6
どのぐらいの時間が経過したのかを弦は知らない。ただ、遠くに見える空は徐々に白んできている。
石畳の上に座っていても、気を抜けば眠ってしまいそうだが、目尻を上げて眉間にしわを寄せ、何とかこらえて見せている。それでも時折大きなあくびが漏れていく。
ふと、弦の背後でくしゃりと枯れた草の潰されたような音がする。
「半日以上そこにいられると邪魔だ」
「ジジィ……」
気がつけば弦の隣には宗玄がいて、煙管片手に昇る太陽を眺めていた。
「ハッ、俺に箏教えてくれれば、すぐにでもどくんだけどな」
「ぬかせ」
笑み一つ浮かべないまま、煙管の中の煙を吐き出す。
小鳥のさえずりが必要以上に大きく聞こえるほどの静寂を破るように、宗玄は重い口を開いた。
「――お前はなんで箏が弾きたいんだ」
わずか一瞬、弦は考え込むそぶりを見せる。
「別に、大して興味ねぇ、俺は売られたケンカはかう主義なんだよ」
鼻を鳴らし、自慢げに言って見せるが、次第にその笑みがかすれていく。
「そんな理由なら」
「――ただ、今回はなんか違げぇんだよ」
弦のその一言を聞き、宗玄は開いていた口をつぐむ。
「いままでみたいな自分の為とかじゃなくてさ」
生まれたての小鹿のように震えている足に力を入れ立ち上がると、弦はまっすぐに老人の目を見据える。
「大切な友人が困ってっから、なんとか力になってやりてぇんだ」
だから頼む、と頭を深々と下げた。
頭を下げる弦を見て、宗玄は考えるように煙を吸い込む。
「――一週間だけだ。それ以上は知らん」
その言葉に、弦は勢いよく顔あげる。
「いい加減邪魔になる。さっさとどけ――ん?」
煙を吐き出し隣を見てみれば、緊張の糸が解けてしまったのか弦は石畳の上で寝ころび、寝息を立てていた。
煙管を吸ったわけでもないのに、まるで煙のように溜め息が白く長く尾を引いていく。