第1話 その2
「あ〜眠い」
改札を出た途端。少年、海崎勝太郎は大声でそう言った。
銀髪でルビーの瞳を持つ彼の容姿は、周りにいる女性達の注目を集めていたが、本人は全く気付いていなかった。
「ふぁ〜あ。帰ったら、すぐ寝よう」
勝太郎は電車でもずっと寝ていたのだが、それでもまだ眠い。
周りを見渡せば自分と同じ制服を着ている人はは一人もいなかった
(何で俺だけ追試なんだよ)
勝太郎は勉強が大嫌いだった。
周りからは取り敢えず卒業しとけとうるさく言われているので嫌々通ってはいるが、出来ることなら今すぐ学校など辞めたかった。
彼の仕事には全く持って、今の勉強は役に立たないからである。
「めんどくせえな」
再び大きな欠伸をしながら、勝太郎は自分の拠点に戻るのであった。
勝太郎の住処は三階建ての雑居ビルである。
一階には車庫があって、ワゴンが停めてあり、二階には仕事用のパソコンと客を通す応接間。
そして大事な仕事道具を収納する部屋がある。
三階には勝太郎達が過ごす個室があった。
「ただいま〜とっ」
勝太郎は三階の自分の部屋に戻るのがめんどくさいので、二階の応接間の三人掛けのソファに制服のままダイブした。
「痛っ、外すの忘れてた」
ベルトから拳銃とホルスター、マガジンポーチ。そしてナイフを外してテーブルの上に無造作に置いた。
「よし、おやすみー」
そう言ってすぐ、夢の世界に旅立ってしまうのだった。
「たっだいまー」
あたりが真っ暗になった頃、一人の女性が雑居ビルに帰ってきた。
「フフフ。今日もメルヒェンの服、大漁ゲット。後でファションショーしなきゃ……おっとっと」
そう妄想するだけで、じゅるりとよだれが垂れて、慌てて手の甲で拭う。
彼女はそのまま、三階の自分の部屋に入る。
その間も勝太郎はずっとソファで眠っていた。
「ただいま。メルヒェン」
「お帰りなさい。マム」
「また、新しい服買ってきたから、後で、お着替えしましょうね。ウフフフ」
「いつも有難うございます」
「あれ? メルヒェン。ショータローは?」
「はいマム。マスターは二階にいると思います」
「またソファで寝てるの。呆れた子供だね」
「マスターはまだ十五歳。しょうがないと思います」
「メルヒェン。いくら何でも、それは甘やかしすぎだよ」
「しかし、私はマスターにそんなことを言える立場ではありません」
「それもそっか。じゃあお姉さんがビシッと言ってあげますか!」
そんな会話をしながら女性二人が応接間に入って来た。
「ショータロー、起きろ。もう夜だぞ!」
部屋に入ってくるなり、寝ている勝太郎を起こすために声をかけたのは、ドワーフの女性バルイールである。
褐色の肌を持つ彼女は、ボーイッシュなショートヘアで、黒い瞳を持っていた。
身体は引き締まっており無駄な肉は一切ない。
バルイールの格好はTシャツに、ジーンズのショートパンツでその身を包んでいた。
「ショータロー。ほら起きろって」
「うるさい。俺は眠いんだ。寝かせてくれ」
「明日の朝まで眠るつもり!」
腰に手を当てて上から勝太郎を睨みつけるが、彼は全く起きる気配はなかった。
「む〜〜〜〜」
「マム。すいません。これを見てください」
「何、メルヒェン。どうしたの?」
バルイールを呼んだ小柄な少女の名はメルヒェンという。
彼女は真っ白な白い肌を隠すように、スカート丈の長いメイド服に身を包み、青い硬質な瞳を持っていて、ぱっつんショートの金の髪にはカチューシャを付けている。
彼女の服装は、全てバルイールの趣味が反映されていて、今日彼女が出掛けていたのも、メルヒェンの新しい服を買うためだった。
バルイールは応接間に置かれている仕事用のデスクトップPCに目を通す。
「……これ、何だか大変な事になりそう」
「はい。そうですね」
「まずねぼすけをさっさと起こしますか」
「私もそうした方がいいと思います」
二人は振り向くと、ソファで寝ている勝太郎を見る。
「ショータロー。依頼が来てるの。起きて内容見てみなよ」
「うーん、眠い。後だ」
「ショータロー。いい加減起きろー!」
「イヤだ。ぐー」
「キレた」
相変わらず起きようとしない勝太郎の態度に、バルイールの堪忍袋の緒が切れた。
おもむろにその辺にあったボールペンを持つと、勝太郎の頭めがけて投げる。
ペン先は真っ直ぐ飛び、勝太郎の顔面に突き刺さる寸前、寝ていたはずの勝太郎が左手でボールペンをキャッチしていた。
「危ねえよ。バルイール」
「ショータローが起きないからでしょ!」
バルイールは腰に両手を当てて、ふんぞり返る。
そこには悪気は全く感じられなかった。
「マスターお早う御座います。早速ですが、あちらをご覧下さい」
いつの間に用意したのか、メルヒェンがホットコーヒーを持って勝太郎に近づく。
「もう何だよ」
寝ているところを邪魔された勝太郎は不機嫌な態度を隠さず、貰ったコーヒーに口をつけながら、パソコンに近づくのだった。
「で、何がどうしたって」
「だから、依頼のメールが来てるの。見てよこれ」
勝太郎は寝ぼけ眼で、パソコンの画面を見つめる。
そこには、こう書かれていた。
昨日深夜。神の手教団により、ハーフエルフの少女が誘拐された。
奴らの目的は少女を生贄にして、神を召喚する事だ。
すぐに少女を救出してほしい。
メールには誘拐された少女の名前と写真。そして誘拐犯がいるであろう場所が描かれていた。
「えっと名前は、美花子・ミスフォルラで、ハーフエルフの女の子。早く助けに行こう! ショータロー」
「これはどう見ても警察の仕事だろ。俺たちの手に負える依頼じゃないぞ」
コーヒーを啜りながら勝太郎はそう答える。
彼らに回ってくる依頼は、あるモンスターを討伐してくれやこの素材が欲しいなどであった。
人質救出など探索者のやる仕事ではない。
「何言ってるの! こんな可愛い子が助けを求めているんだよ! 私達が行かないで誰が行くの!」
バルイールはこの依頼を受ける気満々であった。
「よくその画像で分かるな」
彼女が指差した写真はとても画質が荒かった。
「アタシには分かるの!彼女が超可愛い子だって!」
バルイールは自他共に認める美少女好きである。
「知るか。お前の趣味を俺に押し付けるな」
「え〜。ショータローはひどい奴だ。人の風上にも置けない最低野郎だー!」
「はいはい。言ってろ。全く……」
バルイールを無視して、勝太郎はメールをスクロールしていく。
すると一番下に差出人の名前が書かれていた。
それを見て勝太郎は絶句する。
「どうしましたマスター?」
「どうしたのよ。固まって……この名前ってまさか!」
バルイールも驚きに目を見開いた。
そこには一年前に消息不明になった父の名前が書かれていた。
「秀俊様……」
「何で、秀俊さんが?」
「……二人とも準備しろ。すぐ出るぞ」
勝太郎はそれだけ言うと、パソコンから離れ、ベルトにテーブルに置いた銃とマガジン、ナイフを装備する。
そして仕事道具が置かれている部屋の指紋認証キーを解除するのだった。




