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やよいの空は  作者: キリノ
2/8

「そういやお前、部活入るって本当かよ」

 太陽が分厚い雲に隠れていて、心地よい風が吹く屋上で、火野教一郎はコンビニの菓子パンをかじりながら呟いた。

「んぶっ!?」

 おにぎりを口に入れたまま返事をしようとした弦だが、喉につっかえたらしく、慌ててそばにあるお茶で流し込んだ。

「っはぁ……げほっ、情報はえぇな。決めたの昨日の放課後だぞ」

 ばんばんと教一郎に背中を叩かれ、深く息を吐き出す。

「そりゃあ、糸守があれだけ騒いでりゃな」

「あぁ?」

 背中を叩く手首を握り、弦は教一郎を睨みあげる。

「テメェ、教一郎どういうことだ? 事と次第によっちゃ」

「おちつけ。今朝、教室で部員募集してたんだよ」

 空いたもう片方の手で額に手刀を入れられ、弦は思わず手を離す。

 だが、教一郎は気にも留めていないようで、再び菓子パンをほおばる。

「箏曲部だっけ? つーか三日坊主のお前が続くのか?」

「なんとかなんだろ。名前だけでも置いときゃいいんだし」

「糸守いるからってかっこつけすぎだろ」

「うるせぇ」

 教一郎の傍らに置いてある弁当箱の中にある唐揚げを掴みとり、ひょいっと口に放り込む。

「あっ、お前っ」

「あいかわらず旨いな! 卵焼きもくれよ」

「あぁ? 誰がやるか」

 唐揚げに続き、卵焼きまで奪おうとする弦の腕を掴み、空いたもう片手を押さえ、睨みあう。

「あっいた。生田君―ッ!」

 ふと、二人の睨みあいを止めたのは少女の声。

「おぅ」

「やっほー……もしかしてお昼中? 後でのほうがいいかな」

「いや全然。もう終る」

 弦は一瞬腕にかかる力を緩め、教一郎の手が緩んだ瞬間に弁当箱の中身を全てかきこむ。

「なっ、俺の弁当……」

 教一郎は空になった自分の弁当箱を見て、肩を落としてうなだれる。

「おっふぇだせ」

 口いっぱいに食べ物を詰め、まるでリスのような状態で弦は鈴に向かって親指を立てる。

「あはは、やっぱり面白いね」

 頬を膨らませたままの弦の前で鈴は腹を押さえながら笑い、じきに目尻の涙を拭った。

「ようへんふぁ?」

「あ、そうそう。部員五人集まったよ! 放課後職員室に行かなくちゃね」

 まるで漫画のキャラクターのように、鈴は胸の前で拳を握った。

「おめでと糸守。と言いたいところだけど授業はちゃんと出ろよ」

 教一郎の言葉に合わせるかのように、昼休み終了を知らせるベルが鳴る。

「やっば……二人は?」

「「サボる」」

 ようやく飲み込めた弦と教一郎は自慢げに言い切る。

「そっか、じゃあ生田君、放課後ね」

 そう言うと、鈴は小さく手を振り、扉に向けて駆けだした。

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