16.発覚
結婚式から早一年。
かれこれ一年ちょっと城内(三階)で生活をしている。
姫とのまったりライフも無論、悪くない。
いや、結婚してから姫ではなくマルガの愛称で呼んでいる。
で、まったりライフも悪くはないのだが、少し会話に幅がなくなってきたのも確かだ。
で話題作りのために、半年くらい前から外にマルガと買い物に行きたいと申し出たのだが。
外出許可のお願いをする度に用事を頼まれ、外出を出来ずにいた。
例えば、王様の急な呼び出しの場合。
「婿殿、腰が痛いのでちょっと診てくれんか?」
「それは大変ですね。ですが主治医の方が……」
「いや、主治医もそれくらいなら婿殿に任せた方がいいと言ってな」
「そうですか。主治医がそう言っているのでしたら」
「だから今日の外出はすまんが」
「大丈夫です。外出はまた今度にします」
と、断り辛いお願いのせいで丸一日潰れたり。
王子が急に部屋に駆け込んできては……。
「今日は、マツシロ殿の日が悪いとお抱えの占い師が言ってたから、外に出るのは自重してくれないか」
「それは、それは。ですが王子、先日も……」
「うむ。先日は姉上で、今日はマツシロ殿なのだ」
「わかりました。別に今日、無理に外出する必要もないので」
「それがよいぞ」
「わざわざありがとうございます」
と必死に外出の中止をお願いをされたり。
で、はたまた宰相が急に現れ。
「本日、王がお出かけになられ、王族のどなたかにこれらの書類に印を押して貰わねばならないのです」
「なら、仕方ないですね。外出は他の日にします」
「感謝します」
と、急に印を押す仕事をする事になったり。
将軍がこれまた外出しようとしたら急に。
「マツシロ殿、今日は厳しい訓練を行うのでお時間があれば、回復魔法の遣い手として待機して下さらぬか」
「わかりました。でも軍隊も大変ですね」
「国を守る為です」
「感服致します。私の魔法がどこまで役に立つかわかりませんが訓練を補助致します」
「ありがたい」
と、これまた断り辛いお願いをされ、一日訓練の見学をして一日潰れたのだ。
で、この度やっと外出することが出来たのだ。
マルガも俺と初めての外出でとても楽しみにしているのだ。
俺と姫の世話役のバリン(初登場)を連れ、街に買い物に出掛けるのだ。
ちなみに外出時に、いつもお願いをされ止められていたのは途中で気づいていた。
が、何となく必死にお願いをされるものだから、外出したらいけないんだと思って諦めていた。
で、何時くらいなら平気かなぁと思い、間隔を空けてお願いをしていたのだ。
※ちなみに今回外出が出来たのはある兵士の一言だったりする。
「この街の住民は、マツシロ様のお顔もマルガレット姫様のお顔もご存知ないんですよね」
これを聞いた部隊長が将軍に確認。
将軍が王を始めお偉方の面々に話をし、翌日に外出が出来るようになったのだ。
▽
本日は、念願のお出掛けというかお買い物である。
マルガと世話役のバリンを連れ馬車にてお買い物である。
一応、おしのびとあって貴族の当主の形をしているのだが。
別に他の貴族の当主なら別におしのびの形じゃなくてもよくね? と思ったのだが何故かダメらしい。
ただ最近、イヤな予感するんだよね。
自分の名前を言ったりするとマズイ的な、何かね。
たまに下の階に行くと、俺の名前を聞いて少し騒めいたりとかさ。
怖いから聞かないが。
基本軟弱な俺は聞く度胸などないのさ。
それがいいんだか悪いんだかわからないが。
そんな訳で外出時で呼ばれる名は、旦那様の一択である。
まあ別名で呼ばれ混乱しないだけマシか。
で、マルガは当然、奥様である。
ただ俺がマルガを呼ぶ時、奥様って言うのか?
……まあ、呼ぶ時に考えればいっか。
肩や腕をちょっと引くという手もあるしさ。
▽
馬車に揺られ街に向かう。
うむ。快適なり。
王族仕様の馬車+整備されている道。
まるで電車に乗っているかのような感じである。
ガタンゴトン、ガタンゴトンじゃないが、ほどよい震動が眠気を誘う。
うつらうつらとすること三十分で王族や貴族が利用している店に着く。
王族や貴族が利用している? って。
違うなり!
俺の行きたかった所は市場なんだよ。
そこで食材を色々とみたいんだよ、と言ったらこの時間だと既に閉まってますと言われた。
ふむ。なら仕方ないかと店内に入る。
で、店内に入るなり、こちらの店主と呼ばれる人がやって来て。
「いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました。マツシロ様とマルガレット姫をお迎え出来、光栄に存じ上げます」
「いや、他の王族も来ていると聞いたが?」
「はい、先日もいらっしゃいましたが、噂に名高きお二人をお招きで出来たのは……」
「店主どの、こちらへ!」
世話役のバリンが慌てる。
バリンよ、何故に慌てる?
それに噂に名高い? マルガならともかく俺はこっちの世界に来てから、ほとんど外に出ていないぞ。
俺のことを知っている人が稀であるといっていい。
そう考えると、俺の名前を聞いた時の騒めきが気になってくる。
そしてもう一つ、気になることがある。
あっ店主が戻ってきた。
「で、店主すまないが、店に客がいないのだが普段から予約制だったりするのか?」
「いえ、今日はたまたまお客様が見えられなかったのです」
怪しさ満点である。
だが、それ以上聞いてもお互いに益にならなさそうなので黙っておく。
ただ少しわかった。
一年前の結婚式にあった大きな歓声は俺とマルガに向けての事だったんだと。
そして、いばらく冷却時間を空けるので外出が出来なかったのだと。
まあ幸い、顔バレしていないだけマシか。
気分を切り替え店内を見ると、雑貨屋のような何というか、よく外国の珍しい物を取り扱ったりしているような店内である。
俺とマルガが店内を見て歩いていると、本のコーナーが一角にあった。
俺たちの住んでいる部屋にも本はあるが、結構お堅い本である。
たまには軽い本でもと見ると、ある本がうず高く積まれている。
『十年越しの愛~深層の王女の初恋~』
恋愛小説である。
俺は全く興味がなかったので、近くにある『隣の国の食事事情』というグルメ本にしたのだが、マルガは恋愛小説に興味津々である。
結局、俺とマルガは、この二冊の本。
そして俺は鷹の木彫り人形とマルガはもっと幸せになれるというブレスレット(俺のとペア)を買って家路に着いた。
ちなみにお値段は日本円で三万円くらい。俺のは二つで五千円くらいである。
どこまでいっても所詮、俺である。
自分の金じゃないとわかっていても、つい安いものばかりに目がいく。残念である。
そして夜。
恋愛小説を読んでいたマルガがパタパタと小走りで俺のとこにやってきた。
「あなた、これってひょっとしたら私たちが主人公かしら?」
「う~ん。多分な」
「でも私、あなたに会ったのは一年前だし。けど王女であなたが手品遣いですし」
「多分、盛ったな。俺も悪い手品遣いと会ったことすらない……いや仮面の原住民には会ったな」
「ですが……」
「ふむ。だから俺とマルガを外に出したくなかったんだな」
「あなた、もしかしたら城の人たちはそれを知って……」
「いたんだろうな。多分王も宰相も将軍もね」
「でしたら、明日父に聞いてみます」
「いや、止した方がいいと思うよ。多分、俺たちが思っている以上に大変なことになっていると思うから。それこそ貸切にしないと店が混乱するくらい」
「ですから、貴族のおしのびだったんですね」
「多分ね。しばらくそっとしておこう」
こうして俺とマルガは、また三階にこもるようになった。
人間、諦めが肝心である。
下手に外に出て騒ぎになるのなら、もうちょっと二人の時間を楽しもうと考え方を変えたのだ。
話の幅はどうしようもないが、早かれ遅かれそうなるのだし特に話さなくてもいいかなと思ったのだ。




