14.引っ越し
王族や高位貴族に認められ婚約することになった。
とりあえず、領主さんのところに戻ってリュックサックを回収せねば。
家宰にことの経緯を話すと。
「えっ、本当ですか!」
絶句している。
加速する世界じゃなく加速する事態だから俺もわかるよ、その気持ち。
でも当人は、もっと驚いているんだよ。
この加速する世界に付いていけない時が多々あるよ。
その中でも家宰さん、あんたは俺寄りだから安心してしまう。
だが、それも今日までだ。
僕は、ここ(領主さん宅)を卒業します。
どこぞのアイドルじゃないが。
ちなみにアイドルが出す卒業ソングは結構好きだったりする。
あれはいいよね。
遠く離れた話を戻す。
実際に俺は、マルガレット姫との話が翌日じゃなく翌々日になったから、てっきり破談になったかと思ったんだが、すぐに訂正されホッとしたよ。
ただその後の展開には付いていけなかったがな。
次々に現れる王族関係者。
肩をたたかれたり、ハグされたり握手を求められたり、挙句には酒を飲まされそうになったりと大変だった。
だが、それだけで終わらずに高位貴族の方にも同じく同様にさせられ、何だか凄まじく疲れた。
それに加え、お祝いの品々。
特に飲めない酒類が多かった。
これをどうするか?
ただだと悪いから、味噌か砂糖でもプレゼントするか。
▽
で、城に戻ったら、新しい部屋をあてがわれた。
何でも今日からそこに住むようにと。
本来なら結婚するまでは、あそこの部屋で過ごすのが通例らしいが、今回は王族と高位貴族の皆さんの猛プッシュで特例となりそうなったとの話だ。
俺的にはあの部屋でも十分なのだが。
いや、四分の一の広さでも問題ないよ。
との事で、一階の部屋から三階の部屋へ移動。
当然エレベーターなどない。
階段で上がらないといけないから結構面倒である。
そう考えると、王様は毎日、往復大変だよな。
絶対に王様にはなっちゃいけんべな。
ならない(なれないとも言う)けど、俺はそう思ったね。
で、その三階だが、王様など王族が住んでいる階ということもあり、下とは豪華さが違う。
まあ当然というか、三階もかなりの広さだ。
廊下で三人並んでキャッチボールくらいだ。
例えがかなり微妙だが。
それに人口密度が少ないから下の階よりもかなり広く感じるのだ。
王族ともなれば、もちろんというか当然、担当のお世話係もいるし、何人か廊下で下男と侍女が待機している。
ちなみに俺にもお世話係が付いた。
残念ながらメイドさんでなく執事さんっぽい人だ。
三階だと侍女と下男がいるので四六時中一緒ではないが、城から出ると一緒に付いて来てくれる保護者みたいな感じであるとのこと。
お世話になります。
王族の方たちは三階だけでも生活出来るように全てが完備されているので、普段の生活ならこの階だけでも十分とのことだ。
俺的には城で色々疲れたので、しばらく三階いや自分の部屋でのんびりしたいものである。
部屋にも風呂もトイレも当然完備されているし。
まあ最悪、風呂など生活魔法の浄化だけで十分である。
ちなみに三階を案内して貰っている時に緊急時の避難方法において火災などの災害を仮定しているのか滑り台みたいなのが備え付けられているが、かなり怖い。
あれ絶対、下にマット敷かないとケガするよね?
これまでに使われたことはないそうだが、防災訓練ってあるのだろうか? 一度その事についても聞いておきたいものだ。
▽
三階の案内も終わり、食事の時間である。
結構、それが憂鬱というか面倒な時間かもしれない。
この世界の味付けは総じて薄味である。
塩分少なめであり、健康にはいい。
ポッチャリさんをあんまり見ない。
マルガレット姫のふくよかさは奇跡的なのかもしれない。
柔らかそうなお肉である。
誰にもあげない。
あれは俺だけのものだ。
ちょこっと錯乱しかけた。
そうそう城での食事だったが、やはり何と言うか味が薄かった。
日本育ちの俺にはやっぱり合わない。
健康の為にはそれがいいのかもしれないが、多少不健康でもいいじゃないか。
不健康と呼ばれる食べ物ほど美味しいと感じるのは何というsagaか。
あのゲームにははまった。
GB版好きだった。
で、俺と同じような考えの人は多かったようで、そんな人たちが俺の部屋に集まっている。
王族の方々がいっぱいだ。
てか全員集合?
ただし二十時ではない。
婚約者である王女も俺の横にいる。
やはりな……。
何がやはりかは敢えて言わないが。
そこで噂? の調味料魔法を発動させてみる。
ボールは必須である。
で、一部の人以外に初めて見せる調味料魔法に視線は釘付けだ。
とりあえず、味噌だ。
これを乗り越えれば他は何でも問題なかろう。
結果は、誰も味噌を見ても驚かなかった。
残念だ。
阿鼻叫喚になったらちょっと面白かったのに。
本来ならダシがあれば良かったのにないから薄味スープに混ぜる。
もともとの薄味スープも味は良かったので味噌に合う。
味噌スープの完成である。
他の面々も同様に味噌を各々スプーンで取り、自分のスープに入れる。
ここで俺は思った。
これって俺の部屋じゃなく食堂でも良くないか?
えっとグランドホールだっけ?
わざわざここに料理を持ってきて貰ってみんなで食べているんだから。
一人や二人なら構わないが、そんな数じゃないし。
よし、次回からそこにしよう。
王族だから食べ終わって追い出すのが面倒だ。
食べ終わったんだから、さっさと帰れとも言いにくい。
ああ、そんな事を自然と嫌味なく言える風格のある大人になりたい。
死ぬまでというか死んだとしても絶対に無理そうだがww
人が集まっているので、部屋の温度が少し暑い。
エアコンでもいれるか。
生活魔法発動。
エアコン魔法(空気管理)で澱んでいた空気が霧散する。
「婿殿、この手品凄いのう」
この会話の持ち主は王様である。
婚約をした……のか?
まあ王女との件から俺は婿殿と呼ばれている。
少し気が早いと思うが。
まだ会ってから三日と経っていない。
その割には、距離が近い気がする。
俺はそんなにコミュニケーション能力などあったとは思えないが。
異世界で新たな何かが目覚めたのだろうか(知らぬは当人ばかり)
「はい。エアコン(本当は違うが)と呼ばれものです」
「この手品、ワシの部屋にもやって貰えんかのう」
「それでしたら……」
それでしたら、後で掛けますと言おうとしたら途中で俺の声が遮られる。
私の部屋にもという声が聞こえる。
……マズイな。
これ1回で1使うから、それだけで一日の生活魔法の使用回数が全部消えてしまう。
翻訳すら使えなくなってしまう。
だが、対策は考えてなくともない。
エアコン……一度体験をしたら切って離せなくなる魔法の道具。
王族は、俺にイチコロである。
俺は全然かまわないが、俺がいなくなったら大変だろうよ。ふふふ。
「でしたら、三階というか城全体にかけられますよ」
「本当か!?」
「とりあえず、今日のところは三階でやってみますね」
生活魔法を発動させる。
ちなみに、発動させている俺がいうのも何だが、意味がわからない魔法である。
意味がわからないから魔法なのか?
仕組みはわからないが、三階全体で同じ温度になり空気が循環する。
まあ意味はわからないが都合がいいから気にしない。
変に考えすぎて、用途が狭まったら笑えない。
だからこう考えた。
俺の想像力でこうなったんだと。
すげーな! 俺の想像力。




