第1話 その7
「了解。その場で待機。敵が来ないか警戒しろ」
勝太郎はそう言いながら、一人の信者の胴体を蜂の巣にする。
『分かりました』
「あっちは終わったんだね」
バルイールの放った弾丸が、敵の頭を貫く。
「こっちもさっさと終わらせるぞ!」
「分かってる」
二人は会話しながらも、信者達に向けて銃を撃つ。
メルヒェンの射撃を皮切りに勝太郎達も銃撃戦を開始した。
しかし二人が受け持った北東の敵は数も多く、反応も早かった。
北西から銃声が響くや否や、殆どが姿勢を低くして、自らの身体を面積を小さくする。
勝太郎達は、パニックになって立ち尽くす数名を優先的に狙った。
「くそ! 侵入者だ。撃て!」
弾丸を逃れた信者達も、持っている銃を二人に向けて撃って来る。
相手は数に任せて撃ちまくるが、殆どが岩に阻まれ、勝太郎達には届かない。
逆に二人は遮蔽物のない丸見えの敵を一人ずつ倒していった。
「くそっ!」
「それじゃあ防げないよ」
中には死体を盾にする者もいたが、バルイールの放つ七・六二ミリが、死体ごと隠れている者を撃ち貫いた。
北東の敵を全滅させ、二人は素早くマグチェンジをして辺りを警戒する。
「クリア」
「クリア……じゃない! いっぱい出てきた!」
お互いに動く敵がいないことを確認していると、テントからどんどん信者が銃を構えて出てきた。
「撤退」
「了解!」
二人が首を引っ込めると同時に、多数の銃弾が、火花を散らして岩肌を抉る。
「メルヒェン。集合」
『分かりました』
しばらく銃声が止むことはなかったが、それを気にせず、勝太郎達はミスフォルラの元に集まる。
「お、おかえり! 大丈夫なの? ものすごい撃たれてるけど!」
ミスフォルラが耳を押さえながら、大声で戻ってきた勝太郎に声を掛ける。
「大丈夫だ。弾丸はこの岩を貫通できない!」
「ど、どういう事?」
二人は銃声に負けない大声で話す。
「ダンジョンの壁や石は見た目以上に硬い。それに、例え穴が開いても修復してしまうんだ!」
「へ、へぇ〜知らなかった。あっ、音が止んだ」
「全弾撃ち切ったんだろ。素人め」
勝太郎はそう悪態を付くと、メルヒェンに指示を出す。
「今の内に状況確認」
「はいマスター」
メルヒェンは大胆にも岩壁の上に登る。
彼女の両眼には敵の姿が丸見えになった。
「敵の数は約二十人。全員銃器で武装し、再装填中です」
その時一発の銃声が響き、メルヒェンが岩から落ちる。
「きゃあっ! 大丈夫? しっかりして!」
ミスフォルラが慌てて近づく。
見るとメルヒェンの胸に小さい穴が空いている。
「何をしている! さっさと生贄を取り戻せ!」
勝太郎が見ると岩陰から見ると、一番遠いところのテントにいる信者が、拳銃をこちらに向けて怒鳴っていた。
「あいつか、メルヒェンを撃ったのは……」
「五十メートルは離れてるのによく当てたね。ちょっとした奇跡だよ」
「ちょっと二人共! 彼女が撃たれたのになんでそんな冷静なの!」
「大丈夫ですよ」
「えっ、ええっ!」
涙を流すミスフォルラの目の前で、メルヒェンが上体を起こす。
「大丈夫なの? 」
「はい。服に穴が空いてしまいましたが、私の身体には何の支障もありません」
ミスフォルラが立ち上がると、ひしゃげた弾頭がコロンと落ちた。
「私はアンドロイドなので……どうしました? ミスフォルラ」
彼女は俯いて体を震わせていたが、突然メルヒェンに抱きついた。
「よ、よかったよ〜!」
急に抱きつかれて、メルヒェンは何のリアクションも起こせない。
「マム、マスター。どうすればいいのでしょうか?」
「自分で考えろ」
「お礼を言えばいいんだよ」
つっけんどんな態度の勝太郎とは対照的に、バルイールがアドバイスを出す。
「分かりました……有難うございます。ミスフォルラ」
「ううん。ごめんね私も、でも無事で良かった」
ミスフォルラに微笑まれ、メルヒェンは頰のあたりが、熱を持つのを感じていた。
「敵が動き出すぞ。メルヒェン動けるな?」
「はい。マスター」
「よし作戦を伝えるぞ!」
勝太郎は頭の中で考えていた作戦を皆に伝えるのだった。
「分かったか?」
「オッケー」
バルイールはマガジンの残弾を確認しながら答える。
「理解しました。行動開始します」
そう言ってメルヒェンは、自分の役割を果たすため動き出す。
勝太郎とバルイールは北西の岩壁の端にしゃがむ。
岩陰から目だけを出して覗くと、マガジンを交換した信者達がこちらに銃を向けながら近づいてくる。
彼らの視線がある光景に釘付けになった。
「なっ!」
驚く信者達の目の前で、メルヒェンは岩の上に仁王立ちになる。
「位置につきました」
『やれ!』
「撃ちます」
メルヒェンはMK48を腰だめで構え、引き金を引いた。
信者達に弾丸の雨が降り注ぐ。
「うわっ」
「ぎゃあ」
メルヒェンは当たる当たらないに関わらず、次々と標的を変え信者達の頭を抑える。
「行くぞバルイール」
「おう!」
勝太郎達はメルヒェンの援護射撃を受けて、岩陰から飛び出した。
彼らが目指すのは、信者達を指揮する田中だった。
メルヒェンの弾幕で敵の動きを抑え、勝太郎とバルイールが敵の指揮官を潰す。
これが勝太郎が立てた作戦だった。
二人は銃を構えながら、遮蔽物から遮蔽物に移動して邪魔な敵を撃っていく。
勝太郎達を援護していたメルヒェンの銃が弾切れになる。
「メルヒェンこれを!」
ミスフォルラが満杯のボックスマガジンを渡す。
彼女の役目は、メルヒェンの弾切れをサポートする事だ。
「有難うございます」
「頑張って!」
「はい」
メルヒェンは銃弾が身体を掠めるのも気にせず、素早くリロードする。
そして薬室に初弾を送り込み、こちらを狙っていた信者を逆に撃ち抜いた。
「くそ! 何をしているんだ!」
田中は焦っていた。
侵入者達は、数の多いこちらを手玉に取り、全く歯が立たない。
しかも男女二人がこちらに近づいてくる。
田中は男の方を狙って、拳銃の引き金を引いた。
勝太郎の耳を弾が掠める。
「こっち狙ってるな」
勝太郎は自分を狙う銃口から逃れるために、地面に低く伏せる。
その体勢のまま、フルオートで田中を撃つ。
弾丸は田中に当たらなかったが、相手を怯ませる事には成功する。
「くそっ!」
田中も負けじと撃つが、銃のスライドが後退したままストップする。
弾切れだ。
「弾は……くそ、テントの中だ」
田中は置きっぱなしの予備マガジンを取るためにテントに入る。
そしてテーブルの上にあったマガジンを引っ掴むと、手こずりながらも新しいマガジンを銃に装填する。
そして急いでテントから出たその時、顔面を思いっきり殴られた。
「ぐはっ」
田中の顔面を強打したのは、勝太郎の持つ銃のストックだった。
彼は、田中がテントに引っ込んだのを見て、一気に近づいていたのだ。
「ぐおっ、この……」
「動くな」
勝太郎は顔から血を流す田中に、硝煙を立ち昇らせる銃口を向ける。
「お前達のボスはこの通りだ! まだやるのか雑魚共?」
そう大声で信者達に尋ねる勝太郎。
「に、逃げろ」
「死にたくない」
「うわああああ」
信者達は武器を捨てて、部屋から次々と逃げていく。
「待て。お前達! 我らは神の手だぞ。神のためなら死ぬまで尽くせ!」
田中の言う事を聞く信者達は誰もいなかった。
皆、死にたくない一心で逃げる。
「あの背教者共め!」
「多分あいつら死ぬよ」
勝太郎はポツリと呟いた。
「何、どういう事だ?」
「ここにいるハイエナがあいつらを逃さないさ」
「ハイエナ?」
「ギャアアアアアアアア」
その時、逃げた信者達の方から悲鳴が聞こえてきた。
「嫌だ、やめろ、来るなぁあああ」
「な、何だ? 何が起きているんだ?」
「アカイハイエナ。モンスターだよ」
「モンスターだと」
「ああ、あいつらは、いつも姿を隠しているんだが、 獲物を見つけると出てきて食らいつくのさ」
そこで言葉を区切って、勝太郎は田中の目を見る。
「自分より弱い、確実に仕留められるやつしか、あいつらは狙わないんだ」
「ヒッ」
そのルビーの瞳は血のように輝き、田中に恐怖を植え付ける。
「武器を捨てた信者が悪いんだよ。自業自得だ」
田中は顔から血と共に涙をボロボロと流していて何も言えなかった。
「ショータロー」
「何だよ」
勝太郎が振り返ると、バルイールが銃口を構えて近づいてくる。
「ハイエナが入ってきてるよ」
言われて部屋の入り口を見ると、確かにモンスターが入ってきていた。
「本当だ。まだ腹減ってるのか」
その姿は体毛の無い赤い皮膚を持ち、四足歩行の犬のような姿をしていた。
「ウルルルルルル」
アカイハイエナ達は威嚇の為か、鳴きながら勝太郎達の周りを囲むように歩いている。
「メルヒェン。ミスフォルラを連れてこっちに集まれ」
『分かりました。向かいます』
「ハイエナは無視しろ。手を出さなければ、臆病だから何もして来ない」
田中は何とか逃げようとしたが、それも叶わない。
何故なら、その無線連絡の間もずっと銃口は、田中にピタリと合わせていたからだ。
(くそ! 探索者共め!)
田中は心の中で毒付くしかなかった。
「来たな。二人共」
「うん、私は大丈夫。皆は大丈夫?」
「アタシ達は大丈夫だよ。ミスティ、結構冷静だね」
ミスフォルラはモンスターに囲まれていても、パニックに陥ったりはしなかった。
「うん。パ、父に色々ダンジョンの事、教えてもらったから。モンスターの事も少しは知ってるの」
「そっか」
「ところで何してるの?」
「うん? 今ショータローが、敵のボスに色々聞きたいことがあるんだって」
「お前に聞きたいことがある」
そう言って勝太郎は、田中の耳に顔を近づけて小声で話す。
「……はどこだ?」
「その名前は!」
田中はそれを聞いて驚きで目を見開かせた。
「知ってるのか、知らないのか、それぐらいは答えられるだろ?」
「し、知らない! 俺が仕えている教祖じゃない。別の教祖だ!」
「そうか。知らなければいいんだ。もうお前に用は無い」
「待って!」
勝太郎が後ろを振り向くとミスフォルラが近づいてくる。
「どうした?」
「その男の声知ってる。私の家に押し入った男だ」
そう言ってミスフォルラは田中を指差す。
「そうなのか?」
「ち、違……」
「言っておくが、嘘つくなよ」
勝太郎は素早く銃口を突きつける。
「……そうだ。俺が彼女を誘拐したんだ」
「それだけじゃない……パパを殺した!」
ミスフォルラの声は怨念がこもっていた 。
「待ってくれ。俺は命令されて……」
「でも殺したのはあなただ!」
ミスフォルラの大声で辺りは静まり返る。
アカイハイエナも怯んだのか、数歩後ずさっていた。
「おい」
勝太郎は無造作にミスフォルラの前にM1911のグリップを差し出す。
「?」
ミスフォルラはキョトンとする。
「俺のを貸してやる。こいつをどうするかお前が決めろ」
ミスフォルラは銃を受け取りしっかりと両手で持ち、田中の顔を狙う。
「…………」
「……撃てるのか? お前みたいな小娘が人間を殺せるのか? 」
田中の挑発で彼女の迷いは吹っ切れた。
「うわぁあああぁああ!」
ミスフォルラは吠えながら、全弾を一気に撃った。
キン、コンと辺りに空薬莢が散らばり、硝煙の匂いが鼻をつく。
しかし血の匂いはしなかった。
「ハァーハァー」
ミスフォルラは弾切れになった銃を構えたまま、肩で息をしていた。
「あ、ああああ」
田中は生きていた。
頭の周辺の床に八つの穴が空いている。
ミスフォルラはワザと全弾外していた。
「上手いな」
「うん。パパに訓練を受けたから」
ミスフォルラは銃を勝太郎に返す。
「いいのか?」
「うん。こんな奴、殺す価値ない」
「そうか」
勝太郎は新しいマガジンを装填し、薬室に初弾を送り込む。
そして素早く、田中の両足を狙って二発撃った。
「ぎゃあああああ」
「行くぞ、みんな」
勝太郎は銃をホルスターにしまって、三人と共に部屋の出口に向かう。
「行きましょう」
「うん。あの、あいつはどうするの?」
「ここのモンスターが始末してくれるさ」
勝太郎達四人は、アカイハイエナに歩いて近づく。
ハイエナ達は、彼らに道を開け名残惜しそうに見ているだけだった。
両足を撃たれた田中は激痛の中、何とかここから脱出しようとしていた。
「くそっくそっくそ!」
悪態をつきながら手で這っていると、不意に何かの視線を感じた。
見ると、何個もの目が田中を見ていた。
それはアカイハイエナの獲物を見る目だった。
「く、来るな。俺は神に、ダンジョンの為に尽くしているんだぞ! お前達と同じなんだ。寄るな!」
「「「ウルルルルルル!」」」
ハイエナ達は歓喜の鳴き声をあげて一斉に口を開ける。
「ああああぁああああぁああ」
目の前の血を流して弱った極上の獲物を逃す気はさらさら無かったのだ。




