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ようこそ幻想都市塔京へ   作者: 竜馬光司
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第4話 その5

「また明日バイバイ。ミスティ、海崎くん!」

「うん。じゃあね。ノリコ」

手を振るノリコにミスフォルラも手を振って返す。

勝太郎は無言で手だけ上げて応えた。

笑顔で去るノリコを見送ってから、二人は雑居ビルに向かって歩き出す。

放課後は特に何もなければミスフォルラの訓練と決まっていた。

訓練は銃の整備や射撃、身体を鍛える為の筋トレや格闘技。そして塔のダンジョンに関する知識などやる事はいっぱいだった。

雑居ビルに戻ると、バルイールが応接間のドアを開けて二人を出迎える。

「おかえり二人共」

「ただいまバルイール」

「……ただいまっと。ちょっと寝る。何かあったら起こしてくれ」

欠伸をしながら勝太郎はそのまま自室に向かい階段を上る。

「はいはい。じゃあ、ミスティこのまま今日の訓練(デート)に行こうか?」

「訓練でしょ。今日もよろしくお願いします」

ミスフォルラはバルイールの冗談を受け流した。

「うむ。お姉さんに任せなさい」

バルイールは女性陣三人の中で一番薄い胸を反らすのだった。

ミスフォルラは荷物を部屋に置いてバルイールの待つ車に向かう。

目的地はこの前行った訓練所だ。

バルイールと二人で二時間ほど銃の扱いを学んだところで訓練を切り上げる。

「今日は昨日聞いていた時間より早いんだね」

訓練所からの帰り道、助手席に座っているミスフォルラは運転席のバルイールに尋ねる。

事前に聞かされていた一日の訓練時間は三時間と書かれていた。

「うん。今日はちょっと寄るところがあるんだ」

「どこに行くの?」

「探索に必要な色々な道具を買いに行くの。ついでにミスティにも道具の事教えてあげる」

そう言ってバルイールはハンドルを切って駐車場に車を止める。

「着いた。ここだよ」

バルイールが車を止めたのは一軒のホームセンターだった。

「ここにはダンジョン探索に必要な装備が売ってるんだ」

「キャンプ用品とかですか?」

現在アウトドア用品を利用するのは殆ど探索者達だけである。

「それも必要だね。でもそれだけじゃないんだ。ついてきて」

バルイールはキャンプ用品売り場を抜けてその奥に足を運ぶ。

見えてきたのはミスフォルラが見たことのない装備ばかりだった。

何かを打ち出す銃のような機械や、テーブルクロスのような黒い布が陳列されていた。

「この銃とか何に使うんですか?」

ミスフォルラが壁に掛けられている銃を指差す。

「おっ、知りたい? ミスティも探索者目指してるんだから知っといたほうがいっか」

バルイールはそう言って彼女が指差した銃を手に取る。

「これはトラップシューター。別名アキカン発射機」

黒い色のそれは四角い銃の形をしていた。

全長は七十センチ程で上部にはドットサイト、下部にはフォアエンドとピストルグリップが装備されていた。

「アキカン発射機? これも銃なんですか?」

「ちょっと違うかな。これは直接敵を撃つ物じゃなくて、センサーを遠くに飛ばす機械なんだ」

バルイールがミスフォルラに空き缶ほどの大きさの機械を見せる。

「これがセンサー。空き缶にそっくりでしょ? だからアキカン発射機」

「ああ、なるほど」

センサーは確かに大きさといい形といい、正しく空き缶だった。

「このセンサーを、こうやってトラップシューターに装填するんだ」

バルイールはフォアエンドを後ろに下げる。するとトラップシューターが真ん中から折れる。

そこにセンサーを装填し、フォアエンドを前に戻した。

「これで装填完了。あとはサイトで狙いをつけて撃つんだ」

「センサーを撃つんですか?」

「うん。遠くに飛ばす為に開発されたからね。このセンサー自体は結構頑丈だよ」

バルイールはトラップシューターを構えてトリガーに指をかけた。

「う、撃っちゃ駄目だよ!」

本当に撃ちそうだったので、ミスフォルラが慌てて止めに入る。

「撃たない撃たない。もーアタシがこんな所で撃つわけないじゃん」

バルイールはペロッと舌を出しながら、トリガーから指を離した。

「このセンサーは半径五メートル以内に近づいた物に反応して爆発するトラップになってるんだ。

アタシ達、探索者達が休息する時の用心の為に設置するんだよ」

「それって、モンスターや人間にも反応するの?」

ミスフォルラは首をかしげる。

「反応するね。気をつけないとアタシ達が吹っ飛ばされちゃう」

バルイールは「でもね」と続ける。

「スマホにインストールされたダンジョンマップにセンサーが表示されるんだ。だから事故は滅多に起こらないよ」

「ははは……滅多にですか」

バルイールが滅多にという言葉を強調したのをミスフォルラは聞き逃さなかった。

「大丈夫。私も何年も、この稼業やってるけど引っ掛かったことないから!」

バルイールは手を上下に振りながら、銃からセンサーを外して壁に戻した。

「これもよく使うやつなんだ。ジャーン! 何に使うでしょう?」

バルイールはトラップシューターの隣にあった、丸めたポスターのような物を広げてミスフォルラに見せる。

「マットとか……?」

「ブッブー外れ。正解は入り口を塞ぐバリケードなんだよ」

「バリケード?」

バルイールは手に持ったそれをもう一度丸めると、側の壁に上端をくっつけ下に広げる。

「これはバリケードウォール。ダンジョンのセーフルームの入り口を塞ぐものなんだ」

セーフルームとはモンスターのいない部屋のことで、探索者達はここで休息をとったりする。

「でも、入り口開けっ放しだと、モンスターが入ってきたちゃうから、これで入り口を塞ぐの」

「アレ? でも下に隙間があるけど?」

ミスフォルラがバリケードウォールの下の隙間を指差す。

「これは、下から外を確認したり、攻撃したりするための隙間だよ」

「ああ、なるほど。それで今日はこの二つを買いに来たんですか?」

「いけない。忘れてたよ。どっちも持ってるから買わないよ。あっセンサーは買っといてもいいかも……じゃなくて、今日はミスティの為にこれを買おうと思って来たんだ」

バルイールは顎に手を添えながら、一瞬迷っていたが、その考えを振り払いミスフォルラに黒い布を手渡す。

「これは何ですか?」

バルイールから手渡された黒い布は、折り畳まれてハンカチほどの大きさだった。

「広げて見て」

「はい。うわっ!」

言われるままにハンカチを広げて見てミスフォルラは驚いて声を出してしまった。

「アハハッ。ビックリしたでしょ?」

バルイールはいたずらが上手くいった子供のように笑う。

「これハンカチじゃないんですか?」

ミスフォルラが広げたハンカチは一瞬にして、彼女の身体をすっぽりと包めるほどの大きさになっていた。

「すごい。こんなに大きくなった!」

「これはシュラクロスっていうんだ」

バルイールも一枚手に取り、広げて自分の身体を包み込む。

「ミスティもこうしてごらん」

バルイールに促されて、ミスフォルラも己の身体にシュラクロスを纏う。

「あ、あったかい」

「でしょ。これは保温性に優れているから、寝るときに最適なんだよ」

「確かに気持ちよく眠れそうですね」

シュラクロスに包まれていると心地よい暖かさに包まれ少し眠くなってくる。

「寝ちゃ駄目だよ?」

「ね、寝ないよ!」

「気に入ってくれたみたいだね。ほら好きな色選んでいいよ。一個、プレゼントするから」

「いいんですか! どれにしよう」

ミスフォルラはワクワクしながら、様々な色のシュラクロスを見ていく。

「これにします!」

彼女が選んだのは緑のシュラクロスだった。

「それでいいんだね」

「はい!」

「じゃあ、買ってくるから待っててね!」

結局、数点のキャンプ用品と、何個かのトラップシューター用のセンサー。そしてミスフォルラ用のシュラクロスを買って二人は帰路に着いた。

雑居ビルに戻ったミスフォルラは夕食を食べて、一日の疲れをシャワーで流してからベッドに飛び込む。

そういうサイクルの一日を繰り返しながら、金曜日を迎えるのだった。

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