第3話 その1
ミスフォルラが射撃の才能を開花させ、マシンガンを撃ちまくったバルイールがその請求金額に唖然としていた時、勝太郎はある場所に向かっていた。
電車で到着したのは幻想区東にある駅だ。
駅に着いたら目的の場所はすぐに見えてきた。
その名は飛鳥研究所。
清潔な白で覆われた三階建ての大きな建物である。
その建物には窓が一つもない。
ここでは日夜、塔で手に入る様々な物を調査研究しているのだ。
それは塔の壁の一部やモンスターのサンプルなど様々だ。
中でも一番規模の大きい研究は、塔京の重要なエネルギー源でもある魔力の研究であった。
研究所の隣には職員が住む四階建てのマンションがある。
最重要施設なので警備も厳重だ。
どちらも防犯カメラに見張られ、防弾素材が仕込まれたコンクリートの壁で囲まれている。
更に歩いて数分のところに幻想区東駐屯地があり、応援を要請すれば完全武装の自衛隊員がすぐ駆けつける手筈になっていた。
勝太郎はまっすぐその壁にある唯一の出入り口に向かう。
そこには詰め所があり、警備員が二人いた。
どちらも防弾チョッキを着込み、腰にはピストルと特殊警棒を装備している。
勝太郎からは見えないが、緊急事態に対応する為に詰め所にはアサルトライフルが置かれているはずだ。
二人の警備員は勝太郎が近づいてくるのを黙って見ていた。
その二人に向かって勝太郎は、探索者許可証を提示して、ここにきた用件を伝える。
警備員はそれを確認しながら、何処かに電話を掛けた。
受話器を置くと、勝太郎に向かって笑顔を見せ彼に中に入る許可を与えた。
勝太郎は「どうも」と言って、返ってきた許可証を受け取り敷地内に足を踏み入れる。
研究所の正面玄関を抜けると受付があった。
「海崎様」
受付係であろう制服を着た女性アンドロイドが、人工的に作られた笑顔で彼に声をかけて来る。
「…………」
めんどくさがり屋の勝太郎は、最初無視しようかと思ったが、それをすると更にめんどくさくなる事に気付いて受付に近づいた。
「いらっしゃいませ。失礼ですが、武器をこちらで預からせてもらいます」
受付係が操作をすると、テーブルにトレーが現れる。
「はいはい」
勝太郎は持っていたピストルと、ナイフをそこに置いた。
武器はトレーごとテーブルの中に吸い込まれる。
「ありがとうございます。それでご用件は何でしょうか?」
アンドロイドは外見は人間の女性そっくりだが、いつもメルヒェンと接している勝太郎から見れば、違和感だらけだった。
「あー……」
勝太郎は、さっき警備員にも行った事をもう一回言うのか、とウンザリしていたが、言わないと先に進めないのでしょうがなく用件を告げる。
「……畏まりました。今、博士に来訪を伝えますので、少々お待ちください」
受付係は受話器を取ると、相手に勝太郎が来た事を伝えた。
「お待たせしました。博士はお会いになるそうです。案内の者を寄越しましょうか?」
「大丈夫。部屋は何度か来たから知ってる」
「そうですか。では、そちらのエレベーターをお使い下さい」
アンドロイドはエレベーターに向かう勝太郎の背中に、お辞儀をして頭を上げると、無機質な瞳でジッと玄関を見つめているのだった。
勝太郎はエレベーターで地下に降りる。
目指すは博士のいる部屋だ。
先ほどからすれ違うのは、白衣を着た見目麗しいエルフの研究員達。
そして彼等を警護する人間の警備員だ。
警備員は殆どが男性だが、女性も混じっている。
その格好は詰め所にいた警備員と変わらないが、一つ違うのは両手に持っている銃だ。
彼等が装備するのは、ストックを折り畳んだG36C。
レーザサイトとフォアグリップでカスタムしたそれを持って通路を巡回していた。
すれ違う度に、警備員はこちらを睨みつけてくるので勝太郎も睨み返す。
先に目を反らすのはいつも警備員の方だった。
確かに、ここの警備員には元自衛隊の者もいて腕も確かだが、勝太郎は丸腰でも勝てると確信していた。
「着いた」
警備員と物騒な睨めっこをしながら歩いていた勝太郎は、目的の部屋の前に到着する。
扉は頑丈なスライドドアで、その右横にはインターホンがあった。
迷わずインターホンを押してこう言った。
「ババア。俺だ。開けろ」
そんな事を言われて開ける人間など、普通いないだろうが、インターホンから返事が返ってきた。
「あっ、勝君。ロックは解除してあるから入っていいわよ」
優しそうな声がそう告げると、扉からピッ、とロックが解除された音が響く。
その部屋はとても狭苦しかった。
元々は一人部屋なのだろうが、右側には冷蔵庫のような大きさの機械があり、そこから大量のケーブルを垂らしている。
反対側の壁には、勝太郎の知らないアニメのキャラとメルヒェンによく似たフィギュアが所狭しと置かれていた。
部屋の奥には机があり、複数のモニターが付いたPCが右の冷蔵庫と繋がっている。
更に右を見ると、壁がなくなり隣の部屋と繋がっていた。
隣の部屋にはダブルベッドと、小さいシャワールームとトイレがあった。
その部屋には二人の人物が住んでいた。
「勝君。いらっしゃい」
出迎えたのは、金の髪と同色の瞳を持ち、伊達眼鏡をかけたエルフの女性アルフィアだった。
彼女は白衣を着て、それとは対照的に黒のタイツが艶かしい。
因みに彼女が伊達眼鏡をかけているのは、この部屋のもう一人の同居人が似合うと言ったそうだ。
「……どうも、桃ノ木博士いますか?」
勝太郎は先程とは打って変わった態度をとる。
彼が会いたい人物はアルフィアではなく、その奥にいる少女だった。
「ええ、アスカ。勝君来ましたよ」
「分かってる。ちょっと待て、もう少しでこのボスを倒せるんだ!」
そう答えたのは、椅子に座って携帯ゲーム機で遊ぶ、五十年前と全く姿が変わらない桃ノ木アスカであった。




