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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
プロローグ
2/50

プロローグ2

毒きのことの戦闘を終え、柚子ちゃんを見る。柚子ちゃんはマカイロドゥスから上手く距離を取り、的確にスキルを叩き込んでいた。

「『緋花』のエル。覚えておけよ。」

そのときワールドチャットで毒きのこからのメッセージが届いた。何を覚えとけばいいのだろうか?彼の負けっぷりかな。ていうか、僕との戦力差が分からないのだろうか?相当レベルが離れていないと相手をスキル1発…まあ、トルネードスタンを含めて2発だが、それだけでキルすることは出来ない。きっと彼は今までキルされたことがないんだろう。まあ、あのレベルならこの新設サーバーなら無双状態だよな。僕だけならいいけど、僕が現在所属しているギルド『緋花』のメンバーに迷惑掛けたくない。『緋花』もサーバー4位の上位ギルドなのでそんなに甘いメンバーはいないんだけど、『CRAY』はこのサーバーでは別格だからな。しかし、最近の『CRAY』の行いは目に余る。さっきの毒きのこみたいな第2世代を何人か引き入れたという噂を聞いた。それで調子に乗っているんだろう。潰すか…

まあ、あんな阿呆より今はかわいいかわいい柚子ちゃんである。マカイロドゥスは足を引き摺るモーションに変わった。HPが残り1%を切ったときのモーションだ。マカイロドゥスはあのモーションになるとあの攻撃が来る。

「突進くるよっ。気を付けて!」

「え?は、はい!」

僕はステータスウインドウを素早く開き、装備の換装をストック1に変え、ステータスウインドウを閉じる。僕のキャラは先ほどまでの軽戦士の装備に変わっていた。

マカイロドゥスはガルルと唸り、今までは前後の動きが全くなかったのが嘘のように柚子ちゃん目掛けて突進を仕掛けた。柚子ちゃんは必死に逃げる。エルフは移動速度が速いキャラではあるがマカイロドゥスの方がずっと速い。僕は両腕をクロスさせた防御姿勢のままマカイロドゥスと柚子ちゃんの間に躍り出て、マカイロドゥスの突進を止める。

「柚子ちゃん!止め!」

「はい!フローズンスピア!」

逃げていた柚子ちゃんは立ち止まり、杖を構えてスキルを発動する。氷の塊が着弾しマカイロドゥスはその場に倒れ、やがて消えていった。あとには大きめの魔石の他にナイフ、槍、盾と杖が落ちていた。



「やった!やりましたよ、エルさん!」

「うんうん。途中、変な横槍が入ったときはどうなるかと思ったけど、無事倒せて良かったよ。」

「本当ですよね。あいつ『CRAY』でしたね。偽りの漆黒のソーサラーさん?」

「あはは。やっぱり見てたよね。」

「それは見えますよ。画面の端の方にちらちらっと。」

「なはは。」

「エルさん、もしかしてレベルも誤魔化してます?あいつ1000オーバーでしたもん。」

「うん、まあね。」

「そんなこと出来るんですね。」

「うん、3年前にね。ステータス隠蔽の書っていうのが、初期ユーザーだけに配られたんだ。配った運営の意図はわからない。」

「へぇ、それでステータスを書き換えれるんですか?ていうか、エルさんってもしかして第1世代?」

「なはは。ステータスは書き換えれるんじゃなくて部分的に隠す感じかな。僕の場合は職業とレベルの千の位を隠してる。」

あとは名前もなんだけどね。

「エルさんってもしかして凄い人?」

「ぜんぜん。普通普通。所詮ゲームの中の話だし。」

「私なんかと遊んでて楽しいですか?」

「んー。そういうこと言われたくないから隠してるんだよね。」

「なるほど。」

「第2世代が入ってきたあとのエネレボはさ、なんかギスギスしてて辛かった。1年前、72サーバーにやってきて、『緋花』のメンバーに出会ったり、半年前に柚子ちゃんに出会ったりしてさ、なんか初期の頃を思い出して楽しかったんだ。だから、その、これからも一緒に遊んで貰えると…」

「もちろんです。こちらこそです。変なこと言ってごめんなさいです。私のギルド、この時間に動いている人いないんでエルさんが遊んでくれて、私凄くうれしいです。」

「それはよかった。」

ほっとした。柚子ちゃんと話していると凄く楽しいんだよな。

「エルさんの正体知ってる人ってどれくらいいるんですか?」

「正体って…そうだな。ずんちゃんとりんさん、るきとかずゆとまりりん。あとは『緋花』のギルマスのねむさんかな。」

さすがにギルマスに隠すことはやめた。スキル使わなくて手を抜いてるとか思われたくなかったし。

「なるほど。その方々も第1世代だったりするんですか?」

「るきとかずゆとまりりんはそうだね。あとは第3世代だよ。」

あの3人とはもう4年の付き合いになる。なぜだか僕を慕って付いてきてくれている。苦楽を共にしたかけがえのない仲間だ。



「それで、ドロップしたものはどうします?」

ああ、ドロップ品忘れてた。

「柚子ちゃんに全部あげるよ。武器なんかはギルドメンバーにあげればいいし、いらなかったら売ればそこそこ金になるし。」

「いいんですか?ありがとうございます!」

「いえいえ。」

柚子ちゃんはキャラを動かしドロップ品を回収した。

「この杖、どうですかね?魔法攻撃力は上がるけど、命中率は下がるみたいです。」

柚子ちゃんはさっきドロップした杖をステータス画面で見ているようだ。

「柚子ちゃんはエルフなんだし、命中率に補正が付くんだから魔法攻撃力重視でいいと思うよ。それにさっきみたいなエリアボスなんかは基本的にでかいから命中率低くても当たるしね。」

「なるほど。ちなみにエルさんがさっき持ってた木の枝みたいな杖は何なんですか?あんまり強そうに見えませんでしたけど。」

「ああ、あれ。あれは『世界樹の杖』って言うんだよね。」

「せ、世界樹…やっぱり強そうです…」

「あはは。」

それから僕たちは雑談を交わす。雑談こそMMOの醍醐味のひとつだよね。柚子ちゃんは雑談しながらステータス画面の中にあるランキング表を見ているようだ。

「どこのサーバーランキングも『CRAY』ばっかりですね。あとは『東部連合』と『祭り』がちらほら。あ、物理攻撃ランキングにねむさん発見!7位かぁ、すごいなぁ。エルさんやるきさんたちは入らないんですね?」

「んー。それは謎なんだよなぁ。攻撃力のランキングは1スキルでどれくらいダメージを与えたかだから職業外の武器を使ってる僕らがランキングに載らないのはわかるんだけど、防御力はなぁ。ステータス隠蔽の書を使ってるとランキングに載らないとかあるのかも。」

まあ、ランキングに載りたくないから都合いいんだけどな。

「全サーバーランキングの魔法攻撃力の1位の人凄いですよねっ。1億って…私、100万くらいしか出ないんですけど…桁が違い過ぎる…」

「なははっ。」

「ギルド『AAA』のエル=グランドさんですって。」

「なははっ。」

「…エル=グランドさん?エル=グランドさん、エル=グランドさん…もしかして、エルさん?」

「なはは。」

「笑って誤魔化された!」

嘘は付きたくないけど、公言は避けさせてもらおうかな。

スマホの時計をちらりと見る。午前3時を指していた。



「そろそろ寝ようかな。」

「はい!今日もありがとうございました!」

「いえいえ。こちらこそ楽しかったよ。」

「あの、明日も23時ごろからインするんですけど、0時くらいから空いてますか。」

「うん。空いてる空いてる。ノルマ終わったら個人チャット飛ばして。」

「はい、わかりました。」

「じゃあ、おやすみね。」

「はい、おやすみなさい。」

柚子ちゃんはログアウトしたようでその場から姿が消える。僕は、少しエロい話で盛り上がるギルドチャットを少し眺め、ねむさんがいることを確認すると今日の『CRAY』の毒きのことの件を報告。何人かワールドチャットを見ていたようで心配された。いい人たちだ。

「どうする?」

ねむさんから個人チャットが飛んできた。

「ギルドに迷惑掛けるようなら潰します。」

『緋花』のギルドメンバーはみんないい人たちだ。だからこのギルドを守るためなら隠蔽がばれても仕方ないと思おう。僕ひとりでもなんとかなると思うけど、るきたちにも手伝ってもらったら楽勝だな。



ログアウトする前にずんちゃんとるきとかずゆとまりりんに「おやすみ」と個人チャットを飛ばす。ずんちゃんはまだ起きていたようで、「おやすみね。」と返ってきた。まだ起きてたのか…「早く寝なよ。」と返すと「はーい。」と返ってきた。あとの3人は返信がないのでもう眠っているのだろう。

時刻は午前3時半、さすがに眠たくなってきた。スマホを握りしめたまま、ベッドに転がり目を閉じる。あ、充電しなきゃ。僕は目を閉じたまま枕元をまさぐり、手に触れたコードを引っ張りスマホに突き刺した。そして夢うつつのまま、『エネーボ・レボリューション』での過去を振り返る。ただただ楽しくて仕方なかった5年前、仲間たちと我武者羅に強さを求めた4年前、それまでの仲間たちと別れ新たな仲間たちとギスギスしながらも前へ進んだ3年前、頂点を極め燃え尽き症候群となっていた4年前、のんびり和気あいあい仲間たちと馬鹿やってる今現在。柚子ちゃんやずんちゃんといった素敵な女性とも出会えて僕のエネレボ史の中で今が1番楽しいかもしれない。こんな感じがずっと続けばいいな。そんなことを考えながら僕はスマホを握りしめたまま夢の世界に旅立ったのであった。



ーーーーーーーー

地球ではない、いや、銀河系ではない名もなき惑星。

聖皇歴326年、水の月10日。

この日、この星に約1万人のこの星に住む人とか隔絶した力を持った戦士たちが転移してきた。

彼らはのちに、この星に混乱と混沌を、さらにのちには平和をもたらす。

後世の歴史家はこの日のことを『革新の日』と呼ぶ。

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