かつてないほど心地よい無の中で
ある若者が寺を訪れた。
氏曰く「どうしても酒をやめられない。この頃は日常的に酒を煽っている。ついには樽ごと飲むようになった。酒に負けない心がほしい。心身を鍛えたい」とのこと。
僧はその若者を受け入れ、早速滝に打たせることにした。
季節は冬。
若者は震えながら川に入り、落流の下にあぐらをかいた。
頭からぶつかる大きな流れに若者はそれでも負けなかった。
僧は若者のその姿に感心し、寺の情事のためにその場を去った。
取り残された若者は必死の思いで岩場に根を生やしていたので、そのことに気づく間もなかった。
若者は長い時間をかけて自身を追い詰めた。
それから10年。
若者はついに無を体得した。
その証拠に僧は若者の存在を忘れてしまっていた。
かつてないほど心地よい無の中で、若者はいつの間にか眠りについていた。