第5話 その5
サイトーが銃器の点検をしている間もミスフォルラの採血は続いていた。
「もう……やめてよ……」
大量に血を抜かれたミスフォルラは弱々しく抗議の声をあげるしかできない。
それでも真起子は止めようとはしなかった。
何度目かの採血を終え、テントの外に出ていた真起子が戻ってきてミスフォルラにこう告げた。
「ミスフォルラさん。魔法陣は完成したわ。貴女のおかげよ」
ミスフォルラは焦点の定まらない瞳で真起子を睨みつける。
「ふふっ。そんな怖い顔をしないで。可愛い顔が台無しよ」
そう言って真起子が点滴袋の下に空の杯を置いた。
「……何で?」
ミスフォルラは驚愕の表情を顔に貼り付ける。
「魔法陣は出来上がったわ。だから貴女の味見をしないと」
「えっ?」
ミスフォルラは理解が追いつかない。
真起子は信者に指示を出し、彼女から何度目になるかわからない採血を行う。
「……いや……」
ミスフォルラは一言喋るだけで、辛くなり身体が上手く動かない。
杯に血が溜まると真起子はそれを持ち上げた。
「貴女は神の生贄に相応しいかしら?」
ミスフォルラの目の前で衝撃的な出来事が起きる。
真起子が杯に入ったミスフォルラの血を飲んでいたのだ。
「うそ……」
真起子は血の杯を全て飲み干す。
そしてこう感想を述べた。
「美味しい血。高貴なエルフで処女の血はとても美味ね」
真起子は感想を述べると、杯を置いて外に出る。
信者達はミスフォルラの拘束を解くと、彼女を外に連れ出す。
「儀式を始めます。今日、あなた達は神の召喚を目にするのです」
それを聞いて信者達は歓声をあげる。
「生贄をそこに……」
「…………」
何も言えないミスフォルラは二人の信者によって床に座らされる。
血を抜かれすぎてもう抵抗する力は残っていなかった。
「神の降臨を開始します……」
そう宣言した真起子は呪文のような言葉を話し始めた。
すると、魔法陣が赤く光り始める。
周りにいた信者達はそれを見て跪く。
中には両手を合わせて泣いている者もいた。
真起子の口から呪文が紡がれる度に、魔法陣の赤い光が輝きを増す。
そして呪文を言い終えた直後、魔法陣にさらなる変化が訪れた。
魔法陣の真ん中がゆっくりと裂け目が出来ていく。
最初はほんの数ミリの小さな裂け目だったが、時間をかけて少しずつ大きくなっていく
勿論それは神が出てくる出口であった。
勝太郎達は発信機が信号を発する第三階層の大部屋まで今までの探索の中で、一番早い時間で到達できそうだった。
何故なら桃ノ木博士の依頼を受けた探索者達が、邪魔になるモンスター達を倒してくれたからだ。
「頑張れよ」
「ああ、ありがとう」
声をかけてくれる探索者にそう返しながら勝太郎達は走る。
そして第三階層に到達した。
「そろそろ部屋に着くぞ」
マップを見ながら勝太郎が二人に告げる。
「了解。この辺もモンスターがいないね。他の探索者達のおかげかな?」
バルイールの疑問に答えたのはメルヒェンだ。
「いえ。死骸が残ってません。どうやら探索者達が討伐する以前に何者かに駆逐されたようです」
モンスター達は死ぬと死骸が残る。
探索者達はそらから素材を切り取り、持ち帰るのだが、長くても一日で死骸は消えてしまう。
詳しい事は不明だが、塔の壁が死骸を吸収しているのではないかと考えられている。
勿論、人の死体も一日経つと同じように消えていた。
「つまり探索者達より前にここに居座る連中……」
「神の手だろうな」
バルイールの結論を勝太郎が先に取って言ってしまう。
「あっ私のセリフ……おっと」
先頭を走っていたバルイールが角で止まった。
「どうした?」
「ショータロー敵だよ」
勝太郎とバルイールが角から覗くと、三人の信者が銃を持って通路を巡回している。
「どうするの?」
バルイールが勝太郎にどう倒すか尋ねる。
「音を立てないように静かにやる」
「わかった」
「分かりました」
バルイールとメルヒェンは揃って頷く。
勝太郎とバルイールは銃をスリングから外し、壁に立てかける。
「メルヒェン。ここで待機。万が一俺たちがやり損ねたら撃て」
メルヒェンは頷く。
「行くぞバルイール」
「オッケー」
信者達は通路を行ったり来たりしていた。
二人は信者達が背中を向けたのを確認して、静かに距離を詰める。
ある程度距離を詰めたところで、バルイールが先に仕掛ける。
彼女は思いっきり跳躍すると左側にいた信者に乗っかり太ももでガッチリと首を固定する。
「よっと!」
そして固定したままバルイールはバク転するように後転した。
「……!」
信者は脳天を硬い床に叩きつけられ声も出せずに絶命した。
驚く二人の信者の一人に勝太郎が襲いかかる。
勝太郎は右にいる信者の腹を蹴る。
身体はくの字に折れ、そのまま床に激突した。
勝太郎は手で信者の頭を持ち上げ、その首にナイフを突き刺す。
「この……」
最後の信者が勝太郎を撃とうとアサルトライルAKS74Uを構える。
「撃たせないよ」
そう言いながらバルイールは信者の銃を右手でひったくり、驚く信者の顔にタクティカルトマボークを叩きつけた。
研ぎ澄まされた刃は深々と食い込み、男は倒れた。
三人の信者を排除しても、敵がこちらにやってくる気配はない。
まだ気づかれてはいなかった。
二人がメルヒェンから銃を受け取り構えながら三階の大部屋の入り口に到達した。
入り口から覗くと、大勢の信者の姿が確認できた。
部屋の中央では女性信者が何かを言っている。
それに呼応するかのように部屋の中央の赤い魔法陣が光り輝いていた。
「マズイよ。儀式が始まっている」
バルイールが勝太郎の方を見る。
「ショータロー。早く止めないと!」
「マスター、マム。姉さまを見つけました」
その一言を聞いて二人はメルヒェンの方を見る。
「何処だ?」
「部屋の中央、女性信者の隣に座り込んでいます。かなり衰弱しているようです」
最早一刻の猶予もなかった。
「バルイール、メルヒェン。突入するぞ」
勝太郎は四十ミリグレネードをM203に装填する。
「俺が四十ミリを撃ったら突入。バルイールはあの女信者を狙え。あいつが儀式の要だ」
「分かった」
「メルヒェンはMK48を撃ちまくれ。信者どもに反撃させるな」
「お任せください」
「ショータローはどうするの?」
「俺は四十ミリを撃った後、ミスフォルラを助けに行く」
「分かった。お姫様を助ける騎士の役目任せるよ」
勝太郎は頷くと、M203を信者達が一番集まっていそうな場所に狙いをつける。
「……突入!」
その言葉と同時に四十ミリグレネードを放つのだった。




