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エネーボ・レボリューション  作者: 春夏秋冬
チェカの街解放作戦
19/50

決戦前夜

『エデン』のギルド会館に戻り、僕、ずんちゃん、はれさん、松ちゃん、ソルトさん、グラビオさんの6人でテーブルを囲んでいる。

「じゃあ、このチェカの街にもうひとつギルドがあったということか…知ってた、ソルト?」

「いえ、私も知りませんでした。」

まだ予測の段階ではあるが、他のギルド会館が襲われた話をした。松ちゃんもソルトさんも他ギルドの存在は知らなかったようだ。『エネーボ・レボリューション』では大きなギルドの動向には気を配ったが、小さなところまでは分からない。同じ街であってもだ。プレイヤーが訪れることの少ない周りの魔物があまり強くないラズベルトなどでは街で出会うギルドメンバーではない人を見掛けると他のギルドがあるのかなって思ったりもするのだが、ここチェカの近くは魔物が強めなので訪れる人は多かったのだ。ちなみにゲームの中ではソルトさんはチェカの街から出ると即死していた。転移魔方陣で移動して来たのだ。

「他の民家って可能性もあるけど、殺されていたエルフの男性の存在からしてこっちの可能性が高いと思う。」

「じゃあ、今度はもうひとつのギルド会館を探して強襲?先手必勝だしね。」

はれさん、好戦的ね。知ってたけど。

「グラビオさん、他にここと同じような建物を知りませんか?」

僕はグラビオさんに聞く。領主代理なら知っている可能性がある。

「いえ、それがですね。私、ここにこんな建物があるのも今朝ほど知ったばかりでして…」

「え?どういうこと?」

「はい、ここは私の記憶では空き地だったはずなのです。」

僕たち異世界人は黙り混む。

「僕らが転移してきたと同時にこの建物も転移してきたってことかな?」

「ここだけ、なんか浮いてるしね。」

僕とずんちゃんが言うと、グラビオさんが質問してきた。

「あの…転移してきたというのは…」

「ええ、僕たち、3日前に異世界から転移して来たんですよ。」

「異世界?それはどういうことなんでしょうか?」

「僕たちも詳しくは分からないんですよね…」

「やはり天が使わせてくださったということなんでしょうか?」

「まあ、そういうこと…なんですかね?」

正直本当によく分からない。非現実すぎて。



「じゃあ、探すしかないんだね。」

はれさんは言う。

「まあ、そうなるね。街の規模からして大変そうだけど。」

「箒で上から探せばいいじゃん。」

「ああ、なるほど。」

僕らにはその手があった。ただ…外はもう暗い。

「明日の朝だな。」

「だね。」

僕とはれさんが話しているとずんちゃんが入ってきた。

「箒って?」

「ああ、僕が持ってる乗り物。空を飛べるんだ。」

「えー、すごーい。乗りたーい。」

「いいよ、一緒に乗る?」

「一緒に乗れるの?」

「たぶんね。」

「やった。わーい。」

ずんちゃんが嬉しそう。さっきまで沈んでいたから心配だったけど、もう大丈夫かな?

「じゃあ、明日は朝偵察で、昼間は準備、夕方に襲撃って感じでいいかな?」

皆頷いていた。



「それで、グラビオさんというか、チェカの街からの依頼としては、族の撃退と山の魔物の一掃ってことでいいですか?」

僕はずんちゃんの顔を見るとずんちゃんも僕の顔を見て「うん」と頷いた。

「分かりました。承ります。」

「ありがとうございます。あと、食糧を少しでもいいので売って頂ければと思うのです。」

「食糧?厳しいのですか?」

「他の街との交流がなくなって5年、街の東側を潰して畑や牧畜をしているのですが、何分ここは高山なもので…」

「そうですか…この街の人口は何人ですか?」

「今は8000人くらいでしょうか…」

僕はテーブルの上にアイテム欄から『肉』と『野菜』を取り出す。野菜はキャベツ、トマト、じゃがいも、きゅうりなど10種類の野菜であった。

「これを8000セットでどうですか?」

「こ、これを8000…よろしいのですか?」

「ええ、構いません。」

「ありがとうございます。してお代の方は?」

「ここの土地代と税金、払ってませんよね?それに当ててもらえます?」

「そ、それでよろしいのですか?」

「足りないと思うんですけど、そこは松ちゃんが払うということで。」

「いえ、そういうことを言っているのでは…」

「エルさん、それはオレも申し訳ないよ。」

松ちゃんが立ち上がって言う。

「いいのいいの。僕にはどうせ使い道のない食糧なんだし。」

「エルさん…」

「ってことで、グラビオさん、明日契約書作って持ってきて。」

「はい、畏まりました。」

「はれさん、グラビオさん送るとき、これ持って行ってあげて。」

「了解。ボクのからも10セットくらい置いてくるよ。」

「うん、ありがとう。」

こうして、僕たちの今日の話し合いは終わったのだった。静かだと思ったソルトさんはずっと眠っていたようだ。



僕とずんちゃんは屋上の淵に並んで座っていた。ギルド会館の屋上は隅っこに階段の降り口が開いているだけの何もない空間だった。

「すごいなぁ、エルさんは。わたしが出来なかったことをどんどん解決しちゃう。」

「まだ、解決してないことの方が多いよ?」

「でも、解決までの道筋を全部示したじゃない。」

「それもずんちゃんの今までの頑張りもあってこそだよ。グラビオさんがここに来たきっかけはずんちゃんなんだから。」

「ふふふ。そうかな?」

「ああ、そうだよ。」

ずんちゃんの頭がこてりと僕の肩に置かれた。

「エルさん、来てくれてありがとね。」

僕はずんちゃんの頭にこてりと頭を乗せる。

「どういたしましてだ。」


カサリ


そのとき、後ろで物音がして気配を感じたので振り返る。そこには暗闇があるだけで誰もいない。

「どうしたの?」

「物音…聞こえなかった?」

「ううん。こんなとこ誰も来ないよ。」

「そうかな?」

「そうだよ。」

「そろそろ部屋に帰ろっか。」

「そうだね。」

僕たちは階段を降り、自分たちの部屋に戻ったのであった。



2階の僕とはれさんに割り振られた部屋に帰ってきた。松ちゃんが1人部屋でずんちゃんとソルトさんは一緒の部屋らしい。街の人からちょうど5つベッドを貰えていたようで、僕たちの部屋にはベッドが2つ並べられている。

僕が部屋に戻るとはれさんは窓際に立って、こっそりと外を伺っていた。

「どうしたの?はれさん。」

「いや、ちょっとね。エルさんは人を信用するタイプ?」

僕ははれさんの質問の意図を図る。

「いや、他人は基本的に信用しないけど、友達は信用するタイプだ。」

「…そっか。じゃあ、これはボクの役目だね。」

「何かあるんだな。」

「うん。エルさん、もしも明日、ボクたちの襲撃より先に向こうが動いたらさ、言ってほしいことがあるんだけど…」

「…僕らの情報が漏れてるってことか…」

はれさんは無言で頷く。そして明日の作戦を話し出したのであった。



「それは賭けだな。大丈夫か?」

「ボクの考えでは大丈夫。」

「はれさんを信用するよ。」

「うん、ありがと。」

この世界にいる男性では1番信頼しているからな。こうして、僕とはれさんの秘密の作戦会議は終わったのであった。



「ちょっと連絡したい人がいるんだけど、いい?」

「柚子ちゃんでしょ。いいよ。」

バレてる。僕は『MENU』を開き柚子に連絡を入れる。

「エルさん!」

柚子の元気な声が聞こえてきた。一安心だ。

「今、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。ごめんなさい、連絡遅くなっちゃって。」

「いや、こっちも今まで忙しかったからいいよ。」

「そうだったんですか、相変わらず動きすぎじゃないですか?」

「まあ、性分だからね。『あか』さんたちと合流出来た?」

「はい、ちゃんと会えました。今、あかさんとマサさんと…ヨンさんだったかな?4人で外で食事してきたんです。」

「そうかそうか、楽しそうだね。」

「はい、楽しかったですよ。あかさんが一緒に泊まってくれることになりました。今隣にいますよ。マサさんたちもこの宿です。」

「おお、それは安心だね。」

「はい。エルさんの方どうですか?」

「明日、決戦かな。」

「決戦…大変じゃないですか!」

「まあ、なんとかなるさ。」

「エルさんですもんね。なんとかしちゃいますよね。」

「その信用が痛いよ…」

「怪我しないでくださいね。」

「善処する。」

「明日の連絡は…遅い方がいいですか?」

「ちょっと時間が読めないからこっちから連絡するよ。」

「分かりました。待ってます。お気をつけて。」

「うん、ありがと。」

僕は柚子との連絡を終えた。



少しすると今度は着信があった。『まりりん』からだ。

「エルくん。定時連絡。」

「まりりん、元気?」

「うん、元気。まりでいいよ。まりりんって文字で打つと簡単だけど、言葉にすると言いづらいでしょ。」

「ああ、うん、じゃあ、まりさん。」

「うん。」

「で、変わったことあった?」

「あったね。2つ。」

「何?どうしたの?」

「まずひとつ、帝国の騎士団に襲われたので返り討ちにした。」

「なんでまた?こっちの人の強さはどう?」

これは気になっていた。チェカの兵士さんの剣を振るスピードでだいたい察したけど、帝国の騎士ともなると、こっちの人では最高峰だろう。

「弱いね。かなり。」

「やっぱりか。殺してないよね?」

「もちろん。なんか私たちの力を試したかったみたい。」

「なるほどね。向こうも必死ってことだね。もう、ひとつは?」

「『りんた』いるでしょ、りんた。」

「ああ、りんさんね。」

「なんか、合流した。」

「へぇ、りんさんと。」

「うん、あと女の子2人と男の子1人。うちのギルド会館に泊まらせてる。」

「おお、助かる。ありがとう。」

「いえいえ。」

「りんさん賢いから知恵貸してもらって。」

「うん、そのつもり。」

「あと、その4人、鍛えてやって。この世界、思った以上に厳しい。僕たち日本人には。」

「うん、わかった。また連絡する。」

「ありがとう、まりさん。」

まりさんとの通話を終えたのであった。



「りんさんがどうしたって?」

通話を終えるとはれさんが聞いてきた。

「ああ、うん。はれさんは『るき』や『まりりん』たち知ってるっけ?」

「んー。いや、知らない…かな。」

「僕の4年前からのフレンドなんだけどさ。」

「4年前っていうと第1世代?」

「そうそう。」

「72サーバーって意外に群雄割拠だったんだね。」

「ははは。」

「それで?」

「そいつら今、『クリマパレス』にいるんだけどさ、今日、りんさんと合流したんだって。」

「へぇ、クリマパレス…りんさん、また遠いところに。」

「ゲーム時代は転移があったからね。距離感あんまりなかったよね。」

「そうだね。」

「りんさん、世話焼きだからさ、またギルメンの世話焼いてたみたい。」

「世話焼きに関しては規模の違いはあるけど、エルさんも大概だよ?」

「まあ、僕の場合はそのために72サーバーに来たわけだからさ。」

「なるほどね。」

「明日は頼むよ。はれさんに掛かってるって言っても過言ではない。」

「うん、任せて。それで考えたんだけどね…」

僕とはれさんは夜遅くまで明日のことを相談し合ったのであった。

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