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犠牲魔法のロッド  作者: あいさか
3/15

報告へ

最悪だ。

そんな気持ちでロッドは街の冒険者ギルドへ戻り報告をする。

「Aランク魔獣のを倒してきましたけど、途中で別の冒険者の妨害を受けて目当てのものを回収できずに帰ってきました」

「お疲れ様です。大変でしたね」

受付のお姉さんである『パトリシア』だけはロッドのことを疑わずに、にこやかな表情で報告を信じてくれる。

「パティさんは疑わないんだね……」

ついついそんな本音も漏れてしまうのだ。

「ロッドくんが頑張ってるの知ってますから」

「ありがとう」

「本日のパーティメンバーの方々もご帰還されてますよ」

「え、じゃあ報告終わってるんじゃ?」

「ええ、ロッドくんが亡くなったっていう嘘の報告を聞かされました」

すっと影を帯びた機械のような笑顔を見せるパトリシア。彼女の機嫌が悪い時、よくこのような表情をするのだ。

「彼らは虚偽の報告をしたということでしばらくはクエスト受注禁止ですね」

「うん、オレも一生あいつらと組まない」

パトリシアは受付の引き出しから何らかの用紙を取り出すとチェックを入れて、また元に戻した。

「ではこちらが報酬です」

じゃらじゃらと大量の貨幣がなる袋を皆が遠巻きに見つめるなか、ロッドはパトリシアに再度お礼を述べた。

「ロッドくん、あとこれもどうぞ」

丁寧に包まれた荷物を手渡されるロッド。

「これは?」

「さあ、開けてからのお楽しみですよ」

にこにこと人当たりの良さそうな笑顔だが、ロッドにしか見せたことのない表情であるのを知る者は少ない。

ロッドはチラチラと彼女の反応を確認して、その場で包装を解いた。

彼女がくれたのは新しいインナーとローブだった。

「それは特殊な魔法布を織り込んであるローブです。インナーは上下別で、ストッキングタイプとシャツタイプでそれぞれ破れにくい素材の特注品です」

「ありがとう!」

唐突なプレゼントに目を白黒させながらも、嬉しさで表情がほころぶロッド。

真面目にやってきて良かったと思うロッドなのであった。

しばらくパトリシアとの会話を楽しんでいたロッドだったが、ギルドの大扉の開閉音で会話は途切れる。

「あ、美少女少年」

入ってきたのはセクハラ魔法使いとその仲間たち。

武闘家と大男はボロボロの見た目になっていたが、特に大きなダメージではないらしい。

「さっきはごめんね~」

たはは、と苦笑いでロッドに近づき馴れ馴れしく肩を組んでくる。

不快感を隠すことなく、近づくなというオーラを前面に押し出すロッド。

「あら、アリスさん。ご報告をどうぞ」

パトリシアは顔色一つ変えることなく彼女へ振り向くと、機械のように業務を開始した。

「Aランク魔獣を倒してきたわ。素材はそこね。私たちが倒した小さな個体の他に、大きな個体をすでに死骸の状態で発見したからそれも回収してきたってところかしら。あー、あとこの美少女な見た目をした少年にその大きな個体を倒したって言われて手柄を取られそうになったってとこかしら?」

「あれを倒したのはオレだ。それと馴れ馴れしく触らないで」

彼女の腕からするりと抜けてロッドは距離を取る。

「どうして彼が男だと?」

ロッドが男だと分かったことに対して疑問に思いついついパトリシアはそう尋ねた。

ロッドはその質問がショックだったのか、パトリシアを悲しい目で見つめていた。

「それが、こう……ね」

それに対するアリスのジェスチャーは生々しい。

ロッドの下半身を指差して、もう片方の手の指を下方向から上方向に向ける。

「何したんですか?」

パトリシアの表情が曇る。その表情には明らかに不機嫌そうな影を帯びていき、アリスに射殺すような視線を向ける。

「あら、怖い怖い。ちょっとからかっただけよ。その時のね。この子は泣いて逃げちゃったけど」

「はぁ……可哀そうに、彼は繊細なんだから止めてあげてください。パーティ仲間の方もどうかお気をつけて」

「男ってマジだったのかよ」

「こんな可愛いんですけどね」

武闘家やエルフもふむぅと唸ってまじまじと彼を見つめている。

「オレは報告書書きますんで、ではパティさんまた後で」

「はーい」

片手を上げてギルド内の空いた一席へと向かうロッドに、手を振って笑顔で答えるパトリシア。

「アリスさんも報告書、お願いしますね」

「だってさ、スオル」

スオルと呼ばれて反応したのは鎧で身を固めた騎士の男だ。兜を脱いで一息吐くと、襟足を首下あたりまで伸ばしている美丈夫の全貌が露になる。

「ああ、分かってる。だがたまには他の連中も書いてみたらどうだ? ルーシィとか得意そうだろ?」

その名前を聞いてピクピクと小刻みに数回耳を震わせるエルフ。

「えーと、私はその、人語とかよくわからないので……インデムはどうですか?」

やれやれと肩を竦めたのは、これまた大層な鎧を着た大男だった。

「世界共通語があるから言葉が分からないはずない」

ルーシィに咎めるような視線を向けたのはインデムと呼ばれた大男。寡黙な彼はそれだけ言うと、書く気は無いとばかりに微動だにしない。

「一度も書いたことのない筋肉バカがやってみれば?」

そんな中アリスが、他四人とは違って極端に薄着、下は動きやすそうな長ズボンを履いているが、上にはほとんど何も着ておらず、裸に装飾の施されたベストという奇抜な格好の男に、声をかけた。彼は、腕を組んで言う。

「おいおい、そのバカに任せるってどうなんだ、アリー。それと俺にはムロクアっつー名前があるんだが?」

結局、全員が面倒ごとを避けるようにして言い訳を始めるのだ。

スオルは眉間を押さえて、ふっと一息吐く。余計なことを言ったという自責の念と、また結局こうなったかという呆れからきたポーズである。

「いやいい。俺が書いておくからお前らはもう休め。解散だ」

「フゥー! さすがスオル!」

「我らがリーダー!」

「いつもご迷惑おかけします」

「悪いな、助かる」

順に、お調子者のアリスとムロクア、内心でガッツポーズのルーシィ、悪いとはあまり思ってなさそうなインデム。

折半された報酬を受け取ると、スオルを置いてさっさと街へと出かけてしまった。

「スオルさんも大変ですね」

一連のやり取りを見ていたパトリシアが苦笑いで報告書を手渡す。

「まあ優秀なやつらですから、一癖二癖あるのは承知です。それにこんな平凡な俺を信頼して付いてきてくれてますし」

スオルは自嘲気味に笑うのだった。

しかして彼は別に弱いわけではない。個性の薄さで言えば確かに特筆すべき点は無いかもしれないが、彼の持つカリスマ性やリーダーシップは、確かにパーティメンバーの心を捉えるものであるのだから。

そんなスオルは気を取り直して報告書を書くため席へと着く。

ギルド内の端の方で何か揉め事があるのには気付いたが、面倒ごとに首を突っ込むべきではないなと思い、遠巻きに見ながらも報告書を記していた。

件の揉め事の中心にいたのは美少女の見た目をした少年のロッドだった。

気にせずに集中しようと決めていたスオルだったが、先ほど彼と一悶着あった身としてはやはりどうしても気になってしまう。

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