第4話 その8
バルイールが三階で銃撃戦を繰り広げている時、ボロボロのメイド服を纏うメルヒェンのいる二階にも賊が侵入してきた。
(足音からして四人。全員男で、アサルトライフルとサブマシンガンが二人ずつ)
足音を聞いて敵の数、性別、武装を確認したメルヒェンはスカートの中のホルスターから拳銃を取り出す。
メルヒェンが携帯していたのは、MP7ではなくワルサーPPKだ。
コンパクトで全体的に丸みを帯びたデザインが、小柄なメルヒェンによく合っていた。
彼女はスライドを引いて薬室に初弾を装填すると、相手から隠れられる所を探す。
メルヒェンはある一点を見てその場所に潜む事を決めた。
ドーシカの射撃で半壊したドアを蹴破り、覆面をかぶった男たちが侵入してきた。
全員覆面をしていて表情は分からないが、その目は鋭く獲物を探している。
武器は二人がAKS74U、もう二人がVZ61を構えていた。
賊は四人とも銃を前に構えながら油断なく、部屋を物色する。
メルヒェンはそんな彼等の様子を上から見下ろしていた。
「いないぞ。この部屋にはいないのか?」
「どこかに隠れているかもしれない。よく探せ!」
賊たちが会話していると、階上から銃声が聞こえてくる。
「上には誰かいたみたいだな」
「学生の二人は学校にいるから、ドワーフかアンドロイドのどちらかと遭遇したらしいな……」
そう言って見上げた賊の一人の言葉が途切れる。
天井の穴から覗く二つの青い硬質な瞳と目があったからだ。
「い、いたぞ! 上……ぎゃあっ!」
天井から降りてきた両足が賊の顔を踏み潰す。
それはメルヒェンの両足だった。
メルヒェンは銃撃で空いた天井の穴のひとつに身を潜めていたのだ。
小柄なメルヒェンだからこそできる芸当だった。
「こいつアンドロイドだ。撃て!」
賊の三人が、一斉に銃口をメルヒェンに向ける。
メルヒェンはスカートを翻しながら跳躍すると、離れていたVZ61使いの背後に着地した。
二人が一瞬、引き金を引くのを躊躇う。
メルヒェンは振り向こうとする、目の前の賊のサブマシンガンを左手で払い落とす。
そして右手のPPKをAKS74Uを持つ賊に向けて二発撃った。
「ぎゃっ!」
左の前腕と上腕を撃たれAKS74Uを落として蹲る。
その横にいた賊がVZ61を発射した。
「失礼」
「ぐわっ!」
メルヒェンは盾にした敵を突き飛ばすと同時に放たれた32ACP弾を避ける。
メルヒェンは射線を避けるためにソファに隠れた。
賊はメルヒェンの姿が見えなくても構わずに腰だめでVZ61を撃ちまくる。
ソファが穴だらけになり、中のクッションが部屋中に散らばった。
VZ61がガチンと音を立てて弾が切れる。
賊は躊躇なく弾切れになった銃を捨てると、傍らに落ちているAKS74Uを拾い構える。
銃を油断なく構えたまま、アンドロイドの姿を探して、ソファの方に近づいていく。
直後銃声が二発轟いた。
撃ったのは床に仰向けに伏せていたメルヒェンだった。
AKS74Uが宙を舞いながら床に落ちる。
撃たれた賊は手を真っ赤に染めながら、膝から崩れ落ちる。
賊の両手の親指は無く血が溢れていた。
メルヒェンはPPKを構えたまま立ち上がる。
すると左手側から、先程突き飛ばされた賊が体当たりしてきた。
メルヒェンは吹き飛ばされテーブルを壊しながら、吹き飛ぶ。
覆面の男は、メリケンサックを両手に装着すると、吹き飛んだメルヒェンを追撃する。
テーブルの破片を纏わり付かせたメルヒェンは無表情で立ち上がって、両手を構えて賊の攻撃に備える。
男は左のジャブを繰り出す。
メルヒェンはそれを右腕で受け流す。
男はジャブを囮にして槍のように鋭いストレートを放つ。
メルヒェンはその一撃を避けた。
「……!」
直後右腹部に男の左フックがめり込んだ。
動きを止めたメルヒェンの腹部に男の右拳が深く突き刺さる。
メルヒェンはその場に崩れ落ちて床に座り込む。
「ぶっ壊してやるよ。機械人形」
男は止めを刺そうと、銃を探して振り向いた途端、右足に激痛が走る。
「戦闘中に油断してはいけません」
見ると男の右太ももに深々とナイフが突き刺さっていた。
メルヒェンは突き刺したナイフをぐるりと抉る。
「ぐわあっ!」
男は悲鳴をあげて倒れ込む。
「貴方はまだ戦闘が可能なようですね」
「ぎゃあっ!」
メルヒェンは近づくと、男の左肘を拳で叩き折る。
「や、止めてくれ」
「…………」
男の懇願を無視して、メルヒェンは同じく右肘も叩き折った。
「これでもう何もできないでしょう」
両肘を折られた男は口から泡を吹いて倒れていた。
「メルヒェン! 怪我はない?」
「こちらは無事に終わりました」
三階の戦闘を終えたバルイールが銃を構えながら二階の応接間に入っくる。
そして彼女の姿を見るなり思いっきり抱きついた。
「マム。服が汚れてしまいますよ」
「何言ってんの。メルヒェンが無事でよかったよ。どこか怪我はない?」
「はい。何度か打撃を受けましたが、行動に支障はありません」
メルヒェンは己の体を見ながらそう答える。
「打撃……誰がメルヒェンの事殴ったの?」
「彼です」
メルヒェンは自分が倒した男を指差す。
「こいつが私のメルヒェンを殴った……」
バルイールは男に近づくと、太ももに突き刺さっていたナイフを勢いよく引き抜いた。
「ぎゃあああああああ」
男は尾をひく悲鳴を上げながら、ジタバタともがく。
「メルヒェンを殴った罰だ。そこで悶えてろ!」
「マム。まだ終わっていません」
「えっ?」
「外の重機関銃を排除してきます。ここで待っていてください」
そう言ってメルヒェンは割れた窓に向かって走り出す。
「ちょっとメルヒェン!」
そのまま躊躇うこと無く窓から飛び出した。
驚いたのはバルイールだけではない。
ピックアップの二人はそれ以上に驚いた。
二階からメイド服の少女が飛び出してくるとは予想していなかったからだ。
重機関銃手は、ドーシカを構えようとしたが、メルヒェンの方が早い。
彼女はピックアップのルーフを潰しながら着地すると、こちらに向くドーシカの銃身を掴んだ。
そしてそのまま力任せに荷台から銃を引き剥がす。
驚く賊を棍棒代わりにしたドーシカで叩き飛ばす。
するとピックアップが急発進した。
メルヒェンは振り落とされ道路に落ちる。
ピックアップはそのままUターンをすると仲間を置いて一目散に逃げ出した。
「逃がしません」
メルヒェンはすぐさま態勢を立て直すと持っていたドーシカを腰だめに構え、立ったままピックアップに向けて五発撃った。
五発の十二・七ミリが左側のタイヤを前後とも撃ち抜く。
タイヤを一気に二つ失ったピックアップはその場で横転し上下逆さまのまま道路を削りながら停まっていた車に激突して止まった。
「……こりゃまた派手にやったね」
バルイールが階段を降りてメルヒェンの元に向かう。
「マム。敵は全員沈黙しました。しかし一人殺害してしまったかもしれません」
「いや大丈夫だよ。ほら」
バルイールが指差したところを見ると、横転した車から運転手が這い出てきた。
足から血を流しているが生きているようだった。
遠くから誰かが通報したのか、サイレンが聞こえてくる。
「とりあえずこれで終わったね」
「はい。しかしマスターと姉さまが心配です」
「今連絡取ってみる」
バルイールはスマホを取り出し勝太郎にかける。
しかし電話はずっと呼び出し音を鳴らすだけだった。
「ダメだ出ない。何かあったのかな?」
バルイールは何度も勝太郎を呼び出し続けるのだった。




