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「そういやお前、部活入るって本当かよ」
太陽が分厚い雲に隠れていて、心地よい風が吹く屋上で、火野教一郎はコンビニの菓子パンをかじりながら呟いた。
「んぶっ!?」
おにぎりを口に入れたまま返事をしようとした弦だが、喉につっかえたらしく、慌ててそばにあるお茶で流し込んだ。
「っはぁ……げほっ、情報はえぇな。決めたの昨日の放課後だぞ」
ばんばんと教一郎に背中を叩かれ、深く息を吐き出す。
「そりゃあ、糸守があれだけ騒いでりゃな」
「あぁ?」
背中を叩く手首を握り、弦は教一郎を睨みあげる。
「テメェ、教一郎どういうことだ? 事と次第によっちゃ」
「おちつけ。今朝、教室で部員募集してたんだよ」
空いたもう片方の手で額に手刀を入れられ、弦は思わず手を離す。
だが、教一郎は気にも留めていないようで、再び菓子パンをほおばる。
「箏曲部だっけ? つーか三日坊主のお前が続くのか?」
「なんとかなんだろ。名前だけでも置いときゃいいんだし」
「糸守いるからってかっこつけすぎだろ」
「うるせぇ」
教一郎の傍らに置いてある弁当箱の中にある唐揚げを掴みとり、ひょいっと口に放り込む。
「あっ、お前っ」
「あいかわらず旨いな! 卵焼きもくれよ」
「あぁ? 誰がやるか」
唐揚げに続き、卵焼きまで奪おうとする弦の腕を掴み、空いたもう片手を押さえ、睨みあう。
「あっいた。生田君―ッ!」
ふと、二人の睨みあいを止めたのは少女の声。
「おぅ」
「やっほー……もしかしてお昼中? 後でのほうがいいかな」
「いや全然。もう終る」
弦は一瞬腕にかかる力を緩め、教一郎の手が緩んだ瞬間に弁当箱の中身を全てかきこむ。
「なっ、俺の弁当……」
教一郎は空になった自分の弁当箱を見て、肩を落としてうなだれる。
「おっふぇだせ」
口いっぱいに食べ物を詰め、まるでリスのような状態で弦は鈴に向かって親指を立てる。
「あはは、やっぱり面白いね」
頬を膨らませたままの弦の前で鈴は腹を押さえながら笑い、じきに目尻の涙を拭った。
「ようへんふぁ?」
「あ、そうそう。部員五人集まったよ! 放課後職員室に行かなくちゃね」
まるで漫画のキャラクターのように、鈴は胸の前で拳を握った。
「おめでと糸守。と言いたいところだけど授業はちゃんと出ろよ」
教一郎の言葉に合わせるかのように、昼休み終了を知らせるベルが鳴る。
「やっば……二人は?」
「「サボる」」
ようやく飲み込めた弦と教一郎は自慢げに言い切る。
「そっか、じゃあ生田君、放課後ね」
そう言うと、鈴は小さく手を振り、扉に向けて駆けだした。