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ようこそ幻想都市塔京へ   作者: 竜馬光司
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第2話 その1

古宿高校。ここは幻想区の西にある高校のひとつである。

三階の一年A組の教室には、登校した生徒たちが、わいわいと談笑している。

ドワーフの少女やエルフの少年がいる教室の中で、一人だけ隅の席で眠気と戦う者がいた。

銀の髪にルビーの瞳を持つ海崎勝太郎は、登校するなり机についてすぐ欠伸をしていた。

「あーねむい、眠いなー」

勝太郎は口癖である眠いを連呼しながら、大きな欠伸を何度もする。

彼がいるのは窓際の一番後ろであった。

窓から差す心地よい陽の光が、勝太郎を更に睡魔に誘う。

「寝よ。寝ないと死ぬ」

「おはようみんな。今から出席とるわよ」

出席をとる担任の飯田美亜に全く気づかれることなく、勝太郎は目を閉じる。

「はい。今日はみんなにお知らせがあります。三日前に不幸があった……さんが、今日……復帰します」

美亜の声で教室がどよめくが、勝太郎はそれを機にすることなく、夢の世界へ。

「良かった。無事だったんだね……」

女子生徒の一人が、復帰した生徒の一人に話しかけているのが勝太郎の耳に届いたが、それも無視する。

何故なら勝太郎は眠かったからだ。


勝太郎達が、ダンジョンで誘拐されたハーフエルフの少女、美花子・ミスフォルラを救出してから三日が経っていた。

ダンジョンから出てすぐ、彼女を警察に預けた勝太郎達は、直後警察の事情聴取を受けることになった。

長時間の事情聴取が面倒くさくなった勝太郎は、バルイールとメルヒェンにこう伝言を残して姿を消す。

「眠いから先に帰る。後、頼む」

二人に事情聴取を押し付けた勝太郎は、雑居ビルに帰り惰眠を貪っていたが、帰ってきた二人、特にバルイールに丸一日説教を食らっていた。

なので勝太郎は、寝れなかった分を取り戻す為に学校で隙あらば寝てばかりいた。

「……腹減ったな」

空腹で目を覚ますと、時刻は正午を回っていて昼休みの時間が半分過ぎていた。

「昼飯食うか」

勝太郎は軽く伸びをすると、カバンから弁当箱を取り出す。

メルヒェンが持たせてくれたそれを開けようとしたその時だった。

「……あの」

勝太郎は無視。

「えっ、聞こえてない? あのっ!」

再び無視して蓋を開ける。

中には巨大なおにぎりが二個入っていた。

「またおにぎりか、そろそろバリエーション増やしてもいいと思うんだが」

「うー。あの、海崎くん!」

三度目の正直とばかりに勝太郎は、面倒くさそうに首を動かして声の主を見る。

それは予想もしていない人物だった。

「お前……」

「やっとこっち向いてくれた海崎くん。お久しぶりかな」

勝太郎の目の前にいたのは、腰まで届く黒髪とエメラルドの瞳を持つハーフエルフの少女だった。

「確か、美花子……」

「ミスフォルラだよ。覚えてないの?」

「お、覚えてるよ」

そう言って弁当箱に視線を落とす。

「なんでお前がここにいるんだよ?」

「何言ってるの。私、ここの生徒だよ」

「そうだったか?」

入学当初から、何日もダンジョンに潜ることはしょっちゅうで、登校したとしてもほとんど寝て過ごす彼は、クラスメイトの事をほぼ知らなかった。

「海崎くん。いつも寝てばかりなんだもの。知らなくてもしょうがないか」

「そうか。悪い」

勝太郎は自然と謝罪してしまう。

どうもミスフォルラの前では調子が狂ってしまうのだ。

「いいよ気にしてないから。ところで海崎くんに話したいことがあるんだけど!」

「な、何だよ」

周りの生徒とは違い、どんどん話しかけてくるミスフォルラに、勝太郎は押されてしまう。

「あのね……」

「ミスティ! そろそろお昼食べないと、昼休み終わっちゃうよ」

彼女の背後にいた親友のノリコが会話を遮る。

「あっ、そんな時間か。ごめんね海崎くん。また後で」

謝って立ち去るミスフォルラと対象的に、ノリコの勝太郎を見る目は、恐れを抱いているようだった。

(まあ、あれが普通の反応だよな)

勝太郎はおにぎりをほおばりながら、そう心の中で呟く。


それは入学した時だった。

「海崎勝太郎。職業、探索者」

クラスの前でそう自己紹介した後、彼は誰とも話すことなくずっと一人でいた。

クラスメイトは、段々と腫れ物に触れるかのように、彼と距離をとるようになる。

勝太郎も自らクラスに馴染もうとはしなかった。

彼には一つの大きな目的がある。

それは自分を置いていった父を追ってダンジョンの上層に登ることだった。

父秀俊は、今から一年前に勝太郎達を置いてダンジョンに向かい消息不明になっていた。

(一刻も早く見つけて、ぶん殴ってやる。)

何も言わず、勝手に消えた父を勝太郎はハッキリ言って恨んでいる。

その為には早くダンジョンに潜って、父を探したい。

そう思う勝太郎にとって、学校は足枷でしかなかった。

「ご馳走様。さてと、今日の授業が終わるまで後数時間。寝るか」

弁当箱をカバンにしまうと、勝太郎は机に突っ伏して眠るのだった。

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