近未来的な遠距離恋愛
「え、そうなの? うん。ありがとう、教えてくれて……」
カウンターに座る女性が、ぽそっと告げる。空いている隣の席には、半透明の人物の映像が浮かび上がっている。その下には最新型のスマホが一台。ビデオ通話の進化形として、最近主流になりつつあるものだ。
彼女は視線を小さいライトがたくさん据えられている天井に向かって流すと、しばし考えて……持っていたグラスをそっと置いた。
直後、両手で両目を覆って、小さく「きゃー」と呟く。
「はずかしー、はずかしー、まさかの〜」
何回か、その小規模な「きゃー」を繰り返した後で、細く長い息を吐き出して、ちみっとグラスの中身を口に含む。
落ちる沈黙。
彼女は今は真っ直ぐに前を見ていた視線をそのままに、くき。と首を捻った。頭上に巨大なはてなマークが浮かんでいる。そのマークを付き従えて、ゆっくりと顔を隣にいる映像へ向けると、言った。
「……それって……」
指折り数えて計算すると、「んー」と目を閉じて、右手を下唇に添える。
しばらく考えてから目を開けて、人差し指を立てた。
「どっち? 『すごく言いづらい内緒にしてたことを、勇気を出して言って』くれた? それとも、ただの『指摘』?」
気になるなあ。最後は、人に聞かせるというより、独り言のような声量だった。
微笑んでこちらを向いていた映像の目線が、顔ごとあさっての方向を向く。女性は「こら」と言ってスマホ付近のカウンターをコンコンと指先で鳴らした。
「もー。人と話してる時は他の人に目移りしないの。また美人さんでもいたんでしょー」
自分で言ったくせに自分で凹む女性。くたっとカウンターに頭を預けて、呟く。
「もうずっと会いたいのに。気持ちはそばにいても、物理的な距離は、ずっと遠いままなのに。会いたいって思って、生身同士で真っ直ぐに向き合いたいのに、そこは同じじゃないの?」
ぐずって右手の人差し指を回す。もう何年も前に、一度だけ触れた指先。残っていない温もりをそれでも留めたくて、そっと握り込んだ。
「会いたい。会いたい。あいたい。一度も会えてない。会いたいよー……」
支流は見えても重要な本題が一向に折り返されない、それはまるで片一方の通話。受け取れない約束が悲しくて、何が起こっているのか分からなくて、踏み出したい足はどこを踏んだら良いのか分からなくて、ずっと宙に上げたまま。
「……飾らない、本当の気持ちを受け取れるようになりたいの。私と同じ手法では、それは届けられないの?」
セリフだけ見るとシリアスな感じがする話の途中で、いまいち格好がつかない女性は、ちーん。と、かんだティッシュを丸めながら映像に尋ねた。丸っこいデザインのバーテンダーメカが酔い覚ましの烏龍茶を持ってきて、代わりにゴミを受け取って離れていった。
それを一口、二口飲んで、効果てきめんに酔いが覚めていくげんきんな女性。何に酔っているかと言えば、状況と自分にだ。
「でも難しいかな……直接的に、率直にできないと……余分な飾りは全部取って。また付け直すにしても、その時は……」