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異世界で囲われて  作者: するめいか
18/27

18.仕事

 安定期に入ったマルガだが……。

 そんなのんびりと過ごす俺とマルガに仕事が降って湧いた。

 正確にはマルガでなく俺にだが。



 その降って湧いた仕事とは孤児院の経営である。

 この国では公営で孤児院を経営している。

 まあ普通、公営だわな。

 宗教関連もあるかもしれんがね。

 でも今回の話は公営だ。



 でキッカケとなったのが三階にいる王族の爺さんが、歳で孤児院に行くのがツライと俺に相談してきた。

 俺が爺さんというだけあって御年七十三歳である。

 結構いい歳である。



 とはいえ、俺はスーパー働き人の天皇陛下を知っているからな。

 そうそう驚きはせんよ。

 日本人のシンボルというだけあって働き詰めの日々を送られている、スーパーな人だ。

 正直、天皇家に生まれなくて良かった。



 とはいえ、七十過ぎの爺さんが孤児たちの面倒をみるのもつらかろう。

 結構暇そうな爺さんと思っていたが、ちょくちょく顔を見ない日もあった事を思い出した。

 孤児院を訪問していたのだな。

 ふむ。俺ももう一児の親になる訳だし、あまり他人事になれないセンチメンタルな俺。


 ケンイチはまだ、三十三だから。


 とりあえず返事は少し待って貰ってマルガに相談する。

 ここで大事なのは、自分がやると思ってもマルガに相談する事だ。

 勝手に返事をすると、



「また勝手に……」



 と怒られること請け合いである。

 この世界に来る前だが同じことを何度かそれを経験しているので身をもって覚えた代物だ。

 ……覚えたくはなかったが。

 安定期とはいえ、マルガは妊娠しているので余計なストレスは与えたくない。

 早速マルガにこの事を話すと、



「孤児院にいる子ども達に親はいないのよね」



 と、お腹をさすりながら呟いた。

 やはり自分が親になるので考えさせられるのだろう。

 俺もそうだったし。



「ああ。親の愛を知らない子たちが生活しているんだよ」

「これから生まれてくる赤ちゃんには、私たちがいるのにね」

「そうだね。自分たちでなく城にいる人たちにも愛されるんだけどね」



 多分、城だけでなく国中から愛されるだろう。

 マルガには言っていないが、あの恋愛小説。

 もう何というかバイブルのような扱いにまで昇格しちゃったよ。

 きっとこの子は愛を重く感じるよ。



 愛が重くて恋人と別れたというのを聞いたことはあるが、国民から無償の愛というか謂れもない愛を一身に浴びる幼児というのもどうかと思う。

 パンダ的扱いだろう。

 そのうちにウチの子どもの似顔絵パンも出るに違いない。

 そしたら毎朝それだな。

 話がずれた。



「生まれたのが、少し違っただけで何で愛されないんだろうね」

「だから少しでも親の愛を知ってもらいたいんだよ」

「なら、少しでも親の愛を知って貰わないとね。あなた、頑張って。私応援するから」



 いや、そのうちマルガにも手伝って貰うから。

 他人事のように言わないで。

 そういえば子どもの面倒を見るといえば、妹や弟の子の面倒をみたけど、一時間で爆死した。

 慣れていないと、すごく疲れる。

 予測不能の行動と回答にこっちは振り回されまくりだ。

 多分、回復魔法で回復しない精神的な部分がグロッキーだね。

 とはいえ、ここはスルーしておく。



「ああ、ありがとう。大切な時期なのにごめんね」

「大丈夫。お父様や侍女たちもいるから」

「わかった。あと暇そうな王族も連れていくから少し静かになっていいか……って静かということで思い出した事がある」

「何を思い出したの?」

「よく音楽を聞くとお腹の赤ちゃんに良いらしいのと、いつもマルガがやっているお腹に話かけるのもいいんだって」



 まずあれだ。

 毎日、パターゴルフをやっている男どもは確定だ。

 税金で生きているのだから働くがよい。

 あと、その妻や娘たち。

 噂話ってネタが必要だろ?

 ネタを用意してやるから頑張ろうね。うふふ。

 俺がやると決めたのだ。

 一緒に働こうじゃないか。



 よく一人で抱え込んで問題になるという話を聞く。

 ただ俺は思う。

 出来るだけ抱え込んで頑張って、と。

 ちなみに俺は人を巻き込んで問題になるタイプである。

 よく言われたのが、マツシロが話しかけたりしたせいで、仕事が終わらない、だ。



 安心して下さい。

 私の仕事はお蔭さまで終わっていますよ。

 残業がほとんどなかった俺の手腕をなめてもらっては困る。

 手腕か要領の良さかは疑問に残るが。



 今回の孤児院の経営は俺も巻き込まれた形なのだから、暇な王族は全員出勤にさせる気満々である。

 俺に孤児院の話を持ってきた爺さんも出勤である。

 大丈夫。

 俺には回復魔法があるから、疲れたらかけてあげようホトトギス。

 まあ孤児院の人たちは始めは気を遣うだろうが、毎日行っていればそのうちに慣れるだろう。

 俺も王族に慣れたし、大丈夫だろ。



 で、次に胎教である。

 自分の子だから健やかに育って欲しいのは当然である。

 少しでも良い子に育って欲しい。

 そして遠くない将来だが、介護して欲しい。

 てか、侍女もいるから平気か。

 なら、人様に迷惑をかけない優しい人に育って欲しい。



 その為に少しでもリスクを減らすのだ。

 多少の無駄遣いなど何ぼのもんじゃい。

 俺は知っている。

 俺とマルガのバイブルで結構王室が潤っていることを。

 だから多少還元してもらっても無問題だ。



「そうなの?」

「そうらしい。ちょっと王様にお願いして昼間、オーケストラをお願いしてみる」

「ちょっと待って。ここにオーケストラを呼んだら大変よ」



 王族っぽくオーケストラを頼もうとしたら止められた。

 荘厳な雰囲気でいいかと思ったのだが、あんまり人に慣れていないマルガにとってはキツイらしい。

 ちなみに最後の「大変よ」は私が大変よとの事らしいのだが。

 俺はマネーが大変よと思ったではないか。



「ふむ。ならバイオリンの人とピアノの人を一人ずつ呼んで演奏して貰うよ」

「それなら賛成です」

「落ち着いた曲を幾つか用意して貰って、お腹の赤ちゃんだけでなく皆というかこの階で働いて貰っている人に聞いてもらおう」



 いつもお世話になっている使用人の方にもゆったりして貰いたい。

 幸い、気を遣うほとんどの王族を孤児院で働かせるのだから。







 で、三日後。

 俺と王族御一行は近くにある孤児院にいた。

 現在、王都には十五の孤児院があり、約八百人の孤児が生活をしている。

 年齢もそれこそ赤ちゃんから上は十三歳までいる。



 ちなみに十四歳から成人と認識され仕事をする。

 とはいえ、住み込みの仕事はあまりないので、ほとんどの子は寮に入る。

 この寮は十七歳まで三年間、滞在することが許されており、その間にお金を貯めて一人で生活する基盤を作る。



 勿論、特例は認められており(認められているのかよ! と初めて聞いた時はつっこんだ)ケガや病気をして働けない人やどうしても仕事に馴染めない子に関しては、専門の係員にフォローして独立するまで手助けして貰える。

 結構、面倒見の良いの王国でビックリした。



 とはいえ……ふむ。

 その孤児院は何というか、余計な物がないというか何もないというか。

 殺風景というか、う~ん。



 まあ公営だけあって最低限の設備と食事は用意されている。

 で、三日おきに爺さんが来て、子ども体調を見たり、少し菓子類を置いていたみたいだが、何というか残念な感じが拭えない。

 俺がうんうん唸っていると、声を掛けてきた人がいた。



「ようこそ。手品遣いのマツシロ様。お会いできて大変光栄です」

「うむ。今日から孤児院を見ることになった。宜しく頼む」



 出迎えたのは、四十代くらいの女性で、この孤児院の院長先生である。

 微妙に頬が紅潮しているのを見ると、どうやらあの小説のファンらしい。

 もう目がランランと輝いていてアイドルに会ったような感じだ。



 だが俺、アイドルには全然見えないけどね。

 学生時代、前を向いているより後姿が格好いいと言われたことあるし。

 告白? ないよ……そんなの。



 普通の生徒とはね。

 中学の頃くらいから義理チョコという単語を覚えた女子から自分で包んだ包装紙の義理チョコを貰うのが精一杯なのだよ。

 ちなみに「義理チョコだから別に返さなくていいよ」との言葉も添えられて。



 とはいえ、返さないといけない気がするのでホワイトデーには返す。

 で、お返しは五百円くらいのチョコである。

 よく三倍返しとあるが、五倍返しの世界である。

 ただ戦果がゼロじゃないのがステータスか。



 ちなみに二個貰ったので一か月三千円のうちの1/3が消えた訳である。

 俺からするとバレンタインデーは微妙に疲れる行事だった訳である。

 まあ毎年それでも少し期待をしてしまった俺がいた訳だが……これ以上何も言うまい。

 


 話が悲しみの方向に吹っ飛んだのを強靭な精神力で戻す。

 と、なると職員も当然。

 目が輝いてらっしゃる。

 もうヒソヒソと嬉しそうに。

 ……何事も諦めが肝心である。



 明鏡止水の心で職員の方に現状を聞くことにする。

 子どもたちは暇人(王族たち)とじゃんけんに負けた職員に任せて部屋に入った。

 さて、お仕事の時間だ。(キリッ)

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