20.温泉的孤児院
温泉的孤児院。
我ながらすごい発想だ。
孤児院なのに始めの字が温泉である。
とはいえ、孤児院的温泉というのも変だ。
まあどっちにしても変だが、温泉的孤児院の方がなんとなくマシな気がする。
根拠は全くない。
昨日申請した議題もすんなり会議を通過した。
ちなみに会議の時間は五時間に及んだ。
というか、半分説明会になっていた。
……保養所の。
孤児院じゃないよ、残念ながら。
ちなみに孤児院に遊具を作るとか服を見直すというのは、これまで誰も気がつかなかったようで、すぐに案が通り会議の途中だが大工やら侍女やらに話がすすんでいった。
それこそ何の異論などなく、それこそあっさりと塩味で。
動きが早いというのかフットワークの軽いのがこの世界の特徴である。
早速とばかりに、翌日から温泉探しプロジェクトが始まった。
こっちの世界にも温泉などを見つけるのを専門とした職業の人たちがいる。
そんな人たちを権力で大勢集めて温泉を見つけるのだ。
そこに妥協の二文字はない。
孤児院を改善するという大義名分を掲げて実行する大人(権力者、まあ俺も含めてなんだけど)たち。
無論、今回の件に関しては普段全く関わらないで自由に生きている王族の姿もあった。
みんな少しでも早く、そして早い順番で保養所に行くのに必死なのだ。
少しでも働いたことをアピールをし、早く行くのが貴族の嗜み。
まあ実際嗜みレベルからいえば、身だしなみと大差ない。
ちなみに俺は顧問というか代表というか特別枠だから、のほほんとしている。
余裕のある大人(俺のことね)は、侍女に頼んでお茶を嗜む。
うむ。
マンダム。そこに男臭さはない。
今回の温泉探しだが、別に一か所じゃなくてもいいじゃない的思考で俺は動いている。
草津温泉もいいけど白浜温泉だっていい。
別府温泉も否定しないし登別温泉なんかも素敵だ。
塩しか入ってない単純泉でもいい。
さいあく温かい湯さえ出ればいい。
雰囲気が大事なんだー。
露天風呂、いい響きだ。
そんな感じでプロジェクトが開始された。
マルガに温泉的孤児院プロジェクトを話す。
当然というか「温泉的孤児院は何?」との質問を華麗にスルーする。
そんな難しいことボクにもワカラナイ。
人間の脳のメカニズムは21世紀の今日まで解明されていないのだから当然、この温泉的孤児院が解明されていないのもまた自明の理なのだよ。
▽
「私も行ってみたいけど、お腹大きくなってきているしね」
「大丈夫。まだ見つかってないし安定期になてからでも」
本音は少し違う。
お腹はわかるけど、マルガは全体的に大きくなってきている。
何といっても料理美味しくなってきているから。
でも、あんまり大きくなるとよくないから、安定期になったら少し歩こうね。
「そうね」
「それに逃げるわけじゃないし、子どもが生まれてからゆっくり行けばいいさ」
「これから生まれてくる子どもを大事にしないとママ失格よね」
「そうそう」
と、言って微笑むマルガ。
最近、胎教のことを知ってから妊娠に対して勉強をしている。
俺が教えたラマーズ法呼吸法はすでに練習始めている。
すっすっはー。すっすはーだ。
赤ちゃんの名前もすでに幾つか候補を挙げているみたいだし。
俺も名前を考えようと思ったが、この世界の名前の付け方というか仕組みというかリズムがよくわからないから候補の中から選ぶという無難な選択をした。
キラキラネームは年齢を重ねると痛くなるからな。
で、それよりも気合が入っているのは何故か王子。
自分の子ども以上に気合が入っていると嫁さん二人が言ってた。
王様と一緒に子どもを預ける部屋を作ったり、俺に教えて貰った遊具を作ったり、ベビーベッドを発注というか作らせたり、何というかシスコン?
そうなのか? 王子よ。
そういえば他国に婿養子に行った弟君と他国に嫁いだ妹君に会ったのだが、二人とも美男美女であった。
俺が胡散臭さを感じるくらい(←本能的に別な生き物として見る癖がある)
二人とも姉であるマルガの結婚をとても喜んで、喜んで醤油を各百リットル(調味料魔法で醤油のみを生成した場合一日十リットル出来る)持って帰った。
ちなみにもう二人とも俺の舎弟である。
二人は醤油の魔力に勝てなかったのである。
上手くすれば、あっちの王族もコロンと転がって俺の手下に。
世界を掌握するのにあと一歩だ。
無論、夢物語だが。
▽
それから一週間後に温泉が一つ見つかった。
さすが勅命というか、最高権力。
伊達じゃない。
伊達じゃなのだよ。
ただ一か所見つけて、すぐに行動もダメだ。
当初の予定通り色々候補探そう。
で、温泉的孤児院のプロジェクトが発動して三か月が経過した頃。
温泉は全部で十二か所見つかった。
荒地にある温泉。
海にある温泉。
洞窟の中にある温泉。
森にある温泉など。
その中で幾つか候補をあげてもらった。
で、最終的に一番初めに作るところは、王都から歩いて二週間ほどで着く所に決まった。
(ちなみに始めの予定では一か所だったが、他の場所も良かったのでいずれ作ることが決まったのだ。)
馬車で三日あれば着く距離だ。
距離が程よいのと、近くに標高の低い山と湖があって保養所に最適だからだ。
孤児院がメインじゃないのかって?
……自然に囲まれている施設なんて素敵じゃないか。
ここが一大観光地として大きくなれば、ここで働けるし。
王都からも近いし。
大丈夫だ。
うむ、全くもって問題ない。
▽
で、早速下見に行くことになった。
そういえばこっちに来て、こんなのんびりと旅行に行けるのも久しぶりだな。
初めてともいうが。
今回は、マルガお留守番である。
で、行くのは俺と孤児院で働いている職員のオッサンである。
このオッサン、結構適当で一緒に居て疲れないから俺が指名したのだ。
もう半分枯れている俺は、気楽なオッサンと旅行した方が精神的に疲れないからいいのだ。
もうそこには色気などないのだ。
あるのは堕落である。
王都を出るまでは馬車で、そこから歩いてノンビリと行く予定である。
孤児院を作るのが一番だが、観光地開発プロジェクトも始まっているのだ。
王都から温泉まで歩いてみて温泉的街道を作るのだ。
そうすれば辺りの村も発展出来、万々歳だ。
俺とオッサン、そして護衛のハルバー将軍。
あれ? おかしい。
最後に将軍という名前が出てきた。
将軍、あんた来て大丈夫か?
軍事最高幹部でしょ?
そう思って聞いたのだが。
何でも王様や王子、果てには奥さんと娘に言われたらしい。
温泉大事だ! と。
そんな流れでオッサン三人の旅が始まった。
【パーティー】
マツシロ
職業:王族的勇者役
クラス:一般人
装備:
Eリュックサック(パンツ三枚収納)
E杖
ハルバー
職業:戦士
クラス:ジェネラル
装備:
E高そうな服
E剣
ダラネ
職業:旅人役
クラス:孤児院の職員
装備:
E杖
※次話で水戸的な何かに変わっているかもしれません。
ひかえごろう! ごろうさん。




