21.三人旅。
今回、下見の旅のメンバーは、俺とハルバー将軍、そして孤児院の職員のダラネさんとの仲良し三人組である。ダラネさんとは先日会ったばかりだが。
だが当然、俺と職員の方は歩いて旅をするのには不慣れである。
将軍は、軍で慣れている為か上手くペースを作ってくれている。
初日は足を慣らさせるという意味合いで、昼くらいに宿に着く予定である。
今回の旅は以前のと違い、ノンビリと出来る点と、馬車でなく景色を見ながら自分の足で歩けて健康的であるという事だろうか。
とはいえ景色は、あまり舗道されていない荒れ地をひたすらに歩くだけなのだが。
時々ロバを連れた(一頭じゃなく三連頭だった)行商人が歩いていたり、俺がこっち(領主さん所から王都)に来たときに使ったような馬車が通るような感じであり、あんまり旅人や一般人など歩いていない。
風景も、田んぼやら畑やらの田舎の風景を考えがちだが、それとはちょっと違い荒地が続いてあんまり目の保養にもならない。
で、この事を将軍に聞いたら、田んぼやら畑は門の中に作るようだ。
曰く、家から畑まで遠いと何かと不便だろ? である。
確かに遠いと持ち運びに面倒である。
もっともであるが釈然としない。
あと下世話な話で旅におけるトイレ事情だが、基本的にシャベルと葉っぱである。
大をしたら専用の葉っぱで尻を拭き、シャベルで出したものを土でかぶせるのだ。
至って簡単でエコといえばエコである。
葉っぱはそれ専用の柔らかいのが売っている。
ちなみに馬車だと周りを隠せる囲いを持ち運び出来るが、俺たちは徒歩なのでない。
従って宿などない場合、三人とも開放的野クソを満喫しなければならない。
基本、木を見つけてそっと出す、それが流儀。
たぶん、生えている木は旅人の肥料で大きくなっているのだろう。
この俺の横にある木もしかり。うんうん。
あっ、木を見つけたら足元に注意しないとな。
よく桜の木の下に人の死体が埋まっているみたいなことを聞いたことはあるが、こっちは随分と現実的だな。とてもわかりやすい。
幸い、誰も大をせずに本日泊まる宿泊予定地に着いた。
時間もまだ早く、昼過ぎくらいである。
予定地には王国の馬車が用意されている。
これでも王女の旦那だからな。
無事に着いた確認と、調味料魔法で味噌を作って送るのだ。
味噌が目的じゃないのかって?
……そんな事はないと信じたい。
信じたいが王様と王妃、味噌マニアだからな。
特に毎朝ミソスープ(お湯に味噌をただ溶いただけ)にご飯を入れて食べるのが日課だからな。
安価だが、するするとお腹に入って温まると非常に気に入っているらしい。
で、気を取り直して、と。
宿に着いたので、本日頑張ってくれた足に回復魔法をかける。
うむ。気持いい。
泳いだ後に叫びたいくらいだ。
足に出来かけた豆や筋肉痛など取ってくれるのでありがたい魔法である。
将軍と職員の方にも掛けようと思ったが将軍は必要ないとのこと。
流石は将軍伊達じゃない。
職員のダラネさんは恐縮しながらも私も若くないので、と回復魔法をありがたがっていた。
回復魔法も掛け終わり、とっとと風呂に入って寝たいが、この宿には行水しかないので浄化を掛けることに。
さすがにこの浄化の魔法は将軍も喜んでいた。
久しぶりにいっぱい歩いたお陰か心地よい疲れだったので、そのまま眠ってしまうことにした。
▽
二日目は、天候がイマイチだったので早めに宿を出ることにした。
まだ木々も眠る朝の三時に出発である。
まだ暗い道を歩く。
王族だけど一般の旅人目線で歩くのだから仕方ないとはいえ、ツライものがある。
まあ王族といっても成り上がりで、なりたてで、ほぼ95%以上一般人だけどね。
高貴さは未だ身につけられず。
お腹のポッテリ感だけは誰よりも王様だが。
七時に茶店でご飯を食べたが、何というかこの茶店が結構小汚かった。
というか衛生面で少し不安である。
ホコリある仕事でなく、ホコリいっぱいでの食事なのだ。
まあ半分荒地で風が少し強いのが原因かもしれんが。
何というか、ハウスダスト万歳である。
ついでに出された料理も何とか出来ないものか。
城に戻ったら要相談である。
で、また歩く。
BGMもなく、ただひたすらに歩くのは俺にとって苦行である。
山は登る為でなく、見る為と思っている俺には登山家の気持ちは残念ながらわからない。
ちなみにマラソンなども同じである。
自分自身との戦いなど崇高な精神など一ミリたりとも持っていないのだ。
楽に生きて、ポックリ死ぬ。
それが俺の理想であり、目標なのだ。
ちなみに自分が立派な人間とは当然思っていないので、他人に対してもとやかく言わない。
因果応報になったら目も当てられないからな。
人には大らかに、自分には優しく。
それが俺のモットーである。
職員のオッサン(ダラネさん)に気をかけるふりをしながら休憩をこまめに多めにとる。
何故なら一番体力ないのは俺だからである。
職員のオッサンが汗をかいたら、大丈夫と言いながら休みをとる。
ただ軟弱だから、自分が疲れたからとは言えないけど。
実際、俺が疲れているのは丸わかりだけど、ほらみんな大人だし。
あっ馬だ。
疲れたので乗せてもらうことにした。(タクシーみたいなもの)
乗ったのは俺だけで二人は歩いている。
どうやら俺の体力はかなり貧弱なようだ。
かなり残念だが、変に意地を張らない所が俺の美点である。
無理すると後で迷惑をかけるし、俺がもっとつらくなるし。
回復魔法があるじゃないか? 言ったらダメだ。
……ていうか馬に乗りたいじゃん。
で、昼過ぎに目的地に着いた。
馬のおかげである。
俺の健脚でないことは確かだ。
でも本当に天気が崩れる前で良かった。
▽
二日目も何事もなく終わり、三日目。
雨だった。
風邪を引きたくなかったので、ここで連泊する。
無理はしない主義である。
オッサンたち三人。
各自、部屋でゴロゴロする。
生活魔法で部屋を快適にし、残った回数の回復魔法を宿で体調の芳しくない人に施す。
後は、自分の部屋の布団の上でゴロゴロだらだらだ。
若ければ、親睦でもと言って気を遣いながらコミュニケーションでも取るのだろうが、みんな若くない。
各部屋で食事以外合わずにのんびり過ごした。
どうせ明日晴れたらイヤでも半日以上会うのだから。
距離感は大切なのだよ。
で四日目、天気が回復したので旅を再開。
前日雨だったので、その分朝早くからということもなく、マイペースに。
と、まあこんな感じで旅は続いた。
特にトラブルもなく、天気も三日目と八日目の雨以外たたられずに予定地に着いた。
十六日間の旅、結構どころかかなり疲れたぜよ。
無論、帰りは馬車だ。
手配もちゃんとした。
帰りも歩きなんて無理だから。
こっちの世界の人は歩いているだって?
人は人、うちはうちである。
親に物を欲しい時にねだって言われた言葉である。
大人になると何故か自分でよく使う言葉になった。
主に言い訳で。
話を戻す。
問題は起きていないが旅をする上での問題点は結構あった。
休憩を取る場所が欲しいとか、馬車が通るから道幅を広げた方がいい場所があったとか。
観光施設を一つくらい作った方がいいとも思ったし。
とはいえ盗賊の類は出なかったし、悪代官もいなかったし。
まあ居たらいたで困ってたんだが。
改善をした方がいいのは幾つかあった。
それを城に戻ったら清書して宰相に渡しておこう。




