第2話 その6
「じゃあ撃ってみようか、今、的出すね」
バルイールがスイッチを押すと、バルイールの前方に人の上半身を模した的が現れた。
「距離は五メートル。さあ、構えて」
「はい」
ミスフォルラはスライドを引いて薬室に装填するとグロック17を構える。
腕をまっすぐ伸ばし、左手は右手に軽く添え、重心を落として膝を少し曲げ、足を開く。
「もう少し足開いていいよ。自分の肩幅ぐらいで」
「はい」
言われて足の位置を修正する。
「うん。それで大丈夫」
「う、撃ちます」
ミスフォルラは、リアサイトからフロントサイトを覗きながら的に狙いをつけ、引き金を引いく。
銃声が轟き、弾丸が発射された。
「ひゃっ!」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です。ちょっと衝撃にびっくりしただけです」
ミスフォルラの身体にはシュミレーターでは感じられなかった強い反動を感じていた。
「その、シュミレーターの時はこんな強い反動じゃなかったんで」
「そっか。他の銃にする?」
「いえ、これで大丈夫です」
「じゃあ、マガジンが空になるまで撃ってみよう」
「はい」
ミスフォルラは再び構えて的を狙い、引き金を引く。
反動を一回体験したので二回目以降はそれほど気にならない。
一発撃って照準を修正する作業を繰り返しながら、マガジンの中の十七発を全て撃ちきり、スライドが後退したまま止まった。
「……全弾撃ち切りました」
「はい。じゃあ的を見てみようか」
バルイールが操作して近づいてきた的を眺める。
「どうかですか?」
ミスフォルラは銃を台に置いて、バルイールの評価を待った。
「うーん」
バルイールは顎に手をやってうなる。
「駄目ですか……」
「違うよ。その逆」
バルイールはミスフォルラにも的を見せた。
「全弾命中。おまけに着弾位置がバラけてないでまとまってる」
的には、上半身の中央に弾がまとまって着弾した穴が空いていた。
「もう一回撃ってみようか?」
「はい」
ミスフォルラは新しいマガジンを装填し、再び現れた的を狙ってトリガーを引いた。
「……うん。ミスティの才能は本物だね」
二枚目の的も、一枚目と同じように胸部に集中して当たっていた。
「ありがとうバルイール」
「いえいえ。同じ事してもしょうがないから、ちょっと待ってね……これ付けてみよう」
そう言ってバルイールが持ってきたのは、マグポーチとホルスターがセットされたベルトだった。
「はい、腰に巻いて」
「……こうですか?」
ミスフォルラはスカートの上からベルトを巻く。
「いいよ。じゃあ銃とマガジンをベルトにセットしよう」
マガジン二つを左腰のマグポーチに、グロックを右腰のホルスターにしまう。
「できました」
「次は移動目標に当てる練習ね」
「動く的ですか?」
「うん。塔にいるモンスターはほとんど動いてるからね。止まって的になってる奴なんて殆どいないんだ」
スイッチを操作して三つの的が現れ、左右に動き出す。
「あれを狙えばいいんですね?」
「そう。後、銃はホルスターにしまったままから始めよう」
「? どういう事ですか?」
「ホルスターから抜いて、構えて狙って撃つ。咄嗟に敵が出てきたと仮定してやってみよう」
(多分、彼女なら楽勝だろうけど)
「分かりました」
銃のドロウ方法を習ったミスフォルラは、的が現れるのを待つ。
「じゃあ、いくよ? ミスティ」
「いつでもどうぞ」
バルイールがスイッチを入れて的が現れ動き出す。
それを見て、ミスフォルラは素早くホルスターからグロックをドロウし、的を狙って三発撃った。
三発とも初弾で命中。的の中心に穴が開く。
「バルイール。三つの的に当たったよ」
「はははっ」
彼女の射撃の才能にバルイールは笑うしかなかった。
「じゃあ、ミスティ暫く練習してて、何かあったら呼んでね」
「はい」
ミスフォルラは短く返事をすると、射撃を繰り返す。
自分ではあまり教える事がなくなってしまったバルイールは、彼女に動く的を撃つ事と、マガジンチェンジの練習を命じた。
ここのカメラはセブと映像がリンクしているので、何か異変があれば、セブからも連絡が来るようになっている。
グロックから銃声が響き渡る中、バルイールは頑張ってと声援を送りながら、ミスフォルラの元を離れた。
「多分あの娘なら、何の問題もないと思うし、せっかく来たんだからアタシもなんか撃つかな」
そう言って、棚の銃を物色する。
「う〜んどれがいいかな」
「何カ、オ探シデスカ?」
「あっ、セブ。アレない? ミニガン」
「ミニガン……申シ訳アリマセン。M134ハ、今整備中デ、使用デキマセン」
「ちぇっ、他にフルオートでバラまけるの無い?」
「フルオート……デハ、コチラハ如何デショウ?」
ブブは棚を操作し、一丁のマシンガンを取り出した。
「おっ! MG42じゃん! これ撃っていいの?」
「ハイ、大丈夫デス」
セブから渡されたのは、全長百二十センチを超えるとても長い機関銃である。
百三十年以上前に使われた銃ではあるが、クニェツが設計図を見て一から作り上げたものだ。
「これがあるって事は……セブ、モーゼルC96ある?」
「ハイ、ゴザイマスヨ」
「ふふふ。一度やりたかったの。これ」
バルイールは脇にストックにもなる木製のショルダーホルスターを取り付け、そこにモーゼルC96を収納する。
手には百発入りドラムマガジンを装填したMG42を腰だめで構えていた。
「セブ、早く的を出して」
「今、出シマス」
セブが操作して十個の的が横一列に現れる。
バルイールはニヤリと笑みを浮かべながら、トリガーを引いた。
甲高い発射音が辺りに響き渡り、高い発射速度も相まって一瞬にして百発を撃ち切る。
十個の的は真一文字の穴が空いて、まるでノコギリに切られたように真っ二つになっていた。
「さすが、クニェツのおっさん。全くジャムらないじゃん!」
弾づまりしない事を確認したバルイールは、素早く再装填すると、左手でパイポッドを保持して、再び百発入りマガジンを空にした。
今度は弾切れになったMG42を置くと、ショルダーホルスターから素早くC96を引き抜いて、新たに現れた十個の的の頭に命中させる。
「くうっ、サイコー!」
そう感想を述べながら、MG42を再装填して三度目のフルオート射撃を開始した。
バルイールが、冥府の番犬ごっこをしていた時、後方にいたセブは冷静に、消費される弾丸を数えているのだった。




