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ようこそ幻想都市塔京へ   作者: 竜馬光司
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第3話 その8

休憩に入ったミスフォルラとバルイールは嵩張る装備を外して、メルヒェンが作ってくれたお弁当を食べていた。

「……それにしてもこんなにいっぱい貰ってよかったのかな」

「うん? あー気にしない気にしない」

二人の周りにはお菓子やジュースが山のように積んである。

そこにあるのは全て、頑張ったミスフォルラに対するご褒美と言って、おっさん達がニコニコしながら置いていった物だ。

探索者(おっさん)達も目の保養になったって言ってたから、そのお礼だって。遠慮しないで貰っちゃいな」

(アタシも目の保養になったしね)

「? そっか。なら貰っておこうかな」

(メルヒェンにあげたら喜ぶかな?)

バルイールの考えている事に気づくことなく、ミスフォルラはそんなことを考えているのだった。


二人が昼食を食べ終えて、次は何の訓練をしようか話していたその時だった。

突然入り口の方からざわめきが聞こえてくる。

「おい、あいつが来たぞ」

「何で、こんな所に来るんだ? あいつには関係ない所だろう」

周りの探索者達からそんな声が二人の耳に入ってくる。

「何だろう。何かあったのかな?」

「ミスティ。ちょっと様子見てみようよ」

このままでは訓練に集中できそうにないので、入り口の方に向かう。

そこには二人もよく知る人物が佇んでいた。

「ショータローじゃん!」

「海崎くん?」

勝太郎は、銃を隠すためのシャツに七分丈のカーゴパンツ姿だった。

「バルイール。そこにいたか」

二人を見つけると人目を気にせず近づいてくる。

「どうしたのショータロー。ここに来るなんて珍しいじゃん。そういえば、なんか用あるって言ってたっけ」

「そうだな。一年以上来てないな」

勝太郎はそう言って辺りを見回す。

彼は父が失踪した後は一度も来てなかった。

「どうだ。訓練の方は?」

「凄いよミスティは。アインのタイムもう一分切ったんだよ」

「そうか……」

それだけ呟くと、勝太郎はミスフォルラをじっと見つめる。

そのルビーの瞳が彼女を写す。

その瞳の中のミスフォルラは怯えていた。

「な、何? 海崎くん」

「……俺と勝負してもらう」

「えっ?」

「ショータロー!」

「ある程度、銃の扱い方も分かってきだろう? 俺とキルダンジョンで模擬戦をやってもらう」

「もし、拒否したら?」

「その時は、今すぐ桃ノ木博士に電話して迎えに来てもらう。探索者の夢は諦めろ」

「そんな……」

ミスフォルラはそれを聞いて目をそらし俯いてしまう。

「ショータロー。そんなの無茶苦茶……」

「黙ってろ! 俺は彼女(ミスフォルラ)に聞いているんだ。さあどうする?」

バルイールの抗議を遮り、勝太郎はミスフォルラの返事を待つ。

ずっと俯いて聞いていたミスフォルラは顔を上げるとこう返事した。

「私、やるよ」

「決まりだな」

「ミスティ! 無理だよ。ショータローには敵わないよ!」

「大丈夫。バルイール」

ミスフォルラはバルイールに笑顔を見せる。

「ミスティ……」

それを見てバルイールは何も言えなくなってしまう。

「海崎くん。もうひとつお願いがあるの」

「探索者以外にか? 何だ?」

「私が勝ったら、私の事ちゃんと名前で呼んで!」

「……いいぜ。俺が負けるなんてあり得ないけどな」

勝太郎は鼻で笑うと「準備してくる」と言ってその場を離れるのだった。


ミスフォルラが再び装備を着け、最後にゴーグルをかけて準備を終わらせた時、勝太郎が戻ってくる。

「待たせたな」

「ううん。こっちも今終わったところ」

今の勝太郎の格好は全身黒ずくめだ。

上下とも黒で、手を保護するグローブも、マガジンポーチが付いたタクティカルベストもブーツも全て真っ黒だった。

頭にはそのまま出しているので、彼の銀髪とルビーの瞳が一層目立つ。

「どこで、模擬戦やるの?」

「その前にもう一回聞くが、本当にやるんだな?」

その言葉に、ミスフォルラは頷く。

「じゃあこっちだ。付いて来い」

勝太郎は手招きし、ミスフォルラはその後をついていく。

すると、集まっていたギャラリー達も彼等の後をぞろぞろとついていく。

「ここだ」

勝太郎が止まったのは、ドライと書かれたキルダンジョンの前だった。

「ここで、俺と一対一で戦ってもらう」

「分かった。もう始める?」

「いや、少し時間をやるから、中がどうなってるか調べておくんだな」

「ありがとう」

ミスフォルラはドライの中に入っていく。

「ショータロー!」

彼女の姿が見えなくなった後、バルイールが勝太郎に詰め寄る。

「何だよ」

「『何だよ』じゃない! こんな勝負、今すぐ取り消して!」

バルイールが勝太郎に指をさして再び抗議する。

「やだよ」

勝太郎はバルイールに背を向けた。

「何でよ。ミスティが勝てる確率なんて万にひとつもないじゃん。こんなの勝負にならない!」

「馬鹿。塔のダンジョンの中で、自分と対等な敵なんているか? いないだろう。

だから、俺が教えてやるよ。実戦がどんだけ厳しくて辛いか訓練が少しくらい上手くいっても意味ないって事をな。

大丈夫。彼女が泣いて降参したらすぐに終わりだ」

「バカ!」

バルイールはそう言って、勝太郎の頬を叩く。

さしもの勝太郎も、ドワーフの本気のビンタは避けれなかった。

「最低! 彼女(ミスティ)にそういう酷い事するなんて、ショータローは最低だ!」

バルイールは涙を浮かべながら勝太郎を睨みつけていたが、そう言うと背を向けて彼から離れる。

「イテテ。もうちょっと加減してくれてもいいのにな」

(まあ、しょうがないか。今回は完全に俺が悪だもんな)

バルイールが十分に離れた後、勝太郎は見つからないように赤くなった頬をさするのだった。

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