読んだ貴方も必ず騙される -異世界に転生したらエルフでテイマーだったようです-
※注意、この作品は読むと必ず騙されます。
騙されない自身のある方、騙されてもいいよ、寧ろ騙せるものなら騙してみろって言う方のみお読み下さい。
「あ~あ・・・だからやだって言ったのに・・・」
私、宮沢真由は中学3年生だ。
中学の卒業旅行に女友達達と1泊2日で出かけた。
友達の実家が田舎の旅館をやっていると言う事でそこに泊まる事にして出かけたのだ。
そしてその夜、肝試しをしようって事で嫌がったのに・・・
「ははっ・・・これは無理だよね・・・」
力なく崩れた崖を見詰める・・・
社にお賽銭を入れて戻るってルートだったんだけど途中で道が崩れて一緒に・・・
一緒に来た友達が誰かを呼んできてくれるとは思うけど・・・
「手も動かないや・・・」
徐々に寒さが分からなくなっていく・・・
それが死ぬって事なんだと理解した私の脳裏に浮かんだのが最近呼んだラノベだ・・・
「異世界転生・・・知識チートってのも・・・面白いかもね・・・」
そう言って私は目を閉じるのであった・・・
「あれ?」
気が付くと森の中に立っていた。
さっき死に掛けていたのは鮮明に覚えているが今は何処も痛くなかった。
「えっ?これって・・・」
慌てて自分の体を調べる・・・
見た事の無い緑の布で作られたワンピースを着ていてスラッとした手足、なにより驚いたのが自分の髪が金髪なのだ!
背中には弓が取り付けられており手にとって腰の矢を付けてみる・・・
驚く事に自然と体が動いて狙った正面の木の果実に一発で命中した!
「凄い!私、弓なんて使った事無い筈なのに・・・」
そう言いながら見上げた時に違和感に気付いた。
耳に自分の髪の毛が触れる感覚がおかしかったのだ。
恐る恐る手でなぞってみると・・・
「尖ってる・・・ってまさか私エルフに転生しちゃったの?!」
ラノベで見た事のある人間に似た容姿の異種族エルフ、全く同じか分からないが長寿の種族で美形ばかりの種族だ。
元々両親に似てあまり顔に自身の無かった私は手でなぞって確認する。
細い両頬に通った鼻、スレンダーと言われるくらい細く綺麗な体格、知っての通り胸は小さめだ。
「本当に?しかもこの弓の腕前って・・・」
ラノベのテンプレそのままであれば異世界転生特典のチート能力だろう。
今にも踊りだしそうになった私はその後の展開を思い出して口を手で塞ぐ。
異世界転生物って大体は誰かに呼び出されてその場所に現れるか、誰も居ない場所に突如出現する。
周りを見渡しても誰も居らずここが何処か分からない。
それでも落ち着いていられるのはエルフが森の中で暮らす種族だからだろう。
「とにかくまずは身の安全を確保しないとね・・・」
食料も無ければ水も無い、寝床すら自分で確保しなければならないのであれば時間は幾らあっても足りない。
私は周囲を警戒しながら森の中を探索し始める・・・
「っ?!」
どれくらい森の中を彷徨っただろうか、優れた身体能力のせいか全く疲れないのはありがたかったが今はそれどころではない。
咄嗟に近くの木に身を隠した私の近くを通り過ぎていく人型の化け物達・・・
その姿に驚いて隠れたのは正解だったのだろう・・・
「まさかアレがゴブリンってやつ?」
全部で5匹、下衆な顔をしたそいつらは周囲を警戒しながら進んでいた。
そこだけ木が生えてないのを見る感じ、獣道を広くしたようなものだろう。
ゴブリンに捕まった雌は犯され嬲られ酷い目に合わされるのが定番だ。
私は身を隠したまま息を殺して奴等が去るのを待った。
幾ら弓の腕前が凄くてもいきなり5匹を相手に戦うのは無理があるからだ。
せめて・・・1匹であれば・・・
私は足音が去ったのを確認して奴等が向かったのとは逆方向に進むのであった・・・
「本当広い森ね・・・何処かに私の暮らす村なんかが在ればいいんだけど・・・」
道なき道を進むよりかは獣道を辿れば何処かに出るだろうと考え周囲を警戒したまま私は道を進み続けていた。
そして、気配を感じて直ぐに森の中へ体を隠す。
そこには体の大きな人型の魔物が1匹歩いていた。
「ゴブリンの次はオークってわけね・・・」
さっきの奴等よりも大きな体のそいつは1匹しか居ない。
もしこの世界にレベルなんてものがあるのだとしたら魔物は倒した方が良いだろう。
人間の町に行って魔物から取り出した魔石や素材を売ってお金を稼ぐ冒険者になるのもいいかもしれない。
そう考えた私はしっかりと距離を取って相手に直ぐにばれないように隠れながら矢を構えた。
「くらえっ!」
放たれた矢は真っ直ぐにオークの背中の心臓の位置に突き刺さった!
「GUOOOOOOOOOOOO!!!」
オークが傷みに驚いて背中の痛みの原因に困惑しながら周囲を見回す。
その間にもう一本矢を構えて狙いをつける!
「これで止め!」
再び放たれた矢は真っ直ぐにオークの胸に突き刺さった!
前後から心臓を射たのだ、これは間違い無く大ダメージだろう!
そう考えた私はオークの視線をモロに感じた。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ・・・
本能が危機を知らせる。
このままだと捕まって酷い目に遭う・・・
「ヤダ!そんなのヤダ!」
私は駆け出した!オーク目掛けて!
その行動がオークの予想外だったのだろう、驚きに動きが一瞬固まった!
そしてそのままオークに向かってジャンプして蹴りを放つ!
狙うのは・・・心臓の位置に突き刺さった矢だ!
「これでもくらえええええ!!!!」
そのまま矢を押し込む形で私の蹴りはヒットしてオークは後ろへ倒れる。
仰向けに倒れて事で背中にも刺さっていた矢が深く刺さったのだろう。
「BUGIIIIIIIII!!!」
その痛みに打ち震えるオークであったが徐々にその叫びも小さくなりやがて動かなくなった。
どうやら倒したようである。
「ははっやったよ私、完全勝利!っ?!」
そう喜んだ私は目を疑った。
今倒したばかりのオークが音も無く立ち上がったのだ。
私は驚きに包まれながら一歩下がった。
だが脳裏に聞こえたその声に全てを理解した。
『なんとオークが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている!仲間にしてあげますか?』
それはゲームで聞いた事のある台詞、私は迷う事無く『ハイ!』と答えた。
その返事と共にオークの表情が優しくなり心が通じ合った気がした。
これが私のチート能力、ずばりテイマーと呼ばれる魔物を使途して戦う能力なのだろう。
「いける!これならいけるわ!」
力強いオークの腕を撫でながらこれからの冒険に心が躍りだす。
これは私が異世界に転生してエルフでテイマーでチート能力を授かった物語・・・
私の名前は北中美紀。
中学3年生だ。
私は中学の卒業旅行に実家の旅館に友達5人と一緒に来ていた。
それがあんな事になるなんて・・・
「肝試ししよっ!」
友達の一人がそう言ったのに対して親友だった真由ちゃんは嫌がった。
元々大人しい彼女は実は隠れゲーマーである事を私は知っている。
怖い物は全然平気なメンタルが非常に強い女の子である。
だから怖がって嫌がっているのではないのは知っていた。
「え~折角中学最後の旅行なんだからさ~」
そういう友達の言葉に渋々付き合うことになった私達。
内容は簡単だ。
森の中の細い道を通って奥にある社の賽銭箱にお金を入れて戻ってくるだけ。
途中で引き返して帰ってきても分からないんじゃないかと思ったがそれは言わないでおいた。
「えへへ~余裕だったわ」
一人目が戻ってきた。
両手を後頭部で組んで笑顔を見せる彼女は本当に余裕だったのだろう。
「ま、まぁこんなものでしょ?」
二人目は目を潤ませながら帰ってきた。
森といってもそれほど大きい物ではないので野生動物が生息している訳でもないからそれはそうだろう・・・
「んじゃ美紀行って来るね」
そう私に伝えて出発したのは親友の真由ちゃん。
そして、彼女は帰ってこなかった。
往復で5分ほどだというのに15分ほど経過しても戻ってこなかったのだ。
「ね・・・ねぇなんかやばくない?」
「探しに行こうか?ねぇ何処かで怪我とかしているかもよ」
「そうだね・・・行こうか」
そう言って私達は森の中へ足を踏み入れた。
一本道を周囲を警戒しながら進む5人・・・
何処かに真由ちゃんは隠れて私達を驚かそうとしているのかもしれないと警戒しながらゆっくりと奥へと進んでいったが結局真由ちゃんは見つからなかった。
「ねぇ、何処に行ったって言うのよ?」
「知らないよ、だってここまで一本道だったじゃない!」
「警察・・・そうよ警察を呼ぶべきよ!」
社の前で私達は口論をして来た道を戻りだす。
そして・・・それを見つけた。
「誰か・・・倒れてる?」
「えっ・・・まさか・・・お、お父さん?!」
真由が駆け出す。
そこに倒れていたのは旅館のオーナーで真由のお父さんであった。
帰ってこない娘を探しに来たのだろうとは予想できるのだがなんでこんな場所で倒れているのか全く予想が出来なかった。
しかも・・・
「息・・・してない・・・」
「嘘・・・き、救急車!救急車だよ!」
慌てて携帯電話で助けを呼ぶ。
そんな私は視線を感じて後ろを振り返った。
「ヒッ?!」
森の木の奥、そこにぼんやりと浮かぶ女の霊と男の霊が立っておりこちらをニヤニヤと眺めていた。
その姿に見覚えがあった・・・
女の服装は真由ちゃんと同じで男の姿は父親に似ていたのだ。
「や・・・やだぁああああああ!!!!」
友達もそれに気付いたのだろう、悲鳴を上げ、それにパニックになった私達は森の外へ駆け出して逃げるのであった。
あれ以来その森は立ち入り禁止となり行方不明になった真由ちゃんと亡くなった父に何があったのかは不明のまま。
だけど実家の旅館に行った時はいつも感じるのだ。
真由ちゃんと父がまだそこに居ると・・・
完