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ようこそ幻想都市塔京へ   作者: 竜馬光司
42/43

第5話 その10

「何あれ?」

勝太郎と同じくバルイールもピンク色の球体に気づく。

それは色はピンクでボウリングの球程の大きさがあった。

それが黒いタールの塊から浮かび上がる。

勝太郎はその球体にHK416を突き付けた。

「ウルルルルルル!」

突然ピンクの球からあの鳴き声が発せられた。

それを聞いてバルイールもM93Rを突き付けた。

二人が引き金を引く直前、黒いタールが球体にまとわりつく。

「退がれ!」

勝太郎は危険を感じてバルイールと共に、銃を構えたまま退がる。

球体にまとわりついたタールから脚が現れた。

脚は指が五本あり、そこだけ見ると人間の手に似ている。

それが四つ現れ、前脚と思われる二本の付け根が裂けて口が現れた。

全長は脚の長さを含むると五メートル程だが、身体だけ見ると約三メートル程に縮んでいた。

「ウルルル、ウルルルル!」

化け物は鳴き声を上げると勝太郎達に背を向け走り出す。

「あいつどこへ行くんだ?」

「見てショータロー。あいつ出口に向かってる!」

化け物は四本脚を全て使い、全速力で部屋を出て行く。

「追うぞバルイール! メルヒェンはミスフォルラを連れて下に向かえ」

「うん」

「分かりましたマスター」

勝太郎とバルイールは化け物を追って走り出す。

二人と別行動のメルヒェンは気絶しているミスフォルラを抱き抱え第一階層に向かうのだった。


勝太郎とバルイールは逃げる化け物を追いかける。

「あいつ、めちゃくちゃ速いよ」

化け物の姿はみるみる小さくなっていく。

「バルイール。もっと速度を上げろ!」

「分かった!」

二人はバッテリーを消費して両足の潜在能力を解放させる。

キメラスーツのインナーには筋肉に電気刺激を送る事が出来、それで着用者の力を何倍にも増幅させる機能がついていた。

時速四十キロという速さで、化け物を追いかける。

しかしそれでも追いつけない。

「ショータロー。あいつ五十キロは出てるんじゃないの?」

「撃ってでも止めてやる!」

勝太郎は走りながら銃を撃つ。

動きながら撃っているので、銃口がブレて上手く当たらない。

化け物の姿が角に消えた。

「きゃああああっ!」

直後、その奥から悲鳴が聞こえてくる。

「誰か襲われてるのか?」

勝太郎は壁にわざとぶつかって急停止し、角の奥に銃口を向ける。

見ると、化け物が探索者に襲いかかり、大きな口を開けて食らいつこうとしていた。

「させるかっ!」

勝太郎は脇腹に狙いをつけて撃つ。

「ウルル、ウルル」

弾は脇腹を貫通し化け物の行動を中断させた。

再び化け物は逃走を開始。

「第一階層に避難しろ」

勝太郎は呆然とする女性探索者にそう声をかけて、再び追いかける。

化け物は階段を下り第二階層に降り立った。

「ショータロー。マズイ」

化け物を二人で追いかけていると、バルイールが声をかけてきた。

「何だ?」

「ゴメン。バッテリー切れちゃった」

バルイールは先程の化け物との力比べをして予想以上にバッテリーを消耗していたのだ。

「分かった。後から追いかけて来い」

「うん。ゴメンね 」

バルイールが戦線離脱してしまったので、勝太郎は一人で追いかける。

化け物は止まらない。

進路上のモンスターを蹴散らしながら突き進む。

「あいつ本当にどこへ行くんだ?」

勝太郎は第二階層の通路を思い出す。

「この先は、あいつまさか……!」

勝太郎は最悪の予感を覚え、弾が切れるのも構わず化け物に向けて撃ちまくる。

「止まれ。止まれ!」

化け物は銃弾を全く意に介さず、勝太郎の予感通りの場所へ向かっていた。

そこには紫の炎が燃える松明がある。

モンスター達はこの炎を嫌いこの出入り口に近づこうとはしない。

この出入り口には下りの階段があり、これを利用して第一階層に降りる事が出来るのだ。

化け物はここに向かっていた。

「やっぱりそこか! だがあの炎があればモンスター共は……」

勝太郎の儚い希望は一瞬にして崩れ去る。

化け物は紫の炎を無視して、その巨体を階段にねじ込ませ無理やり降りていく。

「こういう時に約に立たないのかよ!」

勝太郎は今日何度目か分からない悪態をつきながら階段を降りて後を追うのだった。


第一階層は夜でも人で賑わっている。

今からダンジョンに潜る者、一仕事を終えて車に荷物をしまう者。

そしてショップの店員や、駐屯基地の自衛隊員達が二十四時間働いていた。

「ん?」

最初に異変に気付いたのは一人の男性探索者だ。

彼のパーティはこれからダンジョンに潜る為に、第二階層に続く螺旋階段に近づいていた。

その階段から、ガリガリと引っかかるような音を響かせて何かが降りてきていた。

「何だ、この音?」

「分からん。まさかモンスターか?」

探索者パーティはそう会話をしながら、階段の音に注意を払う。

「モンスターはあの紫の炎を嫌うんだ。降りてくるはずないだろ」

そんな会話をしている間も、階段からの音がどんどん近くなってくる。

周りの人々も、その音に気付き、階段に注意を払う。

駐屯基地にいた自衛隊員達も異変を察知した。

その場にいた誰もが階段を見遣る中、それが現れた。

「うわっ!何だあいつは!」

「モンスター、モンスターだ!」

黒いタールのような身体に人間の手を持つ四本の脚を持った化け物が階段から現れた。

「ウルルルルルル。ウルルルルルル!」

探索者達は突然の事態に対応できない。

この五十年、第一階層にモンスターが現れた事など一度もないからだ。

辺りに非常警報が鳴り響く。

「うわああぁああああぁああ」

探索者達は逃げ出す。

化け物は逃げ惑う探索者達をその脚で潰し、体当たりで吹き飛ばしていく。

銃声が轟き、化け物の身体に穴が開き動きを止める。

撃ったのは自衛隊員達だ。

第一階層にモンスターが現れたのを確認しすぐさま警報を鳴らし、銃を持って化け物を迎え撃つ。

「撃て!」

小隊長の号令の下、自衛隊員達は89式小銃を三点バーストで撃ち続ける。

怪物の身体に次々と着弾するが、傷はすぐに再生していく。

それを見た小隊長はライフルグレネードの使用を許可する。

89式の銃口にグレネードを差し込み、怪物に照準、発射する。

グレネードは全て怪物に当たり、爆風と破片を撒き散らした。

「やったか」

ちょうどその頃、勝太郎も階段を降りてきていた。

爆煙に包まれる化け物に銃を構えて近づく。

「油断するな。まだそいつは動くぞ!」

勝太郎は、倒したと油断している自衛隊員達を戒める。

そして残り少ない五・五六ミリを全部怪物に向けて撃ち込む。

爆煙が晴れた化け物は傷を再生させながら、四本の脚をめちゃくちゃに振り回す。

自衛隊員達は急いでその場から離れ、難を逃れる。

HK416のマガジンが尽きる。

勝太郎は持っている予備マガジンを全て使い切ってしまった。

勝太郎は荷物になったHK416を床に落とし、サブウェポンのM1911をレッグホルスターから抜いて速射する。

弾が切れたら新しいマガジンをリロードし更に撃ち続けた。

「おい。俺たちも撃つぞ!」

「おお、あいつばかりにいいカッコさせられるか!」

諦めずに立ち向かう勝太郎の姿を見て探索者達も各々の銃を構える。

数十丁のアサルトライフル、サブマシンガン、それにショットガンが一斉に火を噴いた。

「ヴルルヴルルル」

何百発の弾丸を浴びて、流石の化け物も堪らなくなったのか、悶えるように体をくねらせる。

そして手近にあった車を掴み探索者達に投げつける。

「逃げろ!」

探索者達は 一斉にその場を離れる。

直前までいた場所にSUVが突っ込んできた。

化け物は車を掴み、片手で即席の盾にして、もう片方の手で次々と車を投げつける。

探索者達も自衛隊員達も避けるのに必死で、反撃できない。

弾切れになった銃をしまい、勝太郎はその辺に落ちていたAK47を拾って撃つ。

しかしセダンの盾に阻まれる。

化け物は青のワゴンを勝太郎目掛けて投げる。

勝太郎はそれをスライディングで避けて再び落ちていた銃を拾った。

今度はM14だ。

反動の強いそれをセミオートにセットして仰向けのまま連射。

狙うのはセダンの燃料が入っているエーテルタンク。

給油口周辺に着弾し、その火花が燃料に引火。大爆発を引き起こした。

弾切れになったM14を捨てる。

「ウルウル、ヴルル! ヴルル!」

化け物は爆発で身体を一部失い、炎に舐められながら、塔の出入り口目指して走り出した。

「待て!」

化け物をら止める為に数人が撃つが、化け物は止まらずに出入り口から街に出てしまうのだった。


「ショータロー!」

化け物が街に出た直後、メルヒェン達と合流したバルイールが合流する。

「化け物は?」

「街に出ちまった」

勝太郎は吐き捨てるようにそう言った。

「ウソ……」

バルイールはショックで何も言えなくなってしまう。

勝太郎は何も言わず歩き出した。

「ちょっと、どこに行くのよ?」

「化け物を追うんだよ。奴を倒さないと街は壊滅だ」

勝太郎はそう言ってメルヒェンの方に振り向く。

「メルヒェン。車の位置は分かるか?」

「はい。無事てす」

火の海に包まれた駐車場からメルヒェンはウミボウズを探し出した。

「なら、まだ手はあるな。二人とも力を貸してくれるな?」

「もちろん!」

バルイールは力強く頷く。

「はい。全力でお手伝いします」

メルヒェンは冷静な表情でひとつ頷いた。

三人は気絶しているメルヒェンを預けて車に乗り込む。

バルイールは後部座席に乗り、勝太郎は助手席にメルヒェンは運転席に座り込んだ。

「出せメルヒェン!」

「発進します」

メルヒェンはウミボウズを急発進させ、塔から街に出た。

時刻は夜十時を回ろうとしていた。

夜とはいえ人の姿はなく車は乗り捨てられている。

よく見ると、車のルーフは潰れ道路は所々抉れていた。

「化け物が通った後だな」

勝太郎が助手席側の窓から辺りを見回してそう呟く。

メルヒェンは車の隙間を縫うようにウミボウズを走らせる。

「何を使おうかなー」

バルイールはそんな状況でも中に置いてある銃を点検していく。

「メルヒェン。エーテルブーストはチャージできているか?」

「はい。最大までチャージできているので、二回使用できます」

エーテルブーストとは、エーテルを吸収してエンジンの性能を短時間、増大させる機能だ。

「よし、一回使え。さっさと化け物に追いつくぞ! バルイール、シートベルトしろ」

勝太郎とバルイールはシートベルトを締めた。

「分かりました。ブースト発動します」

それを確認したメルヒェンはハンドルについている赤いスイッチを押し込む。

するとウミボウズが爆発的に加速してスピードメーターを振り切る。

マフラーから緑の炎が吹き出し、タイヤからは煙が上がった。

すさまじい加速度で三人の身体は座席に固定される。

スピードは一気に二百キロを超えていたが、メルヒェンはそんな状況でもハンドルを巧みに操る。

暫くして、前方に化け物の後ろ姿が見えてくるのだった。


駐屯基地で鳴らされた警報は直ちに幻想区全域に発令された。

人々は警報を聞き、直ちに最寄りのシェルターに素早く避難していく

この五十年の訓練の賜物だった。

警察は戦力として立ち向かえないので、住民の避難と道路の封鎖を徹底する。

自衛隊各駐屯地からは直ちに部隊が出動。

化け物から一番近い幻想区東駐屯地からは塔から現れた化け物を排除するため、戦車が出動する。

その名は10式戦車改と90式戦車改だ。

二台とも、五十年以上前の戦車だが、エルフ達の知恵とドワーフの技術により生み出されたエーテルエンジンと複合装甲により生まれ変わったのだ。

二台は偵察用ドローンの映像を確認しながら、全速力で戦場に向かっていた。


化け物を追いかけている勝太郎のスマホに着信が入る。

「誰だこんな時に…… ババアから?」

スマホの画面には桃ノ木博士の名前が表示されていた。

『勝太郎か? まだ生きてるみたいだな』

「何だババア。こっちは忙しいんだ」

『まあまあそう言わずに、黒い悪食の弱点を色々教えてあげるから』

勝太郎はスマホをスピーカーホンにして全員に聞こえるようにする。

「ちょっと待て。まず黒い悪食って何だ?」

『ごめんごめん。黒い悪食は私が考えた化け物の名前の事ね』

「それは分かった。で、何であの化け物のことを知ってるんだ?」

『それはだね……』

「私の視覚データを桃ノ木博士に送っていたからです」

桃ノ木博士の言葉を遮ってメルヒェンが答えた。

『……まあ、そういう事』

「それでババア。黒い悪食の弱点は何だ?」

「勝太郎は、ピンク色の球体は見たかい?」

勝太郎は言われて見た事を思い出す。

「ああ、見たぞ」

「アタシも見たよ。それ」

バルイールも身を乗り出して答える。

『なら話が早い。それが本体だ。それを破壊すればいい』

それを聞いて勝太郎は合点がいく。

ピンク色の球体が本体だとすれば、あの高い再生能力も説明がつく。

「コアは奴の身体のどこにあるんだ?」

『ごめん。それは分からないんだ』

「はっ?」

「アスカちゃん、どういう事?」

絶句する勝太郎の代わりにバルイールが尋ねた。

『どうやらコアは一定の場所に止まらずに身体の中を動き回ってるみたい。だから補足が難しいんだ』

「じゃあ、徹底的に全身を破壊するしかないのか?」

勝太郎は溜息をつく。

『いや何とかなると思うぞ。勝太郎』

「どういう事だ? ババア」

『今解析が進んで、メルヒェンの眼にコアの位置を探知できるように設定した。確認してみてくれ』

メルヒェンは運転しながら確認作業に入る。

「確認完了しました」

『探知できる範囲は十メートル以内。近づかないと駄目だからね』

「分かったよ。ありがとなババア」

桃ノ木博士は「死ぬなよ」と言って通話を終わらせた。

「じゃあ、相手の弱点も分かった所で、攻撃開始しますか?」

バルイールの提案に勝太郎は頷く。

「メルヒェン。どれ位で黒い悪食に追いつける?」

「あと五十秒です」

「バルイール武器を準備しろ」

「分かった。ショータローは何使う?」

「LMG」

「じゃあ。ほいっ、これ」

バルイールが手渡したのはライトマシンガンのネゲブだ。

小型軽量をコンセプトに開発されたこの銃は車の中で撃つにはピッタリだ。

口径は五・五六ミリ。それが入った百発入りのボックスマガジンがセットしてある。

「あと三十秒で接敵します」

メルヒェンが告げる。

「こっちは十五秒で準備完了するよ」

バルイールはそう言いながら、ケースから銃を取り出し組み立ていく。

「ほい完成っと」

十秒で組み立てを完了されたそれはバレットM82だ。

この銃は五十口径の弾丸を使用する対物(アンチマテリアル)ライフルで、二キロ先の標的も貫く事ができる。

全長百四十センチ。重量十二キロのそれをバルイールは軽々と扱う。

「バルイール上から狙撃しろ。奴に鉛玉をお見舞いしてやれ」

「オッケー」

バルイールはルーフから上半身だけを出して、バレットをバイポッドも使わず両手で構える。

スコープに黒い悪食を捉え引き金を引いた。

凄まじいマズルフラッシュと轟音が轟く。

弾丸は黒い悪食のすぐ横を通り過ぎた。

「ふむふむ。そうズレるのね。じゃあこれならどうかな」

バルイールはスコープを調整し脚の一本を狙って再び発射する。

「ウルルルル?」

二発目は黒い悪食の右後ろ脚に命中し、千切り飛ばした。

化け物はバランスを崩して道路を転がって止まる。

「車を止めろ!」

勝太郎の指示を受け、メルヒェンは横付けでウミボウズを停車させる。

「メルヒェン。コアの位置は?」

「今胴体にあります」

「分かった。位置が変わったら教えろ」

勝太郎とバルイールは車に乗ったままコアを狙って撃つ。

勝太郎のネゲブと、バルイールのバレットが火を噴き空薬莢が道路に落ちていく。

「左前脚に移動しました」

メルヒェンの指示を聞いてコアのある位置に弾丸を集中させる。

「次は右前脚です」

勝太郎とバルイールはコアを狙って撃っていくが手応えはない。

遂に二人の銃の弾が切れた。

慌ててリロードする。

だがその一瞬の隙をつかれた。

黒い悪食は身体を再生しこっちに向かってきた。

「バックしろ!」

勝太郎に言われる前にメルヒェンはウミボウズのギアをバックに入れアクセルを踏み込んだ。

車が後ろ向きで走る。

フロントウインドウ越しに、追ってくる黒い悪食の姿が三人の視界に映る。

勝太郎は新しいボックスマガジンを装填してゲネフを連射する。

少し遅れてバルイールも、バレットの再装填を完了させた。

スコープの中心に黒い悪食を捉えて速射する。

バルイールは持ち前の怪力を活かし反動を押さえ込んで、十回引き金を引き絞った。

バレットからまるで機関銃の様に放たれた十発の弾丸が化け物の頭を吹き飛ばす。

黒い悪食の動きが鈍り、距離が開いた。

メルヒェンは車を百八十度回転させウミボウズを停止させる。

黒い悪食は首を再生させながら飛びかかってきた。

ウミボウズがエアレスタイヤを軋ませながら、急発進する。

しかし黒い悪食の前脚が、ウミボウズの後部をガッチリと掴んだ。

「ヤバイよ。捕まった!」

バルイールはルーフから下の二人に伝える。

「振り払え!」

勝太郎の指示を受けて、メルヒェンがハンドルを操作しウミボウズが後部を振る。

黒い悪食は道路に削られ、止まってる車にぶつかりながらもその手を離さない。

そのまま、後ろ脚二本を道路に突き立て、急ブレーキを掛けた。

ウミボウズはバランスを崩してスピン。

黒い悪食の両手は離れたが、ウミボウズは何回転も回りながら止まっていた車と激突した。


「マスター、マスター」

メルヒェンの声で勝太郎は目を覚ます。

どうやら数秒気絶していた様だ。

辺りを見回すと、ウミボウズの窓はすべて割れボディも所々ひしゃげていた。

「痛っ!」

シートベルトを外そうとしたら以前撃たれた傷口から激痛が走る。

「大丈夫ですか? マスター」

「ああ」

勝太郎は痛みを堪えながらメルヒェンに返事をした。

「メルヒェンは無事か?」

「はい。問題ありません」

「バルイールはどこだ?」

後ろを見ても彼女の姿が見えない。

まさかと思って外を探すと、バルイールがうつ伏せで道路に倒れている。

ウミボウズが車にぶつかった時に彼女はルーフから吹き飛ばされたのだ。

倒れているバルイールはピクリとも動かない。

バックミラーを覗くと、黒い悪食が近づいてきていた。

勝太郎はネゲブを探すが近くに見当たらない。

「マスター。私が敵を引きつけます」

「何言ってるんだ?」

「武器は殆ど失いましたが、私には最後の手段があります」

そう言ってメルヒェンは車を降りる。

「マムをお願いします」

メルヒェンはドアを閉めて化け物に向かって歩く。

彼女の目は青から赤に変わっていた。

「リミッターを解除」

メルヒェンがそう呟くと同時に化け物に向かって駆け出す。

「ヴルルヴルルル!」

黒い悪食は近づいてくるメルヒェンを敵と認識し、四本の脚を動かして走り出した。

メルヒェンの視界に『解除完了』の文字とタイマーが残り三分を表示される。

それを確認した彼女は跳んだ。

ドンと道路が爆発した様に砕け、メルヒェンは弾丸の様な勢いで化け物にぶつかった。

黒い悪食は体当たりを受けて吹き飛ぶ。

もつれ合う様に二人共、十メートルほど吹き飛び、更に五メートルは道路を転がって止まる。

「ヴルルル!」

黒い悪食は脚でメルヒェンを潰そうとする。

メルヒェンはその一撃を避けて、カウンターの右アッパーを化け物の胴体に撃ち込んだ。

黒い悪食の身体が一メートルは浮き上がる。

メルヒェンは追撃しようとしたが、迫る化け物の反撃を避けて距離が開いてしまう。

残り二分三十秒。

黒い悪食は前脚二本の手で拳を作り、それを同時に叩きつけてくる。

メルヒェンは避けずにその攻撃を両手で受け止めた。

「……!」

黒い悪食は驚いたのか、一瞬動きを止める。

それを逃すメルヒェンではない。

掴んでいた化け物の指を持って持ち上げ放り投げた。

黒い悪食は背中から停車していたバスの天井にぶち当たり、バスは真ん中から折れる。

メルヒェンは跳躍して、動きを止めた化け物の腹部に着地する。

(コアは……そこです)

胴体から逃げようとしていたコアを探知して、その場所に右手を突っ込む。

右手がコアを掴んだ。

そのまま握り潰そうと力を込めた時、黒い悪食は四本脚をめちゃくちゃに振り回す。

そのうちの一本がメルヒェンに当たり、彼女の身体は吹き飛ばされ近くのトラックのコンテナにぶつかり大穴を開けた。

残り一分。

黒い悪食はひっくり返った体制を元に戻し、メルヒェンに止めを刺そうとトラックに近づいていく。

残り三十秒。タイマーがゼロになった時、ボディの崩壊を防ぐ為に強制停止する。

黒い悪食が動きを止める。

トラックが一種動いたからだ。

「ウルル?」

黒い悪食の目の前でトラックが浮かんでいく。

いや浮かんでいるのではない。トラックの下からメルヒェンが両手で持ち上げていたのだ。

メルヒェンは重量2トンはあるであろうトラックを思い切り投げつける。

トラックは狙い違わず直撃した。

「ヴルルヴルル!」

黒い悪食はトラックと道路に挟まれ動きを封じられる。

メルヒェンは投げた体勢のまま強制停止していた。


化け物は脚を使ってトラックを身体から退けようとしていた。

そこに一台の車が猛スピードで突っ込んでくる。

それは勝太郎が運転するウミボウズだ。

勝太郎はバルイールの無事を確認すると、メルヒェンのお陰で化け物の動きが止まったので、止めを刺すべく車を発進させる。

武器は殆ど壊れてしまい使い物にならなかったが、一番強力なものが残っていた。

それはC4と呼ばれる軍用のプラスチック爆薬である。

勝太郎はそれに棒状の起爆装置を取り付け、ウミボウズの後部座席に固定していた。

アクセルをベタ踏みし、タコメーターがレッドゾーンまで回る。

勝太郎はギアをトップに入れて更にアクセルを踏み込み、二回目のエーテルブーストを発動させた。

ウミボウズは瞬間的に時速二百キロに迫る。

勝太郎はぶつかるギリギリの所で、ドアを開けて飛び降りた。

「がはっ!」

猛スピードの車から飛び降りたので、勢いが止まらず道路を転がりながらガードレールにぶつかって跳ね返る。

ガードレールは見事にへこんでいた。

乗り手を失ったウミボウズはまっすぐ直進し、黒い悪食に激突する。

「ヴルルルルル!」

二台の車に串刺しにされて、化け物は脱出しようにも脱出出来ない。

『ショータロー。メルヒェンは救助したよ。思いっきりやっちゃえ!』

「……了解!」

バルイールの声を勝太郎の無線が受信する。

彼女は緊急停止して動けないメルヒェンを助けに行ったのだ。

「終わりだ化け物」

勝太郎は左手に持っていた握力を鍛えるハンドグリップに似た起爆スイッチを二回押し込む。

直後、黒い悪食がオレンジの閃光と轟音に包まれた。

C4の爆発でトラックとウミボウズの燃料に引火しさらなる大爆発を巻き起こす。

周囲の車やビルの窓ガラスが割れて道路に降り注ぐ。

勝太郎は咄嗟に両腕で無防備な頭を守った。

「ヴルルルルルルルルウゥゥゥ……」

化け物の断末魔の悲鳴は次第に小さくなり、炎の中に消えていく。

それを見届けた勝太郎は力が抜けて尻餅をついた。

『生きてるショータロー。バラバラになってない?』

バルイールの声が勝太郎の耳に届いた。

「ああ生きてる。唯、もう疲れて動けないな」

勝太郎は座り込んだまま、燃え盛る炎をじっと見ていた。

その時、炎の中に何か動くものを見つける。

「あれは、何だ?」

『どうしたのショータロー?』

勝太郎は重い身体を立ち上がらせ、正体を確かめようとした。

『聞こえてる? ねえ何があったの?』

「ちょっと静かにしてくれ」

勝太郎は一歩炎に近づく。

そこで正体を掴み絶句した。

炎の中にピンクの球体が浮かんでいたのだ。

黒い悪食のコアは所々ヒビが入っていたが、それでも健在だった。

コアは燃える肉体を再生させようとする。

「こいつ……!」

勝太郎はレッグホルスターに手を伸ばす。

その時だった。

『……そこの探索者……伏せろ』

「!」

雑音混じりの女性の声を無線機が受信する。

勝太郎はその正体不明の声に従ってその場に伏せた。

伏せた一瞬の後に二発の砲弾がコアに直撃した。


目標の近くにいた探索者三名が伏せたのを確認して、二台の戦車は照準していた黒い悪食のコアに、ほぼ同時に砲撃する。

10式改と90式改の主砲である百二十ミリ滑腔砲が鉄鋼弾APFSDSを発射した。

放たれた純エーテル製の弾体は目標に命中、これを貫徹する。

コアは爆発するように砕け散った。

爆風で燃え盛る炎は消え去り煙が漂う。

『目標命中。対象の殲滅を確認した。戦車部隊は撤退しろ』

上空から監視していたドローンの映像を確認し司令部から指示がくる。

「了解。撤退します」

先ほど勝太郎達に警告を発した10式戦車改の女性車長は復唱し、操縦手に撤退を命じるのだった。


勝太郎は耳を押さえながら起き上がる。

「いってぇ〜」

二台の戦車が放った砲弾のせいで酷い耳鳴りが鳴っていた。

「街中で戦車砲なんか撃つなよな」

この場から離れていく戦車に向けてそう悪態を吐く。

「それにしてもこれであの化け物も……ん?」

黒煙が漂う砲撃跡から小さく光る物が勝太郎の目に留まる。

勝太郎は腰のホルスターから、M1911を取り出した。

そして空のマガジンを捨てて、四十五口径の弾丸が八発詰まったマガジンを装填。

スライドを引いて薬室に初弾を送り込む

勝太郎が見つけた光る物体はガラスの破片がばら撒かれた道路を転がっていた。

勝太郎はその進路状に立ちふさがる。

光る物体の正体はコアだった。

大きさはボウリングの球から、ピンポン玉程の欠片になっている。

黒い悪食は砕け散りながらも、残った部分を集めその身を隠そうとしていたのだ。

「もう終わりだ」

勝太郎は全弾を撃ち込む。

コアは完膚なきまでに砕け散った。

廃莢した空薬莢が乾いた音を立てて落ちていく。

勝太郎は黒い悪食を倒した事を確認して、そのまま大の字に倒れる。

「終わった……」

そのまま眠るように目を閉じるのだった。

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