第2話 その5
バルイールに先導されて、ミスフォルラは店の奥に入っていく。
「これに乗って」
「はい」
そこには一台のエレベーターがあった。
ミスフォルラが乗り込んだ事を確認してバルイールは地下二階のボタンを押す。
「ここの射撃場は凄いからね!」
「はあ」
何が凄いのか聞こうとした前に、エレベーターが到着する。
「おっ、着いた。先にどうぞ」
「ありがとうございます……わあ!
到着して扉が開き、飛び込んできた光景に、ミスフォルラは驚いてしまう。
地下の射撃場は、どう見ても一階の店よりも大きく広かった。
「凄く広いですね」
「うん、クニェツのおっさん。射撃場にかなりお金かけたみたいでさ。だからお店はあんなにボロくて小さいんだけどね。最大百メートルまでの距離は練習できるよ」
「バーチャルシュミレーターじゃないんですね」
「ミスティはシュミレーターで練習した事があるの?」
「はい。パパからそこで教わりました」
「クニェツのおっさんは変わっててね。「実際に触らないで銃の良さが分かるか!」って。それで地下に射撃場作っちゃったらしいよ」
「それは凄いですね」
話しながら射撃場に入った二人を、一人のアンドロイドが出迎える。
「イラッシャイマセ。バルイール様」
「彼は、アンドロイドのセブ。ここの店員なんだ」
「私は美花子・ミスフォルラと言います。よろしくお願いします。セブさん」
「コレハコレハ、ゴ丁寧ニ、ヨロシクオ願イシマス。美花子様」
奥から、二人を出迎える為に現れたのは一体のアンドロイドだ。
唯、人間と見間違うほどのメルヒェンと違い、現れたアンドロイドは、銀色の金属のボディの上から店名のボウビーチが描かれた赤いエプロンをつけていた。
「私たち二人で、色々な銃撃たせてもらうよ」
「ドウゾ、オ好キナ銃ヲ、オ選ビクダサイ」
ブブはぺこりと頭を下げる。
「店主カラハ、ドノ銃ヲ使ッカテモイイト、許可ヲ得テイマス」
「よっしゃ、じゃあミスティ。銃を選ぼう」
「は、はい」
「弾薬ハ、何ヲ、用意シテオキマスカ?」
「取り敢えず、全種類!」
「ワカリマシタ。用意シテオキマス」
セブが、弾薬を用意している間に、二人は使う銃を選んでいた。
今、ミスティ達の前には、様々な銃が棚に並べられていた。
「ミスティはどんな銃、撃ったことあるの?」
「拳銃だけですね」
「アサルトライフルとか、サブマシンガンはない?」
「はい」
「そっか。じゃあ使った事ある拳銃、ここにあるかな?」
「えっと……あっ、これです!」
ミスフォルラは迷ってから、一つの拳銃を指差す。
「グロック17だね」
バルイールは手にとってミスフォルラに渡す。
「確かに使いやすいいい銃だけど、これでいい?」
「はい。これで大丈夫です」
「そっか。じゃあこれ使って訓練してみようか?」
「はい」
二人はシューティングレンジの前まで来る。傍らにはあらかじめセブが用意していた弾薬とマガジンが置かれていた。
二人は会話も可能な、耳を守るヘッドフォンを装着する。
「じゃあ、まずはマガジンに弾を込めないとね」
「えっ、マガジンに自分で弾を込めるんですか?」
「そっか。シュミレーターではこういうのはやらないか」
「はい。やった事ないです」
「教えるからやってみよう。難しくないから」
そう言ってバルイールは、マガジンを左手に持つと、右手の親指を使って弾丸を押し込んでいく。
「こうやって入れていくんだよ」
「結構、スムーズに入っていくんですね」
「はい。完成」
弾丸で満腹になったマガジンを置いた。
「さあ、ミスティもやってみなよ」
「やってみます」
ミスフォルラもマガジンを持ち、弾丸を詰めていく。
「どう?」
「はい。そんなに難しくないです。これなら……すぐ」
最初はテンポよく進んでいたが、段々と弾丸が抵抗してくる。
「あれ、最初より入れにくい。何で?」
「マガジンのスプリングが弾を入れるごとに抵抗が強くなってるんだよ。だから詰めれば詰めるほど、キツくなるんだ」
「な、なるほど。壊れたわけじゃないんですね。なら!」
ミスフォルラは力一杯マガジンに弾丸を押し込む。
「がんばれー。ミスティ」
「くう、この! 入れ〜。は、入った! 全部入りました。バルイール」
ミスフォルラは、力の入れ過ぎで顔を真っ赤にしながら、バルイールにマガジンを見せる。
「よく出来たね。じゃあ、あとひとつ頑張ろう」
バルイールは褒めながら、笑顔で空のマガジンを渡す。
「は、はい。頑張ります」
しばらく射撃場にミスフォルラの唸り声が響くのであった。
「お、終わりました〜」
「はい。ご苦労さん」
台にはバルイールが詰めたマガジンがひとつと、ミスフォルラが苦労して詰めたマガジンが二つ置かれていた。
「もう嫌になった?」
「そんな事ありません!」
「よし、じゃあ次は撃ってみよう。銃本体にマガジンを装填してみて」
「はい。これぐらい簡単です」
ミスフォルラは銃を持ち上げ、マガジンを装填しようとする。
「ちょっと待った! そのまま動かないで!」
「ひゃっ! ど、どうしました?」
いきなり耳元で大声で制止されたので、ミスフォルラは固まってしまう。
「ミスティ。これはとても大事な事だけど、どんな時でも銃口は人に向けちゃダメだよ」
「あっ!」
本人は、全く気付いていなかったが、銃口はバルイールの方を向いていた。
それに気づいた途端、ミスフォルラはゾクッと悪寒が走る。
「ごめんなさい!」
ミスフォルラは慌てて銃口を誰もいない方に向けた。
「うん。それでいいよ。この事ちゃんと覚えておいてね?」
「はい。すいません」
しゅんとして、項垂れてしまうミスフォルラ。
「こら、落ち込まないの」
バルイールが彼女の頭をコツンと軽く叩いた。
「失敗は誰にでもあるんだから。落ち込むぐらいだったら、今の失敗を忘れずに覚えておきなさい。そして同じ失敗はしない事。分かった?」
「ハイ」
「うん。いい返事。さあ、銃にマガジンを装填しよう」
ミスフォルラは頷くと、ちゃんと銃口を誰もいないところに向けて、マガジンを装填するのだった。




