ある、王の話
今回は、息抜きに、そして思わず衝動的に書きたくなった物をかきました。
絵本のような、イメージで書きました。
むかし、むかし一人の娘がいました。
娘は、小さな頃は、ただの村娘でした。
ある時、娘は、村の辺の教会に行きました。
教会に行った娘は、教会の祭壇にいつも祈りを捧げていました。
ある日、いつものように祭壇に祈りを捧げていると、
祭壇から、聞いたことのない声を聞いたのです。
その声は、美しく、そして優しい声でした。
汝、災厄から守る者、この神託を聞きし娘よ、この地を護る騎士となり、そして王となれ
娘は、その神託を聞き、騎士となりました。
娘は、この地を護るために時には辛く、悲しい出来事が起こっても、
心が、張り裂けそうになっても、味方を生かし、民を護るために戦い続けました。
そんな、娘のあり方を見た、一人の神官は言いました。
この者は、王が永くいなくなり、久しきこの国の、新しき王となる者だ。
神官の言葉に、周りは首を掲げました。
何故、あの娘を王に?
しかし、神官は、周りの言葉にこう言います。
私は、若き頃、神からの神託で、この国に、新たなる王が現れると受けた。故に、私はあの娘を王とし、共に支える臣下となる。
その神官は、そう言いながら、娘の元に訪れて、跪きます。
あなたが、この国の新たなる王…私は、あなたを神の言葉に従い、王と認めます。来れより、私は貴方の臣下です。
娘は、神官の言葉を聞き、静かに目を瞑り、そして開けてこう言いました。
私も、神託でこの国の王となるよう、神の言葉を聞きました。なれば、それに従い、私は此より、王となりましょう。
娘は神官の言葉に頷き、そして言った。
顔を上げた神官は、娘が騎士の鎧を纏い、黄昏時に悠然と立つ姿を見て、
その、姿は正しく、王に相応しい威厳を持っていました。
しかし、娘を王とすることに反対する者もいました。
それは、娘がただの村娘だったこと、
それは、娘が女であったこと
それは、娘自分達より、弱いと思った者がいたこと、
そう言った者達に、娘は言いました。
私が貴方達より弱いというのならば、相手になろう、私がただの村娘だったと言うのならば、貴方達も私と変わらない普通の人間の筈だ、私が女であるのなら、此より私は女を捨て、ただの王としてこの国を護ろう。
娘は、反対する者達にそう、堂々と言いました。
その時の娘の表情は、凛としていて、反対する者、戸惑う者、迷う者達を静かに、しかし清廉に見つめて言いました。
其処には、既に王としての風格、素質があることを見抜いた者達は、彼女に跪き、
先程の、ご無礼をどうかお許し下さい
これより、我らは、貴方に従います
貴方を、王として、支えます
王よ、我等の誓いをどうか、お受け下さい
その、跪いた五人の騎士に、娘は、ただ一言、
許す
と言いました。
娘がこの国の久しくいなかった王となり、初めは神官と五人の騎士以外からは厳しい眼を向けられていました。
しかし、娘のたてる武勲、采配…堅実な秩序は、人々を娘を王として日に日に、認めさせていったのです。
娘は、王でありながらも、玉座にいることはほとんどなく、自ら戦いに赴くことも多々、ありました。
その姿を見た者達は、彼女を慕い、彼女に感謝をし、時にはその、護った者達からの精一杯のささやかな贈り物も届けられました。
娘は、その者達に優しく微笑み、言うのです。
私がこうして王となり、今まで生き長らえているのは、貴方方、民のおかげだ。ありがとう。
ある時は、国を恐怖に貶めた怪物を倒し、
ある時は、民を脅かす敵国を迎え撃ち、
ある時は、災害や貧困に苦しむ者達に、施すために食材や資料を与え、
ある時は、同盟国を助けるためにどの国よりも駆けつけました。
国の民、そして周りの国や敵国まで、娘の行いは知れ渡りました。
国の民からは、理想の王と言われ、
周りの国々からは、彼女こそ、王としての在り方そのものといわれ、
敵国からは、勝てる見込みのない相手だと恐れられました。
そして、王の国は栄え、平和が続きました。
しかし、ある日、一人の人物が訪ねます。
その人物は、娘に会いに来たのです。
騎士達は、その人物を王に会わせるワケには行かないと断りましたが、
その騎士達を止めたのは、娘でした。
騎士達は、その人物と王を二人にすることに反対しましたが、王は、
その者は、私に少なくとも危害を加える事は今のところはない。
騎士達は、王の言葉に従うことを躊躇いましたが、
娘は、その人物を部屋に招き入れました。
そして、暫くした後、いつもと変わらない娘と
浮かない顔をしたその人物が、部屋から出てきました。
騎士達は、何があったのかと聞きましたが、娘は首を振り、
何でもない、その者を城の門まで送って欲しい。
その言葉に、騎士の一人が訝しみながらも頷き、送りました。
騎士の一人は、娘の顔に、少しばかりの悲しみと寂しさを見ていました。
そして、時が過ぎました。
暫く続いていた平和は、ある日、音をたてて崩れました。
敵国が、最初は小さな村、街…そして、遂には娘の住む都にまで被害を及ぼしました。
娘や騎士達、そして同盟国も同じように迎え撃ちますが、以前よりも力を付けた敵国に、圧されていたのです。
神官は、娘に告げました。
敵国は、この国と同盟国の国々を手に入れんとするために、魔と取引をしたと、聞かされました。
そして、その魔を呼んだ者は……
神官の言葉に、娘は眼を閉じ、そして開けました。
これより、我らは敵国に進軍する!!
娘の、力強い声に五人の騎士、そして生き残った者達は、覚悟を決め、敵国に向かいました。
そして、その前夜、娘は神官と言葉を交わします。
これが、最後の戦いとなります。
分かった。どうか、勝利を願っていて欲しい。
月の光での、二人の会話は、神官はあの日の出会いを思い出させました。
そして、その翌日、五人の騎士と国の兵士、同盟国の戦士達と共に、敵国に向かいました。
敵国の兵士達が、娘の国や同盟国の戦士達の命を次々と奪います。
反対に、戦士達も敵国の兵士達の命を奪いました。
気がつけば、娘の周りには五人の騎士、同盟国の同じく王とする者とその側近、四人だけになりました。
しかし、娘達は、敵の本拠地に辿り着きました。
そこにも、やはり敵兵が待ち構えていました。
五人の騎士達は、
娘を護って死に、
敵と相討ちになり、
娘達を先に行かせるために、自ら残り、戦い、
そうして、散っていきました。
娘は、五人の騎士達に心から礼をします。
私に着いてきてくれた、騎士達…ありがとう、貴方達は、私の一部であり、そして共に支えてくれた臣下であり…掛け替えのない、戦友達だった…
娘は、胸の真ん中を握り締め、鋭く前を向きました。
そして、本拠地の最奥に、魔と契約した王がいました。
この時、既に娘と同盟国の王の二人だけになっていたのです。
魔を宿した王は、声を上げて二人を嗤い、そして
貴様等を倒し、この世界を我の者にしてくれる。そのために、最後の障害である貴様等を殺す!!
そう言って、三人の王の、戦いが幕を開けました。
敵国の王は、強大な力を持って、二人を襲いますが二人も、それに負けじと戦います。
しかし、力の差は、彼方にありました。
このままでは、やられてしまう事を悟った二人は、相手の隙をつくために、目を合わせました。
そして、同盟国の王が先に、敵国の王を倒すために剣を掲げました。しかし、それを受け止められました。
その隙に、娘が背後から、斬りかかりますが読まれていたのか、防がれます。
敵国の王は、嗤います。
二人の策は、失敗したかのように思われましたが、しかし、二人はお互い合図するように頷くと、
同盟国の王は、防がれた剣を離しました。
敵国の王は、急に軽くなった事に疑問に思いましたが、
それに気がついた後が、既に遅く、
同盟国の王は、懐の短剣を敵国の王の胸に突き刺します。
その事に、敵国の王は、気付くのが遅れてしまい、直ぐに避けようしましたが、
娘が、それよりも、敵国の王の左肩を貫きました。
それに、獣の如く絶叫をあげました。
同盟国の王が、貫いた胸は人としての弱点であり、
娘が、貫いた左肩は魔の者の弱点だったのです。
魔の者は、契約をしたときは、必ず左肩になります。
二人は、その弱点をついたのです。
そして、魔の者が消えれば、敵国の王には力がなくなり、契約して日が浅い為に、其処まで命に別状はありませんが、
此処で、敵国の王を討たねば、また同じ様な事が起こることを見越した二人は、敵国の王を討ったのです。
そして、敵国の王は、二人の王を憎悪を込めて睨みつけ、
絶命しました。
辛くも、勝利を収めました。
しかし、そこには、いないはずの人物がいました。
その、人物は、あの日、娘に会いたいとの言って、現れた者でした。
そして、その人物は同盟国の王には見向きもせずに、娘を見ます。
その人物は、被っていたフードを取りました。
その人物は、娘よりも少しばかり年が若い娘でした。
それに、同盟国の王は驚きますが、娘は驚きません。何故なら、その人物は……
娘の、ただ一人の妹だったからです。
彼女は、静かに娘を見た後、
剣を抜きました。
娘も、同盟国の王も構えますが、彼女は、その剣に何事かを呟くと、
剣が、輝きました。そして、二人めがけて振れば、
忽ち、壁を破壊します。そして、何とか避けた二人は、対峙します。
その剣は、魔剣でした。
魔剣を操る彼女は、彼女自身もとても強かったのです。
そして、体力を消耗して所々傷を負った二人は、満身創痍でした。そして、同盟国の王が彼女に言いました。
何故、そなたは自国を裏切ったのか
彼女は、答えます
あの国は、滅ぶべきだ
その言葉は、簡潔ではありますが、彼女の怒りを表していました。そして、隙が僅かに出来た同盟国の王に魔剣の力を不意打ちで叩き込み、倒れた同盟国の王にトドメを刺そうとしましたが、娘によって、防がれました。
同盟国の王は、その場で気絶しました。
そして、娘と彼女だけの戦いが始まりました。
二人は、互角の戦いでした。
しかし、娘の方が不利でした。
怪我、そして体力の消耗などでいつ倒れてもおかしくなかったのです。
娘は言います
何故、滅ぶべきだと思ったのかとそして、彼女は言います。
あの国は、姉さんから、幸せを奪ってきた!
叫ぶように言って顔を上げたその眼には、悲しみを宿していました。彼女は話を続けます。
姉さんは、本来ならあの村で静かに、人としての幸せを送ることが出来た!なのに、姉さんは王になった!王になった姉さんに、民は求めるだけ求めて、姉さんから様々な幸せを奪ってきた…!
それは、私が自分で決めて、自分で行った事だ。
でも、それは神様からの神託だったからでしょ?!姉さんは、その言葉を受けるべきじゃなかった!!
それは違う、違うんだ。
違わない!以前の姉さんは、優しくて、明るくて…そんな、人だった…なのに、王になってから、変わってしまった…
彼女の悲痛な言葉に、娘は耳を傾けます。いつかのように、ただ静かにその、言葉を聞いて
私はあの国を、滅ぼす…全てを護るために、姉さんが自分を犠牲にするのなら…私は、姉さんの為に、全てを壊す。
だから、魔の者と真の契約をしたのか?
だから、魔の者と魂を引き替えにして、契約しました。
彼女の決意に、娘は、見据えて剣を構えました。
私は、王として、お前を倒さなければならない…それが、民のため、国のためになす、王の務め……
眼を閉じ、剣を構えます。
そして、もう一つ……大切な、王としてではなく貴方の為に…ただ一人の妹のために、私は、貴方を討ちましょう。構えなさい、妹よ。
なら、私は大切な、姉のために…例え、大罪の果てにその代償を払ってでも、あの国を滅ぼします。それが、私の大好きな姉の為になると思って…
彼女も、魔剣を掲げました。
敵国の王のように、ただ、契約するのならば左肩に契約の刻印をしるされますが、彼女のように、命を懸けた契約ならば、その証として、魔剣のように物として、顕現するのです。
そして、物として目に見えるのであれば、力としては左肩の刻印よりも強力な力を手に入れます。
彼女は、敵国の王に付き、同じ様に魔の者と契約しました。そして、その、掛ける代償の重さが出たのです。
敵国の王は、自身の寿命を
彼女は、魂そのものを
掛けていたのです。
お互いが、暫く動かず、やがて、同時に剣を振るい、剣と剣の交わる、高い音が鳴り響きました。
そして、二人の最後の戦いが始まりました。
二人の、互いを互いに思う戦いは、激しさを伴います。
魔剣の力で、壁は紙のように斬られ、
娘の剣は、彼女の服を切り刻んで、血が流れ、
お互いの、体は血にまみれ、頭からは血が流れます。
しかし、それでもお互いは決して、膝を着くことはなく、剣を交わし合いました。
決着は、一向に着きません。
譲れない思いと大切な家族を思う二人には、残酷すぎました。
そして、娘は勝敗を決することはないと思いました。
覚悟を決め、娘は剣を握りました。そして、
その隙を、彼女がつきました。
娘の、体は魔剣の一振りで、血が大量に飛び散ります。
しかし、その大きな一振りは、逆に、娘にとっては大きな隙でした。
その、一振りを終えた彼女の胸に、娘は、自分の剣を、目掛けて
彼女の胸を、貫きました。
そして、魔剣が、彼女の手から滑り落ち、音を立てました。
崩れる、彼女の体を剣で貫いた娘は、彼女を抱き締めました。
彼女は、姉に抱かれて、昔を思い出しました。
小さい頃に、悪夢を見て、怖くて泣いていた頃に、自分が眠れなかった時、こうして抱き締めてくれたこと
それを思い出したのです。
体は傷付き、もう、痛みも感じられなくて寒さが彼女を襲いましたが、心は、暖かく感じたのです。
姉さん、本当は分かっていたよ…こんな事は、私が間違っていた事は、ちゃんと分かっていた…だけどね、私は、姉さんには、王としてではなく、一人の、人間として…女性として生きて欲しかった。その思いも、私の独り善がりの我が儘なのも分かってた…だけどね、
そこで、彼女は娘に、昔のような、懐かしい微笑みを向けました。
たった一人の、家族なんだもの…幸せになって欲しいって思っても、良いよね…お姉ちゃん…
娘は、彼女を抱き締めて、言います。
私も、貴方に幸せになって欲しかった…
その、言葉に彼女は最期の言葉を、言いました。
そっか、一緒だったんだね…お姉ちゃん……ごめんなさい、お休み、なさい…
そして、その言葉を残して、彼女は動かなくなった後…
霧のように、体が消えました。
魔の者と、契約した者は、死んだ後は、こうして体を遺すことはなく、消えてしまうのです。
敵国の王は、先に刻印を消したので、体は残ったままですが、彼女は魂ごと契約したので、消えてしまいました。
娘は、王となってから、初めて泣きました。
大切な、可愛い妹
誰よりも思っていた、最愛の妹
王になったのは、神託のこともありましたし、それが使命だと分かっていました…ですが、ただ、姉としての自分は、妹に平和に過ごして欲しかったという、人としての…家族しての、願いもありました。
魔剣は、形を保ったまま残りました。
そして、娘の体に変化が起きました。
娘は、目の前が暗くなり、その場に倒れます。
私も、死ぬのか…
漠然と、思っていると、誰かに抱き起こされました。
同盟国の王が、娘を抱き起こしてくれていました。同盟国の王は、先程目を開けたようで、娘のところに駆けつけたました。
その、必死の形相に、娘は、同盟国の王に言います
私が、死んだら…あの魔剣を、折って…欲しい
同盟国の王は、言います
君が死ねば、君の国の民はどうなる
その言葉に、娘は言います。
貴方に、おさめて欲しい…もう、私には、時間がないから…
そして、娘は同盟国の王に最期に言いました。
叶うならば…私の墓は、都ではなく、故郷の教会に建てて、欲しい…あの、子と…妹共に、眠りに着きたい…な…
そして、娘は事切れ、同盟国の王は娘を抱き抱え、魔剣を持ち…歩き出しました。
直に、この拠点には、我等の国の兵や君の国の兵が来る…その時に、この事伝えよう…我々の、勝利だったと。
そして、娘の亡骸の顔を見た、同盟国の王はこう言いました。
君は、最期の最期まで、国にとって、そして民にとってもなくてはならない存在だった。君が…君こそが、自分にとっての、理想の王だ。
こうして、多大な犠牲を払い、娘の国と同盟国は、勝利したのです。
その後、娘の亡骸を見た国の者達は嘆き、悲しみ…そして、娘の遺言を聞いた王は、娘の故郷を知る神官にこの事を告げ、娘の故郷の教会に墓を建てられました。
娘の国の臣下達は、反対しました。何故、偉大な王の墓をそのような場所にするのか
同盟国の王は言いました。
それが、貴方の国の王の最期の望みだからだ
そして娘の墓は、故郷の湖の畔の、森の近くに建てられました。
魔剣は、同盟国の王が遺言に従い、折られました。そして、その魔剣は入れば決して上がれない、底のない深い深い湖の中に投げ捨てられ、今は、何処にあるのかさえ、当時の同盟国の王以外、知る者はいません。
同盟国は、娘の国をこれも遺言通りにおさめました。そして、永く永く、続きました。
これが、国と民を平和に導き、そして世界と国を護るために戦った、偉大なる王の話。
娘が、王になり、そしてその結末までを記した、
ある、王の話でした。
蛇足ですが、この物語を書いたのは王の側近の生き残りという設定です。
後に、後にこの世界ではこの物語は、有名になります。
久々に、こういう話を書きたくなりました。色々とツッコミどころはあると思いますが…(;´Д`)
それでは