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翼の日

作者: naro_naro

 演台をたたきながら講演するようすを見て、やめておけばいいのにと思った。苦難の歴史を語っているうちについ身がはいってしまったのだろうが、あれでは逆効果だ。苦しかった時代のことを話すときはむしろ淡々としたほうがいい。


「……よって、計画自体は成功といえましたが、処置者の外見が極端に変わるため、根拠のない差別がまかりとおることとなりました……」


 たしかにそのとおりだ。わたしたちが翼をもったのは病気のせいなんかじゃない。いや、極端な低所得を社会的な病気ととらえればそうかもしれないが。


「……しかし、共生生物の作用によって肌が紅藻や緑藻のような色になり、光をじゅうぶんにあびるために翼状の突起物が背中からはえたこの姿のおかげでわれわれは食料確保の必要性がなくなり……」


 公会堂の座席は有翼人にも配慮されており、突起物があっても不快感はない。昔はかんがえられなかったことだ。だが、この配慮はもうほとんど不要になってきている。


「……光と二酸化炭素と水、それにどこにでもある単純な無機物。それだけで空腹から解放されました……」


 そう、空腹の苦しみはなくなった。でも、第一世代の苦労は想像もできない。中流から上の階層は食料不足をそれほど深刻にかんがえず、ありあまる金で自分たちだけ食べ物をむさぼりつづけた。

 下層の人々の口からうばったパンを食べのこすやつら。そして、共生生物の導入によってじゅうぶんな栄養が産生できる技術が開発されてもなお、やつらは突起物のせいで行動が制約されることや、見た目が醜くなることを理由に処置をうけなかった。そのかわり補助金やら援助やらをちらつかせて低所得者層にこの処置をほどこした。下層の人々が食料をまったく消費しなくなれば、その分がもっと楽に自分たちにまわってくると考えたのだろう。


「……翼ある人々、“有翼人”は社会の最下層をしめす記号となりました。翼のせいで通常人用の設備の使用に不便が生じてもなかなか改修されませんでした。また、栄養産生のため光をあびる時間を確保しなければならないのに、就業時間などが配慮されることはほとんどありませんでした……」


 それでも祖父母はがんばったんだ。働いて働いて父母をよい学校にいれ、父母はわたしたちをさらによい学校にいれてくれた。


「……だが、わたしたちはしぶとい。それに食料確保しなくてよくなったことは、予想をうわまわる改善の効果をもたらしました。わずかにうまれた余裕を教育に投資し、その結果所得のふえた人々はそれをまた教育に投資しました……」


 演説のさきは聴かなくてもわかる。いま政治をうごかし、科学や技術の発展をおしすすめているのは有翼人だ。中流とか上流とよばれていたパン喰らいどもは旧時代の残滓にしがみついている。

 そして、とうとう大きな翼はいらなくなった。共生生物の効率が飛躍的によくなり、服などで隠せる程度のちいさな翼をわずかな時間光にさらしてやればじゅうぶんになった。


「……今日は記念すべき日であります。今後、われわれはさらなる地位向上をめざし、また、共生生物を全人類に導入するための活動をつづけていきましょう……」


 講演者は拍手のなか演壇をおりた。そうすると照明がうすぐらくなり、今日のプログラムの二番目のファッションショーがはじまった。有翼人のためのファッションショー。まだまだ洗練されてはいないが、もうしいたげられた存在ではないことをしめす目的のショーだ。

 モデルが登場し、わたしもふくめて公会堂が感嘆のため息をついた。わたしたちの肌の色をごまかすのではなく際立たせるデザインだった。正式な晩餐会にだって着ていけそうだ。

 そして、背中には翼の装飾がほこらしげにつけられていた。これをみた人はだれでも有翼人のたどってきた時代についてかんがえなければならなくなるだろう。

 はげしい拍手がおこった。ちいさくおさめれば隠せる翼をあえて強調したその意図に対して、みんなが賞賛の意をあらわしていた。


 わたしはこの場にいられたうれしさと、すこしばかり不安を感じていた。


 こんどは“無翼人”が人をおとしめる記号にならなければよいが。

 

 了

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編を幾つか読んでみた。 話のネタというかアイデアを決める迄は良いが、プロットとかストーリーが、投げっぱなしジャーマンっぽい。 起承転結の、起と承だけしかない感じ。
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