大和の悲恋
「うう…頭痛が痛い…」
「わたしもちょっと気持ち悪いかも…」
『クロネコ』のギルド会館での宴会の次の日…じゃないな、約5時間後、僕とずんちゃんは猫田さんの案内で魔法使いさんのところへ向かっていた。はれさんはまだ眠っていたので置いてきた。
「なんやなんや、最強のソーサラー様も酒ではわいに構わんてか、はっはっはっ。」
猫田さんは今日も元気だ。僕の3倍は飲んでいたはずなのに…
昨日、猫田さんが大量に買っていたメル酒という酒は果実酒で口当たりは非常に良いのだが、度数も非常に高い。完全に飲み過ぎた。数時間で起きれた自分を誉めてあげたい。
「あ、あれかな?」
「そや、あれや。」
サーラの街は白くて四角い石造りの家が多いのだが、1軒だけ屋根が斜めの木の家が見えたのだ。
「こんにちはー。」
3人で玄関から中へ入った。玄関から正面の部屋の向こう側に水晶が乗った机があり、その向こうに全身黒のローブを着た老婆が座っていた。おお、如何にもって感じ。ただ…なんか、僕を凝視してない?
「あの…」
「ひ、ひーーー。」
僕が一歩近付いて声を掛けると老婆は悲鳴を上げ、椅子から転がり落ちた。
「おばあちゃん!」
ずんちゃんと猫田さんは椅子から転がり落ちた老婆を助ける。僕は一歩近付いた状態で固まったのであった。
ずんちゃんたちが助け起こした老婆から話を聞いた。
彼女が僕を怖がった理由は魔力の大きさ…ではなく、闘気というものの大きさらしい。簡単に言うと強さいうことのようだ。彼女にはそれが見えるようだ。ゲームでいうとステータスの高さってことかな?魔物が僕やベルゼブブから逃げる原因もこれのようだ。
魔力に関しては、僕よりもずんちゃんの方が大きいらしい。猫田さんも僕よりは少ないがあるらしい。
あくまで僕の推測だが、僕らが使うスキルは、闘気を消費して発生するのではないだろうか。それに対し、『アイスバレット』などの魔法は、魔力を消費するようだ。
ちなみにこの世界の人は大きさの違いはあるが全員魔力を持っているらしい。使えるかどうかは教養の差で決まるのだそうだ。
そしてこちらの魔法…使ってみてもらったのだが…
「△□○▽○火よ!」
詠唱を唱えるようだが、その詠唱が聞き取れなかった。これは古代エルフ語なのだそうだ。『MENU』の自動翻訳機は古代エルフ語には対応していないようだ。残念。
威力に関しても…まあ、対して強くなかったよ。飛び出した火の玉は僕が右手で握り潰したのだから。
次に僕が氷魔法しか使えない原因だが、人は生まれながらに使える魔法が決まっているようだ。お金を取られたが、机の上の水晶で調べてもらうことが出来た。
ずんちゃんは風と光、猫田さんは火、僕は氷と空気らしい。僕の空気というのは空気をなくしたり…ではなく、空気を重くするらしい。もしかして重力のことだろうか?まだこの世界には重力の概念はないみたいだから、たぶんそうだろう。これを使いこなせればベルゼブブと次戦うときに有利を取れるかもしれないな。
ちなみに光と空気はかなりレアなのだそうだ。
「ねぇ、光って回復あるぽいよね?頑張ればジベータさんの左腕も治してあげられるかな?」
「なんや、ジベータの左腕って?なんかあったんかいな?」
「エルさんが切り飛ばしちゃったんだよねぇ。」
「うわぁ、エルさん、えぐいわぁ。」
ずんちゃんと猫田さんの会話。あれは仕方なかったし、猫田さんには酒の席で昨日話したよね?
たくさんの欲しかった情報が得られ、大満足で僕たちは魔法使いの老婆の元を去ったのであった。
その日の夕方前、サーラの街の転移神殿に僕たちは向かった。猫田さんにはサーラの街の領主を連れてきてくれるように頼んだ。これからサーラの街に歴史的なことを起こすからだ。そう、サーラとチェカの転移魔方陣を繋げるのである。
はれさんに『クロネコ』のギルドメンバーのほとんど、領主さんにその他大勢のサーラの街の人が見守る中、僕とずんちゃんは転移魔方陣に手を付く。前回、魔力を吸いとられ過ぎて倒れた教訓を生かしずんちゃんにも手伝ってもらうことになった。ずんちゃんから申し出てくれたのだ。
「いくよ。」
「うん。」
「教えた通りにね。」
「了解。」
僕は前回同様魔方陣に魔力が流れ込むイメージをした。すると、やがて魔方陣からの吸引が始まったのだ。
魔力を吸引され始めて数分後、魔方陣が目映い光を放ち始めた。
「おーーーー!」
周りから歓声が上がる。
「よし。」
「けっこうキツいね。」
「でしょ?でも、ずんちゃんのお陰で今回は倒れずにすんだよ。」
「へへん、やるでしょ、わたし。エルさんより魔力多いらしいし。」
「さすが、女神ずん様でございまする。」
「もう。それはいいから。そろそろ行くよ。」
「ああ。」
少しいちゃついた後、僕とずんちゃんは手を繋ぎ魔方陣に向かって踏み出す。
「「チェカ。」」
目の前が一瞬暗くなる。そして、すぐに明るくなった。先ほどまでと神殿の形は同じだが、大勢の人がいない。その先の景色も違う。少し薄汚れた白い石造りの家々。1日しか経っていないのに懐かしく感じる。間違いなくチェカの街のようだ。
「やったね、成功だ。」
「うん、なんか懐かしいね。」
ずんちゃんも同じ感想を抱いてくれていたようだ。
「ちょっとソルトさんに連絡入れとくよ。」
「そうだね。」
僕は『MENU』を開き、ソルトさんに連絡を入れる。
「エルさん?どうしたんですか?なんかありました?」
すぐにソルトさんの声が聞こえた。
「いや、チェカとサーラの転移魔方陣を繋げたから、それの報告。」
「え?転移魔方陣?え?えーーーーーー!」
「グラビオさんに見張り立てるように言っといてね。」
「え?え?え?はい?わかりました?」
とても分かってなさそうな、分かりましたを聞いたあと通話を終えた。
「さ、戻ろっか。」
「うん、そだね。」
「「サーラ。」」
再び魔方陣に乗る。一瞬で景色変わり、大勢の人が集まる神殿に戻ってきた。僕はずんちゃんと繋がれた手を上に上げ叫ぶ。
「成功でーーす!」
「おおおおおおおお!」
地響きのような歓声が上がった。周りを見渡す。誰も彼も嬉しそうだ。それはそうだろう。他の街なら、魔物さえなんとか出来れば他の街へ行ける。しかし、この街は違うのだ。一般の人が砂漠を越えるには今のところ、転移魔方陣しかないのだ。
サーラの街の領主さんが僕たちに近付いてきた。ド○クエのトル○コのような人だ。
「いやー、本当にありがとう。なんとお礼を言ったらいいか。」
「いえ、当然のことをしたまでですよ。僕たちにも必要なものですし。近いうちにラズベルトやトーリとも繋げますね。」
「ああ、期待しているよ。さあ、酒と料理を用意した。ぞんぶんに飲み食いしてくれ。きみたちが主役だ。」
「はい、ご相伴に預からせてもらいます。」
僕と領主さんは握手をしたのであった。
辺りは暗くなったが、転移神殿の周りはたくさんの人々が酒を片手に盛り上がっている。僕はずんちゃんとはれさんを置いて一足先に『クロネコ』のギルド会館の客間に帰らせてもらった。
「昨日、返事が素っ気なかったのは宴会中だったんですね。」
「素っ気なかったかなぁ、ごめんね。」
「いいんですいいんです。そんなことだろうと思ってましたから。」
僕は日課の柚子との通話を楽しんでいた。柚子と別れてから1日も欠かしたことはない。
「重力魔法でしたっけ?どうなんですか?」
「まだ、使ってないからわからないけど、想像ではかなり使い勝手はいいと思う。重力は予想してなかったから試してなかったよ。」
「そうですよね。なかなか予想出来ませんよね。私の属性は火と水ってことなんでしょうかね?」
「ん?火?火も使えるの?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?私もいろいろ試したら火が使えたんです。料理するのに使ってます。」
「料理?ギルドのみんなに?」
「はい。」
「うらやましすぎる…」
「ふふふ、エルさんと合流できたら腕によりをかけますよ。」
「楽しみにしてる。明日の昼頃にはラズベルトに着けると思うから夕方には会いに行くよ。」
「それはダメです。」
「え?どうして?」
「明日はラズベルトに泊まってください。『緋花』の皆さんもエルさんの帰還を心待ちにしているはずですから。」
「そうか?そうかな。そうかも。分かった。じゃあ、明後日ね。」
「はい、お待ちしてますね。」
柚子との通話を終えた。僕は即日トーリに向かわなかったことを後悔することになるとは、このとき露程も想像出来なかったのであった。
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とあるギルドマスターの話。
彼は地球の日本にいたころは生粋のオタクであった。慣れれば面倒見がいいのだが、人見知りにあまり良くないルックスもあって、女性と付き合いどころか、話す機会も滅多になかった。
彼はとあるゲームにハマった。そのゲーム内で自らギルドも立ち上げた。しかし、加入してくれるのは男ばかりであった。
しかし、ある日たまたま一緒にクエストしたフリーの女の子に声を掛けると快く加入してくれたのだ。その女の子の名前は『柚子』という。
その後の彼の生活は一変した。ギルド内で話す柚子との会話。特に弾むというわけではなかったが、あまり女性に接してこなかった彼には何にも変えがたい宝物になったのだ。
そんなとき起きた転移事件。
彼はトーリの街のギルド会館に転移していた。彼は真っ先にギルド会館内で柚子を探し回った。柚子以外のメンバーは全員見付かった。しかし、どれだけ探しても柚子は見付からなかった。
彼は絶望した。柚子のいない異世界になんの意味があるのかと。
転移してから数時間経っただろうか。落ち込む彼の頭の中に着信音が響き渡り、『MENU』が勝手に開かれた。そこには『柚子』と表示されていた。慌てて通話を繋ぐ彼。耳になんとも可愛らしい女の子の声が飛び込んできたのであった。彼は舞い上がった。女性とのチャットではない会話など、母親以外では何年ぶりであっただろうか。
彼は柚子との待ち合わせ場所に浮かれた気持ちで向かった。連れの男性がいるらしいが別に問題ないだろうと考えていた。柚子は自分に気がある。彼はそんなふうに考えていたのだ。
待ち合わせ場所に現れたエルフの少女。まるで、彼の大好きアニメからそのまま飛び出してきたような見た目をしていた。
しかし、問題があった。彼女は連れの男性と手を繋いでいたのだ。ふつふつと沸き上がる連れの男性への怒り。漂ってくるピンク色の空気。彼はなんとか二人を引き離せないかと考えた。そして成功してしまったのである。
彼は柚子の自分への気持ちを確信した。間違いなく自分のことが好きだろうと。どんなタイミングで告白されるのか。そんなことを考えていた。自分から告白なんて考えもしなかった。
ある時、彼は気が付いた。ギルド会館の周りでこちらを監視する人影がいることに。柚子が買い物や、宿屋に帰るためにギルド会館を出るときは常に彼らと行動していることに。
彼は柚子を問い詰めた。柚子はあっさりと答えた。『緋花』の友達が護衛してくれているのだと。彼は引き下がるしかなかった。邪魔だと思っていたのだが。
柚子とのギルド会館での生活は楽しかった。柚子が作ってくれる料理はどれも美味かった。柚子と結婚した気分になっていた。
ギルドのメンバーたちは相変わらず引き込もっていたが、『ヒロ』というヒューマンが柚子になつき、ギルド会館内で柚子に着いて回るようになった。そのときはそんなことも彼には些細なことであった。
柚子とのギルド会館での生活も10日が過ぎたであろうか。
ある日の朝、ギルド会館に来た柚子は彼に言ったのだ。「明日エルさんが迎えに来るんです。一緒にラズベルトに行きましょう。」と。
これは彼と柚子との幸せな生活が終わることを意味していた。彼はイライラした。
翌日の早朝、まだ日が昇る前、「柚子さん、柚子さん」五月蝿いヒロの背中を剣で斬りつけた。倒れるヒロを見て思い付いた。これをだしに柚子を誘い出そうと。今なら護衛たちも寝ているはずだ。そしたら二人で逃げようと。
まず彼はギルドメンバー全員をヒロが倒れているところに集めた。そして言った。バラバラに逃げろと。誰かに捕まったら、ヒロみたいに斬るぞと。ギルドメンバーは青い顔をしてギルド会館から飛び出して行ったのであった。
少ししたら、思惑通り柚子はひとりで血相を変えてギルド会館に駆け込んできた。ヒロに駆け寄ろうとする柚子の首の後ろにアニメで見た通りに手刀を落とした。柚子はあっさりを意識を手放しその場に倒れた。倒れた柚子を肩に担ぎ、彼は朝日が昇ろうとする街に姿を消したのであった。




