第1話 その6
「教祖様。こちらの準備は整いました。貴女がお越しになればいつでも儀式を始められます」
ミスフォルラのテントから出てきた男の一人、田中は自分のテントで、こちらに向かっている教祖と携帯で話しをしていた。
『そちらに何も問題はありませんね。生け贄はどうしています』
「はい。生け贄は大人しくしていますよ。もちろん逃げられないようにちゃんと監視してあります。ご安心ください」
『他の教祖達が失敗してきた神を降臨させる儀式を、私が完成させる事ができれば、他の教祖よりも、私は 一歩抜きん出た存在になれる。何としても失敗は許されませんよ!』
教祖の声は、儀式の成功を確信して興奮で上擦る。
「分かっております」
田中は不快感をどうにか押し込んで返事をした。
『それでは、後少しでそちらに向かいます。くれぐれも問題を起きないように見張っていなさい』
「はい」
「大変です!」
「何だ! 今教祖様と話しているのだぞ!」
田中は慌てて携帯を手で押さえて、向こうに音が聞こえないようにする。
「は、はい。入り口の見張りに立っていた二人が何者かに殺されてました」
「何だって!」
『何があったのです。聞いているのですか?』
「申し訳ありません。ちょっと急用が入りましたので切ります。失礼します!」
『ちょっと……』
食い下がる教祖の声を遮り、田中は携帯を切ると乱暴に懐にしまう。
「見張りを殺した奴は見つけたのか?」
「いえ、まだです」
田中は対応の遅い信者の態度にイライラして、大声で指示を出す。
「早く人を集めて探せ……待て、生け贄がいるテントに向かえ。侵入者はそこを目指すはずだ。急いで守りを固めろ!」
「分かりました!」
報告してきた信者がテントを出てから、田中はテーブルに置いてあった拳銃を手に取ると、スライドを引いて初弾を送り込んだ。
「おっ、ショータロー出てきた。今のところ異常なしだよ」
「油断するなよバルイール」
勝太郎の後に続いてミスフォルラも外に出てくる。
「…………」
「おお〜。スッゴイ可愛い」
無言で見つめるメルヒェンとは対称的に、バルイールは鼻から一筋の血を流していた。
「……この人達は?」
彼女は首を傾げて勝太郎に尋ねる。
「ああ、無口でメイド服を着ているのがメルヒェン。そこで鼻血を出しているのが、色魔のバルイール」
「アタシ、色魔じゃないよ!」
「メルヒェンです。宜しくお願いします」
「二人とも助けてくれてありがとうございます。私の名前は……」
「美花子・ミスフォルラ、でしょ。ねえミスティって呼んでいい?」
「は、はい。バルイールさん」
「アタシの事は呼び捨てでいいよ。ミスティ!」
「二人共、自己紹介は後だ。ここは敵地だぞ」
「マスター。複数の足音がこちらに接近しています」
「方角は分かるか?」
「はい。北東と北西からこちらに近づいてきています」
「数はどっちが多い?」
「北東の方が足音の数が多いです」
「よしバルイール、俺と北東に行くぞ。メルヒェンは北西の敵を頼む」
「分かりました」
メルヒェンは単独で、北西の敵の迎撃に向かう。
「私はどうすればいいの?」
「ミスフォルラはそこにいろ。流れ弾が飛んでくるから、いいと言うまで動くなよ。いいな?」
「う、うん」
「行ってくるよ。ミスティ」
バルイールはこれから銃撃戦をするとは思えないほど明るく手を振りながら、勝太郎と共に北東に向かうのだった。
今、勝太郎達がいるのは大部屋の一番奥で、出入口から一番遠い所にいる。
ミスフォルラが囚われていたテントの前にある突き出た岩が、勝太郎達の姿を隠していた。
部屋には円陣を組むようにテントが張られており、その内側には何で描いたか想像したくもないドス黒い色の魔法陣が描かれていた。
勝太郎達はテントの前にある突き出た岩に身を隠し、それを遮蔽物とする。
「メルヒェン位置についたか?」
勝太郎は無線を開く。
「はいマスター」
「十五メートルまで近づいたら撃て。それに続いて俺たちも射撃開始する」
「了解しました」
通信を終えたメルヒェンは、岩から目だけ出して敵を確認する。
彼女の目が捉えた敵は四人。
全員アサルトライフルやサブマシンガンを持っていた。
持っている銃はろくに整備していないのか、塗装が剥げ、酷いものは銃床が外れているものまであった。
そんな壊れかけの銃を持ってメルヒェンの隠れる岩に歩いて近づいてくる。
「…………」
メルヒェンは敵が十五メートルまで迫ったことを確認して、MK48の銃口を敵に向けた。
信者達は岩陰から突然現れた銃に、驚くだけで身体を動かす事も忘れていた。
唯の的となった敵に、メルヒェンは狙いをつけトリガーを引く。
フルオートで発射された五発の弾丸が、先頭の信者の身体に全て吸い込まれる。
血と肉片を撒き散らす死体を見て、他の信者達もやっと動き出した。
メルヒェンは動く一人を狙って横薙ぎに弾をバラまく。
二人目は、腹を横一文字に抉られ、膝をついて動きを止める。
溢れる血を両手で抑える信者の頭に五発の弾丸が殺到した。
メルヒェンは五発ずつの指切りバーストで慌てふためく敵を確実に撃ち倒していく。
ボックスマガジンの約半分を使い切った時、四人の信者は皆血を流して地面に倒れていた。
「マスター。こちらは終わりました」
油断なく銃を構えながら、無線で状況を報告するのだった。




