、エルは安心したように頷くと飛んでいった大和を追い掛け、壁に開いた穴から外へ出ていってしまったのであった。




